この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「転職したいけれど、失敗したらどうしよう」。年収が下がったり、思っていた職場と違ったりするリスクを思うと、なかなか踏み出せないものです。
結論から言うと、転職のリスクは「事前に確認できるもの」と「入ってみないと分からないもの」に分けられ、前者は準備でほぼ潰せます。実際、厚生労働省の調査では転職で賃金が上がった人のほうが下がった人より多く、リスクは正しく扱えば十分に管理できる範囲にあります。
この記事では、薬剤師の転職で押さえておきたい代表的なリスクを5つに整理し、それぞれの対策をセットで解説します。公的な統計もあわせて確認しながら、怖さの正体を分解していきましょう。
📌 この記事でわかること
- 公的データで見る、転職後の年収の実際の動き
- 薬剤師の転職で押さえたい5つのリスクと、それぞれの対策
- リスクを「事前に確認できるもの」と「できないもの」に分ける考え方
- すべてのリスクに共通して効く4つの対策
- 転職前に避けたい5つの行動と、差がつく準備
- 自分に当てはまるリスクを見つけるチェックリスト
薬剤師の転職は、リスクを知れば怖くない
転職そのものは、キャリアをより良くするための前向きな手段です。まずは「転職すると損をするのでは」という漠然とした不安を、公的な数字で確かめてみましょう。
転職して賃金が上がった人は約4割
厚生労働省の令和7年(2025年)雇用動向調査によると、転職して新しい職場に入った人のうち、前職と比べて賃金が「増加」した割合は40.8%、「減少」した割合は31.0%でした。増加が減少を9.8ポイント上回っています。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」転職入職者の状況(表6)。全産業の数値であり、薬剤師に限定した集計ではありません。記事末尾に原典へのリンクを掲載しています。
つまり、転職イコール年収ダウンではありません。ただし約3割は下がっているのも事実です。「上がる人もいれば下がる人もいる」という前提に立って、下がる側に回らないための準備をするのが現実的な向き合い方になります。
「薬剤師はいつでも売り手市場」とは言い切れない
薬剤師は転職しやすい職種と言われがちですが、公的な見通しはもう少し慎重です。厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」とりまとめ(令和3年6月30日)では、薬剤師の総数についておおむね今後10年間は需要と供給が同程度で推移するものの、将来的には供給が需要を上回り過剰になるとの見通しが示されています。
一方で同じ資料は、現時点では地域の偏りなどにより、特に病院を中心として薬剤師が充足しておらず不足感が生じているとも指摘しています。つまり「全国どこでも簡単に決まる」ではなく、地域や職場の種類によって条件の差が大きい、というのが正確な理解です。この差を知らずに動くことが、そのままミスマッチのリスクになります。
出典:厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ」。記事末尾に原典へのリンクを掲載しています。
リスクをゼロにはできませんが、減らすことはできます。大切なのは「怖いから動かない」ではなく、「リスクを知ったうえで備える」こと。備えがあれば、自信を持って一歩を踏み出せます。私自身、最初の転職は数字を確かめずに動いてしまい、あとから条件面で悩みました。二度目からは必ず紙に書き出して比べています。
リスクを減らす第一歩は、選択肢を知ることから
登録は無料で、いますぐ転職する必要はありません。求人の相場や職場の実態を第三者に確認できるだけでも、ミスマッチのリスクは大きく下がります。
薬剤師向け転職エージェントのおすすめを見る薬剤師の転職で押さえたい5つのリスクと対策
転職に伴う代表的なリスクと、その対策を一覧にまとめました。詳しくは表のあとで解説します。
① 職場のミスマッチ
最も多い後悔が、入社後に「聞いていた話と違う」と感じるミスマッチです。求人票や面接の情報だけでは、残業の実態や職場の雰囲気までは分かりません。対策は、職場見学を申し込み、複数の情報源で実態を確かめること。見学では、処方箋の枚数だけでなく、薬剤師と事務の人数、在宅対応の有無、昼休みが実際に取れているかまで見ておくと精度が上がります。エージェントを使うなら、離職の状況や残業の実情を代わりに聞いてもらうのも有効です。
② 年収・待遇のダウン
基本給・手当・賞与の内訳を確認せずに「提示額」だけで判断すると、入社後に手取りが想像より低いことがあります。とくに注意したいのは年齢です。前出の雇用動向調査を年齢階級別に見ると、賃金が増加した人と減少した人の割合は次のように変わります。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」転職入職者の状況(表6)。全産業の数値であり、薬剤師に限定した集計ではありません。
50歳を超えると、増加と減少の割合が逆転します。年齢が上がるほど、条件を落とさない交渉と、年収以外の価値(通勤時間・残業の少なさ・定年後の働き方)まで含めた比較が重要になるということです。参考までに、薬剤師全体の平均年収は約566万7,900円(令和7年賃金構造基本統計調査)ですが、これは職場も年代も混ざった平均値なので、自分の条件の物差しとしてはあくまで目安にとどめてください。
③ 人間関係のリセット
転職すると、築いてきた人間関係は一度リセットされます。新しい環境で再び関係を築く負担があり、感情に任せて急いで決めると次の職場でも同じ問題に直面することもあります。
なお、人間関係を理由に辞めること自体は珍しくありません。令和7年雇用動向調査で転職者が前職を辞めた理由を見ると、「職場の人間関係が好ましくなかった」は女性で11.5%、男性で8.9%を占め、主要な理由の一つになっています。女性で最も多かったのは「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」の12.9%でした。人間関係が理由の転職は逃げではなく、多くの人が選んでいる現実的な判断です。大切なのは、「本当の課題は人なのか、業務量なのか、体制なのか」を切り分けてから動くことです。
④ 早期の再転職
焦って転職先を決めると、ミスマッチで早期に辞めることになりかねません。短期離職を繰り返すと、採用面でもキャリア面でも不利になります。対策は、在職中から動き始め、時間的な余裕を持って複数を比較することです。目安として、内定が出てから返事までに数日は考える時間をもらい、その間に条件を書き出して並べ直すだけでも判断の質は変わります。
⑤ キャリアの方向性のずれ
目先の不満だけで転職先を選ぶと、長い目で見たキャリアの方向とずれてしまうことがあります。「待遇は良くなったが、やりたい方向には進めなかった」という状態です。対策は、転職の軸(何を重視し、どうなりたいか)を先に決めてから求人を選ぶこと。軸が定まると、求人の取捨選択がぶれにくくなります。3年後にどんな業務をしていたいかを一文で書けるかどうかが、ひとつの目安です。
自分に当てはまるリスクをチェックしてみる
5つのリスクのうち、自分がとくに注意すべきものはどれか、次のチェックリストで確認してみましょう。当てはまる項目が多いほど、そのリスクへの対策を優先的に考えるとよい目安になります。
- □ 求人票と面接での説明しか、転職先の情報を確認していない(①ミスマッチ)
- □ 提示された年収の総額だけを見て、内訳をまだ確認していない(②年収ダウン)
- □ 今の職場の人間関係のつらさから、早く辞めたい気持ちが強い(③人間関係)
- □ 内定が出たら、比較せずすぐ決めてしまいそうだと感じる(④早期の再転職)
- □「何を重視して転職するか」を、まだ言葉にできていない(⑤方向性のずれ)
5つのリスクは、どれも「事前の確認」と「焦らないこと」でかなり防げます。リスクを並べると不安になるかもしれませんが、裏を返せば「やるべきことは決まっている」ということ。チェックが多く付いた項目から、一つずつ備えていけば大丈夫です。
リスクは「確認できるもの」と「できないもの」に分ける
転職が怖く感じるのは、5つのリスクをひとかたまりで抱えているからです。実際には、入職前にほぼ確定できることと、どうしても入ってみないと分からないことがあります。この線引きをすると、いま手を打つべき対象がはっきりします。
上の2つは、行動すれば確実に減らせるリスクです。まずここを固めれば、残るのは3つ目だけになります。「全部が不安」から「相性だけが未知数」に変わるだけで、心理的な負担はずいぶん軽くなります。
現場で見てきた限り、後悔が長引くのは「聞けば分かったのに聞かなかった」ケースです。逆に、相性のような読めない部分でつまずいた人は、意外と切り替えが早い。確認できることを全部つぶしておくと、うまくいかなかったときの納得感がまるで違います。
すべてのリスクに効く共通対策
5つのリスクは別々に見えますが、根っこをたどると共通の対策に行き着きます。次の4つは、どのリスクにも効く土台です。
リスクを下げる4つの土台
- 在職中に動く:収入が途切れず、精神的な余裕が冷静な判断につながる
- 複数を比較する:1社だけで決めず、相場と選択肢を把握する
- 第三者に実態を確認する:エージェントを通じて離職の状況や残業の実情を聞く
- 自己分析で軸を持つ:何を重視するかを言語化し、ぶれない基準をつくる
とくに「在職中に動く」は効果が大きい対策です。今すぐ辞めなくてもよいという余裕があると、条件の悪い求人に飛びつかずに済み、ミスマッチも早期離職も防ぎやすくなります。
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準備から入職までの薬剤師の転職の流れ全体の流れを先に把握しておく
4つの土台を実行するうえで前提になるのが、転職活動の全体像です。準備・情報収集・応募・面接・内定・退職・入職という流れと、それぞれにかかる期間を先に知っておくと、「在職中に動く」ためのスケジュールが引けます。逆に流れを知らないまま始めると、退職の申し出が遅れて入職日に間に合わない、内定の返事を急かされて比較できない、といった形でリスクが跳ね上がります。上の記事で工程を確認してから動くのがおすすめです。
4つのうち一つだけ選ぶなら「在職中に動く」です。収入があるというだけで、条件を落とさずに断る勇気が持てます。私も転職活動中は在職しながら進めましたが、あの余裕がなければ最初の内定で決めていたと思います。
転職前に避けたい5つの行動
リスクを高めてしまう行動もあります。次のようなパターンには注意してください。
避けたい行動
- 不満が爆発した勢いで、次を決めずに辞めてしまう
- 「年収が高い」など待遇の一点だけで転職先を決める
- 1社しか見ずに、比較せずに入社を決める
- 自己分析をせず、転職の軸が曖昧なまま活動する
- 条件を口頭の説明だけで信じ、労働条件の書面を確認しない
これらはいずれも「焦り」と「準備不足」から起こります。逆に、余裕を持って準備すれば避けられるものばかりです。リスクを減らす行動と、避けるべき行動はちょうど裏表の関係になっています。
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薬剤師の転職体験談まとめ|リアルな成功・失敗ケースと教訓逆に、やっておくと差がつく準備
避けたい行動の裏返しとして、次の3つは早い段階からできる準備です。どれも今の職場に在籍したまま進められます。
- ① 職務経歴を1枚にまとめる:担当した業務、扱った疾患領域、加算や在宅の経験、後輩指導の有無を書き出す
- ② 現職の条件を数字で把握する:年間の総支給額、残業時間、年間休日数を給与明細と就業規則で確認する
- ③ 面接で聞く質問を先に決めておく:残業の実態、教育体制、直近の欠員状況など、聞き忘れやすい項目を紙に用意する
とくに②は効果が大きい準備です。現職の条件を数字で持っていないと、提示された条件が良いのか悪いのか判断できません。実際にどんな進め方が成功や失敗につながったのかは、他の薬剤師の転職体験談からも具体的にイメージできます。
面接で聞きたいことは、その場では必ず飛びます。私は毎回、質問を5つだけ紙に書いて持っていきました。「メモを見ながらでも失礼ではないですか」と心配になるかもしれませんが、しっかり準備してきた人という印象になることのほうが多かったです。
よくある質問
まとめ
薬剤師の転職リスクは、知って備えれば大きく減らせます。最後に要点を整理します。
- 転職者の賃金は増加40.8%・減少31.0%で、上がる人のほうが多い(令和7年雇用動向調査)
- 50代では増加と減少が逆転するため、年齢が上がるほど条件交渉と比較が重要になる
- 5つのリスク(ミスマッチ・年収ダウン・人間関係・早期再転職・方向性のずれ)には、それぞれ対策がある
- リスクを「書面で確定できる・聞けば確認できる・入ってみないと分からない」に分けると、やるべきことが決まる
- 共通の土台は「在職中に動く・複数比較・第三者確認・自己分析」の4つ
- 勢いで辞める・待遇だけで決める・1社で決める・軸が曖昧・書面を確認しない、は避けたい
リスクを過度に恐れて動けないままでいるより、正しく知って備えるほうが、納得のいく転職につながります。まずは現職の条件を数字で書き出すところから、無理のない範囲で始めてみてください。
出典・参考(いずれも2026年9月時点で確認)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。記載内容は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の状況に応じた判断はご自身でご検討ください。労働条件や制度の詳細は、勤務先または所轄の労働基準監督署にご確認ください。

