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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「地域医療の中核で、腰を据えて働きたい」「安定した環境でスキルを磨きたい」。そう考える薬剤師にとって、市立・県立などの公立病院は有力な選択肢です。ただし、転職を考えるうえで意外と見落とされがちな落とし穴があります。
それは、「公立病院に勤めれば公務員になれる」とは限らないという点です。総務省の集計では、全国844の公立病院のうち約4分の1は職員が地方公務員ではない運営形態になっています。この記事では、雇用形態の見極め方から仕事内容、年収、経営環境、採用の流れまでを、公的データにもとづいて整理します。
- 公立病院(市立・県立など)の全体像と、地域における役割
- 「公立病院=公務員」とは限らない理由と、運営形態別の実数
- 応募前に運営形態を見分ける具体的な方法
- 年収の水準と、民間病院との違い
- 公的データで見る公立病院の経営環境と、確認しておきたいリスク
- 採用ルートの違いと、求人の探し方
公立病院(市立・県立)とはどんな職場か
公立病院とは、都道府県や市町村などの自治体が開設・運営する医療機関のことです。自治体病院とも呼ばれ、市立病院、県立病院、市民病院、町立病院などがこれにあたります。
総務省「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日、自治財政局準公営企業室)によると、全国の病院に占める公立病院の位置づけは次のとおりです。
※出典:総務省「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日)。同資料は医療施設動態調査(令和7年3月末)をもとに作成されています。全体は8,044病院・1,464,526床。
病院数では全体の約1割ですが、病床数では約14パーセントを占め、1施設あたりの規模が大きいことがわかります。内科・外科・小児科をはじめ複数の診療科を備えた急性期病院が多く、幅広い症例に関われるのが特徴です。
同資料は、公立病院が担う役割として、民間病院の立地が困難なへき地等における医療、救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門に係る医療、民間病院では限界のある高度・先進医療を挙げています。「地域に必要だから存在する」という性格が、そのまま仕事の内容に表れる職場です。
立地は地方・小規模自治体に偏っている
見落とされやすいのが立地です。同資料によると、公立病院844施設のうち約65.2パーセント(550施設)は人口10万人未満の市区町村に、約32.0パーセント(270施設)は人口3万人未満の市区町村に所在しています。都道府県別に全病床数に占める公立病院の病床の割合を見ると、山形県45.0パーセント、岩手県42.0パーセント、青森県37.3パーセントが高く、一方で東京都は10.1パーセント、大阪府は11.2パーセントにとどまります。
つまり、公立病院を志望するということは、地方勤務やUターン・Iターンを視野に入れることとほぼ同義になりやすいということです。勤務地の希望が都市部に固まっている場合は、選択肢がかなり絞られます。
公立病院は「地域に必要だから存在する」病院です。患者層も幅広く、扱う薬の種類も多い。チーム医療や病棟業務にしっかり関わりたい人には学びの多い環境ですが、同時にどこで暮らすかという話とセットになります。求人を見る前に、家族も含めて勤務地の条件を先に決めておくと迷いません。
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公立病院は募集枠が少なく、出るタイミングも限られます。複数の窓口を並行して押さえておくと、条件に合う求人を逃しにくくなります。
薬剤師転職エージェントの比較を見る「公立病院=公務員」とは限らない
公立病院への転職で最も大切なのが、雇用形態の確認です。「公立病院=地方公務員」と思われがちですが、実際は運営形態によって身分が変わります。自治体が直接運営する病院なら職員は地方公務員ですが、経営の自由度を高めるために運営形態を切り替える病院が増えています。
運営形態別の実数(令和6年度末時点)
※出典:総務省「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日)の「令和6年度末時点の経営形態の見直し状況」。合計844病院。身分の区分は各制度の一般的な取り扱いにもとづく整理です。
数字にすると輪郭がはっきりします。地方公務員として働くことになるのは全部適用と一部適用を合わせた643病院(76.2パーセント)。一方、地方独立行政法人と指定管理者制度を合わせた201病院(23.8パーセント)では、職員は地方公務員ではありません。約4分の1がこれにあたります。
地方独立行政法人の場合、その多くは非公務員型を採用しており、看板は公立病院でも、働く薬剤師の身分は法人の職員になります。給与体系や採用方法、副業の可否などが、この違いによって変わります。
応募前に運営形態を見分ける4つの方法
それでも判断がつかない場合は、面接や問い合わせの段階で「採用された場合、身分は地方公務員になりますか。それとも法人職員でしょうか」と直接聞いてしまうのがいちばん確実です。答えにくい質問ではないので、遠慮する必要はありません。
「市立病院だから公務員」と思い込んで応募すると、入職後に「ここは独法だった」と気づくことがあります。4病院に1病院は非公務員型なので、決して珍しい話ではありません。求人票と病院の正式名称を見るだけで防げるので、最初に確認する癖をつけてください。
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公立病院の薬剤師の仕事内容
仕事内容そのものは、民間の病院薬剤師と大きく変わりません。調剤や処方監査、注射薬の調製、抗がん剤の無菌調製、服薬指導、病棟業務、医薬品情報の管理など、病院薬剤師として求められる業務を幅広く担当します。
公立病院は規模が大きく診療科も多いため、栄養サポートチームや感染対策チーム、緩和ケアチームといった多職種のチーム医療に参加する機会も豊富です。前述のとおり救急・小児・周産期・災害・精神といった不採算・特殊部門を担っているため、民間病院では経験しにくい領域に触れられるのも特徴です。
異動・転勤の範囲
直営の地方公務員として採用された場合、自治体内での異動の対象になることがあります。同じ自治体が運営する別の病院や、保健所などへの異動の可能性がある一方で、転勤の範囲はその自治体内に限られます。全国転勤がないのは、地域に腰を据えたい人にとって安心できる点です。地方独立行政法人の場合は、原則としてその法人が運営する病院内での異動になります。
業務内容は民間病院とほぼ同じでも、公立病院は症例の幅と教育体制の手厚さが魅力です。認定・専門薬剤師を目指したい人にとっては経験を積みやすい職場ですが、施設によって差があるので、認定取得者が実際に何人いるかを面接で聞いておくと実態が見えます。
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直営の公立病院では、給与は自治体の給与条例にもとづいて決まります。民間のような交渉の余地は少ない一方で、年功に応じて着実に上がる安定感と、明確な昇給ルールが特徴です。地方独立行政法人の病院では、法人ごとに定めた給与規程にもとづいて支給されます。
最新調査で見る病院薬剤師の給与水準
厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(令和7年11月26日公表)によると、一般病院に勤務する常勤薬剤師の平均給料年額と賞与の合計は次のとおりです。
※出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和7年実施-」。平均給料年(度)額と賞与の合計。前年度からの伸び率は一般病院(全体)で2.1パーセント。
「全体」には国立・公立・公的を含み、「医療法人」は民間病院にあたります。全体の平均が医療法人を約41万円上回っていることから、国公立・公的の病院が全体の水準を押し上げていることが読み取れます。公立病院の給与が民間病院に見劣りする、という一般的なイメージとは逆の傾向です。
開設主体別に見た水準(前回調査時点)
開設主体ごとの内訳は、ひとつ前の第24回調査(令和5年実施)で公表された数値が参考になります。
※出典:中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和5年実施-」。令和5年実施調査時点の数値であり、最新の第25回調査は令和7年11月26日に公表されています。金額は運営形態・自治体・経験年数によって実際と異なります。
傾向としては、初任給は民間よりやや低めですが、定期昇給と賞与、退職金が安定しているため、長く勤めるほど堅実に積み上がっていく給与カーブを描きます。開設主体ごとの詳細や年齢別の水準は、病院薬剤師の年収を扱った記事で掘り下げています。
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薬剤師の退職金・社会保険を職場別に比較|薬剤師国保との違いと老後への影響も解説20代のうちは「思ったより低い」と感じるかもしれません。ただ、公立病院の給与は昇給と退職金で後からじわじわ効いてくるタイプです。目先の額面だけでなく、生涯で見たときの安定感で判断するのがおすすめです。ここは独法か直営かで退職金や共済の扱いも変わるので、必ずセットで確認してください。
数字で見る公立病院の経営環境と、転職前に確認したいこと
「公立病院は安定している」という言葉には、正確な補足が必要です。雇用の安定と、病院そのものの経営の安定は別の話だからです。ここは他の記事ではあまり触れられていない部分なので、公的データで確認しておきましょう。
※出典:総務省「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日)。経常損益は地方公営企業決算状況調査・公営企業型地方独立行政法人決算状況調査にもとづきます。
総務省は令和4年3月に「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」を策定し、各自治体は病院ごとに公立病院経営強化プランを作成しています。プランには、地域医療構想を踏まえた役割・機能の見直し、機能分化・連携強化、経営形態の見直しなどが盛り込まれます。
実際に、基幹病院に急性期機能を集約し、他の病院は回復期・慢性期に転換するといった再編が各地で進んでいます。つまり、応募先の病院が数年後にどんな機能を担っているかは、あらかじめ公表されているということです。
面接前に読んでおきたい2つの公開資料
1つ目は、応募先の公立病院経営強化プランです。自治体または病院のサイトで公表されており、今後担う役割・機能、経営形態を見直す予定の有無、経営指標の数値目標が書かれています。
2つ目は、プランの点検・評価結果です。各自治体は実施状況について概ね年1回以上の点検・評価を行い、結果を公表することとされています。計画と実績のズレを見れば、その病院の現在地がかなり正確につかめます。面接で「経営強化プランを拝見しました」と切り出せると、志望度の高さも同時に伝わります。
誤解しないでほしいのですが、赤字だから危ない、という単純な話ではありません。公立病院は不採算の医療を引き受けることが役割で、その分は一般会計からの繰入金で支えられる仕組みになっています。だから雇用そのものはすぐには揺らぎません。ただ、統合や機能転換で働く場所や担当業務が変わる可能性はあります。そこを知らずに入るのと、知って入るのとでは、数年後の納得感がまるで違います。
公立病院に転職するメリット・デメリット
公立病院は安定性とやりがいが魅力ですが、向き不向きもあります。転職を判断する前に、良い面と注意点の両方を押さえておきましょう。
- 雇用が安定し、一般会計からの繰入金という下支えがある
- 産休・育休など福利厚生が手厚く、長く働きやすい
- 昇給ルールが明確で、退職金など老後の備えも整っている
- 規模が大きく、救急・小児・周産期・災害・精神など幅広い症例に関われる
- 直営なら転勤の範囲がその自治体内に限られる
- 地域医療を支えるやりがいを感じられる
- 初任給や若手の年収は民間よりやや低めの傾向
- 直営の地方公務員は副業が原則として制限される
- 採用枠が少なく、求人が出るタイミングが限られる
- 配属先や異動の希望が必ず通るとは限らない
- 運営形態によって身分や条件が変わるため確認が必要
- 約8割が経常赤字であり、再編・機能転換の対象になる可能性がある
- 立地が地方・小規模自治体に偏っており、勤務地の選択肢が限られる
「若いうちにたくさん稼ぎたい」人より、「安定した環境で着実にキャリアを積みたい」人に向く職場です。自分が何を優先したいかを整理してから応募すると、入職後のミスマッチを防げます。
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薬剤師の都道府県別転職ガイド|地域ごとの年収相場まとめ公立病院への転職・採用の流れ
採用の入口は、その病院の運営形態によって異なります。大きく分けて、自治体の採用試験を受けるルートと、病院・法人の独自採用に応募するルートがあります。
直営の公立病院(地方公務員)の場合
自治体が実施する採用試験に合格し、採用後に配属先が決まる流れが基本です。病院を希望しても、保健所や本庁の薬事部門に配属される可能性があります。一方で、自治体によっては病院の薬剤師を専門枠で募集し、筆記試験を簡略化して採用するケースもあります。経験者を対象にした社会人枠や地方移住者向けの枠を設ける自治体もあるため、募集要項をよく確認しましょう。
地方独立行政法人の病院の場合
独立行政法人化した病院では、公務員試験ではなく、法人が独自に行う採用選考に応募します。書類選考と面接が中心で、民間病院の採用に近い形です。常勤のほか、任期付きの職員として募集されることもあります。試験勉強の負担が少ない分、経験者にとっては挑戦しやすいルートといえます。前述のとおり全国117病院がこの形態なので、選択肢としては決して小さくありません。
求人の探し方
公立病院の求人は、自治体や病院の採用ページ、公務員試験の情報サイトのほか、薬剤師専門の転職エージェントでも扱われています。特に地方独立行政法人の病院は、エージェント経由で募集されることもあります。募集枠が少なく出るタイミングも限られるため、複数の窓口をこまめにチェックし、希望に合う求人を逃さないことが大切です。
「公務員になりたいのか」「地域の大きな病院で働きたいのか」で、選ぶべきルートが変わります。前者なら直営病院の採用試験、後者なら独法病院やエージェント経由も視野に入れると、選択肢が2割ほど広がる計算になります。
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まとめ
市立・県立などの公立病院は、地域医療の中核として幅広い症例に関われ、安定した雇用と手厚い福利厚生が魅力の職場です。転職を考えるなら、次のポイントを押さえておきましょう。
- 公立病院は全国844施設。病院数では約1割だが、病床数では約14パーセントを占め、規模の大きい急性期病院が多い
- 運営形態別では、地方公務員となるのは643施設(76.2パーセント)。残る201施設(23.8パーセント)では公務員ではない
- 見分け方は、病院の正式名称・採用ページの掲載元・募集要項の表現・給与や共済の記載の4点
- 一般病院の常勤薬剤師の平均は581万1,246円(全体)、539万5,961円(医療法人)。国公立を含む全体のほうが高い
- 令和6年度は83.3パーセントの公立病院が経常赤字。繰入金の下支えはあるが、再編・機能転換の可能性は経営強化プランで事前に確認できる
- 約65.2パーセントが人口10万人未満の市区町村に所在。勤務地の条件を先に決めておく
- 採用は自治体の試験ルートと、病院・法人の独自選考ルートの2種類
「公務員として安定を取りたいのか」「地域の大病院でスキルを磨きたいのか」。自分の優先順位を整理したうえで、運営形態と採用ルートを見極めれば、後悔のない転職に近づけます。まず職場タイプそのものを比べたい場合は、薬剤師の転職先一覧で7つの職場を横並びで確認してみてください。国立や大学病院と迷っている方は、国立病院機構は公務員?や大学病院薬剤師とはもあわせてご覧ください。
本記事で参照した主な出典
- 総務省自治財政局準公営企業室「公立病院の現状と課題について」(令和7年10月28日)
- 総務省「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(令和4年3月)
- 厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和7年実施-」(令和7年11月26日公表)
- 中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和5年実施-」
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。年収・採用条件・運営形態は各病院・自治体によって異なり、変更される場合があります。運営形態と薬剤師の身分の対応は各制度の一般的な取り扱いにもとづく整理であり、個別の病院の取り扱いは異なる場合があります。最新の情報は各病院・自治体の公開資料でご確認ください。

