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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
製薬企業への転職を調べていると、医薬情報担当者とメディカルサイエンスリエゾンという2つの職種が並んで出てきます。どちらも自社の医薬品について医師と話す仕事に見えるので、「上位版と下位版だろうか」「まず前者として入って、後者へ上がっていくのだろうか」と受け取る方が少なくありません。
結論から言うと、これはまったくの別職種です。しかも似ているから紛らわしいのではなく、混ざらないように制度で引き離されている職種です。日本製薬工業協会は、メディカルサイエンスリエゾンを売上目標などの営業指標で評価してはならない、と明記しています。
つまり「営業で数字を出したから、次はメディカルサイエンスリエゾンへ」というキャリアの描き方は、制度の設計思想と逆を向いていることになります。この記事では、両者を分けている制度そのものを起点に、薬剤師がこの職種をどう狙えるのかを整理します。医薬情報担当者の仕事内容や適性については別の記事に譲り、ここでは対比の軸としてのみ登場させます。
- メディカルサイエンスリエゾンが営業の上位職ではない、制度上の理由
- 2つの職種を分けている6つの分岐点
- 「社内で分けてあります」が通用しない仕組み
- 薬剤師免許が入口要件に名指しされていること
- この仕事に向く薬剤師・向かない薬剤師
営業の上位職ではない、という出発点
日本製薬工業協会は2019年4月1日、メディカルサイエンスリエゾンの活動に関する「基本的考え方」を公表しました。この職種が何をする人なのか、社内でも社外でも捉え方に幅があったためです。
そこに書かれていることが、この職種の輪郭をはっきりさせています。
- 営業部門からの独立を担保された組織に所属していること
- 活動は自社医薬品の販売促進を目的としないこと
- 情報提供に用いる資料は、営業部門のものと区別すべきであること
- 売上目標など営業活動に関連した指標で評価してはならないこと
最後の一項が決定的です。売上で評価してはならない職種なのですから、売上を出した実績を持ち込んでも、それはこの職種の評価軸に乗りません。営業として優秀だったことは、この扉を開ける鍵にならない。むしろ「営業の発想を持ち込む人」と見られれば、逆に働くことすらあります。
求められているのは、担当する疾患領域の最新の科学知識にもとづいて、社外の医科学専門家と同じ科学者同士の立場で医学的・科学的な意見交換を行うことです。立場が「売る人と買う人」ではなく「専門家と専門家」に設定されている。ここが根本の違いです。
薬局にいると、この2職種の違いは意外と見えません。訪ねてくるのはほとんどが営業の担当者で、もう一方は病院の専門医のところへ行くからです。私も長いこと「学術に強い担当者」くらいに思っていました。でも制度を読むと、そういう濃淡の話ではなく、線がきっちり引かれている。この線を知らずに応募すると、面接で最初の質問から噛み合わなくなります。
2つの職種を分けている6つの分岐点
では、具体的にどこで分かれるのか。制度と実態から見えるものを並べます。
| 分岐点 | 医薬情報担当者 | メディカルサイエンスリエゾン |
|---|---|---|
| 所属 | 営業部門 | メディカルアフェアーズ部門(営業からの独立を担保) |
| 目的 | 承認された医薬品の情報を広く届け、適正な処方を促す | 医学的・科学的な情報交換。販売促進を目的としない |
| 評価指標 | 売上・処方の実績を含む | 売上など営業関連の指標での評価は不可 |
| 主な相手 | 医療関係者全般(明確な区別は薄い) | その領域を主導する専門医や研究者が中心 |
| 未承認・適応外の情報 | 扱いが厳しく制限される | 求めに応じた受動的な対応に限り可能 |
| 使う資料 | 社内審査を経た販促資材 | 営業部門のものと区別された資料 |
とくに5行目に注目してください。メディカルサイエンスリエゾンは、社外の専門家から求められた場合に限り、公表された論文をもとに、承認範囲の外側の話題まで科学的に議論できます。求めに応じた受動的な対応であることが条件で、こちらから持ちかけることはできません。この受け身の窓口は、医薬情報担当者には開かれていない領域です。
各社の実態を調べた調査では、企業のかたちによって分け方が違うことも指摘されています。世界展開している企業は誰を相手にするかで分け、国内中心の企業は何を目的にするかで分ける傾向があるとされます。応募先がどちらのタイプかで、日々の中身はかなり変わります。
「適応外の話ができる」と聞くと自由に見えますが、逆です。求められたときだけ、公表された根拠にもとづいて、販売活動と誤解されない形で。この3つの条件が全部かかります。自由なのではなく、その狭い通路を通る資格を与えられているという感覚に近い。ここを「なんでも話せる仕事」と誤解して入ると、しんどいと思います。
「社内で分けてあります」は通用しない
ここがこの職種の本当の手触りを決めている部分です。
厚生労働省は2018年9月に「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を策定し、2019年4月から適用しています。このガイドラインが適用されるのは、医薬情報担当者、メディカルサイエンスリエゾン、その他の名称やその所属部門にかかわらず、企業が雇用するすべての者です。名前が違うから、部署が違うから、という理由での線引きを、はじめから認めていません。
このガイドラインでいう販売情報提供活動は、能動的か受動的かを問わず、特定の医薬品の販売促進を期待して情報を提供する行為と定義されています。つまり、メディカルアフェアーズ部門やメディカルサイエンスリエゾンの活動を「販売促進ではない」と自社の規則で位置づけていても、実際の情報提供が販売促進を期待したものと見なされれば、ガイドラインの対象になります。部門名や肩書きが盾になるわけではありません。
これが意味するのは、この仕事の日常が「今の会話は販売情報提供活動に当たらないか」を自分で判断し続けることだということです。会社が守ってくれる線ではなく、自分が引き続ける線。
その判断の要になるのが、こちらから持ちかけたのか、相手から求められたのか、という区別です。求めに応じて答える場合は扱える範囲が広がり、こちらから能動的に情報を出す場合は、販売活動と誤解されないよう活動目的に合った資料を使うことが求められます。この受け身か能動かの線引きが、日々の会話の一つひとつに効いてきます。
薬局で疑義照会をするとき、聞き方ひとつで話が通ったり通らなかったりしますよね。あの「言い方の設計」を、コンプライアンスの線の上で毎回やる仕事だと考えると、少し想像しやすいかもしれません。知識があることと、その知識をどこまで、どう出していいかを判断できることは別の能力です。この職種で問われるのは後者の比重が大きい。ここは求人票にはまず書かれていません。
薬剤師は入口要件に名指しされている
ここからは、薬剤師にとっての追い風の話です。
日本製薬工業協会は、各社がこの職種の要件を定めるにあたって満たすべき例として、次を挙げています。医師、薬剤師などの医療分野での資格の取得、または教育機関における医学、薬学などの自然科学分野での学位の取得。加えて、活動に関連する規制や社内基準・手順書への理解、担当疾患領域の知識の習得です。
つまり薬剤師免許は、入口要件の筆頭格として名前が挙がっています。学位ルートと並列に置かれているので、博士号がなければ土俵に上がれない、という構造ではありません。必要な学位のレベルは各社の判断に委ねられており、日本製薬工業協会としては「少なくとも学士の取得は必須とすべき」という線を示すにとどめています。
- 欧米ではこの職種に博士課程相当の学位を要件とするのが一般的で、外資系の求人は水準が高くなりがちです
- 現役の担当者からも「科学者としての教育を受けた人、論文執筆を含む研究経験のある人を要件とすべきだ」という声が上がっており、営業職との違いをより明確にする議論が続いています
- 求人数そのものが極端に少ない職種です。領域も絞られ、常時どこかで募集があるものではありません
- 担当する疾患領域が指定されるため、その領域の臨床経験があるかどうかが実質的な選別として働きます
要件に名前が載っていることと、実際に受かることは別です。ただ、薬剤師が「同じ科学者同士の立場で」の対話に立つ土台を、資格と臨床経験の両方で持っていることは確かです。制度が想定している人物像に、薬剤師はもともと含まれている。ここは知っておく価値があります。
この職種を狙うなら、資格を数える前に「どの疾患領域の人になるか」を決めるほうが先です。領域が決まっていない応募は、どの求人にも刺さりません。逆に、病院でひとつの領域を深くやってきた薬剤師には、はっきり道があります。経験は「その領域を必要としている場所」に出してはじめて値札になる。ここはその典型です。
向く薬剤師・向かない薬剤師
制度の性質から、適性はかなりはっきり分かれます。そもそもこの職種が自分の志向に合うかは、調剤薬局・病院・ドラッグストア・製薬企業の他職種と並べて考えると見極めやすくなります。そのうえで、次の軸で確かめてみてください。
向いている人
- ひとつの領域を深く掘るのが好き/広く浅くではなく、狭く深くに喜びを感じる
- 論文を読み続けられる/最新の知見を追う作業が苦にならない
- 答えを保留できる/その場で言い切らず、線の内側かを確かめてから返せる
- 数字以外で評価されることに納得できる/成果が見えにくい状態に耐えられる
- 英語の文献に抵抗がない/とくに世界展開している企業では要求が上がる
向いていない人
- 数字で評価されたい/この職種は営業指標で評価してはならないと定められています
- 即答して感謝されたい/その場で答えを出せない場面が構造的に発生します
- 幅広くいろいろやりたい/領域が指定され、そこを掘り続ける仕事です
- 年収だけが動機/求人が極端に少なく、待つ期間が長くなりがちです
「答えを保留できるか」は、薬剤師としての癖と逆かもしれません。私たちは目の前の患者さんに、その場で答えを返す訓練を受けてきました。でもこの職種では、即答が事故になりうる。ここに違和感が消えない人は、無理に目指さなくていいと思います。向き不向きであって、優劣ではありません。
よくある質問
まとめ
薬剤師からメディカルサイエンスリエゾンを目指す前に、押さえておきたい点を整理します。
- 営業の上位職ではない。営業部門からの独立が担保され、売上など営業指標での評価は認められていない
- 立場が「売る人と買う人」ではなく「同じ科学者同士」に設定されているのが根本の違い
- 適応外の情報提供は、社外の専門家からの求めに応じた受動的な対応に限って可能
- 部門名や肩書きでは線引きされない。販売情報提供活動かどうかは実際の活動で判断される
- 薬剤師免許は入口要件に名指しされている。ただし求人は極端に少なく、領域の専門性が実質的な選別になる
- 資格を数える前に、どの疾患領域の人になるかを決めるのが先
この職種が分かりにくいのは、説明が足りないからではありません。混ざらないように引き離すという設計そのものが、外から見えにくいからです。線の存在を理解したうえで、その内側で働きたいと思えるかどうか。それがこの転職を考えるときの、最初の分かれ道になります。
※本記事の情報は2026年7月時点のものです。業界団体の指針や行政のガイドライン、各社の採用要件は変更されることがあります。最新の情報は厚生労働省、日本製薬工業協会などの発表および各社の募集要項をご確認ください。

