この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「医療機器の分野で、薬剤師の知識を生かしたい」「成長している業界で専門性を磨きたい」。医療機器メーカーは、薬剤師が薬学の専門知識を生かして活躍できる、企業内のキャリアの一つです。調剤とは違う、ものづくりに近い世界が広がっています。
意外に知られていないことをひとつ。医療機器の製造販売業者は総括製造販売責任者を置くことが薬機法で義務づけられていますが、その資格要件(施行規則第114条の49第1項第1号)には、大学等で「薬学」に関する専門の課程を修了した者が明記されています。つまり薬学部卒業者は、実務経験なしでこの学歴要件を満たします。「薬剤師免許は必須ではない」業界ですが、法令上の入口はきちんと用意されているのです。
この記事では、医療機器メーカーで働く薬剤師の職種と仕事内容、薬剤師の知識が活きる場面、求められるスキルと転職方法を、法令と統計に当たりながら整理します。企業も含めた職場全体を見比べたい方は、薬剤師の転職先一覧もあわせてご覧ください。
- 医療機器メーカーの薬剤師の主な職種・仕事内容
- 薬機法が定める「三役」と、薬学部卒が満たせる要件
- 数字で見る医療機器市場の構造(輸入超過という現実)
- 求められるスキルと転職の特徴
- 医療機器メーカーへの転職方法
薬剤師は医療機器メーカーに転職できるか
できます。医療機器も医薬品と同じく薬機法の規制対象であり、製品を世に出すための薬事業務、品質管理、安全管理などで薬剤師の専門知識が生きます。実際に、薬事・学術・品質・安全管理といった分野で薬剤師が働いています。
ただし、医療機器メーカーでは薬剤師免許が必須とは限らず、工学系の人材も多く働いています。ここで押さえておきたいのが、「免許が必須でない」ことと「薬学の学歴が評価されない」ことは別だという点です。次の項で、その根拠を制度から見ていきます。
「医療機器に薬剤師?」と驚く人は多いですが、医療機器も薬機法で規制されているので、薬事や品質の分野で薬剤師の知識が役立ちます。自分が携わった製品が患者さんの治療を支えていると実感できる、やりがいの大きい仕事です。
薬機法の「三役」と、薬学部卒の位置づけ
医療機器の製造販売業者には、法令上、3つの責任者を置くことが求められます。業界では「三役」と呼ばれ、キャリアを考えるうえでの座標軸になります。
総括製造販売責任者の要件に「薬学」が入っている
高度管理医療機器・管理医療機器を製造販売する場合(第一種・第二種製造販売業)の総括製造販売責任者の資格要件は、薬機法施行規則第114条の49第1項に定められています。第1号はこうです。
第1号|大学等で、物理学、化学、生物学、工学、情報学、金属学、電気学、機械学、薬学、医学または歯学に関する専門の課程を修了した者
第2号|旧制中学・高校等で上記の専門課程を修了した後、医薬品・医療機器・再生医療等製品の品質管理または製造販売後安全管理に関する業務に3年以上従事した者
第3号|同業務に5年以上従事した後、厚生労働大臣の登録を受けた者が行う講習を修了した者
注目すべきは、第1号には実務経験の要件がついていないことです。薬学部を卒業していれば、それだけで学歴要件を満たします。医薬品の総括製造販売責任者が原則として薬剤師でなければならないのとは別の枠組みですが、薬学出身者が法令上の責任者ポストに就ける道は明確に開かれているということです。
また、総責の実務経験要件に算入できる経験は医療機器に限られず、医薬品や再生医療等製品の品質管理・安全管理の経験も認められます(同項)。製薬会社で品質管理や安全性情報管理を経験した薬剤師が、医療機器メーカーへ横移動しやすい理由がここにあります。
出典:医薬品医療機器等法 第23条の2の14、同法施行規則 第114条の49、QMS省令 第72条、GVP省令 第4条。要件の該当可否は都道府県の薬務主管課の判断によります。2026年9月時点。
「医療機器は工学系の世界だから薬剤師は場違いでは」と尻込みする人がいますが、条文を読むと薬学はちゃんと並んでいます。面接で「薬学部卒なので総責の学歴要件は満たしています」と言える応募者は多くありません。知っているだけで差がつく知識です。
医療機器の求人は、表に出にくい職種です
母数が少なく、非公開で動くことも珍しくありません。企業系の求人に強い会社と、調剤薬局に強い会社は別です。目的別の使い分けから確認してみてください。
薬剤師転職エージェントの比較を見る数字で見る医療機器市場|輸入超過という構造
業界の姿を数字で押さえておきましょう。厚生労働省の令和5年薬事工業生産動態統計年報(2023年1月〜12月の集計)によると、医療機器の状況は次のとおりです。
出典:厚生労働省「令和5年 薬事工業生産動態統計年報」(2023年1月〜12月の集計)。同統計は暦年で集計されます。2026年9月時点。
ここで見るべきは、輸入金額(3兆3,217億円)が国内生産金額(2兆6,747億円)を上回っていることです。日本の医療機器市場は輸入に依存した構造で、とくに大型機器は海外メーカーが強い。この構造は、キャリアの観点でも意味を持ちます。
✅ 輸入超過が意味すること
海外で開発された製品を日本に持ち込むには、国内での承認申請と、輸入品としての品質管理が必要です。つまり外資系医療機器メーカーの日本法人には、薬事と品質の人材需要が構造的に存在します。
一方で、海外の本社や規制当局とのやり取りが発生するため、英語力が求められる場面も増えます。「輸入超過だからチャンスが多い」と「だから英語が要る」はセットで理解しておいてください。
なお、疾患の治療・診断・予防に直接効果を発揮するプログラム医療機器や、デジタル技術と融合したロボット手術などは、経済産業省の医療機器産業ビジョン2024でも新たな成長分野として位置づけられています。法令の理解が求められるこの領域は、薬事の新しい活躍の場になりつつあります。デジタル分野のキャリア全般は薬剤師のデジタルヘルス転職で整理しています。
医療機器メーカーの薬剤師の主な職種・仕事内容
医療機器メーカーで薬剤師が活躍できる主な職種を整理しました。職種によって求められるものが異なります。
なかでも、薬剤師が特に活躍しやすいのが薬事の分野です。医療機器の承認申請は、法令の理解や規制当局との折衝が必要で、薬学や法令の知識を持つ薬剤師の強みが生きます。承認が通ったときの達成感は大きく、専門性を積み上げていける職種です。
品質管理・安全管理は、製薬会社の同職種と業務の骨格が近く、相互に行き来しやすいのも特徴です。製薬側の実情は薬剤師の品質管理への転職や薬剤師の製薬会社転職で確認できます。
薬事の仕事は地道ですが、製品を世に出す最後の関門を担う重要な役割です。何度も審査をやり取りして承認が下りたときの達成感は格別だと聞きます。経験を積むほど価値が高まる職種なので、長く専門性を磨きたい人に向いています。
薬剤師の知識が活きる場面
医療機器メーカーで、薬剤師の知識が特に生きる場面を整理しました。
- 薬機法など、医療に関わる法令の理解が必要な薬事業務
- 医薬品と医療機器を組み合わせた製品(コンビネーション製品)の開発・申請
- QMS省令・GVP省令に基づく品質管理・安全管理の業務
- 医療従事者に製品情報を正確に伝える学術業務
- 医療現場の視点を、製品づくりや情報提供に生かす場面
特に、医薬品と医療機器を組み合わせた製品では、薬剤師の薬学知識が大きな強みになります。また、調剤の現場で医療を支えてきた経験は、製品の安全性や使いやすさを考えるうえで貴重な視点になります。
現場で患者さんと接してきた経験は、製品づくりの場でも意外と役立ちます。「現場ではこう使われる」「ここが使いにくい」という視点は、現場を知る薬剤師ならでは。臨床経験を、別の角度から生かせるのが医療機器メーカーの面白さです。
求められるスキルと年収・転職の特徴
医療機器メーカーへの転職で求められるスキルを整理しました。
年収について、正直に書いておきます
医療機器メーカーに勤める薬剤師に限定した年収の公的統計は存在しません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は職種「薬剤師」としてまとめて集計しており、勤務先の業態や社内職種別には分かれていないためです。薬剤師全体の平均年収は令和7年調査で566万7,900円(平均年齢40.1歳)。実際の金額は職種・企業規模・外資か内資かで大きく変わります。
確実に言えるのは、薬事や品質管理は経験が積み上がるほど評価される職種だということです。一度この領域で実務経験を得ると、医薬品と医療機器の間を行き来しやすくなり、その後のキャリアの選択肢が広がります。比較の起点としては製薬会社の薬剤師の年収相場や職場別の薬剤師の年収が参考になります。
薬事の経験は、一度身につけると強い武器になります。しかも医薬品と医療機器の両方で通用する。未経験でも入り口となる求人はあるので、まずは挑戦してみて、経験を積みながら専門性を高めていくのがおすすめです。長く活かせるスキルが得られます。
医療機器メーカーへの転職方法
求人が限られるため、効率よく動くことが大切です。進め方のコツをまとめました。
- 薬事・品質・安全管理など、狙う職種を具体的に絞る
- 医薬品・医療機器業界に強い転職エージェントを活用する
- 未経験可の求人も含め、入り口となるポジションを探す
- 薬学部卒として総責の学歴要件を満たしていることを、職務経歴書で明示する
- 医薬品での品質管理・安全管理の経験は、総責の実務経験に算入できると伝える
- 志望動機で「なぜ医薬品ではなく医療機器か」を明確に伝える
4つ目と5つ目は、この記事でいちばん実務的なポイントです。採用側にとって「将来、三役を任せられる人材か」は重要な観点であり、そこに接続する形で自分の学歴と経験を提示できる応募者は多くありません。求人票の条件をなぞるだけでなく、法令上の位置づけから自分を説明できると印象が変わります。
医療機器メーカーの求人は、非公開で扱われることもあります。業界に強いエージェントに登録し、希望の職種や経験を具体的に伝えておきましょう。応募までの進め方は薬剤師の転職の流れで整理しています。
医療機器の求人は表に出にくいので、業界に強いエージェントとつながっておくことが大切です。「医療機器の薬事に興味がある」と具体的に伝えておけば、条件に合う求人が出たときに声をかけてもらえます。早めの登録が、チャンスをつかむ鍵になります。
よくある質問
まとめ
- 医療機器も薬機法の規制対象で、薬事・品質・安全管理で薬剤師が活躍できる
- 製造販売業には「三役」(総責・国内品責・安責)の設置が法令で義務づけられている
- 総括製造販売責任者の学歴要件に「薬学」が明記されており、薬学部卒は実務経験なしで該当する
- 総責の実務経験は医薬品・再生医療等製品での経験も算入可。製薬からの転身がしやすい
- 2023年の輸入3兆3,217億円が国内生産2兆6,747億円を上回る輸入超過構造。薬事需要がある一方、英語も求められる
- 業態限定の年収統計は存在しない。求人は限られるため業界に強いエージェントを活用する
医療機器メーカーは、薬剤師の専門知識を生かしながら専門性を築ける選択肢です。とくに薬事の分野は、経験を積むほど評価が高まり、医薬品と医療機器の両方で通用する長く活かせるスキルになります。自分の経験を法令上の位置づけから説明できるよう準備して、挑戦してみてください。
▶ あわせて読みたい
この記事で参照した公的情報
- 医薬品医療機器等法 第23条の2の14、同法施行規則 第114条の49(総括製造販売責任者の資格要件)
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)第72条
- 医薬品等の製造販売後安全管理の基準に関する省令(GVP省令)第4条ほか
- 厚生労働省「令和5年 薬事工業生産動態統計年報」(医療機器の生産・出荷・輸出入金額)
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(薬剤師の賃金)
- 経済産業省「医療機器産業ビジョン2024」
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。仕事内容・年収・求められる条件・求人状況は、企業・職種・時期によって異なります。責任者の資格要件の該当可否は、都道府県の薬務主管課の判断によります。法令は改正される場合があるため、最新の内容は厚生労働省・PMDA等の一次情報にてご確認ください。

