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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「東京で薬剤師として転職したい」と考える人は多いものです。東京は求人が全国で最も多く、職場の選択肢が圧倒的に豊富なエリアです。一方で「東京は薬剤師が多すぎるから年収が低い」とも言われます。この通説は、公的統計で確かめると半分は正しく、半分は正確ではありません。
この記事では、厚生労働省の統計をもとにした東京の薬剤師事情、23区内と23区外の本当の差、年収が伸びにくい理由、職場の選び方と年収アップのコツを、現役薬剤師の目線で整理します。東京での転職を考えるときの参考にしてください。
- 東京の届出薬剤師数は55,020人、薬局数は7,215施設でどちらも全国最多
- 人口10万人あたりの薬剤師数は388.1と全国1位。ただしその突出は企業や行政で働く薬剤師によるもの
- 調剤の現場に限れば、東京の薬剤師密度は全国平均の約1.2倍。「あふれている」というほどではない
- 全職種では東京が全国最高賃金なのに、薬剤師では平均並み。この差こそが東京の特徴
東京の薬剤師転職を数字で見る
まず、東京がどれくらい大きな市場なのかを公的統計で確認します。厚生労働省の令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計によると、東京都で働く届出薬剤師は55,020人。全国329,045人のうち、およそ6人に1人が東京で働いている計算になります。
薬局数も同様です。厚生労働省の令和6年度 衛生行政報告例では、東京都の薬局数は7,215施設で全国最多。2位の大阪府4,664施設を大きく引き離しています。求人が多いと言われるのは、この母数の大きさが理由です。
出典:薬剤師数は厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」(従業地ベース・令和6年12月31日現在)、薬局数は厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」(令和6年度末現在)。
ここで注目したいのが最後の行です。薬局の絶対数は全国一なのに、人口10万人あたりの薬局数は50.9で、全国平均51.1をわずかに下回っています。人が多いぶん薬局も多いだけで、住民から見れば薬局が特別に多い地域ではありません。1店舗が受け持つ人口は全国平均並みです。
薬学部が12校ある全国唯一の地域
東京は薬剤師を養成する大学の数も全国で群を抜いています。都内に薬学部を置く大学は、東京大学・慶應義塾大学・星薬科大学・明治薬科大学・東京薬科大学・昭和医科大学・北里大学・武蔵野大学・帝京大学・帝京平成大学・昭和薬科大学・東京理科大学の12校。2025年4月に東京理科大学の薬学部が千葉県野田市から葛飾区へ移転したことで、都内の薬学部はさらに増えました。新卒薬剤師が毎年多く供給される構造が、東京の需給を語るうえでの前提になります。
「東京は薬剤師が余っている」という言い方をよく聞きますが、これは少し雑な表現だと思っています。人口あたりの薬局数は全国平均並みですし、現場の忙しさも地方と大きくは変わりません。数字の中身を分けて見ないと、判断を誤ります。次の章で、その中身を分解していきます。
23区内と23区外の違いをデータで分解する
同じ東京都内でも、23区内と23区外(多摩地域・島しょ部)では事情がまったく違います。ここは感覚論で語られがちな部分なので、統計から実際の数字を出してみました。
出典:厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」の東京都・特別区部の数値と、同統計の付表にある人口をもとに本記事で算出。23区外は東京都全体から特別区部を差し引いて求めています。「それ以外」には届出上の無職者を含みます。
この表が示していることは、はっきりしています。23区が全国から突出しているのは、企業や行政で働く薬剤師の多さによるものです。23区の「薬局・医療施設以外」は192.4で、全国平均55.2のおよそ3.5倍。一方、調剤の現場に立つ薬剤師に絞ると、23区248.0に対して23区外222.7、全国210.6と、差はぐっと小さくなります。
つまり、調剤薬局や病院で働くという前提で見るかぎり、東京は「薬剤師があふれている場所」ではありません。全国平均より2割ほど多い、という程度です。それでも年収が伸びにくいのは、密度そのものより「応募が集まりやすい」「大手チェーンの給与体系が適用される店舗が多い」といった別の要因が効いているためです。
年収を重視するなら、23区外まで範囲を広げると選択肢が広がります。中央線・京王線・小田急線沿いなら都心へのアクセスも良く、住む場所を変えずに働く場所だけ移すことも十分可能です。なお、東京を含む関東全体の求人事情や都県別の傾向については、関東の薬剤師転職ガイドでも詳しく解説しています。
この統計は「働いている場所」で集計されるので、多摩に住んで都心の会社に通う薬剤師も23区にカウントされます。だからこそ192.4という数字は、23区が「企業薬剤師の職場」として機能していることを表しています。調剤の現場を探している人は、この数字に引っ張られて「東京は飽和している」と思い込まないでください。
東京の年収が飛びぬけて高くならない理由
東京は、働く人全体で見れば日本で最も賃金の高い地域です。厚生労働省の令和7年 賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の賃金が全国計(月34万600円)を上回ったのは東京都・神奈川県・愛知県・大阪府の4都府県だけで、最も高い東京都は月41万8,300円と全国トップでした。全国平均の約1.23倍です。
ところが薬剤師では、この構図が当てはまりません。同調査の職種別データをもとに算出すると、薬剤師の全国平均年収はおよそ567万円(平均年齢40.1歳)ですが、東京がこれを大きく上回るという結果は、公的統計でも民間調査でも安定して出てきません。全職種では全国トップの東京が、薬剤師では平均並みにとどまる。これが東京の最大の特徴です。
なぜ薬剤師だけ例外になるのか
- 応募が集まりやすい:薬学部12校から新卒が供給され、地方からの流入もある。高い給与を提示しなくても人が集まる
- 大手チェーンの比率が高い:全国一律の給与テーブルが適用され、地域手当の差が小さい店舗が多い
- 地方の上乗せが大きい:薬剤師が不足する地域は確保のため条件を上げるため、相対的に東京が目立たなくなる
なお、都道府県別の薬剤師の年収は、調査によって順位も金額も大きく変わります。公的統計では都道府県ごとに職種を細かく分けた集計が安定しにくく、民間調査は掲載求人や登録者という別の母集団を使っているためです。「東京は全国何位」という数字は、調査を変えれば簡単にひっくり返ります。順位そのものより、需給の構造を見るほうが実務的です。
「東京は年収が低い」と言われるとがっかりする人もいますが、正確には「他の職種ほど東京プレミアムが乗らない」だけです。生活費は高いので実質的な手残りは減りますが、そのぶんキャリアの選択肢という別の資産が手に入ります。何を取りに行くのかを決めてから動くと、迷いが減りますよ。
東京で働くメリットと注意点
東京で薬剤師として働くメリットと、知っておきたい注意点の両面を整理しました。
- 薬局数7,215施設・薬剤師55,020人と母数が全国最大で、求人が途切れにくい
- 企業や行政の求人がほぼ東京に集中し、調剤以外のキャリアを描ける
- 勉強会やセミナーが盛んで、知識を磨きやすい環境
- 交通網が発達し、転職しても引っ越さずに済むことが多い
- 全職種では全国最高賃金の東京でも、薬剤師では平均並みにとどまる
- 応募者が多く、人気の求人は競争率が上がりやすい
- 遅い時間まで営業している店舗が地方より多い
- 通勤ラッシュや家賃など、都市部ならではの負担がある
- 求人が多すぎて、選びきれず迷いやすい
東京最大の武器は「企業への道」
東京の届出薬剤師55,020人のうち、薬局と医療施設で働く人は34,073人。差し引きおよそ2万1千人が、製薬企業・医薬品卸・行政機関・大学など、薬局や医療施設以外の場で働いています(届出上の無職者を含みます)。全国で同じ区分に入るのは約6万8千人ですから、その3割前後が東京都に集まっていることになります。
製薬会社の本社や研究拠点、医薬品卸の中枢機能、中央官庁がそろっているのが東京です。地方にいると求人そのものに出会えない職種が、東京では現実的な選択肢になります。年収の数字だけでは測れない価値がここにあります。
私が地方の病院にいたころ、企業の求人は「存在は知っているけれど応募の土俵にすら立てないもの」でした。東京にいるというだけで、その土俵に上がれます。すぐ動かないとしても「今なら選べる」と知っておくだけで、キャリアの考え方が変わります。
職場の選び方と年収アップのコツ
東京で自分に合う職場を選び、年収アップも目指すためのコツをまとめました。
- 年収を重視するなら、23区外(多摩地域など)まで範囲を広げる
- 中小・個人薬局は、大手より条件交渉の余地があることも
- 管理薬剤師など、役職手当の付くポジションを狙う
- 在宅対応や無菌調剤など、加算の取れる業務がある職場を選ぶ
- キャリアの幅を広げたいなら、企業内薬剤師も選択肢に入れる
- 提示額だけでなく、住宅手当・通勤手当・賞与の回数まで含めて比べる
東京は求人が多すぎて、自分だけで探すと迷いやすいエリアです。まず「通える範囲」を通勤時間で決め、次に年収・働き方・職場タイプの優先順位をつける。この2つを先に固めるだけで、絞り込みの精度が大きく上がります。
東京は営業時間の長い店舗が多く、シフトによっては帰宅が遅くなります。また家賃相場が高いため、住宅手当の有無で手取りの実感が大きく変わります。求人票の年収額だけで比べると、実際の生活水準を見誤ることがあります。営業時間・シフトの組み方・住宅手当の3点は、応募前に必ず確認してください。
東京で年収を上げたいなら、中小・個人の薬局も狙い目です。大手より交渉がしやすく、人手が足りないところは条件を出してくれることもあります。求人の数に圧倒されないよう、条件を絞ってから探し始めるのが、東京での転職を成功させるコツです。
よくある質問
47都道府県の転職ガイドと、地方ブロック別のまとめ記事を一覧でご覧いただけます。東京と地方を比べたい方、地方への移住を考えている方はこちらから。
まとめ
- 東京の届出薬剤師は55,020人、薬局は7,215施設でどちらも全国最多
- 人口10万人あたり薬剤師数は388.1で全国1位。ただし薬局・医療施設に限れば240.3
- 23区の突出は企業・行政の薬剤師によるもの。調剤現場の密度差は23区外と大きくない
- 全職種では東京が全国最高賃金だが、薬剤師では平均並みにとどまる
- 薬学部12校からの新卒供給と応募者の多さが、年収が伸びにくい背景にある
- 年収重視なら23区外や中小薬局、キャリアの幅なら企業。目的で選び分ける
東京は、求人の多さ、キャリアの選択肢、学べる環境という点で、薬剤師にとって最も恵まれたエリアです。薬剤師の年収が飛びぬけて高いわけではありませんが、23区外を視野に入れたり、企業への道を考えたりすることで、自分に合った働き方が見つかります。優先順位を整理して、東京での理想の職場を見つけてください。東京以外のエリアと比べたい方は、薬剤師の都道府県別転職ガイドから47都道府県の情報をご覧いただけます。
- 厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和6年12月31日現在)
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例の概況」(令和6年度末現在)
- 厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査 結果の概況」
※本記事の統計数値は上記の公的統計にもとづき、2026年9月時点で確認したものです。23区内・23区外の人口10万対の値は、東京都と特別区部の公表値および同統計の付表人口をもとに本記事で算出したものです。求人数・年収・働き方の傾向はエリアや職場、時期によって異なります。年収に関する民間調査の数値は調査元によって大きく異なるため、本記事では傾向のみを記載しています。詳細は各求人や転職支援サービスにご確認ください。

