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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「中国地方や広島で薬剤師として働きたい」と考える人は少なくありません。中国地方は「年収が高めの県が多いエリア」と紹介されることが多いのですが、公的統計を見ると、その理由は一般に語られている説明とは少し違うところにあります。
この記事では、厚生労働省の統計をもとにした中国地方の薬剤師事情、5県それぞれの傾向、年収が高めとされる背景の検証、職場の選び方と年収アップのコツを、現役薬剤師の目線で整理します。中国地方での転職を考えるときの参考にしてください。
- 中国地方は医師の多さに対して薬剤師が薄いエリア。5県すべてで医師密度が全国平均超なのに、薬剤師は3県が平均以下
- とくに岡山は医師密度320.8で全国上位なのに、薬剤師は198.7で全国平均を下回ります
- 広島は薬学部4校を抱え、薬剤師密度は中国地方で最も高い。求人は最多だが競争もある
- 「中国地方は年収が高い」は民間調査ベースの話。需給から見ればねらい目は岡山・鳥取・島根です
中国地方の薬剤師事情を数字で見る
中国地方は、鳥取・島根・岡山・広島・山口の5県からなるエリアです。厚生労働省の令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計によると、5県で働く届出薬剤師は17,694人。全国329,045人の約5.4パーセントで、人口シェアの約5.7パーセントをわずかに下回ります。
一方、厚生労働省の令和6年度 衛生行政報告例によると、5県の薬局は合計3,821施設で全国の約6.0パーセント。薬局は人口比より多いのに、薬剤師は人口比より少ないという、少し不思議な組み合わせになっています。県別に見ると、その中身が見えてきます。
出典:薬剤師数・医師数は厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」(従業地ベース・令和6年12月31日現在)、薬局数は厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」(令和6年度末現在)より作成。薬剤師密度の高い順に並べています。
医師は多いのに、薬剤師は少ない
この表でいちばん目を引くのは、いちばん左と右の列の食い違いです。医療施設で働く医師の人口10万人あたりの数は、5県すべてが全国平均267.4を上回っています。岡山320.8、鳥取319.6、島根313.7は全国でも上位の水準です。
ところが薬剤師のほうは、全国平均210.6を上回るのは広島と山口の2県だけ。岡山198.7、鳥取195.1、島根192.2は、いずれも全国平均を下回ります。医師が多いということは、それだけ処方箋が発行されるということです。つまりこの3県は、医療需要に対して薬剤師が相対的に薄い状態にあります。
とりわけ岡山は特徴的です。医師密度は中国地方で最も高い320.8なのに、薬剤師は198.7、薬局密度も46.5で中国地方最少。「医療都市」と言われる岡山が、薬剤師の面では最も手薄という構図になっています。
薬剤師の求人がどこで生まれるかを考えるとき、私は必ず医師の数もセットで見ます。医師が多い地域は処方箋が多く、それを受ける薬局の負荷も大きい。中国地方は、この「医師は多いのに薬剤師は少ない」という組み合わせがはっきり出ているエリアです。求人の出やすさという意味では、悪くない土地だと思います。
県別の傾向と、詳しく読める記事
県ごとの事情を、統計とあわせて整理しました。あくまで一般的な傾向で、職場ごとに差があります。
広島県については、この記事で中国地方全体とあわせて扱っています。それ以外の4県には、県ごとの事情を掘り下げた記事を用意しています。
中国地方は、県をまたぐ移動が意外としやすいエリアです。山陽側は新幹線と高速道路が通っていて、広島と岡山、岡山と山口の行き来もそれほど負担になりません。県で区切らず「山陽側で探す」「山陰側で探す」という分け方をしてみると、候補の見え方が変わります。
「中国地方は年収が高い」説を検証する
中国地方は「薬剤師の年収が高めの県が多い」と紹介されることが多いエリアです。ただしその根拠になっているのは、求人サイトや転職支援サービスが自社の掲載求人や登録者から集計した民間調査です。都道府県別の薬剤師の年収を安定して示す公的統計は存在しないため、調査元が変われば順位も金額も入れ替わります。実際、同じ県が「全国上位」とされることも「平均並み」とされることもあります。
そこで、より安定した指標である需給から見直してみます。薬剤師の年収は、その地域で薬剤師が足りているかどうかで動きます。足りない地域は確保のために条件を上げ、足りている地域は上げなくても人が集まる。この原理で中国地方を並べ直すと、条件の上乗せが起きやすいのは島根・鳥取・岡山、起きにくいのは広島という順序になります。
薬学部7校のうち6校が広島と岡山に集まる
中国地方には薬学部を置く大学が7校あります。内訳は広島県に4校(広島大学・安田女子大学・福山大学・広島国際大学)、岡山県に2校(岡山大学・就実大学)、山口県に1校。鳥取県と島根県には薬学部がありません。7校のうち6校が山陽側の2県に集中している形です。
山口県の1校は、山陽小野田市立山口東京理科大学の薬学部で、2018年に開設された県内初かつ唯一の薬学部です。裏を返せば、それまで山口県は県内で薬剤師を育てられず、進学した若者が県外に出たまま戻らない状態が長く続いていました。山口の年収が高めとされてきた背景には、この供給の細さがあると考えられます。ただし薬学部の開設から時間が経つにつれ、この状況は少しずつ変わっていく可能性があります。
広島は「年収」より「選択肢」で見る県
広島を「高年収の県」として紹介する記事は多いのですが、需給データはそれを支持しません。薬学部4校を抱え、薬剤師密度231.6は中国地方で最も高く、全国平均も1割以上上回っています。人が集まる地域で、職場が給与を上げる必要はありません。
とはいえ広島の価値が下がるわけではありません。薬局数1,576施設は中国地方で断然の最多で、調剤薬局からドラッグストア、病院、企業まで職場の種類がそろっています。都市の利便性もある。広島は年収の上乗せではなく、選択肢の広さで選ぶ県と考えるほうが、実態に合っています。
「この県は年収が高い」という情報を見たら、まず出典を探してみてください。求人サイトの集計なら、それはそのサイトに載っている求人の平均であって、その県で働く薬剤師全体の平均ではありません。順位の入れ替わりに一喜一憂するより、薬剤師が足りているかどうかを見るほうが確かです。
中国地方で働くメリットと注意点
中国地方で薬剤師として働くメリットと、知っておきたい注意点の両面を整理しました。
- 医師密度が5県とも全国平均超で、処方箋の需要そのものが厚い
- 岡山・鳥取・島根は薬剤師が人口比で薄く、条件が上がりやすい
- 広島は職場の種類がそろい、都市の利便性とキャリアの幅を両立できる
- 山陽側は新幹線と高速道路が通り、県をまたいだ通勤も現実的
- 生活費や住居費が三大都市圏より抑えられ、手取りの実感が上がりやすい
- 広島は薬剤師密度が中国地方1位で、年収の上乗せは期待しにくい
- 岡山は薬局密度46.5と薄く、1店舗あたりの負荷が大きくなりやすい
- 鳥取・島根は求人の絶対数が少なく、選択肢が限られる
- 山陰側は移動に時間がかかり、車が必須になる地域が多い
- 年収の民間調査は調査元によって順位も金額も大きく変わる
中国地方は、医療需要の厚さに対して薬剤師が薄い県が多く、条件面で交渉の余地が生まれやすいエリアです。一方で、山陰側の求人の少なさや、岡山の1店舗あたりの負荷といった現実的な注意点もあります。年収・利便性・暮らしやすさのどれを優先するかを先に決めてから、県やエリアを選んでください。
山陰側は求人が少ないぶん、いい話が出たときの条件は思い切ったものになることがあります。ただし数が少ないので、常に見ていないと出会えません。すぐ動くつもりがなくても早めに情報だけ集めておく、という進め方が向いているエリアです。
職場の選び方と年収アップのコツ
中国地方で自分に合う職場を選び、年収も確保するためのコツをまとめました。
- 年収を狙うなら、広島より岡山・鳥取・島根を軸に検討する
- 選択肢の広さや都市の利便性を取るなら広島を軸にする
- 同じ県でも県庁所在地と郊外で条件が変わる。県内のどこかまで踏み込んで考える
- 管理薬剤師など、役職手当の付くポジションを狙う
- 在宅対応や無菌調剤など、加算の取れる業務がある職場を選ぶ
- 提示額だけでなく、住宅手当・車両手当・賞与の回数まで含めて比べる
中国地方は山陽側と山陰側で事情がかなり違うため、まずどちらを軸にするかを決めると迷いが減ります。そのうえで譲れない条件を2つか3つに絞れば、地元の事情に詳しい転職支援サービスから具体的な提案を受けやすくなります。
医師が多い地域は、処方箋の枚数も多くなります。岡山のように薬局密度が薄い県では、1店舗が受け持つ処方箋がさらに増えやすい構造です。年収の提示額が良くても、実際の忙しさが見合っているとは限りません。1日の処方箋枚数・在籍薬剤師数・残業の実績の3点は、応募前に必ず確認してください。山陰側では、車の維持費を通勤手当が賄えるかもあわせて試算しておきましょう。
中国地方で年収を狙うなら、広島だけを見ていると惜しいことになります。岡山や山陰側まで視野を広げると、条件の話が前に進みやすい。逆に「働く環境と選択肢」を求めるなら広島。何を取りに行くかで、見るべき県が変わります。
よくある質問
47都道府県の転職ガイドと、地方ブロック別のまとめ記事を一覧でご覧いただけます。中国地方と他地域を比べたい方はこちらから。
まとめ
- 中国地方5県はすべて医師密度が全国平均超。医療需要が厚いエリア
- 一方、薬剤師密度が全国平均を上回るのは広島と山口の2県だけ
- 岡山は医師密度320.8で中国地方1位なのに、薬剤師も薬局も最も薄い
- 薬学部7校のうち6校が広島と岡山に集中。鳥取・島根にはゼロ
- 広島は年収より「選択肢の広さ」で選ぶ県。求人も薬局数も中国地方最多
- 年収を狙うなら岡山・鳥取・島根。山陽側なら県をまたいだ通勤も現実的
中国地方は、医療需要の厚さに対して薬剤師が薄い県が多く、条件面で交渉の余地が生まれやすいエリアです。「年収が高いエリア」という漠然としたイメージではなく、どの県で何が起きているのかを踏まえて選べば、納得のいく転職に近づきます。中国地方以外と比べたい方は薬剤師の都道府県別転職ガイドから、瀬戸内海を挟んだ対岸や西隣を検討する方は四国の薬剤師転職ガイドと九州の薬剤師転職ガイドもあわせてご覧ください。
- 厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和6年12月31日現在)
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例の概況」(令和6年度末現在)
※本記事の統計数値は上記の公的統計にもとづき、2026年9月時点で確認したものです。薬学部の設置状況は薬学教育協議会および各大学の公表情報で確認しています。求人数・年収・働き方の傾向はエリアや職場、時期によって異なります。年収に関する民間調査の数値は調査元によって大きく異なるため、本記事では傾向のみを記載しています。詳細は各求人や転職支援サービスにご確認ください。

