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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
転職先が決まり、いよいよ雇用契約書にサインという段階。ここで「もう内定はもらったから」と中身をよく読まずに署名してしまう方がいます。ですが雇用契約書は、あなたが労働条件に合意したことの証拠になる書類です。署名する前と後では、意味合いが大きく変わります。
この記事の結論を先に書きます。雇用契約書の作成は法律上の義務ではありません。義務なのは、労働条件を書面で明示することのほうです。そして署名した瞬間に「その条件に同意した」と扱われます。だからこそ、署名は急がず、聞いていた条件との照合を先に済ませるのが正解です。
この記事では、労働条件通知書との違い、法律が定める明示事項、サインの意味、署名前にやるべきこと、契約書がもらえないときの対処までを解説します。パート・契約社員として働く方は、2026年10月1日から明示事項が1つ増えている点も押さえておいてください。
📌 この記事でわかること
- 雇用契約書と労働条件通知書の決定的な違い
- 署名・捺印が「合意の証拠」になる意味
- 法律で書面明示が義務づけられている項目の一覧
- 署名する前に照合すべきこと
- パート・契約社員に2026年10月から加わった明示事項
- 契約書がもらえない・当日渡されたときの対処
- 条件が違っていたときに使える権利
雇用契約書とは?労働条件通知書との決定的な違い
要点:雇用契約書は「双方が合意して取り交わす契約書」で作成は任意。労働条件通知書は「会社が一方的に通知する書面」で交付は義務。契約書がもらえなくても、労働条件を書面で示してもらう権利はあります。
まず押さえておきたいのが、よく似た2つの書面の違いです。名前も中身も似ていますが、役割と法的な位置づけがまったく異なります。
ここで混乱しやすいのが、「雇用契約書」という書類の作成は義務ではない一方で、労働条件を明示すること自体は法的な義務だという点です。労働契約は口頭でも成立します。だからこそ会社には、賃金や労働時間などの重要事項を書面で明示する義務が課されています。
近年は、この2つを1枚にまとめた「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という形式も広く使われています。冒頭で労働条件を明示し、末尾に双方の署名欄を設けた書面です。この場合、末尾にサインすることが、明示された労働条件への同意を意味します。1枚で両方の役割を果たすため、読み飛ばすリスクが最も高い形式でもあります。
「雇用契約書はもらえなかった」という声を聞くことがありますが、それ自体は違法ではありません。ただし労働条件通知書は会社の義務です。契約書がなくても、労働条件を書面で示してもらう権利はある、と覚えておきましょう。逆に言えば、通知書すら出てこない職場は、労務管理の丁寧さを疑う材料になります。
署名・捺印は「合意した証拠」になる(即サインしない)
要点:署名は「この条件に同意しました」という証拠です。その場でサインする義務はありません。持ち帰って確認したいと伝えて構いません。
雇用契約書にサインする最大の意味は、「記載された条件に同意しました」という証拠を残すことです。裏を返せば、内容をよく読まずに署名すると、「その条件で合意した」と扱われてしまいます。あとから「聞いていた話と違う」と主張しても、署名済みの書面があると覆すのは簡単ではありません。
大切なのは、その場で急いでサインしないことです。契約書を渡されても、「一度持ち帰って確認したい」と伝えて構いません。落ち着いて読み、疑問点を解消してから署名するのが、後悔しないための基本です。
- 渡されたその場で全部読み切れなくても、持ち帰って確認してよい
- 不明点や気になる条件は、署名する前に質問する
- 「労働条件通知書 兼 雇用契約書」では、末尾のサインが労働条件への同意になると意識する
- 署名した契約書は、必ず自分の控えを受け取って保管する
なお、控えを受け取ることは見落とされがちですが重要です。後から条件を確認したいとき、手元に書面がなければ何も主張できません。会社側が原本を回収する運用なら、写しをもらえないか確認しましょう。
「その場でサインしないと失礼かな」と気を遣う必要はありません。契約書をきちんと読む人は、むしろ社会人として信頼されます。急かされるような雰囲気があったとしても、確認の時間をもらうのは正当な権利です。
契約書に書かれるべき項目|法律が定める明示事項
要点:昇給に関する事項を除き、以下は書面での明示が義務です。2024年4月からは「就業場所・業務の変更の範囲」も加わり、将来の異動や転勤の可能性まで書面で確認できるようになりました。
契約書に何が書かれているべきかを知っておくと、「書かれていない項目」に気づけます。労働基準法とその施行規則により、次の項目は必ず明示しなければならないとされています。
(変更の範囲を含む)
出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります」。内容を確認する(厚生労働省)
一方、退職手当、賞与、食費や作業用品の負担、表彰・制裁、休職などは、定めがある場合にだけ明示すればよい項目とされ、書面でなくても差し支えないとされています。つまり賞与や退職金は、書面に書かれていないことも珍しくありません。気になるなら、自分から質問して記録に残す必要があります。
また、有期契約で働く場合、無期転換を申し込める権利が発生するタイミングでは、その旨と、無期転換後の労働条件も明示されることになっています(2024年4月から)。有期で入職する薬剤師は、この記載の有無も見ておくと安心です。
実務で効くのは「変更の範囲」です。面接では「基本的にこの店舗です」と言われても、書面に「会社の定める全事業所」とあれば、それが合意した内容になります。口頭の安心感より、書面の一行のほうが強い。ここは必ず読んでください。
署名する前に照合すべきこと
要点:やるべきことは1つ。求人票・面接での説明・内定通知書で聞いた条件と、契約書の記載が一致しているかを突き合わせることです。
署名前にやるべきことの核心は、これまで聞いていた条件と、契約書に書かれた条件が一致しているかの照合です。口約束と書面が食い違っていないかを確認するのが目的です。
薬剤師の場合、特に次のような点は口頭の説明と書面がずれやすいので、照合しておくと安心です。
- 給与の内訳。固定残業代(みなし残業)や年俸制の内訳が、面接で聞いた金額と一致しているか。「月給35万円」の中に何時間分の残業代が入っているかで、実質の時給は大きく変わります
- 業務内容と勤務地の「変更の範囲」。配属される店舗や病棟、在宅業務の有無に加え、将来の異動・転勤がどこまで及ぶか
- 管理薬剤師就任の有無。管理薬剤師として採用される場合、その旨と手当が明記されているか。手当が基本給に溶け込んでいないかも確認します
- 試用期間中の条件。期間の長さと、その間の給与・待遇が本採用後と違わないか
- 契約の期間と更新上限。有期契約の場合、更新回数や通算年数の上限が設けられていないか
各項目の「何を・どこまで確認すべきか」という具体的なチェック観点は、内定通知書と労働条件の確認をまとめた記事で一覧にしています。この記事では、その内容を署名前に契約書と突き合わせるという位置づけで活用してください。
押さえておきたい点|署名後は覆しにくい
「あとで直してもらえばいい」と考えて署名するのは危険です。署名・捺印した時点で合意したと扱われるため、気になる点は必ず署名前に解消しておきましょう。曖昧なまま進めないことが、入社後のトラブルを防ぎます。
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照合のコツは、求人票と面接メモを手元に並べて、契約書と1項目ずつ指で追っていくことです。頭の中だけで比べようとすると、必ず見落とします。30分あれば終わる作業で、入社後の何年分かの不満を防げます。
パート・契約社員は2026年10月から明示事項が1つ増えた
要点:2026年10月1日以降にパート・有期雇用で雇い入れられる場合、「正社員との待遇の差について説明を求められる」旨の明示が新たに義務づけられました。パート薬剤師・契約社員の方は必ず確認してください。
パートタイムや有期契約で働く場合、労働基準法とは別に、パートタイム・有期雇用労働法による明示義務が上乗せされています。この明示事項が、2026年10月1日から1つ増えました。
出典:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法施行規則/雇用管理指針の主な改正事項(施行・適用期日:令和8年10月1日)」。資料を確認する(厚生労働省)/同一労働同一賃金特集ページ(厚生労働省)
この4項目に加えた5つ目の明示は、書面の交付(本人が希望した場合はメールなども可)で速やかに行うこととされ、違反した場合は10万円以下の過料の対象とされています。パート薬剤師や契約社員として入職する方は、契約書にこの記載があるかを確認してみてください。
実務的な意味は大きいです。「同じ調剤業務をしているのに、正社員と比べて手当がないのはなぜか」を会社に説明させることができる、と書面で告知されるわけです。あわせて、退職手当・家族手当・住宅手当・褒賞などについて、正社員との差が不合理でないかを判断する国の指針も改正されています。
薬剤師はパートで働く方がとても多い職種です。「説明を求められる」と書面に書いてあること自体が、聞いてもいいというお墨付きになります。遠慮せず使ってよい仕組みだと思っておいてください。
契約書がもらえない・当日渡されたときの対処
要点:雇用契約書がなくても慌てる必要はありません。義務である労働条件通知書を必ず受け取ることに集中します。
雇用契約書は作成が任意のため、交付されない会社もあります。ポイントは、義務である労働条件通知書を必ず受け取ることです。
書面が届かないとき
労働条件が書面で示されないまま話が進むときは、承諾の返事をする前に交付を依頼しましょう。依頼の一文の例です。
正式なお返事の前に労働条件を確認させていただきたく、労働条件通知書を書面でいただくことは可能でしょうか。
(書面が難しいと言われた場合)お手数をおかけしますが、記録として残る形で構いませんので、メールで労働条件をお送りいただくことはできますでしょうか。
労働条件の明示は会社の義務なので、遠慮せず求めて問題ありません。「うるさい応募者だと思われないか」という心配は不要です。むしろ、依頼に対する会社の反応そのものが、その職場の労務管理を見る材料になります。
入社日当日に渡されたとき
雇用契約書は本来、内定後から入社日までの間に取り交わすのが望ましいものです。もし入社日当日にその場で渡されても、慌ててサインせず、目を通す時間をくださいと伝えましょう。読んで疑問があれば、その場で確認します。当日だからと急いで署名する必要はありません。
電子契約で届いたとき
メールなどで送られてきた電子契約も、法的な有効性は紙の契約書と変わりません。労働条件の明示についても、本人が希望した場合には、メールやファクシミリなど記録に残る方法での交付が認められています。ただし裏を返せば、本人が希望していないのに一方的に電子データだけで済ませることは想定されていません。
画面上で同意の操作をする前に、内容を確認しましょう。送られてきたデータは、印刷するか自分の端末に保存しておきます。会社の管理画面でしか見られない形式だと、退職時に閲覧できなくなることがあります。
エージェント経由の転職なら、契約書の受け取りや条件の確認も担当者が間に入ってくれます。「この記載は聞いていた話と合っているか」を担当者に確認してもらえば、会社に直接聞きにくいことも代わりに調整してくれます。
条件が契約書と違っていたら
要点:明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は労働契約を即時に解除できます。転居していた場合は、帰郷旅費を会社に負担させられる規定もあります。
照合の結果、聞いていた話と契約書の記載が違っていたときは、段階に応じて対応します。
- 署名前なら。まず会社に確認し、認識のずれなら修正を求めます。納得できない条件のまま署名しないことが大切です
- 署名後・入職後に気づいたら。明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は労働契約を即時に解除できるとされています(労働基準法15条2項)。通常必要な退職の予告期間を待たずに辞められるという意味です
さらに、その仕事に就くために住居を変更していた場合、契約解除の日から14日以内に帰郷するなら、必要な旅費は会社が負担しなければならないとされています(同条3項)。地方の薬局へ転居して入職したものの、条件が違っていたというケースで使える規定です。
ただし実際には、「聞いていた話と違う」ことを証明できるかが焦点になります。だからこそ、求人票・面接メモ・やり取りしたメール・交付された書面は、すべて保管しておいてください。解決しない場合は、労働基準監督署などの相談窓口に相談する方法があります。
契約書の確認や条件のすり合わせで実際にどんな場面に直面したかは、転職体験談のまとめでも紹介しているので、参考にしてみてください。
よくある質問
まとめ
雇用契約書は、労働条件に合意したことを証明する書類です。署名する行為には重みがあるからこそ、内容を確認してからサインすることが何より大切です。
この記事のポイント
- 雇用契約書は双方合意の契約書で作成は任意。労働条件通知書は会社の一方的な通知で交付が義務
- 昇給に関する事項を除き、契約期間・就業場所と業務(変更の範囲を含む)・労働時間・賃金・退職に関する事項は書面での明示が必要
- 2024年4月から「変更の範囲」「更新の上限」「無期転換申込機会と転換後の条件」が明示事項に追加された
- 2026年10月1日から、パート・有期雇用の明示事項に「待遇の相違等について説明を求めることができる旨」が追加された(違反は10万円以下の過料)
- 署名・捺印は「同意した証拠」。その場で急がず、持ち帰って確認してよい。控えも必ず受け取る
- 聞いていた条件と契約書の記載が一致しているかを署名前に照合する
- 条件が事実と違えば労働契約を即時解除でき、転居していた場合は帰郷旅費の負担を求められる
内定はゴールではなく、新しい職場への入り口です。焦らず契約書を読み込み、納得したうえで署名して、気持ちよく次の一歩を踏み出しましょう。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。労働条件の明示に関する記述は労働基準法15条および同法施行規則、厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります」、パートタイム・有期雇用労働者の明示事項に関する記述は厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法施行規則/雇用管理指針の主な改正事項(施行・適用期日:令和8年10月1日)」に基づいています。法令の内容は改正等により変わることがあります。個別のトラブルや法的な判断については、労働基準監督署などの相談窓口や専門家にご相談ください。

