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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
一日中立ちっぱなしで、気づけば腰が重い。薬剤師なら、誰もが一度は経験する悩みではないでしょうか。腰痛は、薬剤師の代表的な職業病といわれています。我慢して悪化させる前に、できる対策を知っておきましょう。
この記事でいちばん伝えたいのは、腰痛対策は個人の努力だけの話ではないということです。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を定めており、作業台の高さや床面、休憩、健康診断まで、会社が取り組むべき内容が具体的に示されています。
この記事では、薬剤師に腰痛が多い理由から、今すぐできる対策、国の指針が定める職場の責任、相談のしかた、そして転職という選択肢まで、現役薬剤師がまとめました。
📌 この記事でわかること
- 薬剤師に腰痛が多い理由と、国の統計が示していること
- 今すぐできる腰痛対策
- 国の指針が定める、職場が取り組むべき腰痛対策
- 職場に相談するときの伝え方
- 負担を減らすための転職という選択
なぜ薬剤師に腰痛が多いのか
要点:長時間の立ち仕事と中腰の作業が主な原因です。国は腰痛を「業務上疾病のなかで最も割合の大きい疾病」と位置づけ、予防対策の指針を定めています。
薬剤師の仕事は、長時間の立ち仕事が基本です。同じ姿勢で立ち続けると、腰まわりの筋肉が緊張し、血行が悪くなって疲労がたまり、痛みが生じやすくなります。
これは薬剤師に限った話ではなく、国も課題として扱ってきました。厚生労働省が「職場における腰痛予防対策指針」を改訂した際の通達では、腰痛は多くの業種で業務上疾病全体に占める割合が最も大きい疾病であり、社会福祉施設をはじめとする保健衛生業では、当時の直近10年間で発生件数が2.7倍に増加していたと述べられています。
出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策の推進について」(基発0618第1号・平成25年6月18日)。指針の内容を確認する(厚生労働省)/業務上疾病発生状況等調査(厚生労働省)
薬剤師の場合は、次のような場面で腰に負担がかかります。
腰に負担がかかりやすい場面
- 中腰での調剤作業。低い位置の薬品棚から取り出す、散剤の秤量をかがんで行うなど
- 重い荷物の持ち運び。医薬品の入荷分の運搬、水剤や輸液の箱の移動
- 狭い調剤室での前かがみ姿勢。体をひねりながらの作業が積み重なる
- 在宅訪問時の移動と荷物。車の乗り降りや、薬剤の入ったかばんの持ち運び
- 一人体制の時間帯。座る機会がなく、立ちっぱなしの時間が長くなりやすい
腰痛のほかにも、足のむくみ、肩こり、首の痛み、全身の疲労など、立ち仕事ならではの不調も起こりがちです。
「薬剤師は座って仕事をしている」と思われがちですが、実際はほとんど立ちっぱなしです。私も若いころから腰の重さに悩まされてきました。「職業病だから仕方ない」とあきらめず、早めに対策を始めることが大切です。
今すぐできる腰痛対策
要点:同じ姿勢を続けないこと、足元を整えること。無理のない範囲で続けられるものから始めてください。
毎日の習慣で、腰への負担は軽くできます。無理のない範囲で取り入れられる対策をまとめました。
押さえておきたい点|我慢しないでください
痛みが強いとき、長く続くとき、脚のしびれや力の入りにくさを伴うときは、自己判断で我慢せず、整形外科などの医療機関を受診してください。薬剤師という職業柄、自分で市販薬などを使って様子を見てしまいがちですが、原因の見極めは専門家に任せるほうが安全です。腰痛は早めに対処するほど回復もしやすくなります。
忙しいとつい後回しになりがちですが、調剤の合間の数十秒でできるストレッチでも、続ければ大きな差になります。私は仕事用にクッション性の高い靴を選ぶようにしてから、夕方の腰の重さがかなり楽になりました。小さな工夫の積み重ねが、体を守ってくれます。
国の指針が定める、職場が取り組むべき腰痛対策
要点:腰痛対策は個人の努力の話ではありません。厚生労働省の指針は、作業のしかた・作業環境・健康管理・教育の4つを事業者が整えるよう求めています。
腰痛対策は、個人の努力だけでは限界があります。ここで知っておいてほしいのが、厚生労働省が「職場における腰痛予防対策指針」を定めており、事業者が取り組むべき内容が具体的に示されているということです。
出典:厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(基発0618第1号・平成25年6月18日改訂)。指針のポイント(厚生労働省)
重量物についても具体的な目安があります。指針では、満18歳以上の男性が人力のみで取り扱う物の重量は体重のおおむね40パーセント以下、女性は男性が取り扱うことのできる重量の60パーセント位までとされ、これを超える場合は2人以上で行うこととされています。医薬品の入荷分など、重い荷物を一人で運んでいる方は、この目安を根拠に相談できます。
2026年4月から、高年齢労働者への配慮も努力義務に
さらに、2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、2026年4月1日から、高年齢労働者の心身の状況に応じた労働災害防止の措置を講じることが、すべての事業者の努力義務となりました。あわせて「高年齢者の労働災害防止のための指針」も適用されています。
加齢により身体機能が変化するなかで、転倒と腰痛は代表的なリスクとして扱われています。50代・60代で現場に立ち続ける薬剤師にとって、職場に配慮を求める根拠がひとつ増えたことになります。
「調剤室に椅子を置いてほしい」という相談は、わがままではありません。国の指針に、立ち作業でも椅子を配置して適宜座れるようにすることが書かれています。根拠があると、伝える側も受ける側も話が進めやすくなります。
職場に相談するときの伝え方
要点:「つらい」ではなく「この作業のこの部分を、こう変えたい」と具体的に伝えると、話が進みます。
職場に相談しても取り合ってもらえなかった、という話をよく聞きます。伝え方を少し変えるだけで、通りやすさは変わります。
相談を通しやすくする4つのコツ
- 場面を特定する。「腰が痛い」ではなく「散剤の秤量台が低くて、毎回かがむのがつらい」と具体的に
- 解決策をセットで出す。「台を10センチ高くする」「足元にマットを敷く」など、実行できる案を添える
- 根拠を示す。国の指針で作業環境の改善や椅子の配置が示されていることを伝える
- 一人で言わない。同じ悩みを持つ同僚と一緒に伝えると、個人の不満ではなく職場の課題として扱われやすくなります
産業医が選任されている職場であれば、産業医に相談する方法もあります。また、業務が原因で腰を痛めた場合、労災の対象になることがあります。荷物を持ち上げた際に急に痛めたようなケースでは、自己判断せず、職場や労働基準監督署に相談してみてください。
職場に「作業台の高さを変えたい」と相談するのは、わがままではありません。腰を痛めて働けなくなるより、ずっと建設的です。体を大切にできる職場かどうかは、長く働くうえでとても重要です。
負担を減らすための転職という選択
要点:相談しても改善しないなら、環境を変えるのも立派な選択です。薬剤師の働く場所は幅広く、負担の少ない職場もあります。
対策をしても改善しない、今の職場では体の負担が大きすぎる。そんなときは、転職で働き方そのものを変えるのも、立派な選択肢です。
面接で体の負担について聞くのは、気が引けるかもしれません。ですが「長く働きたいので、体制を確認させてください」という聞き方なら、前向きな質問として受け止められます。転職活動全体の進め方は、次の記事にまとめています。
体は、何よりの資本です。無理を続けて慢性的な腰痛になってしまうと、回復に時間がかかります。職場の立ち仕事の度合いや休憩の取りやすさ、設備の様子は、求人票だけではわかりにくいもの。薬剤師専門の窓口に「体への負担が少ない職場を探したい」と伝えておくと、内部の様子まで教えてもらえます。
よくある質問
まとめ
この記事のポイント
- 腰痛は薬剤師の代表的な職業病。厚生労働省も、多くの業種で業務上疾病全体に占める割合が最も大きい疾病としている
- こまめなストレッチ・冷やさない工夫・合った靴・足元のマット・持ち上げ方の見直しで負担を軽減できる
- 腰痛対策は個人の努力の話ではない。国の指針は、作業管理・作業環境管理・健康管理・労働衛生教育を事業者に求めている
- 立ち作業でも椅子を配置し適宜座れるようにすること、重量物の目安(男性は体重のおおむね40パーセント以下)も指針に明記されている
- 2026年4月から、高年齢労働者への労働災害防止措置が事業者の努力義務に
- 相談は「場面を特定し、解決策と根拠を添えて」。改善しないなら転職も前向きな選択
- 痛みが強い・続く・しびれを伴うときは、無理せず医療機関を受診する
体は、長く働き続けるための大切な資本です。「職業病だから」とあきらめず、できる対策から始めてみてください。職場に求めてよいことは、国の指針にきちんと書かれています。それでも負担が大きいなら、働き方を変えるという選択もあります。自分の体を大切にしながら、無理なく続けられる働き方を見つけていきましょう。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。職場が取り組むべき腰痛対策に関する記述は厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」(基発0618第1号・平成25年6月18日改訂)、高年齢労働者に関する記述は改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布・2026年4月1日施行)および「高年齢者の労働災害防止のための指針」に基づいています。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療など医療上の助言に代わるものではありません。痛みが強い場合や続く場合、しびれを伴う場合などは、整形外科などの医療機関にご相談ください。労災に該当するかどうかの判断は個別の事情によるため、職場や労働基準監督署にご確認ください。個別の求人条件は勤務先や転職の窓口でご確認ください。

