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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「高齢者の方とじっくり関わりたい」「落ち着いた環境で多職種と連携して働きたい」。そんな思いから、老健(介護老人保健施設)への転職を考える薬剤師が増えています。老健は、介護施設のなかでは珍しく、薬剤師の配置が制度上想定されている職場です。
ただし、その配置基準を読むと現実も見えてきます。薬剤師の標準は「入所者300人に1人」。看護・介護職員は3人に1人、医師とリハビリ職は100人に1人ですから、薬剤師だけが桁違いに薄いのです。定員100人の施設なら、計算上は0.33人にしかなりません。
この記事では、老健とはどんな施設か、薬剤師の役割、調剤薬局との違い、働き方、年収の考え方、そして求人の探し方までを、省令と公的資料にもとづいて整理します。
- 老健とはどんな施設か(病院と在宅の中間)
- 人員基準から見た、薬剤師の位置づけと求人が少ない理由
- 老健薬剤師の仕事内容と、介護報酬での評価
- 調剤薬局との違い、働き方、メリット・デメリット
- 年収の考え方と、少ない求人の探し方
老健(介護老人保健施設)とは
介護保険法は老健を、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画にもとづいて、看護、医学的管理の下における介護および機能訓練その他必要な医療ならびに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設と定義しています。
かみくだくと、病気やけがで入院した高齢者が、退院して自宅へ戻るためのリハビリと医療管理を受ける施設です。医師が常駐し、看護師や理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリの専門職が手厚く配置されているのが特徴で、「病院と在宅を結ぶ中間施設」と呼ばれます。
同じ高齢者施設でも、特別養護老人ホームが終のすみかとして長く暮らす場であるのに対し、老健は在宅復帰を前提としてリハビリに力を入れる点が大きく違います。この「医療と介護の中間」という性格が、老健で働く薬剤師の役割にも表れています。
老健は「家に帰ること」をゴールにした施設です。だからこそ、入所中に薬を整理して、自宅でも続けやすい形にしていく薬剤師の関わりが大切になります。医療と介護のあいだに立つ、やりがいのある場所ですよ。
老健の常勤求人は公開されている数が限られ、出るタイミングも読めません。希望を先に伝えておくのが確実です。まずは相談先の特徴を比べてみてください。
人員基準で見る、老健の薬剤師の位置づけ
老健の人員基準は、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)で定められています。職種ごとに並べると、薬剤師の立ち位置がはっきり見えてきます。
※出典:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条および解釈通知。基準は改正されることがあるため、最新の内容をご確認ください。
薬剤師だけが「実情に応じた適当数」という緩やかな書き方で、しかも標準は300人に1人です。入所定員100人の施設なら、計算上は0.33人。常勤1人分にはるかに届きません。
これが、老健の薬剤師求人が少ない理由です。制度上は配置が想定されているものの、常勤1人を雇う必然性が基準からは生まれにくい。結果として、常勤よりパートの募集が目立ち、近隣の調剤薬局に薬の管理を委託している施設も少なくありません。
ただし、特別養護老人ホームや有料老人ホームには薬剤師の配置基準そのものがなく、外部の薬局が訪問して薬を管理します。それに比べれば、老健は施設の内側に薬剤師の居場所がある数少ない介護施設だといえます。
「300人に1人」という数字を知っておくと、求人が見つからないときに自分を責めずにすみます。探し方が悪いのではなく、そもそも枠が薄いだけ。だからこそ、出たときに動けるよう準備しておくことが大事なんです。
老健薬剤師の仕事内容と、介護報酬での評価
老健で薬剤師が担う仕事は、入所者の薬を安全に管理し、在宅復帰を薬の面から支えることが中心です。
- 入所時に持参薬を確認(かかりつけ医の処方内容・服薬状況の把握)
- 多くの薬を飲んでいる方の、飲み合わせや重複・過量のチェックと見直しへの協力
- 定期薬・臨時薬の準備、施設内の調剤、薬の発注・在庫管理
- 医師・看護師・介護職・リハビリ職との情報共有と多職種連携
- 在宅復帰に向けた話し合いへの参加(自宅でも続けやすい薬への調整)
高齢の入所者は、複数の病気を抱えて多くの薬を飲んでいることが少なくありません。そうした薬を整理し、副作用のリスクを減らしながら、自宅でも管理しやすい形に近づけていくのが、老健の薬剤師ならではの役割です。
薬の見直しが、介護報酬で評価されている
この役割は、気持ちの問題ではなく制度として評価されています。老健を対象としたかかりつけ医連携薬剤調整加算は、入所を機に服用薬剤を総合的に評価し、必要に応じて調整する取り組みを評価する加算です。
注目したいのは算定要件です。施設の医師または薬剤師が、高齢者の薬物療法に関する研修を受講していることが求められます。つまり、この加算を算定したい施設にとって、研修を受けた薬剤師は算定要件そのものになりうるということです。
令和6年度の介護報酬改定では、施設における薬の減量や中止といった取り組みを推進する観点から、この加算の区分が見直されました。入所前の主治医と連携して評価・調整した場合に加え、施設内で評価・調整した場合を評価する区分が新たに設けられ、主治医と連携した場合をより高く評価する形になっています。薬剤師に期待される役割は、制度のうえでも広がる方向にあります。
※加算の単位数・算定要件は改定のたびに見直されます。実際の取扱いは、厚生労働省が公表する最新の告示・通知および解釈通知でご確認ください。
面接で「かかりつけ医連携薬剤調整加算は算定されていますか」と聞けると、一気に話が深まります。算定している施設なら薬剤師の役割が明確ですし、これから算定したい施設なら、あなたを採る理由がはっきりします。志望動機にもつなげやすい質問です。
調剤薬局との違いと、働き方
老健の入所者は症状が安定している方が中心のため、業務が突発的に増えにくく、残業が発生しにくいのが特徴です。日勤中心で、夜勤やオンコールのない求人も多く、生活との両立を重視する人に向いています。
メリットとデメリット
- 残業が少なく、日勤中心で生活リズムを整えやすい
- 多職種連携やチーム医療の経験を積める
- 高齢者の薬物療法や、多くの薬の見直しに専門性を発揮できる
- 同じ入所者と継続的に関わり、在宅復帰を支えるやりがいがある
- 薬の見直しが介護報酬で評価されており、貢献が形になりやすい
- 配置基準が薄いため求人の数が少なく、常勤よりパートの募集が多い
- 一人薬剤師になりやすく、相談相手が少ない場合がある
- 処方箋の応需枚数は少なく、調剤のスピード感は身につきにくい
- 施設によっては、薬剤師の業務範囲が薬の管理に限定されることもある
一人薬剤師になりやすい点は、事前に受け止めておいてほしいところです。判断に迷ったときに相談できる相手が施設内にいない。それでもやっていけるかは、経験年数だけでなく性格にもよります。見学のときに、実際に一人なのかを必ず確認してください。
年収の考え方と、応募前に確認したいこと
はっきりお伝えすると、老健勤務に限定した公的な年収統計は存在しません。国の賃金統計は「薬剤師」という職種単位の集計で、勤務先別の内訳が公表されていないためです。当サイトでは、根拠を確認できない相場表は掲載していません。
そのうえで、この職場に特有の構造として押さえておきたいことがあります。残業が少ないぶん、残業代を含めた手取りは控えめになりやすいという点です。基本給が同じでも、月の残業が20時間ある職場と5時間の職場では、年間の差は小さくありません。「残業が少ない」というメリットは、収入面ではトレードオフになります。
- 薬剤師が何人在籍しているか|一人薬剤師になるのか、複数体制か
- かかりつけ医連携薬剤調整加算の算定状況|薬剤師の役割がどこまで期待されているかが分かる
- 施設内で調剤しているか、外部委託か|業務範囲が大きく変わる
- 基本給と固定残業代の内訳|残業が少ない職場ほど、基本給の水準が効いてくる
- 母体法人の性格|病院を母体に持つ法人では、待遇や研修の体制が整っていることがある
2つ目の加算の算定状況は、この職場ならではの確認項目です。算定している施設なら薬剤師の役割が明確ですし、これから算定を目指す施設なら、あなたを採用する理由がはっきりしています。
向いている人と、求人の探し方
- 高齢者と継続的に、じっくり関わりたい人
- 多職種と連携して、チームで支える働き方をしたい人
- 多くの薬の見直しなど、高齢者の薬物療法に関心がある人
- 残業の少ない、落ち着いた環境で働きたい人
- 一人で判断する場面があっても、対応できる経験と気質のある人
老健の薬剤師求人は数が少なく、公開求人だけを探していると、なかなか見つかりません。薬剤師に特化した転職エージェントに「老健で働きたい」と希望を伝え、非公開求人を含めて探してもらうのが現実的です。求人が少ない分野こそ、複数登録して紹介の母数を増やしておくほうが確実です。
老健の常勤求人は「待っていても出てこない」ことが多いです。希望を具体的に伝えて、出てきたら逃さない準備をしておくのが大事。パートから始めて施設の雰囲気を確かめる、という入り方も一つの手ですよ。
よくある質問
まとめ
- 老健は在宅復帰を目指す「病院と在宅の中間施設」。介護保険法に定義が置かれている
- 薬剤師の人員基準は「実情に応じた適当数」で、標準は入所者300人に1人。看護・介護は3人に1人、医師とリハビリ職は100人に1人
- この基準の薄さが、常勤求人が少なくパートが目立つ理由。ただし特養や有料老人ホームには配置基準自体がない
- 仕事は持参薬の確認・薬の見直し・多職種連携・在宅復帰支援が中心
- かかりつけ医連携薬剤調整加算では、医師または薬剤師の研修受講が算定要件に含まれる
- 勤務先別の公的な年収統計はない。残業が少ないぶん手取りは控えめになりやすい
老健は、高齢者の薬物療法とチーム医療にじっくり向き合える、やりがいのある職場です。求人が少ないのは配置基準による構造的なものなので、探し方を責める必要はありません。希望を早めに伝えて、機会が来たときに動ける準備をしておきましょう。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。人員基準は介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)および解釈通知にもとづきます。介護報酬の加算は改定のたびに単位数・要件が見直されるため、実際の取扱いは厚生労働省が公表する最新の告示・通知でご確認ください。求人の状況・年収・働き方は施設や時期によって異なります。

