この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
結論から言うと、雇入時健康診断は法律上の義務で、有効期限は入社前3ヶ月以内が基本。定期健診の結果で代用できることもあります。
転職先が決まり、入社の準備を進めるなかで「健康診断書を提出してください」と言われて戸惑う方は少なくありません。「そもそも必要なの?」「いつ受けたものならいいの?」「費用は自分持ち?」と、疑問が次々わいてくるところです。
この記事では、薬剤師が転職するときに健康診断書が必要になる理由から、有効期限・費用・受ける場所、2027年4月に予定されている検査項目の改正、そして賢く費用を抑えるコツまで、現役薬剤師の視点でわかりやすく整理します。根拠となる条文や通達も明記しているので、職場と話すときの手がかりにしてください。
この記事でわかること
- 薬剤師の転職で健康診断書が求められる法的な理由と、対象になる人
- 検査される11の項目と、2027年4月から変わる内容
- 有効期限の正しい考え方と、間違えやすいポイント
- 費用は誰が払うのが原則なのか、どこで受けられるのか
- 在職中の定期健診を使って費用を抑える方法と、逆算スケジュール
薬剤師の転職で健康診断書は必要?
結論からいうと、薬剤師の転職では健康診断書の提出を求められることが多いです。これは職場側の気まぐれではなく、法律にもとづいた背景があります。まずはその理由から押さえましょう。
⏱ 30秒でわかる要点
健康診断書が必要になる法的な理由
労働安全衛生規則の第43条では、事業者が常時使用する労働者を雇い入れるとき、医師による健康診断を行わなければならないと定められています。これが「雇入時の健康診断」と呼ばれるもので、薬剤師として正社員などで採用される場合も対象です。職場がこの義務を果たすために、入社予定者へ健康診断書の提出を求める、というわけです。
この健診は職場にとって義務であり、行わなかった場合には50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条)が科される可能性もあります。求められたら早めに準備しておくのが安心です。
なお、定期健康診断は労働者数50人以上の事業場で労働基準監督署への報告が必要ですが、雇入時健診には報告義務がありません。職場が結果を回収するのは、あくまで入社後の適正配置と健康管理に役立てるためです。
対象になる人・ならない人
条文にある「常時使用する労働者」は正社員に限られません。厚生労働省の通達では、短時間で働く人についても次の基準が示されています。
また、職場によっては入社後に自社の指定する場所でまとめて受診させる方針のところもあり、その場合は応募者が自分で用意する必要はありません。求められるかどうかは職場ごとに異なるため、内定後に「健康診断書は必要ですか」と確認しておくとスムーズです。
これは「採用の合否を決めるための健診」ではない
意外と知られていませんが、ここは押さえておく価値があります。雇入時健診の目的は、採用が決まった人について、入社後の適正な配置と健康管理の基礎資料を得ることです。応募者を選別するための制度ではありません。
厚生労働省は「公正な採用選考」の考え方として、応募者の適性と能力に関係のない事項で採否を決めないよう事業主に求めています。合理的・客観的な必要性がないのに、採否の判断材料とする目的で健康診断書を提出させることは、この考え方に照らして問題となりえます。健診の数値そのものを過度に心配する必要はない、ということです。
参考:厚生労働省「公正な採用選考について」
転職のたびに毎回受け直すのはもったいない、と感じる方は多いです。でも、健診は自分の体調を見直すいい機会でもあります。私は転職のときに受けた健診で数値の変化に気づき、生活を見直したことがありました。前向きにとらえると、ちょっと気持ちが軽くなりますよ。
薬剤師の求人をじっくり比べたい方へ
入社手続きのサポートまで含めて、転職支援サービスの対応は会社ごとに差があります。薬剤師向けのサービスを条件別に比較しています。
健康診断書の中身と有効期限
いざ受けるとなると、どんな検査をするのか、いつ受けたものまで有効なのかが気になります。それぞれ見ていきましょう。
検査される11の項目
雇入時の健康診断では、次の11の項目を検査することが定められています。一般的な定期健診とほぼ同じ内容ですが、雇入時健診では医師の判断による項目の省略が認められていない点が異なります。
血液検査や心電図が含まれるため、受診には1時間ほどかかります。血糖や血中脂質は食事の影響を受けるので、受診日の朝は飲食を控えるよう事前に案内されることが多いです。薬剤師なら想像がつくところですが、常用薬がある場合の服薬の可否は、予約時に医療機関へ確認しておきましょう。
2027年4月から検査項目が変わります
労働安全衛生規則等の改正により、令和9年(2027年)4月1日から、一般健康診断の検査項目が見直されます。転職を考えている薬剤師にとっては、覚えておくと役に立つ変更です。
つまり、2027年4月以降に受ける雇入時健診は12項目になります。改正をまたぐ時期に転職する方は、提出する結果に必要な項目がそろっているかを、いつも以上に丁寧に確認してください。
出典:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行等について」(令和8年4月28日 基発0428第9号)/「定期健康診断等の診断項目の取扱いが一部変更になります」
有効期限は「3ヶ月以内」が基本
見落とされがちなのが有効期限です。労働安全衛生規則第43条には、医師による健康診断を受けた後3ヶ月を経過しない人を雇い入れる場合で、その人が健診結果を証明する書面を提出したときは、相当する項目について実施を要しないという趣旨のただし書きがあります。つまり「3ヶ月以内に受けたもの」が一つの目安です。半年前や1年前に受けた結果では、受け直しを求められることがあります。
ここを間違えやすい
- 「6ヶ月以内ならいい」と思い込み、古い結果を出してしまう
- 11項目のうち一部が欠けていて、再受診になる
- 起算点を勘違いする。3ヶ月は「受診日から入社日まで」で数えます
- 入社直前に予約しようとして、希望日が埋まっている
入社後に受けるパターンもある
雇入時健診は、必ずしも入社前に受けなければならないものではありません。行政解釈では「雇い入れる際」とは雇入れの直前または直後を指すとされており、入社後に職場が手配して受診する形も認められています。この場合、応募者が自分で医療機関を探す必要はありません。
入社前に自費で受けるか、入社後に職場の手配で受けるかは、職場の運用しだいです。内定が出た段階で「入社前に提出が必要か、入社後の実施か」を確認しておけば、無駄な出費と手間を避けられます。
職場によっては独自の用紙を指定してくることもあります。その場合は、その用紙を持って受診しないと書き直しになってしまうので要注意。健診を予約する前に「指定の様式はありますか」と一言確認しておくと、二度手間を防げます。
費用は誰が払う?どこで受ける?
費用負担の原則は「事業者」
ここは根拠を知っておくと交渉がしやすくなります。厚生労働省(旧労働省)の通達(昭和47年9月18日 基発第602号)では、労働安全衛生法第66条にもとづいて実施される健康診断の費用について、法で事業者に実施義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであると示されています。
ただし実際には、入社前に応募者が自費で受け、結果を提出する形をとる職場も少なくありません。書面提出によって職場が実施を省略するという構造上、費用の扱いが職場ごとにばらつくためです。領収書を提出すれば精算してもらえるケースもあるので、受診する前に費用負担の方針を確認し、領収書は必ず保管しておきましょう。
なお、雇入時健診は健康保険が使えない自由診療にあたるため、料金は医療機関がそれぞれ設定しています。同じ11項目でも金額に幅があるので、予約の電話で必ず総額を確認してください。
在職中なら定期健診の結果で代用できることも
ここが費用を抑える大きなポイントです。今の職場で受けている定期健診は、雇入時健診とほぼ同じ項目が含まれています。退職前にその結果の写しを手元に確保しておけば、転職先でそのまま提出できる場合があります。タイミングが合えば、わざわざ自費で受け直す必要がなくなります。
費用を抑えるコツ
- 退職前に、今の職場の定期健診結果の写しを必ずもらっておく
- 受診日から入社日まで3ヶ月以内におさまるかを確認する
- 提出する結果に11項目がそろっているか事前に照合する
- 受け直しになる場合は、複数の医療機関で総額を比べる
定期健診では医師の判断で一部の項目が省略されていることがあります。この場合、不足分だけを追加で受診できるか医療機関に相談すると、全項目を受け直すより負担が軽くなることがあります。
どこで受ける?予約のコツ
受ける場所は、内科のクリニックや健診センター、総合病院の健診部門などです。雇入時健診に対応しているかを電話で確認してから予約しましょう。人気の医療機関は予約が取りにくいこともあるため、早めの行動が肝心です。とくに年度替わりの時期は混み合います。
実際に転職を経て入社準備を進めた薬剤師が、健診や書類の手配でどこにつまずいたのかを知っておくのも、段取りを考えるうえで参考になります。
転職活動を始めたら、まず今の職場の直近の健診結果を探しておくのがおすすめです。退職してからだと再発行に手間がかかります。私はいつも、健診結果は写しを取って自宅に保管するようにしています。いざというとき本当に役立ちますよ。
健康診断書でよくある不安
結果が悪いと不採用になる?
数値に気になるところがあると、「これで内定が取り消されるのでは」と不安になるものです。しかし前述のとおり、雇入時健診はあくまで入社後の適正配置と健康管理に役立てるためのものであり、応募者を選別するための制度ではありません。多少の数値の乱れで不採用になることは基本的にないので、過度に心配しすぎないでください。
気になる項目があれば、入社後に産業医や職場と相談しながら無理のない働き方を整えていけば大丈夫です。要精密検査の指示が出ている場合は、放置せずに受診しておくほうが、結果的に自分を守ることになります。
持病や通院中の治療は伝えるべき?
健診の問診票では、既往歴を答える項目があります。ここは正確に記入してください。虚偽の申告は、あとで信頼関係を損なう原因になります。
一方で、業務に支障のない持病について、面接の段階から自ら詳しく申告する義務があるわけではありません。ただし、夜勤の可否や立ち仕事の負担など、働き方の調整が必要になりうることは、早めに共有しておくほうが結果的に働きやすくなります。伝える相手や範囲に迷うときは、まず産業医や職場の衛生管理を担当する部署に相談するのが安全です。
健診結果は職場にどこまで知られる?
健診結果は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたる、とりわけ慎重な扱いが求められる情報です。労働安全衛生法第104条第1項では、事業者は労働者の健康の確保に必要な範囲内で心身の状態に関する情報を収集し、その収集の目的の範囲内でのみ保管・使用しなければならないと定められています。
つまり、提出した健診結果を職場が目的外に使ったり、関係のない人に共有したりすることは認められていません。厚生労働省の指針でも、事業者は取扱規程を定めて労使で共有することが求められています。安心して提出して差し支えありません。
参考:厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
入社日から逆算する準備スケジュール
健康診断書は、受診してすぐ手に入る書類ではありません。結果が出るまでの日数を見込んだうえで動く必要があります。目安として、次のスケジュールで進めると余裕が持てます。
受診から結果が出るまでは、医療機関にもよりますが数日から1週間ほどかかります。血液検査の結果が出るまで待つ必要があるためです。年度替わりの繁忙期はさらに時間がかかることもあるので、上の目安よりもう一段早めに動くと安心です。
私が失敗したのは、退職日ぎりぎりまで現職の引き継ぎに追われて、健診の予約をすっかり後回しにしてしまったときです。結局、希望の日が取れず入社直前にばたばたしました。内定が出た日に予約まで済ませておくくらいでちょうどいいと思います。
よくある質問
まとめ
薬剤師の転職で健康診断書が必要になる理由と、賢い準備の仕方を整理しました。最後にポイントをおさらいしましょう。
- 雇入時健診は労働安全衛生規則第43条で事業者に義務づけられている
- 対象は正社員に限らず、契約期間と労働時間の要件を満たすパートも含まれる
- 採用の合否を決めるための制度ではないので、数値を過度に心配しなくてよい
- 有効期限は「受診日から入社日まで3ヶ月以内」が基本
- 費用は通達上は事業者負担が原則。自費の場合も領収書は必ず保管する
- 退職前に今の職場の定期健診結果の写しを確保しておけば、受け直しを省ける
- 2027年4月から血清クレアチニン検査が加わり、雇入時健診は12項目になる
健康診断書は、早めに動けば決してハードルの高い書類ではありません。内定が出たら必要書類を確認し、余裕を持って準備を進めれば、気持ちよく新しい職場をスタートできます。あなたの転職がよい形で実りますように。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。法令の改正や運用の変更により内容が変わる可能性がありますので、最新の情報は厚生労働省の公表資料等でご確認ください。費用や提出書類の取り扱いは職場によって異なるため、詳細は転職先にご確認ください。

