この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「高齢の方とじっくり関わりたい」「落ち着いた環境で働きたい」。そう考えて介護施設の求人を探し始めると、ほとんど見つからないことに驚くはずです。求人サイトで「介護施設」と検索しても、出てくるのは調剤薬局の求人ばかり。この分野は、入口の構造を知らないと探しようがありません。
先に結論をお伝えします。介護施設に関わる道は「施設に直接勤める」か「施設を訪問する薬局で働く」かの2つで、現実的な入口は後者です。厚生労働省の届出データでは、介護保険施設に従事する薬剤師は1,217人しかいません。届出薬剤師329,045人のうち0.4パーセントです。一方、施設を訪問する薬局の求人は全国にあります。
この記事では、施設の種類ごとの配置ルール、仕事の中身、外部から関わるときの制度、年収の考え方、未経験からの4ステップまでを1ページにまとめました。配置基準と報酬の仕組みは、厚生労働省の省令・通知で確認しています。
この記事でわかること
- 介護施設に関わる2つの道と、届出データで見た求人の実態
- 施設の種類ごとの薬剤師の配置ルール(老健と特養の違い)
- 仕事の中身と、外部から関わるときの訪問回数のルール
- 年収と働き方の考え方、向き不向き
- 未経験から始めるための4ステップ
介護施設に関わる2つの道と、求人の実態
まず数字から押さえます。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、介護保険施設に従事する薬剤師は1,217人。届出薬剤師329,045人の0.4パーセントで、全区分のなかで最も人数が少ない職場です。平均年齢は59.7歳と、こちらは全区分で最も高くなっています。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和6年12月31日現在)
ここで大事なのは、この1,217人という数字は「介護施設に関わる薬剤師の数」ではないという点です。実際に施設の入居者の薬を見ている薬剤師の多くは、薬局に所属したまま訪問しています。届出上は薬局の197,437人に含まれているため、統計だけを見て「この分野の仕事は少ない」と判断すると実態を読み違えます。
「介護施設で働く」と聞くと、施設に直接勤めるイメージが強いかもしれません。でも実際は、調剤薬局に勤めながら施設を訪問する形でこの分野に関わっている人が大多数です。入口はひとつではないので、関わり方から考えてみるとよいですよ。
施設の種類で配置ルールが違う
「介護施設」とひとくくりにされますが、薬剤師の配置ルールは種類によって違います。ここを知らないまま探すと、そもそも募集のない施設を探し続けることになります。
老健については、注意したい点があります。基準省令が定めているのは「介護老人保健施設の実情に応じた適当数」という表現で、人数を直接指定しているわけではありません。入所者数を300で除した数以上という目安は、厚生労働省の解釈通知で「標準」として示されているものです。そのため、入所定員100人程度の施設では常勤1人を置かず、地域の薬局に委託している例も珍しくありません。「老健なら必ず薬剤師の席がある」とは考えないほうが安全です。
求人を探すときは、施設名ではなく「その施設に薬剤師の席があるか」を先に確認してください。老健なら1施設に1人か、それ以下です。欠員が出たときにしか募集は出ないので、タイミングの勝負になります。
仕事の中身|調剤薬局との違い
介護施設の薬剤師は、入居者の薬を安全に管理することが中心です。窓口で次々に対応する調剤薬局とは、時間の使い方がまるで違います。
高齢の入居者は複数の病気を抱え、多くの薬を飲んでいることが少なくありません。厚生労働省も高齢者の医薬品適正使用について指針を示しており、薬の数を減らす方向の検討は現場で求められている役割です。ただし、減らすこと自体が目的ではありません。転倒やふらつきといった実際の不具合と処方を結びつけて説明できるかが、提案が通るかどうかを分けます。
薬を渡して終わりではなく、その後の様子まで見守れるのがこの仕事の魅力です。「あの薬を減らしてから、表情が穏やかになったね」と職員さんに言われたときの手応えは、窓口業務では味わえません。人とじっくり関わりたい方に向いている分野だと思います。
外部から関わるときの制度と訪問回数
薬局から施設を訪問する場合、介護保険の「居宅療養管理指導」という仕組みで関わることになります。この制度には訪問できる回数の上限があり、働き方に直結します。
要支援の方には介護予防居宅療養管理指導が適用されます。医療保険で関わる場合は在宅患者訪問薬剤管理指導料となり、回数の考え方は同様です。
実務上の意味はこうです。1人あたり月1回から4回の訪問を、何人分抱えるかで1日の忙しさが決まります。面接では「担当している施設の数」ではなく「訪問している入居者の人数」と「1日あたりの訪問件数」を聞いてください。同じ在宅対応でも、個人宅を1軒ずつ回る薬局と、施設でまとめて診る薬局では移動の負担がまったく違います。
「在宅あり」と書かれた求人でも、中身は個人宅中心か施設中心かで働き方が変わります。施設中心なら移動が少なく、1日で多くの方を診られます。どちらが自分に合うかは、面接で件数と移動距離を聞けば見えてきます。
年収と働き方の考え方
介護施設の薬剤師だけを対象にした公的な年収統計はありません。基準になるのは薬剤師全体の平均です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では566万7,900円で、前年の調査では599万3,200円でした。全国平均そのものが1年で動いているため、「平均より高いか」だけでは判断できません。
見落としやすいのが、施設に直接勤める場合の孤独さです。相談できる薬剤師が社内にいないため、判断をすべて1人で背負うことになります。年収の数字だけでなく、困ったときに聞ける相手がいるかどうかも、働き続けられるかを左右する条件です。
施設の1人職場は、裁量が大きいぶん責任も全部自分に来ます。経験が浅いうちは、まず薬局から訪問する形で慣れてから施設勤務に移るほうが、精神的にずっと楽だと思います。
未経験から始める4ステップと向き不向き
未経験でも十分に始められます。ただし順番を間違えると、求人が見つからないまま時間だけが過ぎます。
◎ メリット
- 1人の入居者と長く関わり、提案した結果を見届けられる
- 複数の医療機関の処方をまとめて見られ、薬の整理で力を発揮できる
- 窓口の慌ただしさが少なく、時間の使い方を組み立てやすい
- 高齢化が進むなか、地域に根ざした需要が続く
△ デメリット・注意点
- 施設に直接勤める求人は全国で枠が少なく、欠員待ちになる
- 1人職場になりやすく、判断を相談できる相手がいないことがある
- 看取りに立ち会う場面があり、心の準備が要る
- 介護職員や看護師に教える場面が多く、説明する力が問われる
- 訪問中心の場合、天候や交通事情に予定が左右される
ステップ2を飛ばす人が多いです。「高齢者に対応してきました」ではなく「一包化を月に何件、在宅訪問を週何件」と数字で書けると、面接での説得力がまったく違います。今日から記録を取り始めるだけでも準備になります。
よくある質問
まとめ
薬剤師が介護施設へ未経験から関わる方法を整理しました。要点をまとめます。
- 介護保険施設に所属する薬剤師は1,217人で全区分最少。現実的な入口は施設を訪問する薬局
- 老健の配置は省令上「実情に応じた適当数」で、入所者数÷300以上は通知が示す標準。必ず席があるわけではない
- 外部から関わる場合、薬剤師の訪問は原則月4回、条件を満たせば週2回かつ月8回まで
- 面接では施設数ではなく、訪問する入居者の人数・1日の件数・相談できる相手の有無を聞く
1人の方と長く向き合い、提案の結果を自分の目で確かめられる。この手応えは、窓口業務では得にくいものです。まずは今の職場での在宅や一包化の実績を書き出すところから始めてみてください。それがそのまま、次の面接で使える材料になります。
この記事で参照した公的情報
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。

