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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「島根で薬剤師として働きたい」「地元の島根に戻って転職したい」と考える人は少なくありません。島根は県内に薬学部がなく、薬剤師が不足している県です。ほかの県と違うのは、県都の松江市でさえ全国平均を下回ること。つまり県内のどこで働いても、売り手市場が成立しやすい環境にあります。
さらに島根県は、薬剤師の奨学金返還を最大576万円まで助成する制度を用意しています。県外出身者でも応募でき、既卒者も対象という、全国的に見ても手厚い内容です。この記事では、需給を最新の公的統計で確認したうえで、この制度の中身と落とし穴、年収データの読み方、出雲・石見・隠岐の傾向、待遇を上げる手順を整理します。
この記事でわかること
- 島根の人口10万人あたり薬剤師数は192.2人・全国32位で、全国平均210.6人を下回る(令和6年)
- 薬局は全国21位と平均以上。受け皿はあるのに薬剤師が足りない需給ギャップ
- 県都の松江市が197.0人と全国平均以下。県内格差が小さく、どこでも売り手市場
- 県の奨学金返還助成は最大576万円。県外出身者・既卒者も対象だが、内定前の登録が必須
- 出雲・石見・隠岐の求人傾向と、待遇を上げる4つの手順
島根県の薬剤師需給を数字で確認する
まず、島根の需給を公的統計で確認します。厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、島根県で薬局・医療施設に従事する薬剤師は1,234人、人口10万人あたりでは192.2人でした。全国平均210.6人を下回り、順位は全国32位です。
※薬剤師数は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(薬局・医療施設の従事者)、薬局数は「令和6年度衛生行政報告例」、病院数は「令和6年医療施設(動態)調査」による。順位は当サイトが公表値をもとに集計。
薬局は平均以上なのに薬剤師は全国32位
島根の需給を読み解く鍵は、薬局と薬剤師のねじれにあります。厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」によると、島根県の薬局は344施設、人口10万人あたり53.6施設で全国21位。全国平均51.1施設を上回っています。
受け皿は平均以上にあるのに、そこで働く薬剤師は全国32位。薬剤師1人が支える人口は約520人で、全国平均の約475人より1割ほど多くなります。一方で薬局1軒が担う人口は約1,866人と全国平均の約1,959人より少なく、小規模な店舗が広い範囲に点在している姿が見えてきます。
この構造から言えるのは、島根では少人数で回している薬局が多くなりやすいということです。売り手市場である反面、応募先の在籍薬剤師数は必ず確認しておきたいポイントになります。
薬学部はなく、一方で医療機関は厚い
島根県内には薬学部を置く大学がありません。地元で薬剤師を育てる場がないため、新しい薬剤師の供給をすべて県外に頼る構造になっています。県が奨学金の返還助成に力を入れているのは、この事情が背景にあります。
一方で医療機関は手厚く、厚生労働省「令和6年医療施設(動態)調査」によると人口10万人あたりの病院数は7.2施設で全国24位、全国平均6.5施設を上回ります。病床数でみても人口10万人あたり1,489.9床と、全国平均1,187.3床を大きく超えます。出雲市には島根大学医学部附属病院があり、病院薬剤師の選択肢も確保されています。
島根は「薬局も病院もあるのに薬剤師だけが足りない」という、転職する側にとっては理想的な構図です。ただし薬局1軒あたりの規模が小さいぶん、一人薬剤師や少人数体制の店舗もあります。条件がよくても人員体制は必ず聞いてください。
県都の松江でさえ全国平均を下回る
多くの県では、県庁所在地に薬剤師が集中して全国平均を大きく上回ります。島根はここが違います。同じ統計を市単位で見ると、松江市の人口10万人あたり薬剤師数は197.0人。全国平均210.6人を下回っています。
※全国平均・島根県・松江市の数値は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表10による。「松江市を除く県内」は、同統計表9の薬剤師数と付表の人口から当サイトが試算した参考値。同統計で市単位の内訳が公表されているのは松江市のみです。
県内格差が小さいという島根の特殊性
松江市197.0人に対して、松江市を除いた県内は約190人。その差はわずか7人ほどしかありません。ほかの県ではこの差が数十人単位で開くのが普通で、たとえば鹿児島市は250.4人、岡山市は240.4人と、県庁所在地だけが突出して高くなります。島根にはその集中がありません。
これは転職する側にとって大きな意味を持ちます。多くの県では「県庁所在地は充足していて条件が上がりにくいから、市外を狙う」という戦略が有効です。ところが島根では県都でさえ全国平均を下回っているため、県内のどこで働いても売り手市場が成立しやすいのです。松江に住みたいという希望と、条件を上げたいという希望が、ほかの県ほど対立しません。
もちろん、より過疎化が進む石見地方や隠岐では、人材確保がさらに難しくなります。エリアによる差はありますが、「都市部だから諦める」必要がないのが島根の特徴です。
県庁所在地が全国平均を下回る県は珍しいです。ほかの県の記事では「市外を狙いましょう」と書くことが多いのですが、島根に関しては松江から探し始めても構いません。暮らしやすさを犠牲にせずに条件を狙える、数少ない県だと思います。
奨学金返還助成が最大576万円という手厚さ
島根で見逃せないのが、県の「島根県薬剤師奨学金返還助成事業」です。県内の登録を受けた医療機関や薬局に就業した薬剤師の奨学金返還を、県と就業先が共同で助成する仕組みで、令和8年度から助成額が増額されました。
※島根県健康福祉部薬事衛生課の公表内容(令和8年度募集)にもとづきます。募集期間・定員・助成額は年度により変わるため、必ず県の最新の案内をご確認ください。
最大の落とし穴:内定前に登録が必要
県の案内には、県内の医療機関等に就職内定済みの人、すでに薬剤師として就業している人は対象にならないと明記されています。登録できるのは就職内定前まで。転職先が決まってから知って申請しても間に合いません。しかも令和8年度の募集定員は10名で、超過すれば選考になります。島根が候補にあるなら、求人を探し始める段階で県に登録しておく必要があります。
病院で576万円という金額は、年収に換算すれば1年分近くに相当します。県外出身者でも応募でき、既卒者も対象という点で、転職を考えている薬剤師にとって実質的な待遇の底上げになる制度です。ただし就業先は県に登録された医療機関や薬局に限られるため、求人を選ぶ段階で対象事業者かどうかを確認しておく必要があります。
576万円という金額もすごいのですが、私が驚いたのは「内定前まで」という条件です。順番を間違えるだけで数百万円を取り逃がすことになります。奨学金を返済中で島根を検討しているなら、求人を見る前に県の薬事衛生課へ連絡してください。
島根の年収データをどう読むか
島根の薬剤師年収は「全国トップクラス」と紹介されることがあります。売り手市場である以上、条件が上がりやすいのは確かですが、順位そのものの扱いには注意が必要です。
対象人数が少ない県ほど順位が振れる
よく引用されるのが厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」です。ただしこれは薬剤師だけを対象にした調査ではなく、都道府県まで分けると対象となる人数がかなり少なくなります。島根のように従事薬剤師が1,234人しかいない県では、たまたま調査対象になった数か所の職場で平均値が動いてしまいます。
同じ調査から計算した薬剤師の全国平均年収でさえ、令和6年調査の約599万円から令和7年調査の約567万円へ、1年で30万円以上下がっています。母数の大きい全国平均でこれだけ動くのですから、島根の順位を固定的な事実として受け取るのは無理があります。
順位より、需給と制度を根拠にする
島根で確かなのは、薬剤師が全国32位で県都さえ全国平均を下回るという需給の構造と、最大576万円の返還助成という制度です。この2つは年ごとに大きく振れません。順位を追いかけるより、こちらを根拠に条件を組み立てるほうが現実的です。
比べるときは、額面ではなく実質で並べます。年間休日数、薬剤師の在籍人数、1日の処方箋枚数、残業の実績時間、住宅補助、車の維持にかかる費用、そして奨学金返還助成の対象事業者かどうか。島根は市街地の一部を除いて車が前提になるため、維持費も手取りの実感を左右します。
島根の年収ランキングは調査によって順位が振れます。平均の数字に一喜一憂するより、自分が受ける求人が手当と助成込みでいくらになるかを見るほうが、ずっと確実です。
島根で働くメリットと注意点
ここまでの内容を、働く側の視点で整理します。
島根で働くメリット
- 県内どこでも売り手市場/県都の松江でさえ全国平均以下。都市部を諦めずに条件を狙える
- 奨学金返還助成が最大576万円/県外出身者も既卒者も対象。全国的に見ても手厚い水準
- 薬局は全国21位と受け皿が多い/薬剤師が足りない一方で職場の数は確保されている
- 病院の選択肢もある/人口あたり病院数は全国24位。出雲市には大学病院がある
- 生活コストを抑えやすい/住居費が抑えやすく、条件のよい求人を選べれば手元に残りやすい
知っておきたい注意点
- 求人の総数は限られる/従事薬剤師1,234人・薬局344施設と規模が小さく、好条件はすぐ埋まる
- 少人数体制の薬局が多くなりやすい/薬局1軒あたりの規模が小さく、在籍薬剤師数の確認が欠かせない
- 助成制度は内定前の登録が必須/定員10名の枠もあり、動き出しが遅いと使えない
- 車通勤が前提のエリアが多い/松江や出雲の一部を除きマイカー通勤が基本になる
- 日本海側は冬の積雪に注意/地域によっては雪への備えと通勤時間の見積もりが必要
島根は条件面ではかなり恵まれた県だと思います。ただ求人の数そのものが多くないので、好条件は本当にすぐ埋まります。希望条件を先に整理しておいて、出たらすぐ動ける状態にしておくのが大事です。
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エリア別の傾向(出雲・石見・隠岐)
島根は東西に細長く、東部の出雲地方と西部の石見地方に大きく分かれ、北部に隠岐諸島があります。それぞれの傾向を整理します。
出雲地方(松江・出雲・安来など東部)
県都の松江市や出雲市がある東部は、県内で最も求人数が多いエリアです。松江市の薬剤師密度は197.0人で、県内では高いほうにあたりますが全国平均は下回っています。つまり県都であっても採用に余裕があるわけではありません。出雲市には島根大学医学部附属病院があり、病院薬剤師として専門性を高めたい人にも選択肢があります。鳥取県の米子市とは一体の生活圏を形成しており、県境をまたいで住まいと勤務先を組み合わせることもできます。
石見地方(浜田・益田・大田・江津など西部)
県西部の石見地方は、浜田市・益田市・大田市・江津市などがあるエリアです。出雲地方より人口減少が進んでおり、薬剤師の確保はさらに難しくなります。求人の数自体は限られますが、人材を確保するために待遇を手厚くする職場が出やすい地域です。松江や出雲からは距離があるため、住む場所ごと移す前提で検討する必要があります。冬季の道路事情も含めて、通勤環境を事前に確認しておきましょう。
隠岐諸島(離島・地域医療の最前線)
北部の隠岐諸島は離島で、薬剤師の確保がとくに難しい地域です。求人はごく限られますが、地域医療を支えるために住居つきや高めの条件が提示されることもあります。本土との行き来はフェリーや空路になるため、生活環境を理解したうえで検討する必要があります。地域医療に深く関わりたい人にとっては、ほかでは得がたい経験ができるエリアです。
松江は鳥取の米子とほぼ一体の生活圏です。松江に住んで米子で働く、その逆もできるので、山陰で探すなら県で区切らずに両方の求人を見たほうが選択肢が広がります。
島根で年収・待遇を上げる4つの手順
島根は制度の使い方で結果が変わる県です。順番を決めて動いてください。
① まず県の奨学金返還助成に登録する
奨学金を返済中なら、これを最優先にしてください。内定が出てからでは対象外になり、定員10名の枠もあります。求人を探し始める前に県の薬事衛生課へ連絡し、自分が対象になるかを確認するところから始めるのが正しい順番です。病院なら最大576万円、薬局なら最大288万円が、条件面に上乗せされる可能性があります。
② 対象事業者の一覧を求人探しの起点にする
助成を受けるには、県に登録された医療機関や薬局に就業する必要があります。県のサイトに対象事業者の一覧が公開されているので、そこから候補を絞ると効率的です。ただし一覧に載っていても現在採用募集をしているとは限らないため、求人情報とあわせて確認してください。
③ 松江も候補から外さない
ほかの県なら「県庁所在地は充足しているから外す」という判断が有効ですが、島根の松江は197.0人と全国平均を下回ります。生活の利便性を取りながら条件も狙える可能性があるので、最初から除外しないでください。より条件を重視するなら石見地方まで広げる、という二段構えで考えると無駄がありません。
④ 額面ではなく実質で3件並べる
候補が絞れたら、年間休日数、薬剤師の在籍人数、1日の処方箋枚数、残業の実績時間、住宅補助、車の維持費、そして助成の対象事業者かどうかを横並びにします。島根は薬局1軒あたりの規模が小さいぶん、在籍人数の差が働きやすさに直結します。求人数が限られる県なので、地域の事情に詳しい転職エージェントを複数使うと比較材料が増えます。
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よくある質問
まとめ
島根の薬剤師転職のポイントを整理します。
- 人口10万人あたり薬剤師数は192.2人・全国32位で、全国平均210.6人を下回る(令和6年)
- 薬局は53.6施設で全国21位と平均以上。受け皿はあるのに薬剤師が足りない構造
- 県都の松江市でも197.0人と全国平均以下。県内格差が小さく、どこでも売り手市場
- 県の奨学金返還助成は病院で最大576万円、薬局で最大288万円。県外出身者・既卒者も対象
- ただし就職内定前の登録が必須で、募集定員は10名。動き出す順番を間違えない
- 薬局1軒あたりの規模が小さいぶん、在籍薬剤師数の確認が欠かせない
島根は、需給の追い風と手厚い支援制度が重なる数少ないエリアです。県都を諦めなくてよい点も、ほかの県にはない強みといえます。制度の順番を押さえたうえで、自分の優先したい条件に合う職場を選んでいきましょう。
出典・参考資料
この記事で使用した数値と制度情報の出典です。いずれも公的機関が公表している一次情報です。
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(薬剤師数・人口10万対薬剤師数・市別の内訳)
- 厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対薬局数・前年度比)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(病院数・病床数・人口10万対の各数値)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(薬剤師の平均年収の年次変動)
- 島根県 健康福祉部 薬事衛生課「島根県薬剤師奨学金返還助成事業」(助成額・対象要件・募集期間・対象事業者)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は各調査の公表時点のものであり、順位は公表値をもとに当サイトが集計しています。「松江市を除く県内」の数値は公表値からの試算による参考値です。支援制度の助成額・要件・募集期間・対象事業者は年度により変わるため、必ず県の最新の案内をご確認ください。求人状況や年収は時期・調査により変動します。

