この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「薬剤師の資格に加えて、もう一つ資格を取れば転職で有利になるのでは」。そう考える薬剤師は増えています。厚生労働省の需給推計でも、2045年には薬剤師の供給が需要を2万4,000人から12万6,000人上回る可能性が示されており、将来への危機感は根拠のないものではありません。
結論から言うと、複数資格(ダブルライセンス)が転職にプラスに働くのは、その資格を必要とする職場に応募したときだけです。資格の数そのものが評価されることはありません。使い所のない資格をいくつ並べても効果は薄く、目指す方向と合った組み合わせを選べるかどうかで結果が分かれます。
この記事では、複数資格が転職に与える影響、効果が出ない落とし穴、薬剤師から見た「資格までの距離」、そして転職で活きる組み合わせと伝え方までを、公的な出典に当たりながら整理します。職場ごとの選択肢そのものを知りたい方は、薬剤師の転職先一覧もあわせてご覧ください。
この記事でわかること
- 複数資格が評価される条件と、評価されない条件
- 資格を増やしても効果が出ない3つの落とし穴
- 薬剤師から見た「資格までの距離」3層マップ(無試験・受験資格あり・学び直し)
- 在宅を目指す場合のケアマネという選択肢と、薬局勤務との兼務の扱い
- 面接で複数資格を伝えるときの型
複数資格は薬剤師の転職に有利になる?
有利になることはあります。ただしそれは、その資格を必要とする職場に応募した場合に限られます。資格を持っているだけで自動的に年収が上がるわけではなく、その資格が活きる環境とセットで初めて効果が出ます。逆に言えば、応募先で使い道のない資格をいくら積み上げても、転職での評価にはつながりにくいということです。
前提として、薬剤師の需給はどう見込まれているか
複数資格が話題になる背景には、薬剤師の供給過剰予測があります。厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が示した需給推計では、2045年(令和27年)時点の薬剤師の供給は43万2,000人〜45万8,000人、需要は33万2,000人〜40万8,000人と見込まれています。差し引きすると、供給が需要を2万4,000人〜12万6,000人上回る計算です。
同検討会は「概ね今後10年間は需要と供給が同程度で推移するが、将来的には、需要が業務充実により増加すると仮定したとしても供給が需要を上回る」とし、あわせて「現時点では地域偏在等により、特に病院を中心として薬剤師が充足していない」とも整理しています。全国一律に余るという話ではなく、地域と業態によって過不足が分かれるという前提で読む必要があります。
出典:厚生労働省「薬剤師の需給推計」(薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会、推計期間 令和2年〜令和27年)
厚生労働省の資料(PDF)を開く
採用側が資格欄を見るときの視点
中途採用は基本的に「今ある業務を任せられる人」を探す活動です。したがって採用側が資格欄を見るときの問いは、ほぼ一つに絞られます。「この資格は、うちのどの業務で使えるのか」です。在宅に力を入れている薬局が介護分野の資格を評価するのは、翌日から使う場面があるからです。反対に、その業務が存在しない職場では、同じ資格でも評価の材料になりません。
この視点は、資格を取る前の判断にもそのまま使えます。「取ったら評価されるか」ではなく、「応募したい職場に、その資格を使う業務があるか」から逆算するということです。
面接で資格欄を見られたとき、採用側が知りたいのは「うちでどう活きるか」です。応募先の業務と結びつく資格なら一気に評価が上がりますが、関係のない資格が並んでいても「勉強熱心ですね」で終わることも。数より、職場との接点があるかが大事です。
その資格が評価されるかは、応募先によって変わります
在宅に強い会社、企業求人に強い会社、地方の薬局に強い会社はそれぞれ別です。自分の資格がどの職場で評価されるかを知りたいときは、目的別の使い分けから確認してみてください。
薬剤師転職エージェントの比較を見る資格を増やしても効果が出ない3つの落とし穴
複数資格を考えるなら、先に「効果が出ないパターン」を知っておくと無駄な遠回りを避けられます。落とし穴は大きく3つです。
① 使い所のない資格を増やす
資格は、活かせる環境があって初めて価値になります。取得してもその業務に携わる職場がなければ、宝の持ち腐れです。とくに、興味本位で関連の薄い資格を増やすと、時間と費用をかけた割にリターンが小さくなりがちです。
判断の目安になるのは、求人票です。応募したい業態の求人を10件ほど見て、その資格が「歓迎要件」や「あれば尚可」に一度も出てこないなら、その分野では評価の軸になっていないと考えたほうが現実に近くなります。
② 薬剤師の業務範囲と重なる資格を選ぶ
代表例が登録販売者です。登録販売者が販売できるのは第二類医薬品と第三類医薬品で、要指導医薬品と第一類医薬品は取り扱えません。一方の薬剤師は、要指導医薬品・第一類医薬品を含めてすべて扱えます。つまり、薬剤師が登録販売者の資格を取っても、販売できる医薬品の範囲は広がりません。
複数資格を考えるなら、薬剤師の免許ではカバーできない領域へ広げるのが基本です。介護、栄養療法、労働衛生、経営といった、薬剤師免許だけでは名乗れない役割がその対象になります。
③ 維持コストを計算せずに取ってしまう
見落とされがちなのが、取得後にかかり続けるコストです。学会や職能団体の認定資格は数年ごとの更新制が一般的で、更新のたびに学術集会への参加やセミナー受講、単位取得、更新料が必要になります。たとえば日本栄養治療学会のNST専門療法士は認定期間が5年で、更新には学術集会と更新必須セミナーを含む合計30単位の取得と、審査・認定料の支払いが求められます。
ダブルライセンスは、薬剤師としての実力があってこそ活きます。資格集めに気を取られて日々の業務や知識の更新がおろそかになると、本末転倒です。採用側も、まずは薬剤師としての経験や姿勢を見ています。土台があってのプラスアルファ、という順序は変わりません。
よくあるのが、せっかく2つ目の資格を取ったのに、結局どちらか一方しか使っていないというパターン。それと、更新の単位集めが年々きつくなって手放してしまう人も見てきました。取る前に「どの職場でどう使うか」と「5年後も更新し続けられるか」の2つをイメージできているかが、分かれ道になります。
薬剤師から見た「資格までの距離」3層マップ
同じ「もう一つの資格」でも、薬剤師免許からの距離はまったく違います。申請だけで取れるもの、受験資格が自動的に付いてくるもの、一から学び直しが必要なものの3層に分けて整理すると、現実的な選択肢が見えてきます。
出典:労働安全衛生規則第10条・別表第4/厚生労働省労働局「労働安全衛生関係免許の申請手続きのご案内」、介護保険法にもとづく介護支援専門員実務研修受講試験の受験資格、日本栄養治療学会「NST専門療法士認定資格制度 申請方法」、栄養士法。いずれも2026年9月時点。
意外と知られていない「無試験で取れる」第一種衛生管理者
第一種衛生管理者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられている国家資格です。通常は試験に合格する必要がありますが、薬剤師は試験を受けずに、免許申請だけで取得できます。労働安全衛生規則第10条および別表第4にもとづく扱いで、厚生労働省の各労働局が案内している免許申請の手引きにも、無試験で第一種衛生管理者免許を申請する場合として薬剤師免許証の原本提出が挙げられています。
第二種が業種を限定されるのに対し、第一種はすべての業種の事業場で衛生管理者になれます。製薬企業や医薬品卸、ドラッグストア本部など、事業場の労働衛生体制に関わる職種を目指すなら、履歴書に書ける材料を追加コストほぼゼロで増やせるということです。製薬会社への転職や公務員薬剤師を視野に入れている人は、検討する価値があります。
管理栄養士は「薬剤師だから取りやすい」わけではない
薬と食事療法の両面という組み合わせは魅力的に見えますが、制度上のハードルは高めです。管理栄養士国家試験の受験資格は、栄養士法により管理栄養士養成施設の卒業か、栄養士免許を得たうえで所定年数の実務経験を積むこととされています。栄養士免許は栄養士養成施設を卒業して取得するものなので、薬学部を卒業していても受験資格にはつながりません。
栄養の領域に薬剤師として関わりたいなら、より現実的なのは日本栄養治療学会のNST専門療法士です。対象となる国家資格に薬剤師が含まれており、免許取得後3年以上の勤務と栄養サポート業務の従事経験があれば申請の土俵に立てます。糖尿病や腎臓病など、食事療法と薬物療法が並走する領域を志すなら相性がよい選択肢です。
「薬剤師+管理栄養士」を目指して調べ始めて、養成校に入り直す必要があると知って止まる人は多いです。狙っている中身が「栄養療法に強い薬剤師」なら、NST専門療法士のほうが同じ目的地にずっと近い。資格名で決める前に、やりたい業務から逆に引くのがおすすめです。
転職で活きるダブルライセンスの組み合わせ例
薬剤師の知識と掛け合わせて効果が出やすい資格には、はっきりした方向性があります。代表的な組み合わせを、活きる職場と注意点まで含めて整理しました。
共通しているのは、薬剤師の知識を別の分野とつなげて「自分にしかできない仕事」を作れる組み合わせであることです。どれを選ぶかは、自分が進みたい方向によって変わります。専門性を深める方向を選ぶなら認定薬剤師の取得と転職への影響、がん領域を目指すならがん専門薬剤師になるにはが入口になります。
在宅に進みたい人にとって、ケアマネの資格は実際に強いです。薬と介護の両方の視点を持てる薬剤師はまだ少なく、在宅に力を入れる薬局では重宝されます。自分の進みたい道に「足りないピース」を埋める資格を選ぶのがコツです。
在宅を目指すならケアマネ|数字と兼務の実際
介護支援専門員(ケアマネジャー)は、薬剤師のダブルライセンスとして最もよく挙がる資格です。実態を数字と制度の両面から確認しておきましょう。
ケアマネを持つ薬剤師はどのくらい少ないのか
厚生労働省が公表している第28回(令和7年度)介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況によると、受験者は50,601人、合格者は12,961人で、合格率は25.6%でした。合格者を職種別に見ると、薬剤師は126人で構成比1.0%。最も多い介護福祉士が8,310人(64.1%)、看護師・准看護師が2,094人(16.2%)ですから、薬剤師はきわめて少数派です。
第1回から第28回までの累計でも、薬剤師の合格者は21,029人で構成比2.7%にとどまります。全国の届出薬剤師が約33万人いることを踏まえると、ケアマネ資格を持つ薬剤師は希少だと言えます。在宅や介護併設の職場で評価されやすいのは、この希少性が背景にあります。
出典:厚生労働省「第28回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況について」(令和7年10月12日実施)
厚生労働省の該当ページを開く
受験資格と、取得までの流れ
受験するには、薬剤師などの法定資格にもとづく業務に通算5年以上かつ900日以上従事している必要があります。試験は都道府県が年1回実施し、合格後に介護支援専門員実務研修を修了して介護支援専門員証の交付を受けて、はじめて実務に就けます。合格=すぐ働ける、ではない点に注意してください。
薬局で働きながらケアマネを兼務できるのか
ここが実務でいちばん気になるところです。厚生省(当時)は1999年の通知(平成11年9月8日 医薬監第100号・医薬企第91号「薬局等勤務薬剤師の介護支援専門員等との兼務について」)で、薬局の管理者が指定居宅介護支援事業の管理者または介護支援専門員を兼務することは禁止されないという考え方を示しています。ただし、次の2点が条件として付されています。
- 薬剤師業務の遂行に支障を生じない範囲で行うこと
- 介護認定調査等で薬局を離れる際に、薬局に薬剤師が不在となる時間が生じないよう配置等の措置を講じること
つまり制度上の道は開かれている一方で、実際に兼務できるかは職場の人員体制次第ということです。1人薬剤師の店舗では現実的に難しく、居宅介護支援事業所を併設しているグループや、複数名体制の薬局のほうが実現しやすくなります。求人を見るときは「居宅介護支援事業所の併設有無」「薬剤師の配置人数」を確認しておくと判断しやすくなります。なお法令・通知は改正されることがあるため、具体的な可否は都道府県や保険者の窓口で確認してください。
在宅分野の働き方や収入面をもう少し詳しく知りたい方は、在宅医療の薬剤師の年収相場や薬剤師が介護施設へ未経験転職する方法もあわせてご覧ください。
ケアマネを取っても、勤務先に居宅介護支援事業所がなければ名乗る場面がありません。逆に言えば、事業所を併設している法人に移ればその日から使える資格になります。取る前に、資格を活かせる受け皿がある職場を先に探しておくくらいでちょうどいいと思います。
複数資格を転職に活かす考え方
複数資格を転職で効果的に使うには、取る前の選び方と、面接での伝え方の両面を押さえる必要があります。
取る前に決めておく4つのこと
- 方向性から逆算する:進みたいキャリア(在宅・専門・企業・経営など)を先に決め、それに必要な資格に絞る
- 需要のある資格を優先する:応募したい業態の求人を実際に見て、歓迎要件に出てくる資格かどうかを確認してから取得する
- 就業イメージを持つ:取得後にどの職場でどう使うかを、取る前に具体的に描いておく
- 維持コストを見積もる:更新の頻度、必要単位、更新料を確認し、5年後も続けられるかを判断する
面接での伝え方は3ステップで組み立てる
資格を羅列するだけでは伝わりません。次の順序で話すと、自己研鑽の姿勢と即戦力性の両方が届きます。
- ① なぜ取ったか:現場で困った具体的な場面を一つ挙げる
- ② 何ができるようになったか:資格名ではなく、担当できる業務で言う
- ③ 御社のどこで使うか:応募先の業務名を出して接点を示す
「ケアマネを持っています」ではなく、「在宅の患者さんでケアプランと服薬の噛み合わせが悪い場面が続いたので取得しました。担当者会議で薬の側から提案できるようになったので、御社の在宅チームでその役割を担いたい」と言えるかどうかで、伝わり方はまるで変わります。転職活動の進め方全体は薬剤師の転職の流れにまとめています。
自分の資格がどう評価されるか判断しづらいときは、転職エージェントに相談すると、応募先での評価のされ方や需要の有無を踏まえた見立てが得られます。複数のエージェントに登録しておくと、違う視点の意見を比べられます。
資格は「将来の選択肢を増やす投資」と考えると、力の入れどころが見えてきます。今すぐの手当より、5年先に自分がどんな薬剤師でいたいか。そこから逆算して一つに絞るほうが、あれこれ手を出すより結果的に強い武器になります。
よくある質問
まとめ
薬剤師の複数資格と転職への影響について、要点を整理します。
- 複数資格が効果を発揮するのは、その資格を必要とする職場に応募したときだけ
- 厚生労働省の推計では2045年に2万4,000人〜12万6,000人の供給過剰が見込まれる一方、病院を中心に不足感もあり、過不足は地域と業態で分かれる
- 登録販売者のように薬剤師の業務範囲と重なる資格は、上乗せ効果がほとんどない
- 第一種衛生管理者は薬剤師なら無試験・申請のみで取得でき、費用対効果が高い
- 管理栄養士は薬剤師免許では受験できず、栄養領域ならNST専門療法士のほうが近い
- ケアマネ合格者に占める薬剤師は累計2.7%と少数で、在宅分野では希少性が武器になる
- 面接では「なぜ取ったか・何ができるか・御社のどこで使うか」の3点をセットで伝える
複数資格は、闇雲に増やすより自分の進みたい道に合わせて選ぶことで、初めて転職の武器になります。「数」ではなく「方向性との一致」を意識して、自分にしかない強みを育てていきましょう。
▶ あわせて読みたい
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計は公表時点の数値であり、資格の要件・法令・通知は改正される場合があります。最新の情報は各認定機関・公的機関の発表および応募先にてご確認ください。

