この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信。薬剤師目線でエージェントを徹底調査しています。
「介護施設で働く薬剤師の年収相場を知りたい」。そう思って調べ始めると、なかなか納得のいく数字にたどり着けません。それは、あなたの探し方が悪いからではありません。
介護施設の薬剤師に絞った公的な年収統計が、そもそも存在しないからです。加えて、「介護施設で働く」という言葉が、給与の仕組みがまったく違う2つの働き方をひとまとめにしています。
この記事では、まず数字が見つからない理由を説明したうえで、雇用の形ごとに年収がどう決まるのかを分解します。そして、この分野で最も見落とされている「年収以前の制約」についてもお話しします。
この記事でわかること
- 介護施設の薬剤師に「相場」が見つからない、統計上の理由
- 施設に直接雇われる場合と、薬局から訪問する場合の年収の違い
- 常勤のポストがそもそも少ないという、配置基準から来る構造
- 介護の領域で年収を上げるなら、どこを狙うべきか
なぜ「相場」が見つからないのか
国が公表している薬剤師の賃金データは、賃金構造基本統計調査であれば「薬剤師」という職種全体をひとくくりにしています。医療経済実態調査は、病院と保険薬局を対象としたものです。介護施設で働く薬剤師だけを切り出した公的な数字は、用意されていません。
では、検索して出てくる金額は何かというと、転職支援会社が扱った求人票を集計したものです。役に立たないわけではありませんが、母数が小さく、条件のよい求人が目立ちやすいという性質があります。数字を鵜呑みにせず、幅を持って読む必要があります。
もうひとつの理由
「介護施設で働く薬剤師」という言葉が、施設に雇われる人と、薬局に雇われて施設を訪問する人の両方を指しています。この2つは給与の出どころが違うため、平均を出すこと自体に無理があります。まずここを切り分けなければ、話が噛み合いません。
数字が見つからないとき、たいていの人は自分の調べ方を疑います。でも、ないものはないのです。まず「ない」と知ることが、正しく判断するための第一歩になります。
年収は「どこに雇われるか」で決まる
介護施設と関わる薬剤師には、大きく2つの立場があります。給与の水準も、決まり方も、まるで違います。
| 項目 | 施設に直接雇われる | 薬局に雇われて訪問する |
|---|---|---|
| 主な勤務先 | 介護老人保健施設 | 特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど |
| 給与の出どころ | 施設を運営する法人 | 所属する調剤薬局 |
| 年収の傾向 | 調剤薬局と同等か、やや下回ることも | 薬局の給与体系による。訪問の手当がつくことも |
| 求人の数 | きわめて少ない | 在宅に力を入れる薬局で募集がある |
| 昇給・昇進 | 薬剤師のポストが1つなので伸びにくい | 管理薬剤師など通常の道筋がある |
「特別養護老人ホームの薬剤師求人」を探しても見つからないのは、当然のことです。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅には、薬剤師を置く義務がありません。これらの施設に入所している方の薬を管理しているのは、外部の調剤薬局から訪問している薬剤師です。
つまり、介護施設の高齢者に関わりたいと考えたとき、実際に採用の門が開いているのは薬局のほう、というのが現実です。
「介護施設で働きたい」と相談してきた後輩に、まず伝えるのがこの話です。施設の職員になる道と、薬局から通う道。やりたいことが「高齢者と関わること」なら、後者のほうが近道であることが多いのです。
介護老人保健施設で働く場合の年収の実像
薬剤師を置くルールがあるのは、介護老人保健施設です。ここに直接雇われる場合の年収は、調剤薬局の一般薬剤師と同等か、やや下回る水準に落ち着くことが多いとされています。断定できないのは、前述のとおり公的な統計がないためです。
水準が上がりにくい理由は、はっきりしています。介護保険から支払われる報酬の中で人件費を配分するため、原資に限りがあること。そして、薬剤師のポストが施設に1つしかなく、昇進によって上がっていく道筋が作りにくいことです。
ただし、時間あたりで見ると印象が変わる
介護老人保健施設では、入所している方の人数が決まっており、調剤薬局のように日によって処方箋の枚数が乱高下することがありません。入所時の持参薬の確認、定時処方への対応、在庫の管理。業務は予定に沿って進み、残業がほとんど発生しない施設が大半です。
年収の額面だけを並べると見劣りしても、働いた時間で割り戻すと、印象はかなり変わります。年収を「金額」ではなく「金額と時間の比」で捉えると、この職場の価値が見えてきます。
門前薬局で毎日2時間残業して600万円と、定時で帰れて550万円。どちらが豊かかは、その人が何を大切にしているかで変わります。少なくとも、額面だけを見て前者を選ぶのは早計だと思います。
年収より先に立ちはだかる、求人の壁
ここが、この分野で最も見落とされている点です。介護老人保健施設に薬剤師を置くルールはありますが、その人数は「実情に応じた適当数」と定められており、標準となる目安は入所者300人に対して1人です。
現実には、入所者が100人規模の施設が多くを占めます。この規模だと、常勤に換算して0.3人分。つまり、常勤の薬剤師を1人置く必要がある施設のほうが、むしろ少数派ということになります。
この構造が生むもの
- 常勤の求人がめったに出ない。出ても、すぐに埋まる
- 非常勤や、週に数日の勤務という形が多くなる
- 併設する病院や法人内の別施設との兼務になることがある
- 常勤と非常勤では、生涯で得られる収入に大きな差が生まれる
厚生労働省の資料でも、常勤で働き続けた場合と非常勤の場合とでは、生涯年収に大きな開きがあることが示されています。「介護施設の年収は低い」のではなく、「常勤の椅子が少ない」。これが問題の正体です。年収の額を調べる前に、そもそも常勤で入れるのかを確かめてください。
求人がないから年収の話をしても始まらない、というのは残酷な話です。でも、それを知らずに何か月も探し続けるほうが、もっとつらい。先に構造を知っておけば、薬局から在宅に関わるという道も、最初から選択肢に入ります。
介護の領域で年収を上げる考え方
高齢者医療に関わりながら年収も確保したいなら、次の3つが現実的な道です。
- 在宅・施設訪問に力を入れる薬局を選ぶ:訪問には報酬上の評価があり、薬局側に原資が生まれます。手当という形で還元している薬局もあります。介護施設の入所者に関わりながら、薬局の給与体系で働けます。
- 管理薬剤師を目指す:薬局に所属していれば、管理薬剤師という明確な昇進の道があります。年収の差は小さくありません。
- 高齢者医療の専門性を積む:多剤併用の見直し、緩和ケア、認知症への対応。認定資格として形にすれば、手当や評価につながることがあります。
逆に、介護老人保健施設への直接雇用は、年収を上げるための選択とは言いにくいのが実情です。残業の少なさ、落ち着いた環境、多職種と組んで在宅復帰を支える経験。得られるものはそこにあります。それを求めて選ぶなら、納得のいく職場になるはずです。
なお、調剤薬局や病院を含めた職場ごとの年収比較は、当サイトの病院薬剤師の年収記事でくわしく扱っています。介護施設の位置づけを相対的に掴みたい方は、そちらを併せてご覧ください。
在宅の現場に出て、その人の暮らしごと薬を見る。あの経験は、調剤室にいるだけでは絶対に得られません。年収の話をさんざんしておいて何ですが、この仕事の報酬は、そこにもあると思っています。
よくある質問
まとめ
- 介護施設の薬剤師に絞った公的な年収統計は存在しない
- 年収は「施設に雇われる」か「薬局に雇われて訪問する」かで決まる
- 配置義務があるのは介護老人保健施設のみ。特別養護老人ホームなどは義務なし
- 介護老人保健施設は調剤薬局と同等かやや下回る傾向。ただし残業はほぼない
- 配置の目安は入所者300人に1人。常勤のポストがそもそも少ない
- 年収を確保しながら関わるなら、施設在宅に力を入れる薬局が現実的
介護施設の年収を調べていた方が、この記事を読んで「探す場所が違った」と気づいたなら、それがいちばんの収穫です。関わりたいのは施設という建物ではなく、そこで暮らす人のはず。だとすれば、入り口はひとつではありません。
※本記事の情報は2026年7月時点のものです。記載した年収は求人情報などにもとづく傾向であり、公的な統計に裏づけられた数値ではありません。実際の金額は法人、地域、経験、雇用形態により大きく異なります。配置基準や介護報酬の内容は制度改定により変更されることがありますので、最新の情報をご確認ください。

