この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信。薬剤師目線でエージェントを徹底調査しています。
面接で「あなたの強みは何ですか」と聞かれ、「コミュニケーション能力です」と答える。おそらく採用担当者は、その日に何度も同じ言葉を聞いています。
問題は、その言葉が嘘だからではありません。あまりに広すぎて、何も言っていないのと同じになってしまうからです。薬剤師が現場で使っているコミュニケーションは、相手によって、まったく別の技術に分かれています。
この記事では、それを4つの相手に分解します。そして、転職先ごとにどの技術が求められるのかを整理します。自分の強みが、実はどこにあるのかを見つけるための地図として使ってください。
この記事でわかること
- 薬剤師のコミュニケーションが、法的義務に裏打ちされた技術である理由
- 患者・医師・スタッフ・経営側という4つの相手で、必要な力がどう違うか
- 患者から聞く力と、医師に問う力が連鎖しているという構造
- 転職先ごとに、どの技術が評価されるのか
「話すのが得意」とは違う技術である
薬剤師のコミュニケーションは、愛想のよさや話術ではありません。法律で課された義務を果たすための手段です。ここが、他の職種の「コミュニケーション能力」との決定的な違いです。
薬剤師法25条の2は、調剤した薬剤の適正な使用のために、必要な情報を提供し、薬学的知見に基づく指導を行うことを義務づけています。2020年9月の法改正では、これに加えて薬を使っている期間中の状況を継続的に把握し、指導することが義務となりました。電話やオンラインを使った継続的な確認も、その手段として認められています。
そして薬剤師法24条は、処方箋に疑わしい点があるとき、処方した医師に問い合わせて確かめた後でなければ調剤してはならないと定めています。医師の判断に踏み込んで確認する義務を、薬剤師は負っているのです。裁判例では、この義務が調剤する薬剤師だけでなく、監査を行う薬剤師にも及ぶとされています。
つまり、こういうことです
患者から必要なことを聞き出せなければ、指導義務を果たせません。医師に的確に問えなければ、疑義照会の義務を果たせません。薬剤師にとってコミュニケーションは、性格の問題ではなく、責任を果たすための技能です。この認識に立つと、面接での語り方が変わります。
口下手な薬剤師が、実はいちばん的確な疑義照会をする。そんな場面を何度も見てきました。愛想と技術は別物です。自分は話すのが苦手だと思っている人ほど、この記事を読んでほしいと思っています。
4つの相手、4つの別スキル
薬剤師が日々向き合う相手は、大きく4つです。それぞれで、求められる技術は驚くほど違います。
| 相手 | 中核となる技術 | 難しさの正体 |
|---|---|---|
| 患者 | 言いたがらないことを、聞き出す | 飲めていない事実を、責めずに引き出す |
| 医師 | 要点を絞り、答えやすい形で問う | 相手の判断を否定せず、事実だけを差し出す |
| 薬局・病棟のスタッフ | 情報を欠落なく渡し、確認する | 言った、聞いていないを起こさせない |
| 経営側・本部 | 現場の必要を、数字と根拠で語る | 「大変だから」では動かないと知る |
患者に対して:聞き出す力
服薬指導は、説明する時間だと思われがちですが、実際には聞き出す時間です。飲み忘れている、副作用が怖くて減らしている、他院の薬と重なっている。こうした事実は、こちらから尋ねなければ、まず出てきません。しかも、責める調子で聞けば、二度と本当のことを言ってもらえなくなります。
医師に対して:問う力
疑義照会は、法的な義務であると同時に、極めて高度な交渉です。多忙な医師に、限られた時間で、要点を簡潔に伝える。そして答えやすい形で問いを立てる。「この処方はおかしいと思います」ではなく、「この患者さんは腎機能がこの値ですが、用量はこのままでよろしいでしょうか」と尋ねる。事実を差し出し、判断は相手に返す。この作法が身についているかどうかで、結果は大きく変わります。
スタッフに対して:渡す力
交代制の職場では、情報の引き継ぎが患者の安全に直結します。口頭で伝えたつもりが伝わっていない、という事故は、たいてい「伝えた側が、伝わったことを確認しなかった」ときに起こります。記録に残し、相手の理解を確かめる。地味ですが、これも立派な技術です。
経営側に対して:通す力
管理薬剤師や薬局長になると、本部に向けて話す機会が増えます。人を増やしてほしい、設備を入れてほしい。ここで「現場が大変です」と訴えても、まず通りません。処方箋の枚数、待ち時間、離職率、加算の取得状況。数字で語れる人だけが、環境を変えられます。この力を持つ薬剤師は、実はそれほど多くありません。
4つのうち、どれが得意でどれが苦手か。自分で言い当てられる人は少ないものです。私は患者さんと話すのは好きでしたが、本部を説得するのは長らく苦手でした。数字を持っていかなかったからです。
聞く力が、問う力の材料をつくる
この4つは、独立して並んでいるのではありません。とくに患者と医師のあいだには、はっきりとした連鎖があります。
日本薬剤師会の委託による全国調査では、疑義を発見したきっかけとして、処方箋の内容から気づいた例が半数を超える一方、患者や家族への服薬指導や聴き取りから気づいた例が、およそ4割を占めていることが報告されています。
この数字が意味すること
疑義照会のおよそ4割は、処方箋を眺めているだけでは、決して見つからなかったということです。患者から「実は、あの薬は飲んでいなくて」「別の病院でも似た薬をもらっていて」と引き出せたからこそ、医師に問うべき事実が手元に生まれた。患者から聞く力が、医師に問う力の材料をつくっているのです。
この構造こそが、薬剤師のコミュニケーションが他職種と違う理由です。単に「人と話すのが得意」なのではなく、聞き出した情報を、専門知識で評価し、別の相手に別の言葉で渡す。この一連の変換が、薬剤師の技術の中身です。
面接で語るべきなのは、この連鎖です。「患者さんとよく話します」ではなく、「患者さんから聞き取った服薬状況をもとに、医師へ処方の提案を行った」と語る。同じ経験でも、後者にしか職業的な技術は現れません。
「先生には言えなかったんだけど」と患者さんが打ち明けてくれる瞬間があります。あれは、薬剤師という立場が持つ特権だと思います。医師には言いにくいことが、薬局の窓口では出てくる。その事実の重みを、もっと誇っていいはずです。
転職先ごとに、求められる型が違う
4つの技術のうち、どれが評価されるかは、行き先によって変わります。すべてを均等に磨く必要はありません。
| 転職先 | とくに求められる技術 |
|---|---|
| 調剤薬局 | 患者から聞き出す力。門前の医師との継続的な関係構築 |
| 病院 | 医師・看護師と対等に議論する力。多職種の会議で発言できること |
| ドラッグストア | 症状を訴える人から、受診が必要な兆候を短時間で聞き分ける力 |
| 在宅・介護施設 | 家族や介護職から生活の情報を得る力。多職種と足並みを揃える力 |
| 製薬企業・医薬情報担当者 | 短時間で要点を伝える力。文書と会議で正確に記録する力 |
| 管理薬剤師・本部職 | 経営側に数字で通す力。スタッフの離職を防ぐ日常の対話 |
たとえば「患者と話すのが好きだから、患者と接する仕事を」と考えて在宅に進んだ人が、実際には介護職や看護師との調整に多くの時間を使うことに戸惑う。よくある話です。行き先で必要になる相手は誰か。そこを先に見てください。
病院に移った後輩が、いちばん苦労したのは「会議で発言すること」でした。薬局では一対一で完結していたものが、病院では大勢の前で意見を求められる。同じコミュニケーションという言葉で括ってはいけないのです。
面接では「ある」と言わずに、示す
ここまでの整理を踏まえると、面接での語り方の原則がひとつ導けます。「コミュニケーション能力があります」という言葉を、使わないことです。
代わりに、行為を描写します。誰に対して、どんな場面で、何を引き出し、その結果どうなったか。相手が「なるほど、この人は聞き出す力があるのだな」と自分で結論に至れば、それは本人が宣言するよりはるかに強く伝わります。
描写のとき、含めたい4点
- 相手は誰か:患者か、医師か、スタッフか。曖昧にしない
- 何が難しかったか:言いにくいことだった、時間がなかった、など
- どう工夫したか:問いの立て方、渡す情報の順番
- 何が変わったか:処方が変わった、副作用を防げた、引き継ぎの漏れが減った
なお、職務経歴書での具体的な書き方や、業態別の自己紹介文の作り方は、当サイトの自己紹介に関する記事でくわしく扱っています。この記事で自分の技術がどこにあるかを見定めてから、そちらへ進むと、書ける内容が変わってくるはずです。
「うまく話せませんでした」と面接を悔やむ人がいます。でも面接官が見ているのは、流暢さではなく、こちらの問いにきちんと答えているかどうか。それはまさに、疑義照会で問われている力と同じものです。
よくある質問
まとめ
- 薬剤師のコミュニケーションは、法的義務を果たすための技術である
- 相手は患者・医師・スタッフ・経営側の4つ。求められる力はそれぞれ違う
- 疑義の発見のおよそ4割は、患者からの聴き取りに由来する
- 聞き出す力が、医師に問う力の材料をつくるという連鎖がある
- 転職先によって、必要な相手も技術も変わる
- 面接では「能力がある」と言わず、行為を描写して示す
「コミュニケーション能力」という言葉を、いったん捨ててください。そのうえで、自分は誰に対して、何を引き出し、どこへ渡してきたのかを書き出してみる。そこに現れるのが、あなたの職業的な技術です。それは、他の誰にも真似のできない履歴になります。
※本記事の情報は2026年7月時点のものです。法令の内容や制度は改正により変更されることがあります。引用した調査は日本薬剤師会の委託事業による報告にもとづく傾向であり、調査年度や対象によって数値は変動します。最新の情報は公表資料をご確認ください。

