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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
退職を申し出たとたん、上司から「給料を上げるから残ってほしい」「希望の働き方に変えるから」と引き留められる。これがカウンターオファーです。せっかく転職を決めたのに、急に好条件を出されて迷ってしまう方は少なくありません。
薬剤師は人手が足りない職場も多く、退職を切り出すと強く引き留められることがあります。カウンターオファーには受けるメリットもあれば、見落とされがちなリスクもあります。
この記事では、カウンターオファーの仕組み、薬剤師ならではの事情、受ける場合の判断軸、違法になりうる引き留めとその相談先、意思を伝える例文まで整理します。
この記事でわかること
- カウンターオファーとは何か、なぜ提示されるのか
- 薬剤師の引き留めが強くなりやすい背景(公的データつき)
- 受けるメリットとデメリット、判断の軸
- 違法になりうる引き留めと、相談できる窓口
- 対処のステップと、意思を伝えるときの例文
カウンターオファーとは|なぜ提示されるのか
30秒でわかる要点
カウンターオファーは、退職を引き留めるために職場が提示する好条件です。判断の分かれ目は、辞めたい理由が待遇だけかどうか。人間関係や働き方が理由なら、条件の改善では解決しません。まずその場で即答せず持ち帰ること。なお、退職そのものは法律上あなたの自由であり、「辞めるなら違約金」といった引き留めは認められていません。
カウンターオファーとは、従業員が退職や転職の意思を示したときに、引き留めるために職場が提示する好条件のことです。具体的には、昇給、役職への登用、勤務地や勤務時間の変更、担当業務の見直しなどが提案されます。
職場がカウンターオファーを出すのは、主に次の理由からです。新しく人を採用して育てるより、いま働いている人に残ってもらうほうが負担が小さいこと。そして、抜けることで生じる業務の混乱を避けたいことです。裏を返せば、引き留められるのは、あなたの働きが評価されている証でもあります。
引き留められると「必要とされている」とうれしくなりますよね。それ自体は悪いことではありません。ただ、その提案が「あなたのため」なのか「職場のため」なのかは、冷静に見極める必要があります。
迷ったときは、比較できる材料を持っておく
提示された条件が妥当かどうかは、他の求人と並べると判断できます。無料で使えるエージェントの比較は次の記事にまとめています。
薬剤師転職エージェントおすすめランキングを見る薬剤師は引き留めが強くなりやすい
薬剤師は、ほかの職種よりも強く引き留められやすい傾向があります。理由は、人員に余裕のない職場が多く、1人抜けると業務が回らなくなることがあるためです。
背景には求人の状況もあります。厚生労働省の一般職業紹介状況によると、令和8年3月時点で「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」の区分の有効求人倍率は1.97倍でした。同じ時点の全職業は1.10倍ですから、求職者一人あたりの求人数が全体より多い状態です。採用する側から見れば、代わりの人を確保するのが簡単ではないということでもあります。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)」参考統計表(報道発表ページ)。常用(パートを含む)の数値。この職業区分には医師・歯科医師・獣医師を含むため、薬剤師のみの数値ではありません。
とくに、管理薬剤師や、薬剤師が一人しかいない職場では後任の確保に時間がかかり、強く慰留されることがあります。「あなたがいないと困る」と切実に頼まれると、決断が揺らぎやすいものです。だからこそ、その場で即答せず、いったん持ち帰って考えることが大切です。
人手が足りない職場ほど引き留めは強くなります。「迷惑をかけて申し訳ない」と感じる気持ちは自然ですが、自分のキャリアの決断と、職場の人員事情は切り分けて考えましょう。人員の確保は本来、雇う側が担う責任です。
受けるメリットとデメリット
カウンターオファーを受けるかどうかは、両面を踏まえて判断しましょう。
判断の分かれ目は「辞めたい理由」
受けるかどうかを分けるのは、辞めたいと思った理由が何かです。理由が待遇だけなら、条件の改善で解決することもあります。しかし、人間関係、働き方、将来の見通しなど、待遇以外に理由があるなら、昇給では解決しません。
参考までに、厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、転職した人が前職を辞めた理由の上位は、労働時間や休日などの労働条件、職場の人間関係、収入でした。待遇以外の理由で動いている人も多いということです。まず「自分が辞めたい本当の理由」を書き出して確かめてください。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」転職入職者が前職を辞めた理由別割合(概況ページ)。全産業の数値です。
残ると決めるなら確認したいこと
- 提示された条件は、いつから、どのくらいの期間続くのか
- 給与の改定であれば、書面で示されるか
- 人員の補充や業務の見直しは、いつまでに行われるのか
- 改善されなかった場合、次にどうするかを自分の中で決めているか
口頭の約束だけで残ると、後から「そんな話はしていない」となることがあります。条件が変わるなら、内容と時期を書面で確認しておきましょう。
度を越えた引き留めは法律上認められない
好条件の提示は、あくまで交渉です。しかし、なかには退職そのものを認めない、あるいは金銭を求めるといった対応をされる場合があります。こうした引き留めには法律上の制約があります。
退職は労働者の自由
厚生労働省の資料では、期間の定めのない労働契約の場合、基本的に2週間の予告期間を置けばいつでも退職できるとされています(民法第627条)。つまり、退職を認めるかどうかは職場が決めることではありません。就業規則で1か月前などと定められていることも多いため、引き継ぎを考えれば規則に沿って早めに伝えるのが現実的ですが、「認めない」と言われて退職できなくなるわけではありません。
出典:厚生労働省労働基準局「労働法の基礎講座 第45回【退職】労働契約の終了」(長崎労働局)
「辞めるなら違約金」は認められない
労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めておく契約を禁じています。「途中で辞めたら違約金を払え」「損害を与えたら一律いくら払え」といった取り決めは認められません。ただし、実際に生じた損害についての賠償請求まで禁じられているわけではない点には留意が必要です。
出典:厚生労働省 和歌山労働局「賠償予定の禁止(第16条)」(和歌山労働局)
困ったときの相談先
退職を認めてもらえない、退職を申し出た後に扱いが変わったなど、自分で解決しにくい状況になったときは、都道府県労働局や労働基準監督署に設けられた総合労働相談コーナーに相談できます。労働契約の終了に関するルールは、厚生労働省のページでも確認できます。
出典:厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール」(厚生労働省)
ここまで来るケースは多くありませんが、知っておくだけで気持ちが楽になります。「辞められないかもしれない」という不安がなくなれば、条件の話も落ち着いて聞けます。
対処のステップと意思の伝え方
カウンターオファーを受けたら、感情的にならず、次のステップで対処しましょう。
- その場で即答しない:「少し考えさせてください」といったん持ち帰ります。ここが最も重要です
- 辞めたい理由に照らす:その提案で、自分が挙げた理由は解消されるかを確かめます
- 条件の中身を確認する:金額、開始時期、継続する期間、書面の有無を具体的に聞きます
- 内定先への影響を考える:承諾済みなら辞退の連絡が必要です。早いほど相手の負担は小さくなります
- 第三者に相談する:エージェント経由なら、担当者に状況を伝えて整理を手伝ってもらえます
意思を伝えるときの例文
結論を伝える段階になったら、感謝を示しつつ、自分の意思を明確に伝えることが大切です。状況に合わせて参考にしてください。
転職を選ぶ場合
お心遣いいただき、ありがとうございます。じっくり考えましたが、新しい環境で挑戦したいという気持ちに変わりはなく、予定どおり退職させていただきたいと思います。これまで大変お世話になり、感謝しております。引き継ぎは責任を持って進めます。
現職に残る場合
ご提案いただいた内容を踏まえ、よく考えました。この職場でもう一度取り組ませていただきたいと思います。ご配慮いただきありがとうございます。お話しいただいた条件について、開始の時期と内容を書面でご確認いただけますでしょうか。
伝えるときのポイント
- 断る場合も、引き留めてくれたこと自体への感謝は必ず伝える
- 理由を詳しく説明しすぎず、意思がはっきり伝わる程度にとどめる
- 残る場合は、条件の開始時期と内容を書面で確認しておく
そもそも、退職を切り出す前に「自分が本当に求めているもの」を整理しておくと、揺さぶられにくくなります。軸が定まっていれば、好条件を出されても冷静に判断できます。
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まとめ
- カウンターオファーは、退職を引き留めるために提示される好条件
- 薬剤師は求人倍率が高く、代わりの確保が難しいため慰留されやすい
- 判断の分かれ目は、辞めたい理由が待遇だけかどうか
- 残ると決めるなら、条件の内容と開始時期を書面で確認する
- 退職は法律上の自由であり、違約金を求める取り決めは認められない
- その場で即答せず、必要なら総合労働相談コーナーに相談する
カウンターオファーは、うれしい一方で判断を迷わせるものです。大切なのは、感情に流されず、「自分が辞めたい本当の理由は何か」「それは残ることで解決するのか」を冷静に見極めること。受けるにせよ断るにせよ、納得して選べば後悔は残りません。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は公表時点のものであり、全産業を対象とした数値を含みます。法令の内容は改正される場合があります。個別の事案については、勤務先の就業規則をご確認のうえ、必要に応じて都道府県労働局や労働基準監督署の相談窓口にご相談ください。

