薬剤師が転職しないデメリット5つ|現状維持のリスクと判断基準

薬剤師が転職しないデメリット5つ|現状維持のリスクと判断基準

この記事を書いた人

くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。

「不満はあるけど、わざわざ転職するほどでもない」。そう思って今の職場に留まり続けている薬剤師は多いものです。たしかに転職にはリスクがあります。でも、動かずに現状維持を続けることにも、見えにくいデメリットがあります。

大切なのは、現状維持を「何もしない安全な選択」と思い込まないことです。そのうえで、自分にとって留まるべきか動くべきかを冷静に判断する。この記事では、公的な統計で「動いた人がどうなったか」を確認しながら、現状維持のデメリット、それでも維持が正解のケース、そして辞めずにできる確かめ方までを解説します。

煽るつもりはありません。判断材料をそろえたうえで、あなたが納得して選べることを目指した記事です。

先に結論

  • 現状維持のコストは失敗ではなく機会損失という形で静かに積み上がる
  • 転職した人の賃金は「増加」40.8%に対し「減少」31.0%。上がる人が多いが、下がる人も3割いる
  • 厚生労働省の推計では今後10年程度は需給が同程度だが、その後は供給が需要を上回る見通し
  • 職場の融通・年収・定年・家庭の事情によっては、現状維持が合理的な選択になる
  • まずやるべきは転職ではなく「確かめる」こと。相場を知れば、留まる決断も納得して下せる

この記事でわかること

  • 転職せず現状維持を続けることの5つのデメリット
  • 公的データで見る「転職すれば年収は上がるのか」
  • 薬剤師の需給が今後どう変わる見通しなのか
  • 逆に「現状維持が正解」になるケース
  • 辞めずに自分の状況を確かめる4つの手順
目次

「現状維持」は本当に安全な選択?

転職には、年収が下がる、新しい環境に馴染めないといったリスクがあります。だから「動かないほうが安全」と考えるのは自然なことです。しかし、現状維持にもコストがあります。それは「失敗」という形ではなく、「本来得られたはずのものを得られない」という機会損失の形で、静かに積み重なっていきます。

押さえておきたい区別

納得して留まるのと、なんとなく留まるのは別物です。前者は選択、後者は判断の先送りです。この記事は前者に切り替えるための材料をそろえるものだと思ってください。

薬剤師の市場は「今」と「これから」で見え方が違う

薬剤師を含む職業分類の求人倍率は、長く全職種平均を上回る水準で推移してきました。参考までに、令和7年度平均の全職種の有効求人倍率は1.20倍(前年度1.25倍)です。現時点では、地域偏在などにより特に病院を中心として薬剤師が充足しておらず、不足感が生じているとされています。

一方で、厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」の需給推計は、次のように整理しています。

薬剤師の需給推計(2020年〜2045年)

薬剤師の総数としては、概ね今後10年間は需要と供給が同程度で推移するが、将来的には、需要が業務の充実により増加すると仮定したとしても、供給が需要を上回り、薬剤師が過剰になると推計されています。

2045年時点の推計値は、供給が43.2万〜45.8万人に対し、需要が33.2万〜40.8万人です。ただしこれは一定の仮定を置いた推計であり、対人業務や在宅医療の広がり方によって需要側は大きく動きます。

つまり、「いつでも好条件で動ける」という前提は、当面は成り立つが未来永劫ではないということです。焦る必要はありませんが、現状維持の損得を一度きちんと整理しておく価値はあります。

出典:厚生労働省「薬剤師関係について(薬剤師の需給推計)」/「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

まずは相場を確かめたい方へ

転職するかどうかは後から決めて構いません。情報を集めるだけでも判断材料になります。

転職せず現状維持を続けるデメリット5つ

現状維持を続けることで生じやすい代表的なデメリットを5つ整理しました。すべてが全員に当てはまるわけではありませんが、思い当たる点がないか確認してみてください。

① 年収が上がりにくく、相場とのズレに気づけない

同じ職場に長くいると、昇給ペースは鈍化しがちです。さらに、外の求人を見ていないと、自分の年収が相場と比べて高いのか低いのかすら分からなくなります。

判断の物差しとして、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」における薬剤師(一般労働者)の平均年収は566万7,900円、平均年齢は40.1歳、平均勤続年数は8.6年です。自分の年齢と年収をこの数字と並べてみるだけでも、位置関係は見えてきます。

② スキルや経験が特定の業態に偏る

一つの職場に長く留まると、その業態の業務には熟練する一方で、他分野の経験は積めません。在宅医療、病棟での薬物治療への関与、無菌調剤といった経験を得る機会を逃すと、結果的に応募できる職場の選択肢が狭まります。

対人業務への移行が国の方針として進むなか、「今の職場で身につく経験が、5年後も評価される経験かどうか」は一度考えてみる価値があります。

③ 自分の市場価値がわからなくなる

転職活動をしないと、自分の経験やスキルが転職市場でどう評価されるのかを知る機会がありません。「自分なんて他では通用しない」と過小評価して動けなくなったり、逆に現状の不満を放置したりと、判断材料を持てないまま時間が過ぎていきます。

④ 不満が蓄積し、心身に影響することがある

人間関係や働き方への不満を抱えたまま我慢を続けると、ストレスが少しずつ積み重なります。「いつか変わるかも」と期待しても、職場の構造的な問題は自分の努力だけでは変えにくいものです。無理な我慢が続くと、心身の不調につながることもあります。

この段階まで来ている場合は、転職の検討より先に休養と相談を優先してください。判断は回復してからで十分間に合います。

⑤ 年齢を重ねるほど選択肢が狭まる

一般的に、年齢が上がるほど未経験分野への挑戦はハードルが高くなります。特に製薬企業の内勤職のように募集数が限られる職種では、応募できる年齢層が実質的に限られることがあります。

「いつかは」と先送りし続けると、動きたくなったときには選べる職場が限られていた、ということも起こり得ます。選択肢の幅は、時間とともに少しずつ狭まっていきます。

💬 くらげのひとこと

これらは「すぐ転職すべき」という話ではありません。あくまで現状維持にもコストがあるという事実です。デメリットを正しく知ったうえで、それでも今の職場がいいと納得できるなら、それは立派な前向きな現状維持です。

データで見る|転職すれば年収は上がるのか

「転職したら年収は上がるのか、下がるのか」。ここは推測ではなく、公的な統計で確認できます。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」(2026年8月公表)が、転職した人の賃金がその後どうなったかを集計しています。

前職と比べた賃金
割合
前年からの動き
増加した
40.8%
0.3ポイント上昇
減少した
31.0%
1.6ポイント上昇
変わらない
25.5%
─

「増加した」40.8%の内訳は、1割以上の増加が28.2%、1割未満の増加が12.6%です。つまり転職した人の約3割が、明確に手取りを増やしています。

💡 この数字の正しい読み方

「4割が上がる」だけを見れば転職は得に見えます。しかし同時に「3割は下がっている」という事実も同じ調査に含まれています。転職は年収を上げる手段ではなく、条件を組み替える手段だと捉えるのが実態に近いでしょう。

なお2019年から2021年にかけては「減少」が「増加」を上回っていましたが、2022年以降は逆転しています。市場環境によって結果は変わるため、いつ動くかも結果を左右します。

出典:厚生労働省「令和7年 雇用動向調査結果の概要」(全産業の集計であり、薬剤師に限定した数値ではありません)

💬 くらげのひとこと

この数字を見て「思ったより下がる人が多い」と感じた方も多いはずです。だからこそ、動く前に相場を確かめる意味があります。何も調べずに飛び込むと、3割のほうに入る確率が上がってしまいます。

ただし「現状維持が正解」のケースもある

転職が常に正しいわけではありません。次のような状況では、現状維持が賢明な選択になることもあります。煽られて勢いで動くより、冷静に見極めることが大切です。

  • 産休・育休や急な休みに理解があるなど、職場の融通が利いている
  • 年収が相場より高めで、転職すると下がる可能性がある
  • 定年が近く、新しい環境への適応にかかる負担が見合わない
  • 家庭の事情があり、落ち着くまでは安定を優先したい
  • 不満が年収だけで、現職での昇給交渉や役職への挑戦で解決できそう
  • 通勤時間が短く、その利便性を手放すと生活全体が苦しくなる

「維持か転職か」の二択にしない

そもそも選択肢は2つではありません。部署や店舗の異動、業務内容の調整、勤務時間の見直し、管理薬剤師への挑戦など、職場を変えずに悩みを解決できる道もあります。転職はあくまで手段の一つです。

今の不満
現職で解決できる可能性
まず試すこと
年収が低い
高い
昇給の基準と評価制度を確認し、管理薬剤師の枠を打診する
店舗が忙しすぎる
中〜高(複数店舗ある場合)
他店舗への異動を相談する
特定の人との関係
中(異動で解決する場合も)
上長に配置転換を相談する
経験の幅が広がらない
低〜中
在宅対応や認定資格への挑戦を申し出る
業態そのものが合わない
低い
転職を含めて検討する段階

この表で「解決できる可能性が低い」欄に自分の不満が並ぶなら、転職を選択肢に入れる合理性が高いと考えてよいでしょう。逆に上のほうに集まるなら、まず現職での打ち手を試す順序が合理的です。

💬 くらげのひとこと

年収が不満なら、まず現職で昇給の余地があるか確認するのが順序として合理的です。転職で表面の月給が上がっても、賞与や手当が減って実質は下がることもあります。動く前に、いまの足元を確かめましょう。

辞めずにできる「確かめる」4つの手順

現状維持のデメリットを避けたいけれど、いきなり辞めるのは不安。そんなときは、転職ではなく「確かめる」ことから始めるのがおすすめです。判断材料を持つだけで、現状維持の質がまったく変わります。

手順① 自分の条件を数字で書き出す

年収(賞与込み)、年間休日総数、通勤時間、1日の処方箋枚数、薬剤師と事務の人数。この5つを紙に書き出します。感覚ではなく数字にすることで、比較の土台ができます。

手順② 公的な統計と並べてみる

年収は薬剤師の平均566万7,900円、年間休日は全国の労働者1人平均116.6日と並べます。大きく下回る項目があれば、そこが改善の余地がある部分です。逆に上回っていれば、それは今の職場の価値として認識しておきましょう。

手順③ 現職での打ち手を1つ試す

昇給の基準を確認する、異動の可能性を聞く、在宅対応への参加を申し出る。何か1つ動いてみて、反応を見ます。ここで前向きな返答があるかどうかは、その職場に留まる価値を測る最良の材料になります。

手順④ 外の評価を聞いてみる

求人情報を眺めて相場を知る、自分の経験が他でどう評価されるかをエージェントに聞く。いずれも退職を伴わない範囲でできます。結果として「やっぱり今の職場がいい」と分かれば、それも立派な収穫です。

💡「情報を集める」と「転職する」は別の行動

エージェントに登録したからといって、転職を強制されることはありません。「今すぐ動く気はないが、相場と自分の評価だけ知りたい」と最初に伝えれば、その前提で対応してもらえます。留まると決めるためにも、まず知ることをおすすめします。

💬 くらげのひとこと

手順③は意外と効きます。昇給や異動の相談に対して真剣に向き合ってくれる職場なら、留まる価値は十分あります。逆に、まともに取り合ってもらえないなら、それはそれで大事な情報です。

転職にかかる時間を知っておくだけでも判断は変わる

「動くとなったら、どのくらい時間がかかるのか」。ここが見えていないことも、判断を先送りにする原因になります。準備から入職までの標準的な流れと期間の目安を把握しておけば、「今すぐではないが、半年後に動くならいつ準備を始めるか」という逆算ができます。

逆に言えば、流れを知らないまま「いつか」と考え続けると、いつまでも動けません。今すぐ転職しないと決めた人こそ、手順だけは確認しておく価値があります。

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よくある質問

特に大きな不満はないのですが、それでも転職を考えるべきですか▼

無理に転職する必要はありません。職場の融通が利き、年収にも納得しているなら、現状維持は十分に合理的な選択です。ただし、自分の年収が相場とズレていないかや、市場価値だけは把握しておくと、いざというときに慌てずに済みます。薬剤師(一般労働者)の平均年収566万7,900円と自分の水準を並べてみるところから始めてみてください。

年収だけが不満です。転職すれば上がりますか▼

必ず上がるとは限りません。厚生労働省「令和7年雇用動向調査」では、転職した人のうち賃金が増加したのは40.8%、減少したのは31.0%、変わらないが25.5%でした。約3割は下がっているということです。月給が増えても賞与や手当の差で実質が下がることもあります。仕事内容や環境に問題がなく年収だけが不満なら、まず現職での昇給交渉や役職への挑戦の余地を確認するのが合理的です。

転職しないと市場価値は本当に下がりますか▼

同じ職場でも、新しい業務や資格取得に挑戦し続けていれば価値は高まります。問題なのは、同じ業務をただ繰り返し、外の世界を知らないまま年齢を重ねることです。在宅対応や認定資格など、今の職場の中でも経験を広げる手段はあります。現職に留まる場合でも、意識的にスキルの幅を広げる工夫をすれば、市場価値の低下は防げます。

薬剤師はこれから余ると聞きました。急いだほうがいいですか▼

慌てる必要はありません。厚生労働省の需給推計では、薬剤師の総数として概ね今後10年間は需要と供給が同程度で推移するとされています。将来的には供給が需要を上回る見通しですが、これは一定の仮定にもとづく推計で、対人業務や在宅医療の広がり方によって需要側は変動します。現時点では地域偏在により、特に病院を中心に不足感があるとも指摘されています。焦って動くより、経験の幅を広げておくほうが有効な備えになります。

同じ職場に長く勤めるのは評価されませんか▼

長く勤めていること自体は、定着性の証明としてむしろ評価される要素です。参考までに、薬剤師(一般労働者)の平均勤続年数は8.6年です。問題になるのは年数ではなく、その間に何を積み上げたかです。担当した業務の幅、後輩指導、在庫や発注の管理、在宅対応など、説明できる経験があれば長い勤続はプラスに働きます。

エージェントに登録すると転職を勧められませんか▼

最初に意向を伝えておけば、その前提で対応してもらえます。「今すぐ動く予定はなく、相場と自分の評価を知りたい」と率直に話してください。連絡の頻度が負担なら、その旨も伝えられます。あわせて、留まる場合の判断材料として「今の条件は相場と比べてどうか」を聞いておくと、面談の時間が無駄になりません。

迷っているだけで、まだ動く決心がつきません▼

決心がつかないうちは、無理に動く必要はありません。まずは自分の条件を数字で書き出し、公的な統計と並べてみるところから始めましょう。そのうえで現職での打ち手を1つ試し、外の評価を聞いてみる。この順番なら、退職を伴わずに判断材料が揃います。材料が揃えば、現状維持を選ぶにしても転職を選ぶにしても、納得して決められます。

まとめ

現状維持は「何もしない」ことではなく、一つの選択です。最後に要点を整理します。

  • 現状維持には、年収・スキルの偏り・市場価値・心身・選択肢の5つのデメリットがある
  • 転職した人の賃金は「増加」40.8%、「減少」31.0%。上がる人が多いが、下がる人も3割いる
  • 薬剤師の需給は概ね今後10年は同程度。焦る必要はないが、長期的には供給過剰の見通し
  • 職場の融通・年収・定年・家庭の事情によっては、現状維持が正解のこともある
  • 「維持か転職か」の二択ではない。異動や昇給交渉で解決できる不満もある
  • いきなり辞めず、条件の数値化 → 統計との比較 → 現職での打ち手 → 外の評価、の順で確かめる

大切なのは、デメリットを正しく知ったうえで、自分の意思で選ぶことです。なんとなくの現状維持から、納得して選ぶ現状維持へ。あるいは前向きな一歩へ。どちらを選ぶにしても、まずは自分の状況を確かめることから始めてみてください。

※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値や推計は改定・更新される場合があります。最新の情報は厚生労働省の各ページ等でご確認ください。心身の不調が続く場合は、産業医や医療機関などの専門家にご相談ください。

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