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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「地方に移り住んで働きたい」と考えたとき、最大100万円を受け取れる国の制度があることをご存じでしょうか。地方創生移住支援事業、いわゆる移住支援金です。子どもを帯同すれば、1人あたり最大100万円がさらに加算されます。
ただし、薬剤師がこの制度でつまずくポイントははっきりしています。就業で申請する場合、対象になるのは「都道府県のマッチングサイトに掲載されている求人」に就いたときだけです。民間の転職支援会社で先に転職先を決めてしまうと、条件をすべて満たしていても対象外になることがあります。制度を知る順番を間違えると、100万円を取り逃がすということです。
この記事では、移住支援金の金額と3つの要件を公式資料にもとづいて正確に整理したうえで、薬剤師が使える要件と使いにくい要件、申請までの流れ、そのほかの支援制度までをまとめます。移住先の候補を探している方は、薬剤師の都道府県別転職ガイド|地域ごとの年収相場まとめもあわせてご覧ください。
- 移住支援金でいくら受け取れるのか(単身・世帯・子ども加算・起業)
- 移住元・移住先・就業等という3つの要件の正確な中身
- 薬剤師が最も引っかかる落とし穴と、動く順番
- 4つの就業要件のうち、薬剤師が使えるもの・使いにくいもの
- 申請の流れ、期限、返還のルール
- 移住支援金以外に確認しておきたい支援
移住支援金とは|いくら受け取れるのか
移住支援金は、2019年度から国が支援している地方創生移住支援事業のことです。一定期間以上、東京23区に住んでいた人や23区へ通勤していた人が東京圏の外へ移住し、要件を満たした場合に、移住先の市町村から支援金が支給されます。
出典:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生「地方創生支援事業『移住支援金』を解説」
内閣官房・内閣府の該当ページを開く
世帯で移住し、18歳未満の子どもが2人いる場合、単純計算で100万円に200万円が加算されます。起業支援金と組み合わせれば、支援の総額は最大300万円に達します。金額の大きさだけを見れば、薬剤師の年収1年分に近い規模です。
ただし、ここで必ず押さえておきたい前提があります。この事業は国ではなく地方公共団体が主体となって実施するもので、実施期間・支給額などの詳細は自治体ごとに異なります。「最大」の金額が必ず出るわけではありませんし、そもそも実施していない市町村もあります。移住先の候補が決まったら、その自治体が公表している情報を必ず確認してください。
「最大100万円」という数字だけが一人歩きしがちですが、実際にいくら出るかは市町村ごとに違います。私が知る範囲でも、同じ県内で金額が違うことはよくあります。候補地が絞れたら、県ではなく市町村の公式情報を見にいくのが確実です。
3つの要件を正確に押さえる
移住支援金は、次の3つすべてに該当する人が対象です。どれか1つでも欠けると受け取れません。
出典:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生「地方創生支援事業『移住支援金』を解説」。要件の細部は自治体により異なるため、必ず移住先の自治体にご確認ください。
用語を2つだけ補足します。東京圏とは、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の1都3県です。そして条件不利地域とは、過疎地域・山村・離島・半島などに関する各法律の対象地域を有する市町村(政令指定都市を除く)を指します。
見落とされやすいのが、1都3県のなかにも条件不利地域があり、そこへの移住なら対象になるという点です。東京都では檜原村・奥多摩町のほか、大島町・八丈町などの島しょ部が該当します。埼玉県の秩父市・飯能市、千葉県の館山市・鴨川市、神奈川県の山北町なども含まれます。「地方移住」と聞いて遠方だけを想像していた方は、選択肢が想像より近くにあるかもしれません。
薬剤師が最も引っかかる落とし穴|求人の探し方
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。就業で申請する場合の要件を、公式資料の表現のまま確認します。
- 移住支援金の対象として都道府県のマッチングサイトに掲載されている求人に就業すること
- または、プロフェッショナル人材事業もしくは先導的人材マッチング事業を利用して就業すること
つまり、同じ薬局に就職しても、その求人が都道府県のマッチングサイトに掲載されているかどうかで、100万円が出るか出ないかが変わります。民間の転職支援会社で紹介された求人が、たまたまマッチングサイトにも掲載されていれば対象になり得ますが、掲載されていなければ対象外です。
薬剤師の転職は、多くの人が民間の転職支援会社から始めます。だからこそこの制度は「知っていた人だけが使える」構図になりやすいのです。内定が出てから制度を知っても、原則としてやり直しはききません。
失敗しない動く順番
※公式資料で示されている要件をふまえた当サイトの整理です。実際の手続きは自治体ごとに異なります。
ポイントは3番です。マッチングサイトに薬剤師の求人があるかどうかで、そもそも戦い方が変わります。掲載が薄い県では、支援金を軸に据えるより、条件のよい求人を優先したほうが結果的に得になることもあります。求人の探し方そのものは薬剤師の求人の探し方|5つのチャネルと失敗しないコツで整理しています。
転職支援会社の担当者に「移住支援金を使いたいので、マッチングサイト掲載の求人かどうかも確認したい」と最初に伝えておくのが確実です。伝えておけば、応募前に確かめてもらえます。あとから「対象外でした」となるのがいちばんつらいので、最初の面談で口に出しておいてください。
4つの就業要件|薬剤師に使えるもの・使いにくいもの
就業等の要件は4つあり、どれか1つに該当すればかまいません。薬剤師という職業の特性から見ると、使いやすさに差があります。
※要件は公式資料にもとづきます。薬剤師との相性についての記述は当サイトの整理であり、個別の可否は自治体の判断によります。
2番目のテレワーク要件について補足します。薬局での調剤や投薬は現地でしか行えないため、この要件をそのまま使うのは難しいのが実情です。ただし、企業に勤める薬剤師や、業務の多くを在宅で行える職種なら話は変わります。どの職種がどこまで在宅で働けるかは薬剤師の在宅勤務・テレワーク完全ガイドと薬剤師がリモートで働くには|3層で見る在宅の転職先で整理しています。
4番目の起業については、薬局を開くという選択肢が現実的です。必要な許可や資金の目安は薬剤師の薬局開業の流れと費用にまとめています。ただし起業支援金は地域課題の解決に関わる社会的事業が対象であり、どこまでが該当するかは自治体の判断になります。制度ありきで計画を立てるのではなく、開業の計画が先にあって、そこに制度が使えるかを確かめる順番が安全です。
申請の流れと、5年という縛り
受け取るまでの流れは、大きく次のようになります。
※返還の要件は市町村により異なります。申請前に、返還が生じる条件を必ず書面で確認してください。
転職を考える薬剤師にとって、いちばん重いのは5年という期間です。移住先の職場が合わなかった場合でも、同じ市町村内で転職するぶんには問題ないのが一般的ですが、県外に戻る判断をすれば返還の対象になり得ます。支援金を受け取るということは、5年その地域に住む前提を引き受けるということだと理解しておいてください。
だからこそ、移住先の職場選びは通常の転職以上に慎重に行う価値があります。処方箋枚数、薬剤師の人数、通勤の実態。確認すべき項目は薬剤師の職場見学チェックリストにまとめています。移住は住む場所と働く場所を同時に変える決断なので、可能なら事前に現地に滞在して、生活の感覚を確かめてから決めてください。
100万円は大きな金額ですが、5年で割れば年20万円です。合わない職場に5年縛られる負担と比べたら、決して大きくはありません。支援金は「行きたい地域が決まっている人の後押し」として使うもので、支援金があるから移住先を決める、という順番はおすすめしません。
移住支援金以外に確認しておきたい支援
移住元の要件を満たさない人も少なくありません。23区での在住・通勤が通算5年に届かない場合、この制度は使えません。ただし、自治体が独自に設けている支援は、国の要件とは別枠で用意されていることがあります。確認しておきたいのは次のようなものです。
- 住まいに関する支援……家賃補助、住宅取得の助成、空き家バンク、公営住宅の優先入居
- 就職に関する支援……自治体独自の就職奨励金、引っ越し費用の補助
- 子育てに関する支援……医療費助成の対象年齢、保育料の軽減、出産や入学の祝い金
- 奨学金の返還支援……一定期間その地域で働くことを条件に、返還額の一部を補助する制度を設ける自治体がある
- お試し移住……短期間の滞在施設を安く借りられる仕組み。決める前に生活を体験できる
※実施の有無・内容・金額は自治体によって大きく異なります。必ず移住先の自治体が公表している情報をご確認ください。
薬剤師にとって見逃せないのが、奨学金の返還支援です。薬学部は6年制で、返還額が大きくなりやすい分野です。一定期間その地域で働くことを条件に補助する制度があれば、移住支援金より実質的な効果が大きいこともあります。
また、移住先の候補を絞る段階では、その地域に薬剤師がどれだけいるかを先に見ておくと判断しやすくなります。人口あたりの薬剤師数が少ない地域ほど求められる度合いは高く、条件面でも交渉の余地が生まれやすいためです。都道府県ごとの状況は薬剤師の都道府県別転職ガイドから確認できます。
よくある質問
まとめ
薬剤師が地方移住で使える支援制度について、要点を整理します。
- 移住支援金は単身で最大60万円、世帯で最大100万円。18歳未満の子ども1人につき最大100万円が加算される
- 実施主体は地方公共団体。支給額も実施の有無も自治体ごとに異なる
- 要件は移住元・移住先・就業等の3つ。移住元は移住直前の10年間で通算5年以上かつ直近1年以上という期間の条件がある
- 薬剤師の最大の落とし穴は就業要件。都道府県のマッチングサイト掲載の求人でなければ対象にならない
- 申請は転入後1年以内。申請後5年以上の継続居住が前提で、早期の転出は返還の対象になり得る
- 要件を満たさない場合も、住まい・子育て・奨学金返還など自治体独自の支援が使えることがある
制度は、行き先が決まっている人の背中を押すものです。順番さえ間違えなければ、移住にかかる費用のかなりの部分をまかなえます。まずは候補地の自治体が事業を実施しているか、そしてマッチングサイトに薬剤師の求人があるかを確かめるところから始めてください。地域ごとの薬剤師の需給は薬剤師の都道府県別転職ガイド、職場の種類から考え直したい方は薬剤師の転職先一覧が入口になります。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。移住支援金は地方公共団体が主体となって実施する事業であり、実施の有無・支給額・受付期間・返還の要件は自治体によって異なります。また制度の内容は年度によって変更されることがあります。申請にあたっては、必ず移住先の都道府県および市町村が公表する最新の情報をご確認ください。

