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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「静岡で薬剤師として働きたい」「地元に戻って転職したい」と考える人は少なくありません。静岡は薬剤師がやや不足ぎみの県として紹介されますが、公的統計を市ごとに見ると静岡市と浜松市でかなり事情が違います。加えて静岡には、他の地方県にはない強みもあります。
この記事では、厚生労働省の統計をもとにした静岡の薬剤師事情、静岡市と浜松市の本当の差、医薬品産業の集積という強み、年収データの読み方と職場の選び方を、現役薬剤師の目線で整理します。静岡での転職を考えるときの参考にしてください。
- 静岡の薬剤師は人口10万人あたり198.2で、全国平均210.6を下回ります
- ただし静岡市223.8は全国平均超。浜松市209.8、両市以外は185.6と大きく分かれます
- 浜松市は医師302.2が県内最多なのに薬剤師は209.8。需要に対して薄い市です
- 医薬品・医療機器産業の集積があり、地方県としては企業の受け皿が厚いのが静岡の強みです
静岡の薬剤師事情を数字で見る
まず、静岡の基本データを公的統計で確認します。厚生労働省の令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計によると、静岡県で働く届出薬剤師は8,516人。このうち薬局と医療施設で働くのは6,990人で、人口10万人あたりに直すと198.2です。全国平均210.6を6パーセントほど下回ります。
出典:薬剤師数・医師数は厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」(従業地ベース・令和6年12月31日現在)、薬局数は厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」(令和6年度末現在)。
薬局密度54.7は全国平均51.1を上回るのに、薬剤師密度198.2は下回ります。薬局の数は人口比で多いのに、そこで働く人が足りていない。1店舗あたりの人員が薄くなりやすい構造で、これが静岡で薬剤師の求人が絶えない理由です。
県内の薬学部は静岡県立大学薬学部の1校のみ。人口約353万人の県に1校というのは、人口規模に対してかなり少ない配置です。
「静岡は薬剤師が不足ぎみ」というのは、県平均で見れば正しい理解です。ただし静岡は東西に長く、県平均では見えないものがあります。次の章で、静岡市と浜松市を分けて見ていきます。
静岡市と浜松市はどう違うか
静岡には政令指定都市が2つあります。統計から市ごとの数字を出すと、この2つはかなり違う顔をしていることが分かります。
出典:厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計」の静岡県・静岡市・浜松市(指定都市の再掲)の公表値と、同統計の付表にある人口をもとに本記事で算出。両市以外は県全体から2市を差し引いて求めています。
静岡市は県内で最も薬剤師が密
静岡市の薬剤師密度223.8は、全国平均210.6を上回り、県内で最も高い数字です。県内唯一の薬学部である静岡県立大学が静岡市にあり、卒業生がそのまま市内に残りやすいことが背景にあると考えられます。求人は見つけやすい一方、条件の上乗せは期待しにくいエリアです。
浜松市は医師が県内最多なのに薬剤師は薄い
注目したいのが浜松市です。医師密度302.2は県内で最も高く全国平均267.4も上回るのに、薬剤師は209.8で全国平均をわずかに下回ります。大学病院や大規模病院が集まり医療需要は厚いのに、それを支える薬剤師が追いついていない状態です。
条件面で見ると、静岡市より浜松市のほうが交渉の余地は大きいと考えられます。「県西部の中心都市だから薬剤師も多いはず」という直感は、数字では否定されます。
2市以外は医師も薬剤師も薄い
静岡市・浜松市以外は、薬剤師185.6・医師201.6とどちらも全国平均を大きく下回ります。沼津・富士・三島といった東部、磐田・掛川・藤枝といった中西部が該当します。医療の担い手全体が薄い地域で、確保のために条件を上げる職場が出やすい一方、一人あたりの守備範囲も広くなります。
静岡市と浜松市は同じ政令指定都市ですが、薬剤師の需給は逆向きです。静岡市は薬学部があるぶん人が残り、浜松市は医療機関が多いのに人が足りない。県内で探すなら、この2つを同じ「都市部」として扱わないでください。
静岡ならではの強みは医薬品産業の集積
静岡には、他の地方県にはあまりない特徴があります。調剤や病院以外で働く薬剤師の受け皿が、地方としては比較的厚いという点です。
静岡の届出薬剤師は人口10万人あたり241.5、うち薬局・医療施設で働く人は198.2。差の43.3が製薬企業や行政機関など薬局以外で働く薬剤師にあたります(届出上の無職者を含みます)。全国平均は55.2なので届いてはいませんが、東海4県で比べると愛知40.6・岐阜30.1・三重25.8で、静岡が最も高い数字です。
背景にあるのが、県東部を中心とした医薬品・医療機器産業の集積です。静岡県は富士山麓の一帯を「ファルマバレー」と名づけて関連産業の集積を進めており、医薬品・医療機器の生産金額は長年にわたり全国トップクラスを維持しています。工場や研究拠点が県内にあることは、薬剤師にとって選択肢の広がりを意味します。
地方に住みながら製薬企業を目指せる県はそう多くありません。「地元で働きたいが調剤以外も考えたい」という人には、静岡は現実的な選択肢になります。
地方県の記事を書いていると、企業の選択肢が全国平均の半分以下という県ばかりです。そのなかで静岡は明らかに例外。東部に住んで工場や研究拠点で働くという道が現実にあります。調剤一本で考えなくていいのは、静岡の大きな強みです。
年収データをどう読むか
静岡を「薬剤師の年収が全国上位」と紹介する記事は多く、具体的な金額や順位が示されていることもあります。ただし、その数字の扱いには注意が必要です。
同じ調査でも、年が変われば数字は動く
よく引用されるのは、民間の求人サービスが厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとに集計した数字です。この調査は毎年公表されるため、1年経つと数字が入れ替わります。
分かりやすい例があります。同じ調査をもとにした薬剤師の全国平均年収は、令和6年調査では約599万円でしたが、令和7年調査では約567万円へと30万円以上下がっています。平均年齢も40.9歳から40.1歳に変わりました。全国平均がこれだけ動くのですから、都道府県別の順位はさらに大きく入れ替わります。
つまり「静岡は全国◯位、平均年収◯◯万円」という数字を見たら、まず何年の調査にもとづくものかを確認してください。1年前の数字がそのまま載っていることは、めずらしくありません。加えて、同じ調査でも「所定内給与」で計算するか「きまって支給する現金給与額」で計算するかによって、年収は数十万円単位で変わります。
順位より需給と市を見る
より安定した判断材料は需給です。静岡は薬局密度54.7が全国平均を上回るのに薬剤師密度198.2は下回るという構造で、これは年ごとに揺れません。そのうえで県内には、静岡市223.8と浜松市209.8、両市以外185.6という明確な差があります。
「静岡は年収が高い」で終わらせず、県内のどの市かまで踏み込むことが、条件を上げる現実的な道になります。
年収ランキングは、去年の数字が今年も載っていることがよくあります。私自身、過去に書いた記事を見直して古い数字が残っていたことがありました。順位を見たら調査年を確認する。これだけで判断の精度がずいぶん変わります。
働くメリットと注意点・職場の選び方
静岡で薬剤師として働くメリットと、知っておきたい注意点の両面を整理しました。
- 薬局密度54.7が全国平均超なのに薬剤師198.2は下回り、条件交渉の余地がある
- 浜松市は医師302.2が県内最多なのに薬剤師は薄く、需要に対して手薄
- 医薬品・医療機器産業の集積があり、地方としては企業の受け皿が厚い
- 政令指定都市が2つあり、求人の絶対数は地方県のなかでは多い
- 温暖な気候で豪雪への備えが不要。生活費も三大都市圏より抑えられる
- 静岡市223.8は全国平均超。市内での上乗せは期待しにくい
- 薬局が多く薬剤師が薄いぶん、1店舗あたりの負担が大きい職場もある
- 両市以外は医師201.6も薄く、一人あたりの守備範囲が広くなりやすい
- 東西に約150キロと長く、県内でも通勤圏が完全に分かれる
- 郊外や地方部は車が必須になることが多い
- 条件を狙うなら浜松市と、両市以外の中小都市を軸に検討する
- 調剤以外も考えるなら、東部の医薬品・医療機器関連の企業を視野に入れる
- 管理薬剤師など、役職手当の付くポジションを狙う
- 在宅対応など、加算の取れる業務がある職場を選ぶ
- 東西で通勤圏が分かれるため、まず生活圏を決めてから求人を見る
- 提示額だけでなく、住宅手当・車両手当まで含めて比べる
薬局が人口比で多く薬剤師が少ないということは、1店舗あたりの人員が少ない職場が混じるということです。条件のいい求人ほど、1日の処方箋枚数・在籍薬剤師数・残業の実績を必ず確認してください。とくに浜松市は医師が県内で最も多く、処方箋の発行量も相応に多いと考えられます。年収と忙しさは必ずセットで確かめましょう。
中部地方全体の傾向については中部地方の薬剤師転職ガイドでも解説しています。地元に戻る転職を考えている方は薬剤師のUターン転職ガイド、働き方を詳しく知りたい方は薬剤師の残業を減らすためのガイドもあわせてご覧ください。
静岡は東西に約150キロあって、静岡市と浜松市の間だけでも新幹線を使う距離です。「静岡県で探す」という言い方では範囲が広すぎます。まず東部・中部・西部のどこに住むかを決めてから、求人を見はじめてください。
よくある質問
まとめ
- 静岡の薬剤師は人口10万対198.2で全国平均210.6を下回る
- 薬局密度54.7は全国平均超。薬局に対して働き手が薄い構造
- 静岡市223.8は県内最多で全国平均超。薬学部があることが背景
- 浜松市は医師302.2が県内最多なのに薬剤師209.8で、需要に対し手薄
- 医薬品・医療機器産業の集積があり、地方としては企業の受け皿が厚い
- 年収の順位は調査年で動く。まず何年の調査かを確認する
静岡は、薬局に対して薬剤師が薄く条件面で有利に働きやすい県です。加えて、地方でありながら調剤以外の道も現実的に選べるという他県にない強みがあります。ただし東西に長く、静岡市と浜松市で需給が逆向きになっている点は見落とせません。県平均ではなく、住む場所と働く市を決めてから求人を比べてください。中部の他県と比べたい方は中部地方の薬剤師転職ガイド、全国と比べたい方は薬剤師の都道府県別転職ガイドもあわせてご覧ください。
- 厚生労働省「令和6年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和6年12月31日現在)
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例の概況」(令和6年度末現在)
- 厚生労働省「令和7年 賃金構造基本統計調査 結果の概況」
※本記事の統計数値は上記の公的統計にもとづき、2026年9月時点で確認したものです。静岡市・浜松市以外の人口10万対の値は、静岡県と両市の公表値および同統計の付表人口をもとに本記事で算出したものです。薬局・医療施設以外で働く薬剤師の値も同様に算出しており、届出上の無職者を含みます。医薬品・医療機器の生産金額は静岡県の公表情報および報道にもとづく傾向で、順位は年により変動します。薬学部の設置状況は各大学の公表情報で確認しています。求人数・年収・働き方の傾向はエリアや職場、時期によって異なります。年収に関する民間調査の数値は調査元・調査年・計算方法によって大きく異なるため、本記事では特定の順位や金額を掲載していません。詳細は各求人や転職支援サービスにご確認ください。

