この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
複数社に応募していると、うれしいことに内定が重なることがあります。ただ、いざ両方から内定をもらうと「どちらを選べばいいのか分からない」と悩んでしまう人も多いものです。
結論から言えば、比較は「年収」ではなく「人が辞める理由になりやすい条件」から並べるのが近道です。労働時間、休日、人間関係、収入。公的な調査で辞職理由の上位に来る項目は、裏を返せば満たされないと働き続けられなくなる条件だからです。
この記事では、複数内定が出たときに最初にすべきこと、公的データにもとづく比較項目の決め方、数字に表れない実態の見極め方、比較シートの作り方、迷ったときの決め方、そして承諾と辞退の伝え方までを整理します。
📌 この記事でわかること
- 複数内定が出たら、まず何をすべきか
- 比較すべき7つの条件項目と、確認できる法的な根拠
- 公的データで見る「人が辞める理由」から優先順位を決める方法
- 数字に表れない職場の実態を比べる視点
- そのまま使える比較シートの項目
- 承諾と辞退の伝え方、辞退の法的な位置づけ
複数内定が出たら、まず何をすべきか
複数の内定が重なったら、うれしさで即決する前に、まず落ち着いて次のことを確認しましょう。
最初に確認すること
- 各社の回答期限を確認し、比較にかけられる時間を把握する
- 各社の労働条件通知書、またはそれに準じる書面をそろえる
- 応募前に決めた「絶対に譲れない条件」を書き出して思い出す
- 一人で抱え込まず、家族やエージェントにも相談する
回答期限は「逆算して日付で」相談する
回答期限が迫っている場合は、「他の選考結果も踏まえて検討したい」と正直に伝えて相談できます。ただし、応じてもらえるかどうかは相手の採用計画次第です。「少し待ってください」ではなく、「〇月〇日までにご連絡します」と具体的な日付を自分から示すのが、相手にとっても判断しやすい伝え方です。
日付は、他の選考の結果が出る予定日から逆算して決めます。エージェント経由なら、期限の相談も代行してもらえます。
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逆算するには、まだ結果が出ていない応募先が「どの段階にいて、あとどれくらいかかるか」を知る必要があります。応募から内定までの流れと各段階の期間の目安を押さえておけば、問い合わせる相手と時期を絞り込めます。全体像は上の記事にまとめています。
複数内定で悩むのは、贅沢な悩みに見えて実はかなりのプレッシャーです。焦って決めると後悔しやすいので、まずは「比較する時間を確保すること」を最優先に動いてください。
比較も期限の相談も、間に入ってもらえます
登録は無料です。条件の内訳を確認する、回答期限を調整する、辞退の連絡を代行する。判断に集中したいときほど、任せられる相手がいると楽になります。
薬剤師向け転職エージェントのおすすめを見る比較すべき条件の項目
条件を比べるときは、次の7項目を横並びで整理すると判断しやすくなります。
令和6年4月から「変更の範囲」を書面で確認できる
上の表で3番目と4番目に挙げた項目は、以前は口頭で聞くしかありませんでした。しかし労働基準法施行規則などの改正により、令和6年(2024年)4月1日以降に締結する労働契約からは、「就業場所・業務の変更の範囲」が明示すべき事項に加わりました。
薬剤師にとって、これは大きな意味を持ちます。同じ社名でも、異動の範囲が県内なのか全国なのかで生活はまったく変わるからです。労働条件通知書に記載があるはずなので、必ず両社を見比べてください。記載が曖昧なら、その時点で確認しましょう。
出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」。なお労働条件の明示は労働基準法第15条第1項の義務です。記事末尾に原典へのリンクを掲載しています。
年収は、公的な相場を物差しにする
2社の金額を見比べるだけでは、その水準が高いのか低いのか判断できません。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師全体の平均年収は約566万7,900円です(職種別集計。きまって支給する現金給与額の月額398,700円の12か月分に、年間賞与その他特別給与額833,500円を加えて算出)。
職場の種類も年代も混ざった平均値なので、そのまま目標額にはできません。それでも「提示された金額がどのあたりに位置するか」を考える出発点にはなります。
「人が辞める理由」から優先順位を決める
7項目すべてを同じ重さで比べると、かえって決まりません。優先順位をつける手がかりになるのが、実際に人が前職を辞めた理由です。満たされないと辞めたくなる条件は、比較でも重く見るべき項目だと考えられます。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」転職入職者の状況(表5)。全産業の数値であり、薬剤師に限定した集計ではありません。「その他の個人的理由」「定年・契約期間の満了」など本人の希望以外の区分は除いて抜粋しています。
注目したいのは、男性は収入、女性は労働時間や休日が上位に来ている点です。人間関係はどちらでも高い位置にあります。年収の差が小さいなら、労働時間と休日で比べたほうが、辞めたくなるリスクを下げられる可能性があります。逆に、いまの不満が収入なら、そこを最優先にしても構いません。
年収の差が月に数千円という比較で悩む人をよく見かけます。その一方で、年間休日が10日違っても気づいていない。長い目で見れば、休日数や異動の範囲のほうが生活への影響は大きいことが多いです。
数字に表れない、職場の実態を比べる視点
条件を並べるだけでなく、実際の職場の様子も、可能な範囲で比較材料に加えましょう。
実態を見極める視点
- 面接での担当者やスタッフの様子はどうだったか(質問への答え方も含めて)
- 職場見学ができるなら、忙しい時間帯に見せてもらう
- 処方箋の枚数と、薬剤師と事務の人数配置の関係
- 直近の欠員状況と、いま募集している理由
- エージェント経由なら、担当者が把握している範囲の情報を確認する
「なぜ今この求人が出ているのか」は、聞いてよい質問です。増員なのか、欠員の補充なのか。答えが具体的かどうかで、職場の姿勢も見えてきます。
条件面が同じくらいであれば、最終的には「その職場で気持ちよく働けそうか」という感覚も大切な判断材料です。数字と感覚、両方のバランスで決めることをおすすめします。
比較シートの作り方
頭の中だけで考えず、書き出して整理するのが確実です。次の項目で表を作れば、どこで差がついているかが一目で分かります。
記入するときのコツは、月額ではなく年間の総支給額で並べることです。賞与の月数が違うと、月給が高いほうが年収では下回ることがあります。固定残業代も、含まれている時間数まで書き出さないと比較になりません。
最後の行「絶対条件を満たしているか」で片方が満たしていなければ、そこで判断は決まります。まずこの行から埋めてみてください。
私は紙に手書きで表を作りました。書いているうちに「あ、こっちは確認できていない項目がある」と気づけるのが大きい。空欄が残ったら、それがそのまま質問リストになります。
迷ったときの決め方
比較シートを作っても、それでも決めきれないことはあります。そんなときは、次の考え方を参考にしてください。
迷ったときのヒント
- 「なぜ転職したいと思ったのか」という最初の動機に立ち返る
- 3年後、5年後にどちらの職場でどんな自分になっていたいかを考える
- どちらを選んでも後悔しそうな点を書き出し、耐えられるほうを選ぶ
- 後戻りしやすいほうを選ぶ、という考え方もある
- 信頼できる第三者に、客観的な意見をもらう
それでも決まらないときの3つの問い
最後は、次の3つに一言ずつ答えてみてください。理屈で並べても動かなかった判断が、意外とここで固まります。
- ① 断ったほうを、半年後に思い出して悔しくなるのはどちらか
- ② いまの不満が、確実に解消されるのはどちらか
- ③ 家族や親しい人に説明したとき、自分が納得して話せるのはどちらか
とくに②は重要です。転職の目的が果たされない選択なら、条件が良くても長続きしません。転職理由に立ち返ることは、迷ったときの強力な判断軸になります。
迷いが消えないときは、条件が拮抗している証拠でもあります。つまり、どちらを選んでも大きくは外していない。そう思えると、決断のハードルは下がります。
承諾・辞退の伝え方
決断が固まったら、承諾する相手には感謝を伝え、辞退する相手には早めに丁寧な連絡をしましょう。
伝え方のポイント
- 承諾する相手には、内定への感謝と入職への意欲を伝える
- 辞退する相手には、選考いただいたことへの感謝を先に述べる
- 辞退理由は「一身上の都合」で十分。他社名を伝える義務はない
- 辞退の連絡は電話が基本。つながらない場合はメールで先に伝え、改めて電話する
- エージェント経由の場合は、担当者に結果と辞退の意向を伝えれば代行してもらえる
辞退の連絡は気が重いものですが、決めた時点でできるだけ早く伝えることが、相手への一番の配慮になります。企業は辞退が分かった時点で後任の採用を再開しなければならないためです。
承諾したあとでも、辞退はできる
万一、承諾したあとに気持ちが変わった場合はどうなるのでしょうか。承諾後は労働契約が成立した状態になりますが、辞退はできます。民法第627条第1項は、雇用の期間を定めなかった場合、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、申入れの日から2週間の経過によって雇用が終了すると定めています。
ただし、入職の直前など相手に具体的な負担が生じている段階での辞退は、損害賠償が問題になる可能性が指摘されています。だからこそ、承諾する前に十分に比較しておくことが大切です。
承諾したら、次の段取りへ
承諾の連絡をしたら、そこからは入職日から逆算した段取りが始まります。退職の申し出、有給休暇の消化、入職書類の準備、保険薬剤師登録の確認。やることは多いのですが、順番どおりに進めれば確実にこなせます。全体の手順は上の記事にまとめています。
辞退の電話は、実際にかけてみると1分程度で終わります。「ご連絡が遅くなり申し訳ありません」と言わずに済むよう、決めたその日にかけてしまうのが結局いちばん楽です。
よくある質問
まとめ
最後に、この記事の要点を整理します。
- まず回答期限を確認し、他の選考の結果から逆算して具体的な日付を自分から示す
- 比較は7項目。とくに令和6年4月から明示事項になった「就業場所・業務の変更の範囲」を見る
- 優先順位は「人が辞める理由」から逆算する。労働時間・休日・人間関係・収入が上位
- 年収は月額ではなく年間の総支給額で比べ、公的な相場(約566万7,900円)を物差しにする
- 数字に表れない実態も、職場見学や「なぜ今募集しているか」の質問で確かめる
- 比較シートは「絶対条件を満たしているか」の行から埋める
- 辞退の連絡は決めたその日に。承諾後でも辞退はできるが、負担が生じる前に判断する
複数内定で迷うのは、それだけ選択肢に恵まれているということでもあります。焦らず、比較の視点を整理しながら、納得のいく決断をしてください。
出典・参考(いずれも2026年9月時点で確認)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。回答期限の調整可否や条件は応募先により異なります。法令の解釈や個別の事案については、所轄の労働基準監督署または専門家にご相談ください。

