この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「書くことが好き」「薬の知識を文章で生かしたい」。そう考えたときに候補に挙がるのがメディカルライターです。医薬品や医療の文書を書く仕事で、薬剤師の知識がそのまま武器になります。
先に結論をお伝えします。この仕事に必須の資格はなく、文章の経験がなくても入り口はあります。採用側が本当に求めているのは、書ける人ではなく、書いてよい表現の線引きができる人だからです。医療の文章は薬機法や広告のルールに縛られており、その判断ができる人は多くありません。
ただし求人の総量は多くありません。だからこそ、狙う領域を先に絞り、書いたものを1本用意しておくかどうかで結果が変わります。この記事では、2つの領域の違い、必要なスキル、4つのルート、そしてサンプルの作り方までを実務の順番で整理します。
この記事でわかること
- メディカルライターの2つの領域と、読み手の違い
- 薬剤師が評価される理由。薬機法の線引きという具体的な価値
- 必要な4つのスキルと、いまの職場で準備できること
- なるための4つのルートと、進める順番
- 文章サンプルの作り方と、年収の考え方
メディカルライターの2つの領域
同じ職種名でも、仕事の中身は大きく2つに分かれます。読み手が違えば、求められる力も入り口も変わります。ここを最初に決めないと遠回りになります。
専門文書系は治験や承認申請に深く関わるため、書式も手順も厳密に決まっています。記事・資材系は薬機法や広告のルールを守りながら、わかりやすく伝える力が問われます。どちらもフリーランスとして受注する働き方があります。
冷静に見ておきたい数字もあります。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、医薬品関係企業に従事する薬剤師は34,184人で、前回調査から2,902人減っています。企業側の薬剤師枠そのものが広がっているわけではありません。準備を整えて、少ない枠に臨む前提で動いてください。
治験報告書を書く仕事と、一般向けの記事を書く仕事はまるで別物です。まず「専門家向けか、一般向けか」をはっきりさせてください。入り口も求められる力も違うので、ここがぶれると応募先が定まりません。
薬剤師が評価される本当の理由
「医薬品の知識があるから」では説明として弱いので、採用側の視点で分解します。薬剤師が持ち込める価値は3つあります。
「線引きができる」とは具体的にどういうことか
抽象的に聞こえるので、実例を挙げます。医療機関の広告では、載せてよい事項が法令やガイドラインで定められています。薬剤師の専門性に関する資格についていえば、医療広告に記載できるのは「がん専門薬剤師」と「緩和医療専門薬剤師」の2つだけです(厚生労働省、令和5年2月17日時点)。
つまり、記事に監修者の肩書きを載せるとき、どの資格名なら書けるのかを判断できる必要があります。研修認定薬剤師を広告として掲げることはできません。こうした判断を社内でできる人がいるかどうかは、医療に関わる事業にとって小さくない問題です。
加えて、薬機法は2025年5月21日に改正法が公布され、段階的に施行されています。制度が動いている領域だからこそ、最新の内容を追える人が求められます。現場で日々ルールに触れている薬剤師は、この点で有利です。
「文章を書いた経験がないから無理」とあきらめる方が多いのですが、もったいないです。採用側が欲しいのは、医薬を正しく理解していて、危ない表現を止められる人。文章の技術は後から伸ばせます。
必要な4つのスキルと、いま準備できること
右の列がこの表の要点です。4つとも、転職する前に今の職場で始められます。とくに1つ目は効果が大きく、書いたものがそのまま応募材料になります。学校に通う必要も、講座を受ける必要もありません。
2つ目については、日常業務で触れている範囲を意識的に言語化しておくと面接で使えます。「この表現は景品表示法に触れるので変えた」といった具体例が1つあるだけで、線引きができる人だと伝わります。
文章力を上げる近道は、書いて寝かせて直すことです。書いた直後は粗が見えません。一晩おいて読み返すと、自分でも驚くほど直したくなります。これを3本繰り返すだけで、だいぶ変わります。
なるための4つのルート
入り口は1つではありません。働き方の希望に合わせて選びます。
おすすめの順番は、4つ目から2つ目、そして1つ目です。いきなりフリーランスを目指すのは避けたほうが無難です。最初は企業や媒体で書き方の型と業界のルールを学ぶほうが、単価も信頼も上がりやすくなります。
専門文書系を目指す場合、医薬品開発業務受託機関で規制文書の経験を積んでから製薬会社へ移る道もあります。最初は年収が下がることもありますが、その後の選択肢を広げる入り口として選ぶ人がいます。判断の前に、3年後にどうなるかまで確認してください。
現職で書く機会を取りにいくのは、費用がかからないうえに適性も確かめられます。勉強会の資料づくりを引き受けるだけでも、構成を考える練習になります。合わないと気づけたら、それも収穫です。
文章サンプルの作り方
どのルートでも、自分の書いた文章を見せられるかどうかで結果が変わります。未経験ならなおさらです。1本でよいので用意してください。
分量は2,000字程度で十分です。大切なのは長さではなく、根拠を示せているか、危ない表現を避けられているかです。この2点は、まさに採用側が薬剤師に期待している部分です。文章の上手さで勝負する必要はありません。
公開する場所は、個人のブログでも構いません。実名でなくても、書いたものを渡せる形にしておけば足ります。応募時に添付するか、面接に持参してください。
サンプルを用意している応募者は、実際そう多くありません。1本あるだけで印象が変わります。完璧を目指さず、まず1本仕上げてください。2本目からは驚くほど早く書けます。
年収はどう考えるか
この職種の年収として具体的な数字を見かけることがありますが、多くは求人サイトに一時的に載っていた例です。メディカルライターだけを対象にした公的な年収統計は存在しません。相場として受け取らないほうが安全です。
基準になるのは薬剤師全体の平均です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では566万7,900円でした。前年の調査では599万3,200円だったため、全国平均そのものが1年で下がっています。提示額を見るときは、この数字と自分の現在の年収の両方を横に置いてください。
未経験から入る場合、初年度は下がる提示もありえます。調剤薬局は働けば毎月ほぼ同額ですが、企業は賞与の比率が高い会社もあります。確実にもらえる部分と変動する部分の分かれ方を聞かずに入ると、想像と手取りがずれます。
高い数字が並ぶ求人ほど、内訳を聞いてください。役職者の上限が書かれているだけ、ということもあります。聞いて嫌がられる会社なら、入ってからも同じ調子です。
よくある質問
まとめ
薬剤師がメディカルライターを目指すときの要点を整理します。
- 領域は専門文書系と記事・資材系の2つ。入り口も求められる力も違うので、先に決める
- 評価されるのは文章の上手さではなく、書いてよい表現の線引きができること
- 必要な4つのスキルは、いまの職場で準備を始められる。まず文章を1本仕上げる
- 企業の薬剤師枠は34,184人で前回比2,902人減。準備を整えて少ない枠に臨む前提で動く
まずは読み手を1人決めて、担当している薬について2,000字書いてみてください。根拠を示し、危ない表現を避ける。この2点さえ守れていれば、それが応募の材料になります。求人が出たときにすぐ動けるよう、情報を持つ窓口も早めに確保しておきましょう。
この記事で参照した公的情報
- 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(医薬品関係企業の従事者数)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和7年調査・薬剤師の平均年収)
- 厚生労働省「令和7年の薬機法等の一部改正について」
- 厚生労働省「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名」(令和5年2月17日)、医薬品医療機器等法
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。

