この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「薬剤師の初任給はいくら」と調べると、24万円、30万円、33万円とばらばらの数字が出てきます。どれが正しいのか分からなくなった経験はないでしょうか。
この差は、データが古いせいではありません。「初任給」という言葉が指している中身が、そもそも違うからです。公的統計の金額、求人票の初任給、基本給。この3つは別のものを数えています。
もう1つ知っておいてほしいことがあります。20代前半から後半にかけて、薬剤師の平均年収は約86万円上がります。これは全年代で最も大きな伸びです。初任給の数万円の差より、この伸びをどう取るかのほうが効きます。この記事では、公的データで言えることと、求人票の読み方を整理します。
この記事でわかること
- なぜサイトごとに金額が違うのか。3つの「初任給」の違い
- 公的データで確認できる薬剤師の20代の年収
- 職場別の違いを、自分で調べるための手順
- 額面と手取りの差、2年目に下がる理由
- 求人票の初任給を読み解くチェックリスト
数字が割れる理由|3つの「初任給」
まず、言葉の整理からです。世の中で「初任給」と呼ばれているものには、少なくとも3種類あります。
サイトによって24万円にも33万円にもなるのは、この3つを区別せずに並べているからです。比べるべきは金額そのものではなく、同じ種類の数字どうしです。
実務上いちばん大事なのは3つ目です。基本給は賞与や退職金の算定の土台になるため、ここが低いと数年後に効いてきます。提示額が高くても、内訳で基本給が小さい求人には注意が要ります。
私も就活のとき「初任給30万円」の求人に飛びついて、あとで固定残業代込みだったと気づいた一人です。金額より「その数字に何が入っているか」を見る習慣をつけると、入職後のずれがかなり減ります。
公的データで確認できること
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査による、薬剤師の年代別の平均年収です。ここに出てくる金額は、きまって支給する現金給与額の12か月分に年間賞与その他特別給与額を加えたものです。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」。20歳から24歳の月額は約33.7万円で、これは残業代や手当を含んだ支給額です。
この表でまず見てほしいのは、20代前半が全年代で最も低いという点です。これは薬剤師の給与が低いという意味ではなく、6年制の課程を出て入職するため、この区分に1年目が集中し、賞与が満額つかない時期を含むからです。
そして2行目です。20代前半から後半にかけての約86万円という伸びは、全年代を通じて最も大きな変化です。25歳から29歳の494万7,600円は、30歳から34歳への伸び(約38万円)よりはるかに大きい。つまり最初の5年で、金額は大きく動きます。
1年目の給与明細を見て「思ったより少ない」と感じる方は多いです。でも2年目、3年目で賞与が満額つくようになると景色が変わります。最初の1年だけで判断しないでください。
職場別の違いは、どう調べればよいか
最初に正直に書いておきます。薬剤師の初任給を職場の種類別に集計した公的統計は存在しません。「調剤薬局は◯万円、病院は◯万円」という数字を見かけますが、その多くは求人サイトに一時的に載っていた例を集めたものです。年度が変われば動きます。
代わりに、公的データで言えることが1つあります。同じ調査で、勤務先の規模によって平均年収に差があることが示されています。
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」。全年代を含む平均であり、初任給ではありません。
この表が示すのは、大きい会社ほど給与が高いとは限らないということです。「大手だから安心」という前提は、少なくとも金額の面では成り立ちません。
職場別の傾向を自分で確かめる手順
誰かがまとめた相場を探すより、自分で3社ぶん集めるほうが正確です。手順は次のとおりです。
この4ステップで並べると、月額では負けていた会社が総額で上回ることがよくあります。とくに賞与の月数は差が大きく、月額の1万円より年間の1か月分のほうが効くことも珍しくありません。
「調剤は◯万円、病院は◯万円」という相場表は便利に見えますが、根拠をたどれないものが多いです。自分の希望する地域で3社集めるほうが、よほど正確な相場になります。
額面と手取りの差、2年目に下がる理由
求人票や統計に出てくるのは額面です。実際に振り込まれる手取りは、ここから所得税、社会保険料などが引かれます。目安は額面のおよそ75から85パーセントです。
扶養の有無、加入している健康保険、住んでいる自治体などによって変動します。正確な金額は勤務先の担当者にご確認ください。
もう1つ押さえておきたいのが2年目です。住民税は前年の所得に対してかかるため、入職1年目は引かれません。2年目の6月から加わり、その分だけ手取りが下がります。昇給しているのに手取りが減ったように見えるのは、これが理由です。
ひとり暮らしの予算を組むときは、額面ではなく手取りで考えてください。さらに2年目に住民税が乗ることまで見込んでおくと、家賃の設定で失敗しにくくなります。
2年目の6月に「なぜか手取りが減った」と驚く方が毎年います。住民税が始まっただけなので心配は要りませんが、知らないと不安になります。先に知っておいてください。
求人票の初任給を読み解くチェックリスト
提示額が高い求人ほど、内訳の確認が要ります。次の5点を聞いてください。
よくある行き違い
「初任給32万円」に惹かれて入職したら、うち6万円は固定残業代40時間分。基本給は26万円で、賞与もその基本給を基準に計算されていた。月額では高く見えても、年間では下回ることがあります。
5つ目は特に大事です。20代前半から後半にかけての伸びは約86万円で、初任給の差より桁が大きくなります。いま1万円高いかどうかより、3年後にどう上がるかを聞いてください。
内訳を聞くのは失礼ではありません。むしろ、聞いて嫌がるような会社なら、入ってからも同じ調子です。答えてくれるかどうか自体が、判断材料になります。
よくある質問
まとめ
薬剤師の初任給について、要点を整理します。
- 金額が割れるのは、公的統計の支給額・求人票の提示額・基本給の3つが混ざっているため
- 20歳から24歳の平均は408万3,700円(月額約33.7万円)。全年代で最も低い区分
- 職場別の初任給を集計した公的統計はない。自分で3社並べて比べるほうが正確
- 手取りは額面の約75から85パーセント。2年目の6月から住民税が加わる
初任給の数万円の差は、その後の伸びに比べれば小さな差です。20代前半から後半にかけての約86万円の上がり幅を、どの環境で取るか。そこを基準に選ぶほうが、結果的に納得できる判断になります。
この記事で参照した公的情報
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和7年調査・年齢階級別および事業所規模別)
- 政府統計の総合窓口(賃金構造基本統計調査の原表)
- 所得税法、地方税法(住民税の課税の仕組み)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。

