この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「福井県で薬剤師として転職したい」「求人や働き方の事情はどうなんだろう」。福井県は、人口あたりの薬剤師数が全国で2番目に少ない県です。薬剤師を求める職場は多く、転職のチャンスがある一方、少ない人数で医療を支えている地域でもあります。2024年には北陸新幹線が敦賀まで延び、首都圏からの移動も便利になりました。
この記事では、福井県の薬剤師の需給を最新の公的統計で確認したうえで、年収データの読み方、女性が働き続けやすい環境を示すデータ、県外から移る人が使える奨学金返還支援制度、嶺北と嶺南のエリア別の特徴、転職を成功させるポイントを整理します。数字はすべて出典へのリンクを記事末にまとめました。
この記事でわかること
- 福井県の人口10万人あたり薬剤師数は170.4人・全国46位で、全国平均210.6人を大きく下回る(令和6年)
- 薬局も全国43位と少なく、1軒あたりが担う人口が全国より重い構造
- 福井市を除いた県内は全国最少の県をも下回る計算になり、市外ほど条件が上がりやすい
- 県外から移る薬剤師が使える奨学金返還支援制度(薬学部6年制は上限150万円)の要件と落とし穴
- 嶺北・嶺南の求人傾向と、年収と業務量のバランスを見極める手順
福井県の薬剤師需給を数字で確認する
福井県の転職市場を理解するうえで、出発点になるのが薬剤師の少なさです。厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、福井県で薬局・医療施設に従事する薬剤師は1,259人、人口10万人あたりでは170.4人でした。全国平均は210.6人ですから、4割ほど少ない計算です。
※薬剤師数は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(薬局・医療施設の従事者)、薬局数は「令和6年度衛生行政報告例」、病院数は「令和6年医療施設(動態)調査」による。順位は当サイトが公表値をもとに集計。
薬剤師の少なさは全国で2番目
170.4人という数字は、47都道府県のなかで46位にあたります。同統計の本文でも、最も少ないのが沖縄県の155.3人、次いで福井県の170.4人と名指しで記載されています。言い換えると、薬剤師1人が支える人口は福井県で約587人。全国平均が約475人ですから、およそ1.2倍の人口を1人で担っている計算になります。
薬局も少なく、1軒あたりの負担が重い
薬局の数も多くありません。厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」によると、福井県の薬局は335施設、人口10万人あたり45.3施設で全国43位。全国平均51.1施設を下回っています。薬局1軒あたりが担う人口を計算すると福井県は約2,206人で、全国平均の約1,959人より1割ほど重い数字になります。
一方で病院は多く、人口10万人あたり9.1施設と全国平均6.5施設を上回ります。病床数でみても人口10万人あたり1,351.3床で、全国平均1,187.3床より多い水準です。「医療の受け皿は厚いのに、薬剤師と薬局は少ない」というのが福井県の基本構造で、これが一人あたりの業務量が増えやすい理由になっています。求人の年収が高めに見えるときは、この背景まで含めて読むのが大切です。
北陸3県で福井だけが薬学部を持たない
薬剤師が少ない背景には、養成の場がないことがあります。北陸3県のうち、富山県には富山大学薬学部、石川県には金沢大学と北陸大学の薬学系学部があります。県内に薬学部があると卒業生の一定割合がその県に残るため、供給が安定しやすくなります。福井県には薬学部がなく、新しい薬剤師をすべて県外に頼る構造です。
同じ北陸でも、石川と福井では薬剤師の密度が2割近く違います。福井で「採用に苦労している」という声が多いのは、感覚ではなく数字に裏づけられた話です。転職する側から見れば、条件を交渉しやすい環境だといえます。
福井市に集中し、市外はさらに手薄になる
県全体の数字だけでは見えない偏りもあります。同じ統計を市町村単位まで見ると、福井県で働く薬剤師1,259人のうち571人、およそ45%が福井市に集まっています。県の人口に占める福井市の割合は約34%ですから、人口の比率以上に薬剤師が集中していることになります。
※全国平均・福井県・福井市の数値は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表10による。「福井市を除く県内」は、同統計表9の薬剤師数と付表の人口から当サイトが試算した参考値。
福井市だけを見れば224.8人と全国平均を上回っており、都市部と大きく変わりません。ところが福井市を除いて計算すると、人口10万人あたり約142人まで下がります。これは全国で最も少ない沖縄県の155.3人をも下回る水準です。坂井・越前・鯖江といった嶺北の周辺部や、敦賀・小浜などの嶺南は、統計上きわめて薬剤師が手薄な地域だとわかります。
求人条件がエリアで変わるのは、この偏りが理由です。福井市には薬剤師が集まりやすいため、条件を上げなくても採用できます。反対に市外の職場は、条件を上げなければ人が来ません。年収を重視するなら、まずここを押さえておくと探し方が決まります。
県の順位だけで判断すると実態を読み違えます。福井市は全国平均並み、市外は全国最低水準。この落差が、求人の条件差をつくっている正体です。福井市に住みながら市外の職場に通う、という選び方も現実的です。
福井県の薬剤師年収をどう読むか
福井県の薬剤師年収については、「全国平均より高い」とする調査も「低い」とする調査もあります。順位だけを追いかけると混乱するので、数字の性質から理解しておくのが確実です。
都道府県別の年収は年ごとに大きく振れる
よく引用されるのが厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」です。ただしこの調査は薬剤師だけを対象にしたものではなく、都道府県まで細かく分けると対象となる人数がかなり少なくなります。そのため、たまたま調査対象になった職場の顔ぶれによって、平均値も順位も年ごとに大きく動きます。
実際、同じ調査から計算した薬剤師の全国平均年収は、令和6年調査で約599万円、令和7年調査で約567万円と、1年で30万円以上下がっています。都道府県別に至っては、上位に来る県が年によって入れ替わるほどの変動があります。ある年の順位を「福井県の実力」と受け取るのは危険だということです。
条件が上がりやすい構造は変わらない
一方で、需給の構造は年ごとにぶれません。薬剤師が全国46位、薬局も全国43位という状態が続いている以上、人を採りたい職場は条件で応えるしかありません。特に福井市の外では、住宅手当や社宅、車の維持費補助といった形での上乗せが出やすくなります。年収ランキングよりも、この構造を根拠に交渉するほうが現実的です。
比べるときは、額面ではなく実質で並べます。年間休日数、薬剤師の在籍人数、処方箋の枚数、残業の実績、住宅手当、車の維持にかかる費用。福井県は車での移動が前提の地域が多いため、ガソリン代や駐車場の扱いが手取りの実感を左右します。
「福井は年収◯位」という情報を見かけたら、まず何年の調査かを確認してみてください。1年で全国平均が30万円動く調査なので、順位そのものにはあまり意味がありません。自分が通える範囲の求人を3件並べて、手当込みで比べるほうが正確です。
女性が働き続けやすい環境がデータに出ている
薬剤師は女性が6割を超える職業です。その意味で、福井県には数字で裏づけられた強みがあります。総務省「令和4年就業構造基本調査」の福井県結果の概要によると、生産年齢人口の有業率は81.6%で全国1位、そのうち女性の有業率は77.7%でこちらも全国1位でした。育児をしている女性の有業率も83.3%で全国7位です。
この数字が意味するのは、働き続ける女性が地域の標準になっているということです。保育や学童の受け皿、家族の理解、職場の慣行が「共働き前提」で回っている地域では、産休や育休を取ったあと戻りやすくなります。転職先を選ぶときに、時短勤務の実績や復帰後の配置がどうなっているかを聞きやすい土壌があるのは、実務上の大きな違いです。
「女性が働きやすい」という言葉はどの地域の求人にも書いてありますが、県全体の有業率が全国1位というのは客観的な裏づけです。長く働くつもりで転職するなら、この点は年収と同じくらい重視していい要素だと思います。
福井県で働くメリットと注意点
ここまでの内容を、働く側の視点で整理します。
福井県で働くメリット
- 薬剤師が全国46位の少なさで採用ニーズが強い/条件面で応えようとする職場が多く、交渉の余地がある
- 市外ほど条件が上がりやすい/福井市を除くと全国最低水準の密度になり、住宅手当つきの求人も出やすい
- 女性の有業率が全国1位/共働きが標準の地域で、産休や育休のあとに戻りやすい土壌がある
- 県外から移る人向けの支援制度がある/奨学金の返還を最大150万円まで支援する制度が用意されている
- 幅広い業務を任されやすい/人数が限られるぶん、在宅や無菌調剤など経験を広げられる職場もある
知っておきたい注意点
- 一人あたりの業務量が重くなりやすい/薬剤師1人が支える人口は全国平均の約1.2倍、薬局1軒あたりも約1.1倍
- 求人の総数は限られる/薬局335施設と規模が小さく、選択肢の数では都市部にかなわない
- 福井市内は条件が控えめになりやすい/薬剤師が集まりやすいエリアのため上乗せが出にくい
- 車での移動が前提の地域が多い/通勤時間と車の維持費まで含めて計算する必要がある
- 年収ランキングは年ごとに振れる/調査年を確認せずに順位だけを信じない
高めの年収には理由があります。福井の場合、その理由の多くは「人数が少ないぶん一人が担う範囲が広い」ことです。それを成長の機会と捉えられるか、負担と感じるかで評価が変わります。面接では処方箋枚数と薬剤師の人数を必ず聞いてください。
県外から移る人が使える奨学金返還支援制度
見落とされがちですが、県外から福井県へ移って働く人向けに、奨学金の返還を支援する制度があります。福井県の「UIターン奨学金返還支援制度」で、県が公開している募集要領によると、薬学部(6年制)や医学部、大学院の卒業者は上限150万円まで支援を受けられます。それ以外の課程は上限100万円です。
※福井県「UIターン奨学金返還支援」募集要領による。募集時期・定員・要件は年度により変わるため、申請前に必ず県の最新の案内を確認してください。公務員として働く場合は対象外です。
最大の落とし穴:申請のタイミング
募集要領には、就業する前・福井県へ移る前に申請して認定を受けなければ支援は受けられないと明記されています。転職してから知って申請しても間に合いません。福井県への転職を少しでも検討しているなら、求人を探し始める段階で制度の有無と募集時期を確認しておくことが重要です。
150万円は、年収に換算すれば数年分の差になる金額です。それなのに「入職前に申請」という条件があるせいで、知らずに取り逃がす人が出てしまいます。奨学金を返済中で福井が候補にあるなら、求人探しと同じタイミングで県の窓口に確認しておいてください。
▶ あわせて読みたい
エリア別の特徴(嶺北・嶺南)
福井県は、県の北側にあたる嶺北と、南側の嶺南に大きく分かれます。木ノ芽峠を境に生活圏も交通も分かれており、求人の性格も変わります。
福井市(求人が最も多く、条件は控えめ)
県庁所在地の福井市には、県内で働く薬剤師のおよそ45%が集まっています。大学病院を含む中核的な医療機関があり、調剤薬局・病院・ドラッグストアと選択肢が広いエリアです。薬剤師の密度が全国平均を上回っているため、条件面の上乗せは控えめになりやすい傾向があります。生活の利便性や通勤時間を優先する人に向いています。
坂井・越前・鯖江など嶺北の周辺部
福井市の周辺に位置し、地域に根ざした薬局が中心のエリアです。在宅医療への対応を進める薬局も多く、幅広い経験を積みやすくなります。福井市から車で通える範囲に含まれる職場も多いため、住まいを変えずに条件だけ上げたい人にとって現実的な選択肢になります。
敦賀・小浜など嶺南
嶺南は薬剤師の確保がとくに難しい地域で、そのぶん条件のよい求人が出やすいエリアです。北陸新幹線の敦賀延伸によって首都圏や関西との行き来がしやすくなった一方、県内でも福井市までは距離があります。地域医療を支える中心的な役割を担いやすく、少人数で幅広い業務をこなす環境になりがちです。応募前に薬剤師の在籍人数と当番の頻度を確認しておきましょう。
嶺北と嶺南は、同じ県内でも通勤で行き来する距離ではありません。どちらで暮らすかを先に決めてから求人を見ないと、条件だけで選んで生活が回らなくなります。まずは住む場所を決める。これが福井では特に大事です。
▶ あわせて読みたい
福井県で転職を成功させる4つの手順
順番に進めれば迷いにくくなる手順を紹介します。
① 嶺北か嶺南か、住む場所を先に決める
福井県は嶺北と嶺南で生活圏が分かれています。求人条件から入るのではなく、まず暮らす場所と通勤にかけられる時間を決めてください。そのうえで通える範囲の市町を書き出すと、現実的な候補だけが残ります。県外から移る場合は、冬の道路事情も確認しておくと安心です。
② 使える支援制度を先に調べる
県外から移るなら、奨学金返還支援制度を求人探しと同時に確認します。就業前の認定が必要なため、内定を取ってから調べるのでは遅くなります。市町が独自に用意している移住支援や住宅補助もあるので、候補の市町が絞れた段階でその自治体の窓口も見ておくと取りこぼしがありません。
③ 年収と業務量をセットで確認する
福井県は薬剤師1人が支える人口が全国平均の約1.2倍です。年収が高い求人ほど、その裏に業務量の重さがある可能性を考えてください。1日あたりの処方箋枚数、常勤薬剤師の人数、残業の実績時間、在宅の訪問件数。この4つを聞けば、忙しさの実態はかなり正確につかめます。
④ 求人数が限られるぶん、相談先を複数持つ
福井県は薬局335施設と規模が小さく、1つの窓口で見える求人には限りがあります。地域の事情に詳しい転職エージェントを複数使うと、公開されていない求人や職場の内情まで比べやすくなります。県の薬剤師会や病院薬剤師会が就職相談に対応している場合もあるため、公的な窓口とあわせて使うのが有効です。
よくある質問
まとめ
福井県での転職を考えるうえでの要点を整理します。
- 人口10万人あたり薬剤師数は170.4人・全国46位。全国で2番目に少ない(令和6年)
- 薬局も全国43位と少なく、薬剤師1人が支える人口は全国平均の約1.2倍
- 福井市に約45%が集中し、市外は全国最少の県を下回る計算。市外ほど条件が上がりやすい
- 女性の有業率は全国1位で、働き続けやすい環境がデータに出ている
- 県外から移るなら奨学金返還支援制度(薬学部6年制は上限150万円)。就業前の申請が必須
- 年収ランキングは年ごとに振れるため、需給の構造を根拠に手当込みで比べる
福井県は、薬剤師が全国で2番目に少ないという明確な追い風があるエリアです。そのぶん業務量にも目を向けながら、住む場所と使える制度を先に固めて、自分の希望に合った職場を選んでいきましょう。
出典・参考資料
この記事で使用した数値の出典です。いずれも公的機関が公表している一次情報です。
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(薬剤師数・人口10万対薬剤師数・市町村別の内訳)
- 厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対薬局数・前年度比)
- 厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」(病院数・病床数・人口10万対の各数値)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(薬剤師の平均年収の年次変動)
- 福井県「令和4年就業構造基本調査 福井県結果の概要」(有業率・女性の有業率の全国順位)
- 福井県「UIターン奨学金返還支援 募集要領」(補助上限・対象要件・申請時期)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は各調査の公表時点のものであり、順位は公表値をもとに当サイトが集計しています。「福井市を除く県内」および1人あたり・1軒あたりの人口は公表値からの試算による参考値です。支援制度の要件・募集時期は年度により変わるため、必ず県の最新の案内をご確認ください。求人状況や年収は時期・調査により変動します。

