この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
電子薬歴、電子処方箋、オンライン服薬指導。日々使っているこれらの仕組みは、どこかの会社が作っています。その「作る側・広める側」に回るのが、ヘルスケアの情報技術分野への転職です。
先に結論をお伝えします。薬剤師が応募できる職種の多くは、プログラムを書ける必要がありません。開発は技術者が担うため、薬剤師には現場を説明する役割が期待されます。ただし求人の総量は多くありません。だからこそ、狙う職種を絞り、調剤の経験を採用側に伝わる言葉に置き換えることが成否を分けます。
この記事は「未経験からどう入るか」に絞った実践編です。職種ごとの必要条件、書類での翻訳のしかた、企業の見極め方、年収の読み方までをまとめました。分野全体の市場規模や制度の動きは、デジタルヘルス転職の記事で整理しています。
この記事でわかること
- ヘルスケアの情報技術分野とは何か、現場がどこまでデジタル化したか
- 薬剤師が応募できる職種と、それぞれに必要なもの
- なぜ薬剤師が求められるのか。制度面での根拠
- 未経験から入る4ステップと、経験の翻訳のしかた
- 年収の読み方、企業の見極め方、向き不向き
ヘルスケアの情報技術分野とは
医療や健康の課題をデジタルの力で解決する分野の総称です。電子薬歴、電子カルテ、オンライン診療と服薬指導、電子版お薬手帳、個人の健康記録、医療機器として承認されるソフトウェアなどが含まれます。
「これから来る分野」と説明されがちですが、薬剤師にとってはすでに日常です。厚生労働省は、電子処方箋が2026年5月時点で9割以上の薬局に導入されていると公表しています。つまり調剤薬局で働く人の大半は、デジタル前提の業務を毎日回しています。未知の世界に飛び込む話ではなく、使っている側から作る側へ回る話です。
一方で、冷静に見ておきたい数字もあります。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、医薬品関係企業に従事する薬剤師は34,184人で、前回調査から2,902人減っています。企業側の薬剤師枠そのものが広がっているわけではありません。求人の総量は調剤薬局とは比べものにならないほど少ない、というのが前提です。
この分野で強く求められているのは「医療現場のリアルを知っている人」です。技術者は、薬局で何が起きているかを知りません。電子処方箋も、導入して終わりではなく現場で回すと細かい詰まりが山ほど出ます。そこを説明できる人が、作る側には決定的に足りていません。
応募できる職種と、必要なもの
職種名が会社ごとに違うため、求人検索でつまずく人が多い領域です。役割ごとに整理します。
開発職を除けば、プログラムを書ける必要はありません。求人を探すときは「薬剤師」ではなく、上の職種名で検索してください。「薬剤師募集」と書かれていない求人のほうが多く、職種名で探さないと見つかりません。加えて、未経験から入りやすい順は導入支援、監修、提案営業、事業開発、薬事の順になります。
条件面では、新株予約権が付く求人もあります。ただし行使できる条件や時期は会社ごとに違うため、提示された場合は内容まで確認してください。額面の年収だけを見て判断すると読み違えます。
「情報技術の会社イコールプログラム」と思い込んで応募をあきらめる人が本当に多いです。あなたが毎日感じている「この作業、面倒だな」という感覚こそ、この業界が欲しがっているものです。技術は技術者に任せて大丈夫です。
なぜ薬剤師が求められるのか
「医療に詳しいから」では説明として弱いので、具体的に分解します。技術者だけでは埋められない穴が3つあります。
2つ目は見落とされがちですが、会社にとっては大きな価値です。医療に関わるサービスは、表現ひとつで薬機法や医療広告のルールに触れます。「この書き方は止めたほうがいい」と社内で言える人がいるかどうかは、事業の安全性に直結します。薬剤師が監修や薬事の枠で採用されるのは、この役割を期待されているからです。
治療用アプリのように医療機器として承認を受ける製品では、この比重がさらに上がります。承認申請、市販後の安全管理、医療機関への説明。いずれも医薬品の世界で使われてきた考え方がそのまま必要になる領域です。
面接で効くのは「現場で困ったエピソード」です。在庫管理でここに時間を取られた、この画面のせいで疑義照会が遅れた。そういう具体例は、作る側にとって宝の情報です。整ったきれいな志望動機より、生々しい現場の話を用意していってください。
未経験から入る4ステップ
求人が少ない分野は、順番を間違えると時間だけが過ぎます。次の順で進めてください。
調剤の経験を、採用側に伝わる言葉へ
ここが合否を分けます。「調剤薬局で5年」とだけ書いた書類は、企業の採用担当には何も伝わりません。同じ経験でも、言い換えるだけで見え方が変わります。
共通するコツは、「何をしたか」ではなく「何を変えたか」を書くことです。件数、期間、関わった人数。数字が1つ入るだけで、書類の通過率が変わります。今の職場にいるうちから記録を取り始めてください。
ステップ2を飛ばす人が多いです。書き出してみると「意外とやっていた」と気づくこともあれば、「何も残していなかった」とわかることもあります。後者でも、それがわかった時点で次の半年の過ごし方が変わります。
年収はどう読むか
この分野の年収として「700万円から1,300万円」といった数字を見かけることがありますが、多くは特定の求人サイトに一時的に載っていた例です。ヘルスケアの情報技術分野の薬剤師だけを対象にした公的な年収統計は存在しません。そのため、相場として受け取らないほうが安全です。
基準になるのは薬剤師全体の平均です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では566万7,900円でした。前年の調査では599万3,200円だったため、全国平均そのものが1年で下がっています。「平均より高いか」だけでは判断できません。
未経験の職種に移る場合、初年度は下がる提示もありえます。調剤薬局は働けば毎月ほぼ同額ですが、企業は賞与の比率が高い会社もあります。確実にもらえる部分と変動する部分の分かれ方を聞かずに入ると、想像と手取りがずれます。
高い数字が並ぶ求人ほど、内訳を聞いてください。役職者の上限が書かれているだけ、ということもあります。聞いて嫌がられるような会社なら、入ってからも同じ調子です。
企業の見極め方と向き不向き
この分野は、歴史の長い会社と設立まもない会社が混在しています。どちらが良いということではなく、確認すべき点が違います。
会社のタイプが絞れたら、次は自分との相性です。この分野は働き方の性質が調剤とかなり違うため、先に確認しておくと入職後のずれが減ります。
なお、合わなかった場合に調剤へ戻る道が閉ざされるわけではありません。免許は有効なままで、調剤の求人は全国で最も数が多い分野です。ただしブランクが長くなるほど慣らし期間が必要になるため、数年で一度立ち止まる前提で動くと安全です。
「患者さんの顔が見えないのがこたえた」という声は実際にあります。どちらが自分かは、今の職場のデジタル化の取り組みに関わってみると、かなり正直にわかります。試してから決めても遅くありません。
よくある質問
まとめ
未経験からこの分野へ移るための要点を整理します。
- 開発職を除けばプログラムを書ける必要はない。入りやすい順は導入支援・監修・提案営業・事業開発・薬事
- 求人は「薬剤師」ではなく職種名で探す。薬剤師募集と書かれていない求人のほうが多い
- 評価されるのは業務の流れを説明できること、表現の適否を判断できること、医療者と話が通じること
- 企業で働く薬剤師は34,184人で前回比2,902人減。少ない枠に準備を整えて臨む前提で動く
まずは今の職場で、導入した仕組みと改善した点を書き出すところから始めてください。それがそのまま、書類と面接で使える材料になります。求人が出たときにすぐ動けるよう、情報を持つ窓口も早めに確保しておきましょう。
この記事で参照した公的情報
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。

