この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
毎日の出勤がつらい。特定の人の言動に身構えてしまう。そんな状態が続いているなら、それはパワハラかもしれません。まずお伝えしたいのは、あなたは悪くないし、我慢し続ける必要もないということです。
知っておいてほしいことが3つあります。すべての会社に相談窓口を整える義務があること。相談したことを理由に不利益な扱いをすることは法律で禁止されていること。そしてハラスメントが理由で辞めた場合、失業給付の扱いが変わる可能性があること。いずれも制度として定められているものです。
この記事では、パワハラの定義から相談先、対処の手順、そして環境を変えるという選択までを整理します。今すぐ全部を読む必要はありません。必要なところだけ拾ってください。
📌 この記事でわかること
- パワハラの定義と6つの類型、指導との違い
- 相談したことで不利益を受けないという法律上の保護
- 記録の取り方と、対処を進める手順
- 社内・社外・こころの不調、それぞれの相談窓口
- ハラスメントを理由に離職した場合の失業給付の扱い
パワハラの定義と6つの類型
要点:3つの要素をすべて満たすものがパワハラ。業務上必要かつ相当な範囲の指導は含まれない。
「これはパワハラなのか、指導なのか」と迷う方は多いはずです。労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法では、職場のパワーハラスメントを次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されること
この法律により、現在はすべての事業主にパワハラを防止する措置が義務づけられています。大企業から先に適用され、中小企業にも義務化が広がりました。会社の規模は言い訳になりません。示されている6つの類型は次のとおりです。
薬剤師の職場では「安全のための厳しさ」と混同されやすいのが難しいところです。調剤過誤を防ぐための指摘は必要ですが、人格を否定する言葉は安全とは無関係です。「ミスを指摘された」のか「人格を否定された」のか。ここを分けて考えると、判断しやすくなります。
相談したことで不利益は受けない
要点:相談したことを理由とする不利益な取扱いは法律で禁止されている。しかも事業主には、その旨を定めて周知することまで義務づけられている。
相談をためらう最大の理由は「言ったことで、もっと立場が悪くなるのでは」という不安だと思います。この点は、制度としてはっきり守られています。
事業主に義務づけられていること
- 相談窓口を設けること。パワハラ、セクシュアルハラスメント、妊娠や出産などに関するハラスメントの相談窓口の整備は、すべての企業に義務づけられています
- 相談したことを理由に不利益な取扱いをしないこと。これは法律で禁止されています
- その旨を定めて、周知・啓発すること。禁止されているだけでなく、社内に知らせることまで義務です
- 相談者のプライバシーを守ること。相談内容が本人の意図しない形で広まらないよう配慮が求められます
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」
つまり、相談すること自体があなたの正当な権利であり、それを理由に扱いを変えることは会社に許されていません。もし相談後に明らかな不利益な扱いを受けたなら、それ自体が新たな問題として相談の対象になります。
「相談窓口があるかどうか分からない」という職場もあると思います。整備は義務なので、まずは就業規則や社内の掲示を確認してみてください。見当たらなければ、その時点で社外の窓口に行って構いません。順番を守る必要はありません。
対処の手順と、記録の取り方
何から始めればいいか、順に整理します。すべてを一度にやる必要はありません。できるところから、体調と相談しながら進めてください。
記録に残しておきたいこと
相談の場でも、失業給付の手続きでも、具体的な事実があると話が進みやすくなります。完璧な形でなくて構いません。
- 日時と場所。「◯月◯日、閉局後の調剤室で」のように具体的に
- 言われた言葉。できるだけそのままの表現で残します。要約すると伝わり方が弱まります
- その場にいた人。後から状況を確認してもらえる可能性があります
- 自分の体調の変化。その日眠れたか、食事が取れたかも書き添えておきます
- 形に残っているもの。連絡のやり取りやシフト表など、後から確認できるものは保管しておきます
⚠ 記録を書くのがつらいときは
つらい出来事を思い返して書き出す作業は、それ自体が負担になります。体調がすぐれないときは、記録より休息と受診を優先してください。記録がなくても相談はできますし、社外の窓口では相談員が状況の整理を手伝ってくれます。完璧を目指す必要はありません。
記録というと構えてしまいますが、手元の端末のメモに日付と一行だけ書き残すので十分です。あとから見返したときに、自分の記憶が正しかったと確認できる。それだけでも支えになります。無理のない範囲で構いません。
相談できる窓口
要点:社内に相談できる人がいなくても、公的な窓口が複数用意されている。多くは無料で利用できる。
それぞれの窓口の詳しい案内は、厚生労働省のあかるい職場応援団にまとめられています。このほか、法テラスや都道府県労働委員会なども相談先として案内されています。
薬局や病院は少人数の職場が多く、逃げ場がないように感じやすいものです。だからこそ、社外に窓口があることを知っておいてほしいのです。「自分さえ我慢すれば」と抱え込むうちに体調を崩してしまう方を、私も見てきました。早めに誰かを頼ってください。
環境を変えるという選択と、失業給付の扱い
要点:嫌がらせを受けたことによる離職は、雇用保険で「特定受給資格者」として扱われる場合がある。自己都合退職とは条件が変わる。
相談しても改善しない、あるいは体調がもう限界に近い。そんなときに環境を変えることは、逃げではなく自分を守る手段です。あわせて、知っておくと選択しやすくなる制度があります。
雇用保険の「特定受給資格者」の範囲には、次のような場合が含まれています。
上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者。また、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者。
特定受給資格者として扱われると、自己都合退職の場合にある給付制限がなく、所定給付日数が長くなる場合があります。国民健康保険料の軽減措置の対象になることもあります。
⚠ 判断するのはハローワークです
該当するかどうかは、離職票などの書類をもとにハローワークが判断します。自己申告だけで決まるものではありません。だからこそ、前の章で書いた記録が意味を持ちます。
また、会社が離職票に記載した理由に異議がある場合は、ハローワークに申し出ることができます。離職票を受け取ったら、記載内容を必ず確認してください。手続きの詳細は最寄りのハローワークにご相談ください。
次の職場で同じことを繰り返さないために
環境を変えるなら、次の職場は慎重に選んでください。確認しておきたいのは次の点です。
- 職場見学をさせてもらう。スタッフ同士が業務の相談を声に出せる関係かどうかを見ます
- 最も長く勤めている人の年数を聞く。全員が短ければ、続かない理由があります
- 直近1年の退職者の有無と理由を確認する。自分では聞きにくければ、転職エージェントの担当者に依頼できます
- 相談窓口の有無を聞く。整備は義務なので、答えられない職場は労務管理の水準に不安が残ります
なお、面接で退職理由を聞かれたときは、相手を責める言い方は避け、「腰を据えて長く働ける環境で力を発揮したい」といった前向きな表現に置き換えると伝わりやすくなります。事実を隠す必要はありませんが、詳細を語る義務もありません。
薬剤師は職場の選択肢が多い職種です。いま我慢している職場が、あなたにとって唯一の場所ではありません。すぐに決めなくても構いません。選べる場所があると知っておくだけで、気持ちの持ちようが変わります。
よくある質問
まとめ
この記事のポイント
- パワハラには法律上の定義と6類型がある。業務上必要かつ相当な範囲の指導とは区別される
- 相談窓口の整備はすべての企業の義務。相談したことを理由とする不利益な取扱いは法律で禁止されている
- 記録は一行でも意味がある。ただし体調がすぐれないときは、記録より休息と受診が先
- 社外に無料の窓口がある。総合労働相談コーナー、みんなの人権110番、こころの耳など。社内を経ずに使って構わない
- 嫌がらせによる離職は特定受給資格者として扱われる場合がある。給付制限がなく、所定給付日数が長くなることも。判断はハローワークが行う
パワハラに耐え続ける必要は、どこにもありません。相談することも、離れることも、制度に裏づけられた正当な選択です。まずはご自身の心と体を守ることを優先してください。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。パワーハラスメントの定義、6類型、事業主の措置義務および相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止に関する記述は労働施策総合推進法および厚生労働省「あかるい職場応援団」、特定受給資格者の範囲に関する記述はハローワークインターネットサービスの公表内容に基づいています。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的または医療上の助言に代わるものではありません。個別の事案については、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや弁護士などの専門機関にご相談ください。心身の不調が続く場合は、医療機関または専門の相談窓口にご相談ください。

