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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「研究や教育に携わりたい」「次の世代の薬剤師を育てたい」。そんな思いを持つ薬剤師にとって、大学の薬学部は魅力的な転職先の一つです。ただ、博士号を持っていないから無理だろうと、調べる前に諦めてしまう人が少なくありません。
実は、そうとは限りません。6年制の薬学部には、薬剤師として実務経験のある専任教員を一定数置くことが、法令で義務づけられています。その割合は専任教員数の6分の1。つまり現場経験のある薬剤師のための枠が、制度として確保されているということです。
この記事では、大学で働く薬剤師の仕事内容、教員になる2つのルート、実務家教員の法令上の要件、そして現場にいるうちから積んでおける実績までを、文部科学省の資料にもとづいて整理します。
- 大学(薬学部)で働く薬剤師の仕事内容と規模
- 教員・研究職になる2つのルート(研究者・実務家教員)
- 実務家教員の枠が法令でどう確保されているか
- 現場にいるうちから積んでおける実績
- 大学で働くメリットと注意点、転職のポイント
大学(薬学部)で働く薬剤師の仕事とは
大学の薬学部で働く薬剤師の仕事は、教育と研究の2本柱です。学生への講義や実験指導、試験の作成・採点といった教育に加え、自分の専門分野の研究を進め、研究室で学部生や大学院生を指導します。臨床系では、病院や薬局での実務実習に向けた指導や、実習先との調整も担います。
まず、この世界の大きさを数字で押さえておきましょう。厚生労働省の統計によると、大学に従事する薬剤師は5,011人で、届出薬剤師329,045人の1.5パーセントにとどまります。薬局の197,437人、医療施設の63,290人と比べると、極めて小さな世界です。
※出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2025年12月23日公表、2024年12月31日現在)
役職は、一般に助教から始まり、講師、准教授、教授へとステップアップしていきます。助教は任期付きで採用されることが多く、研究実績を積みながら次のポストを目指す形が一般的です。
大学というと「研究一筋」のイメージがありますが、薬学部では教育の比重も大きいのが特徴です。とくに6年制の臨床系では、現場経験のある薬剤師が学生を指導する役割が重視されています。研究だけでなく「人を育てる」ことにやりがいを感じる人にも向いている職場です。
実務家教員を目指すなら、実習生を受け入れている職場にいることが前提になります。実習の受け入れ状況は求人票には書かれていません。まずは相談先の特徴を比べてみてください。
大学教員・研究職になる2つのルート
薬剤師が大学の教員・研究職を目指すには、大きく2つのルートがあります。必要な準備がまったく違うので、まずどちらを狙うかを決めるところから始めてください。
研究者ルート(博士号と研究実績)
大学院で博士の学位を取得し、研究業績を積んで大学の公募に応募するルートです。助教や講師の公募では、博士の学位が事実上の必須要件になっていることがほとんどです。研究を究めたい人に向いた道ですが、学位の取得には時間がかかります。
実務家教員ルート(現場経験を生かす)
薬剤師としての実務経験を生かし、臨床系の専任教員になるルートです。博士の学位がなくても道が開かれています。しかもこの枠は、大学の善意ではなく法令によって確保されているものです。次の章で詳しく見ていきます。
実務家教員の枠は、法令で確保されている
大学設置基準の別表第一イ備考は、薬学関係(臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目的とするもの)の学部に係る専任教員のうちには、文部科学大臣が別に定めるところにより、薬剤師としての実務の経験を有する者を含むものとすると規定しています。
この規定を受けて定められたのが、平成16年文部科学省告示第175号です。具体的な内容は次のとおりです。
※出典:文部科学省「薬学部における教員(実務家教員を含む)に関する基準」。設置基準や関係告示は改正されることがあるため、応募時は最新の内容をご確認ください。
読み取れることは明確です。6年制薬学部は、専任教員の6分の1を実務経験者で満たさなければ設置基準を満たせません。つまり現場経験のある薬剤師には、構造的に需要があるということです。
職位の決め方も重要です。教授・准教授・講師のどれになるかは、学位だけでなく実務の実績や教育上の能力を含めて総合的に判断されると定められています。博士の学位がないことが、そのまま低い職位を意味するわけではありません。
「6分の1」という数字を知っているかどうかで、この道の見え方はまったく変わります。大学がお情けで実務家を置いているのではなく、置かなければ学部が成り立たない。そう理解できると、応募のときの姿勢も自然と変わってくるはずです。
現場にいるうちから積める実績
実務家教員の選考では、実務経験そのものだけでなく「授業科目を担当できる能力」が見られます。この点について、文部科学省は評価の際に考慮する観点を具体的に示しています。
- 薬学部での非常勤講師経験(卒前実習指導、薬学概論等の講義実績)
- 指導用教材の作成実績
- 医療薬学系大学院生の実務研修の指導実績
- 研修生に対する指導実績
- 生涯学習・卒後学習や、薬剤師を対象とした研修会での講師経験
- 各種指導者を対象とした講習会・ワークショップ等への参加実績
※出典:前掲の文部科学省資料
この一覧は、そのまま「今から積んでおくべきことのリスト」として使えます。いずれも大学に移ってから始めることではなく、現場の薬剤師のまま取り組めるものばかりだからです。
実習生の受け入れに積極的に関わることが出発点です。指導した記録は、そのまま実績になります。
地域の薬剤師会や職場内の勉強会でも構いません。人前で教えた経験は、評価の観点に明記されています。
非常勤講師の依頼は、多くの場合つながりから生まれます。実習の受け入れを通じて大学の教員と面識ができると、そこから話が広がることがあります。
なお、実務実習の指導に本格的に関わるには、認定実務実習指導薬剤師という資格が関係してきます。この資格そのものは実務家教員の要件ではありませんが、指導の経験を積むうえでの土台になります。
実務家教員を目指すなら、今の職場にいるうちから種をまいておくのがコツです。実習生の受け入れに積極的に関わったり、研修会で講師を引き受けたり。そうした一つひとつの実績が、公募のときに「この人に頼みたい」と思わせる材料になりますよ。
大学で働くメリットと注意点
大学ならではの働き方には、魅力と気をつけたい点の両方があります。
- 研究を通じて、専門分野を深く追究できる
- 学生を育てることに、調剤とは違うやりがいを感じられる
- 学会や論文を通じて、社会に知見を発信できる
- 実務家教員の枠は法令で確保されており、現場経験がそのまま需要になる
- 暦どおりの勤務になりやすく、生活リズムを組み立てやすい
- 助教などは任期付きが多く、雇用の安定性に不安がある場合がある
- 研究者ルートは博士の学位が必要で、目指すまでに時間がかかる
- 研究費の獲得や論文執筆など、調剤とは異なる負担がある
- 大学に従事する薬剤師は5,011人と少なく、公募の数そのものが限られる
- ポストや大学によっては、年収が調剤現場より下がることもある
とくに任期付きのポストは、数年ごとに次の職を探す必要があるため、長期的なキャリアの見通しを持っておくことが大切です。なお、大学教員の年収について、薬学部に限定した公的な統計は存在しません。国公立か私立か、ポスト、大学の規模によって幅があるため、公募要項で個別に確認するしかありません。
大学は「教育と研究を通じて薬学に貢献する」という独自のやりがいを持つ進路ですが、薬剤師の転職先には病院・調剤薬局・製薬企業・行政機関など、それぞれ強みの異なる選択肢が数多くあります。大学への道が自分に合うかどうかは、ほかの転職先と並べて見比べてみるとはっきりします。
転職を考えるときのポイント
大学への転職は、一般の求人サイトとは少し違った探し方になります。次の点を押さえておきましょう。
公募情報は専用のサイトで探す
大学教員の募集は、研究者向けの公募データベースや、各大学の採用ページで公開されるのが一般的です。転職エージェントに依頼しても出てきません。希望する分野やポストの条件を、こまめにチェックしておく必要があります。
公募要項の「求める人材」を読み込む
薬学部の公募では、「薬剤師免許を有し、実務経験5年以上」といった条件が明記されることがあります。これは設置基準を満たすための実務家教員枠の募集である可能性が高いサインです。逆に「博士の学位を有すること」が必須条件なら、研究者ルート向けの公募です。どちらの枠なのかを見分けられると、応募の精度が上がります。
任期と年収の条件を確認する
ポストの任期、更新の可能性、年収といった条件は、応募前にしっかり確認しましょう。安定性を重視するなら、任期のない常勤ポストか、任期のない教員への道があるかも見ておくと安心です。
よくある質問
まとめ
✅ この記事のポイント
- 大学に従事する薬剤師は5,011人で、薬剤師全体の1.5パーセント。公募の数そのものが限られる
- 仕事は教育と研究の2本柱。助教から講師、准教授、教授へとステップアップする
- なるには研究者ルート(博士の学位)と実務家教員ルート(実務経験)の2つがある
- 6年制薬学部は専任教員数の6分の1を、おおむね5年以上の薬剤師経験を有する者とすることが定められている
- 文部科学省は評価の観点を示しており、非常勤講師や実習指導、研修会の講師といった実績は今から積める
- 任期付きポストが多く、年収の公的統計もない。公募要項で個別に確認する
大学は、研究と教育を通じて薬学の未来に貢献できる職場です。そして実務家教員の枠は、現場で働いてきた薬剤師のために制度として用意されているものです。博士の学位がないからと諦める前に、今の職場でどんな実績を積めるかを考えてみてください。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。薬剤師数は厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」、実務家教員に関する記載は文部科学省が公表する大学設置基準および関係告示の解釈資料にもとづきます。設置基準・告示は改正される場合があり、教員の要件・任期・年収・公募の状況は大学やポスト、時期により異なります。詳細は各大学の公募要項および文部科学省の最新資料をご確認ください。

