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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「少人数でアットホームな職場で働きたい」「医師の近くで、患者さんと長く関わりたい」。そんな薬剤師にとって、院内処方を行うクリニックは、調剤薬局とはひと味違う選択肢になります。診察した医院の中で薬を渡す、昔ながらの距離の近い働き方です。
この職場を理解する鍵は、ひとつの事実にあります。診療所には、薬剤師を置く義務がありません。それでも薬剤師を雇っているクリニックは、置かなくてもよいのに置いている。ここに、この職場の性格がすべて表れています。
院内処方のクリニックに直接雇用されて働く薬剤師の仕事内容や特徴、求人が少ない構造的な理由、メリットと注意点、転職を考えるときのポイントを、現役薬剤師の視点でまとめました。なお、クリニックの門前にある調剤薬局での働き方は、診療科別の記事でも解説しています。
- クリニック(院内処方)で働く薬剤師とは何か
- 求人がこれほど少ない二つの構造的な理由
- 2026年度の改定が院内処方に与えた影響
- 仕事の特徴と、メリット・注意点
- 転職を考えるときのポイントと、面接で聞くべきこと
クリニック(院内処方)で働く薬剤師とは
ここでいうクリニック薬剤師とは、院内処方を行う診療所に直接雇用され、その院内で調剤を担う薬剤師を指します。院内処方とは、診察を受けたクリニックの中で薬を用意し、その場で患者に渡す方法です。処方箋を院外の調剤薬局に持っていく院外処方とは、ここが大きく異なります。
かつては院内処方が主流でしたが、医薬分業の推進により、今では院外処方が一般的です。日本薬剤師会の集計によると、令和7年度の医薬分業率(処方箋受取率)は全国平均82.2パーセントで、前年度の82.1パーセントから0.1ポイントの増加にとどまりました。ここ数年は82パーセント台で頭打ちの状態が続いています。
※出典:日本薬剤師会「保険調剤の動向(令和7年度調剤分・全保険・速報値)」。分業率は推計値です。
裏を返せば、院内処方は全国でおよそ2割弱まで減少したものの、この数年は大きくは減っていないということでもあります。院内処方のクリニックで働く薬剤師は数としては少数派ですが、患者の利便性などを理由に、あえて院内処方を続けるクリニックは今も一定数存在します。
院内処方のクリニック薬剤師は、求人の数こそ多くありませんが、調剤薬局や病院とはまた違った魅力があります。医師のすぐそばで働き、同じ患者さんを長く見守れる距離の近さは、ここならではです。働き方の選択肢として知っておくと、視野が広がります。
数少ない求人に出会うために
院内処方のクリニックの求人は、公開される前に決まることも珍しくありません。希望を先に伝えておける相手を持っておくことが、機会を逃さない最善の方法です。
薬剤師転職エージェントの比較を見るなぜ求人がこれほど少ないのか
「医薬分業が進んだから」というのは半分しか答えていません。院内処方は約2割残っているのに、そこで働く薬剤師の求人はそれ以上に希少です。理由は二つあります。
① 診療所には薬剤師を置く義務がない
病院には医療法で薬剤師の人員配置標準が定められていますが、一般の診療所にはそうした配置の定めがありません。加えて、薬剤師法第19条は、薬剤師でない者が販売または授与の目的で調剤することを禁じつつ、医師が一定の場合に自己の処方箋により自ら調剤することを例外として認めています。
つまり、院内処方を行うクリニックであっても、薬剤師を雇わずに運営することが制度上は可能です。実際、院内処方の診療所の多くは薬剤師を置いていません。「院内処方のクリニック=薬剤師の職場」ではないのです。
② 薬剤師を置いても診療報酬がほとんど増えない
こちらのほうが本質的です。医科の診療報酬には、薬剤師が常時勤務する保険医療機関で院内投薬を行った場合に算定できる調剤技術基本料があります。
※出典:厚生労働省 診療報酬点数表 調剤技術基本料。薬剤師が常時勤務する保険医療機関において投薬を行った場合(処方箋を交付した場合を除く)に算定します。要件は簡略化して記載しているため、詳細は告示・通知をご確認ください。
外来の患者さんに院内で薬を渡しても、薬剤師がいることで増える収入は月に14点、つまり140円です。人件費を診療報酬で回収する仕組みが、用意されていません。
この二つから導ける、いちばん大事な結論
薬剤師を置く義務もなく、置いても収入がほとんど増えない。それでも雇っているということは、そのクリニックには収益以外の理由があるということです。患者さんに丁寧に薬を渡したい、在庫や期限の管理をきちんとしたい、医師が処方を相談できる相手を求めている。その理由が何なのかを面接で聞くことが、この職場を見極める最短の道になります。明確な考えがある院なら、薬剤師は大切に扱われます。
「将来性がない」は本当か
この職場を検討する人が最も気にするのが、院内処方そのものが消えていくのではないかという不安です。しかし近年の状況を見ると、その前提は以前ほど確かではありません。二つの材料があります。
① 分業率の伸びが止まりました。2023年度は前年度比プラス3.9ポイントと大きく伸びましたが、令和7年度は82.1パーセントから82.2パーセントへ、わずかプラス0.1ポイント。院内処方は約2割の水準で下げ止まりつつあると読むのが自然です。
② 2026年度の改定に、院内処方を後押しする要素が含まれました。従来、一部の加算では院外処方を行う場合に24時間対応できる薬局との連携が求められていましたが、この要件が見直され、緊急時に必要な解熱鎮痛薬などを院内で処方できる医療機関については、24時間対応の薬局との連携が不要とされたと説明されています。院内処方の体制があること自体が、算定上のハードルを下げる方向に働くということです。
※令和8年度診療報酬改定の内容にもとづく整理です。該当する加算や具体的な要件は施設基準によって異なるため、詳細は厚生労働省の告示・通知および改定の解説資料をご確認ください。
もちろん、これで院内処方が増えるとまでは言えません。ただし「院内処方はいずれなくなるから避けるべき」という判断は、今の状況には当てはまりにくくなっています。気にすべきは業界全体の趨勢ではなく、応募先のクリニックが院外処方に切り替える意思を持っているかどうか。それは面接で直接聞けることです。
クリニック薬剤師の仕事内容と特徴
院内処方のクリニックでの薬剤師の仕事は、基本は調剤薬局と同じく調剤や服薬指導ですが、規模や環境に特徴があります。
- 院内での調剤・服薬指導・医薬品の在庫や期限の管理
- 少人数の職場で、薬剤師が一人または数人のことが多い
- 医師との距離が近く、処方について直接相談しやすい
- クリニックの診療科に応じて、扱う薬がある程度決まっている
門前の調剤薬局が、近隣の複数の医療機関の処方箋を受けるのに対し、クリニック薬剤師はそのクリニックの処方だけを扱うのが特徴です。診療科が絞られている分、扱う薬の傾向がつかみやすく、同じ患者を継続して見守りやすい環境といえます。
見落とされがちですが、在庫管理の重みが調剤薬局とは違います。院内処方では、医薬品の在庫リスクをクリニック自身が負います。期限切れの廃棄も、供給が不安定な薬の確保も、すべて院の負担です。薬剤師がここをきちんと管理できることは、クリニックにとって金額として意味のある貢献になります。診療報酬では評価されない部分ですが、自分の価値を説明するときの材料になります。
もうひとつ、診療時間に働き方が完全に連動するのもこの職場の性格です。休診日はそのまま休みになり、診療が延びれば残ります。カレンダーが読みやすい反面、自分の都合で調整する余地は少なくなります。
クリニック薬剤師のメリットと注意点
クリニックならではの働き方には、魅力と気をつけたい点の両方があります。
- 少人数でアットホームな雰囲気の職場が多い
- 医師にその場で相談でき、疑問をすぐ解消しやすい
- 同じ患者を継続して見守れ、信頼関係を築きやすい
- 診療科が絞られ、専門的な知識を深めやすい
- 休診日がそのまま休みになり、勤務カレンダーが読みやすい
- 制度上そもそも薬剤師を置く必然性が弱く、求人が非常に限られる
- 応募先が院外処方へ切り替えると、業務や雇用が見直される可能性がある
- 薬剤師が少人数のため、相談相手がおらず孤立しやすい
- 扱う薬が限られ、幅広い経験を積みにくい場合がある
- 職歴が特殊で、次に転職するとき評価される職場は限られやすい
最後の点は、長い目で見ると効いてきます。キャリアの順序としては、先に調剤薬局や病院で幅を作ってからクリニックへ移るほうが、選択肢を狭めずに済みます。逆に、当面は職場を変えるつもりがないなら、この点はさほど問題になりません。
クリニック薬剤師は「医師との距離の近さ」という独自の魅力を持つ働き方ですが、薬剤師の転職先には調剤薬局・病院・ドラッグストア・製薬企業など、それぞれ強みの異なる選択肢が数多くあります。自分に合う働き方かどうかは、ほかの転職先と並べて見比べてみるとはっきりします。
クリニック薬剤師への転職を考えるときのポイント
院内処方のクリニックへの転職は、求人の少なさをどう乗り越えるかが鍵になります。次の点を意識して進めましょう。
クリニックの処方方針を確認する
応募先が今後も院内処方を続ける方針か、院外処方への移行を検討していないかを確認しておきましょう。方針によって、薬剤師に求められる役割が変わってきます。
少人数ならではの働きやすさを見極める
少人数の職場は、人間関係が合えば快適ですが、合わないと逃げ場が少なくなります。スタッフの人数や雰囲気、医師との関係性を、職場見学などで確かめておくと安心です。
面接でそのまま使える四つの質問
とくに最初の二つは必ず聞いてください。院内処方を続ける理由が説明できない院は、いずれ切り替える可能性があります。そして薬剤師に期待する役割が語れない院では、置いてはいるが活かされていないという状態になりがちです。
求人の少なさはエージェントで補う
院内処方のクリニックの求人は数が少なく、表に出にくいこともあります。希望を転職エージェントに伝えておき、条件に合う募集が出たら知らせてもらう形が現実的です。求人を見てから動くのではなく、出たときにすぐ動ける状態をつくっておくのが、この職種での戦略になります。なお、特定の診療科の門前薬局を希望する場合は、診療科別の記事もあわせてご覧ください。
医薬分業率はここ数年82パーセント台で頭打ちになっています。つまり、今院内処方を続けているクリニックは、患者との距離の近さなど、それなりの理由があって続けている可能性が高いということ。面接で「なぜ院内処方を続けているのですか」と聞いてみると、その職場の考え方が見えてきますよ。
よくある質問
まとめ
院内処方のクリニックへの転職を考えるうえでの要点を整理します。
- クリニック薬剤師は、院内処方の診療所に直接雇用され院内で調剤する
- 求人が少ないのは、診療所に薬剤師の配置義務がないことと、調剤技術基本料が外来で月1回14点にとどまることが理由
- つまり置かなくてもよいのに置いている職場。その理由を聞けば、職場の質が測れる
- 令和7年度の医薬分業率は82.2パーセントで頭打ち。2026年度改定にも院内処方を後押しする要素があり、「いずれなくなる」とは言い切れない
- 少人数で医師との距離が近く、患者を継続して見守れるのが魅力。在庫管理の貢献も大きい
- 経験が偏りやすく、次の転職では評価される職場が限られやすい
- 面接では、院内処方を続ける理由・薬剤師への期待・人数体制・在庫管理の担当を確認する
クリニック薬剤師は、求人こそ多くないものの、距離の近い医療に携われる魅力的な働き方です。自分が大切にしたい働き方と照らし合わせて、納得のいく選択をしていきましょう。
本記事で参照した主な出典
- 日本薬剤師会「保険調剤の動向(令和7年度調剤分・全保険・速報値)」(医薬分業率)
- 厚生労働省 診療報酬点数表 調剤技術基本料、および令和8年度診療報酬改定に関する告示・通知
- 薬剤師法 第19条(調剤の業務独占と医師による調剤の例外)、医療法にもとづく病院の人員配置標準
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。医薬分業率は日本薬剤師会が公表した令和7年度の推計値です。法令の条文および診療報酬の算定要件・施設基準は要旨を簡略化して記載しているため、詳細は原文および厚生労働省の告示・通知をご確認ください。院内処方・院外処方の状況や求人動向、働き方は、クリニック・地域・時期により異なります。詳細は各求人や応募先にご確認ください。

