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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「山梨で薬剤師として働きたい」「地元に戻りたいけれど、求人事情はどうなんだろう」。山梨県は「薬剤師が不足ぎみで転職しやすい県」と紹介されがちです。ただ、最新の統計を丁寧に見ると、その説明はかなり不正確でした。足りていないのは県全体ではなく、特定の業態と特定の地域です。
この記事では、厚生労働省の最新統計で見た山梨の薬剤師事情、甲府市と市外の1.8倍の格差、国の偏在指標が示す業態差、4つの医療圏の傾向、年収データの読み方を、現役薬剤師の目線で整理します。数値はすべて公的資料にもとづき、出典に直接リンクしています。
- 山梨県の人口10万対薬剤師数は208.5で全国15位。全国平均をわずかに下回るだけで、順位は上位
- 甲府市は317.4で、全国の政令指定都市・中核市のなかで最も高い水準。市外は175.5で約1.8倍の差
- 国の偏在指標は薬局1.01で目標を超える一方、病院は0.72。足りないのは病院薬剤師
- 薬局数は人口10万対60.2で全国5位。働く場所は多いが、将来は薬局側の充足が進む見通し
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厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、山梨県の届出薬剤師数は1,928人。そのうち薬局・医療施設で働いているのは1,649人です。人口10万人あたりでは、届出総数が243.7人、薬局・医療施設の従事者が208.5人となっています。
全国平均は届出総数265.8人、薬局・医療施設の従事者210.6人。数字だけ見れば平均を下回りますが、その差はわずか2.1人です。公表値を並べ替えると山梨は全国15位で、47都道府県の真ん中の値(200.8)より上に位置します。全国平均は東京・大阪・兵庫といった一部の都府県に引き上げられているため、「平均以下=不足」とは言えません。
※薬剤師数は厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表9・10(従業地ベース)。薬局数は「令和6(2024)年度衛生行政報告例」(令和6年度末現在)。順位は公表値を当サイトが並べ替えて確認したものです。
薬局の密度は60.2で全国5位。医療施設そのものも多く、県の資料によれば病院は人口10万対7.5施設(全国平均6.4)、一般診療所は91.3施設(同84.4)といずれも全国平均を上回ります。働く場所は間違いなく多い県です。県内に薬学部を置く大学がないため新卒の供給源はありませんが、それでも薬剤師の密度は全国15位を保っています。
「全国平均を下回るから不足している」という書き方はよく見かけますが、全国平均は上位の数県に引っ張られるので、順位を見ないと判断を誤ります。山梨は47都道府県で15番目。決して薬剤師が少ない県ではありません。ただ、県のなかを見ると話がまったく変わります。
甲府市と市外で1.8倍|全国の主要都市で最も密度が高い市
同じ統計には、中核市である甲府市の数値も再掲されています。甲府市の薬剤師は届出総数682人、薬局・医療施設の従事者584人。人口10万人あたりでは370.7人と317.4人です。県全体から引けば、甲府市以外の姿が計算できます。
※甲府市以外の値は、県の数値から甲府市の再掲値を差し引いて当サイトが算出したもので、公表値ではありません。人口は同統計の付表(県791千人・甲府市184千人)を使用しています。県の人口は総務省の人口推計、市の人口は市の推計値で出所が異なる点、また従業地ベースのため甲府市へ通勤する薬剤師は甲府市に計上される点にご注意ください。
結果は甲府市317.4に対して甲府市以外175.5。約1.8倍の開きがあります。そして甲府市の317.4という数字は、同じ統計に再掲されている全国の政令指定都市・中核市を並べ替えると最も高い水準です。東京都区部248.0、名古屋市226.6、大阪市255.4、神戸市275.6と比べても抜けています。
逆に甲府市以外の175.5は、都道府県に置き換えると青森県(175.5)とちょうど同じ水準で、下から4番目あたりに相当します。人口で見ると甲府市は県人口の23.3%ですが、現場で働く薬剤師の35.4%が甲府市に集まっています。
なぜここまで集中するのか。甲府市には県立中央病院や山梨大学医学部附属病院を中心とした医療機関が集まり、県の資料でも医師数が中北医療圏332.2人に対し峡南医療圏133.3人と、医療資源そのものが強く偏っているためです。薬剤師の分布は、医療機関の分布をそのままなぞっています。
甲府市の密度が全国の主要都市でいちばん高い、というのは正直かなり意外な結果でした。求人を探すときに「山梨県」でひとくくりに検索すると、この差はまったく見えません。まず甲府市内で探すのか、市外で探すのかを決めてしまうほうが早いですよ。
足りないのは病院|国の偏在指標で見る
厚生労働省は、人口10万対の薬剤師数では拾いきれない医療需要や業態の違いを補正した薬剤師偏在指標を都道府県別に公表しています。1.0が目標水準で、上回れば「薬剤師多数都道府県」に分類されます。山梨の数字は業態で割れます。
※出典は厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2「都道府県別薬剤師偏在指標」(令和5年3月)。この指標は薬剤師の絶対的な充足状況ではなく、相対的な偏在の状況を示すものです。
薬局は1.01で、目標の1.0を超えています。つまり山梨の薬局薬剤師は「足りていない」わけではありません。一方で病院は0.72。全国計0.80をさらに下回ります。「山梨は薬剤師が不足ぎみ」という一般的な説明は、業態を分けずに語っているぶん、実態からずれています。
さらに2036年の推計では薬局が1.22まで上がります。薬局側は将来もっと充足が進む見通しで、条件面での売り手市場が続くとは限りません。逆に病院は推計でも0.77で目標に届かず、不足が長引くと見込まれています。長い目で考えるなら、この差は無視できません。
私は病院から薬局へ移った側なので実感がありますが、病院薬剤師は募集の数こそ少なくても、来てほしいと思われている度合いが違います。山梨で病院を志望するなら、条件面で相談しやすい環境だと思います。薬局志望なら、いま条件がよく見えても数年後は変わりうる前提で選ぶのが安全です。
4つの医療圏で見る山梨県
山梨県は医療提供体制の単位である二次医療圏を4つ設定しています。「第8次山梨県地域保健医療計画」(令和6年度から令和11年度)にもとづく区分で、求人を市町村単位で追うよりこの4圏域で捉えると通勤範囲を考えやすくなります。
※圏域の区分は山梨県「山梨県地域保健医療計画」による。各圏域の傾向は、上記の薬剤師数・薬局数の統計と圏域の医療資源の状況から整理した一般的な見立てで、個別の求人条件を示すものではありません。
求人数で選ぶなら中北、生活と両立させるなら峡東や富士東部、条件の上乗せを狙うなら峡南、というのが大まかな目安です。ただし峡南は南北に細長く、通勤距離が想像以上に長くなることがあります。額面の差だけでなく、毎日の移動時間まで含めて判断してください。
富士東部は中央線で八王子方面に出やすく、上野原あたりだと首都圏の求人も選択肢に入ります。逆に首都圏で働いていて生活コストを下げたい人が移ってくるケースもあります。県境エリアは候補が二倍になるので、意外と穴場ですよ。
年収データの正しい読み方
山梨の年収を調べると「609.5万円で全国22位」「平均年齢35.3歳で全国より若い」といった数字が出てきます。この手の都道府県別の値を根拠に転職を決めるのはおすすめしません。理由は3つあります。
① 全国平均そのものが年ごとに大きく動く
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、薬剤師の毎月の給与が39万8,700円、年間賞与その他特別給与額が83万3,500円で、単純に合計すると年収は約566万8千円です。前年の調査では約599万3千円でしたので、1年で30万円以上下がっています。全国平均でこれだけ振れるのですから、標本数の少ない県別の値はさらに不安定になります。
② 「平均年齢35.3歳」が標本の偏りを物語っている
山梨の薬剤師の平均年齢が全国よりかなり若いという数字は、県別ランキングの根拠がいかに薄いかを示す好例です。医師・歯科医師・薬剤師統計で見た薬剤師全体の平均年齢は46.9歳。調査の対象範囲が違うため単純比較はできませんが、県別の値がここまで動くのは、その県の回答者がたまたま若手に偏っていた可能性を疑うべきです。同じ理由で、年収の県別順位も毎年入れ替わります。
③ 山梨では「甲府市内か市外か」「病院か薬局か」で考える
県内で1.8倍の密度差があり、しかも業態で需給が逆転している以上、県平均の年収を見ても意味がありません。見るべきは全国順位ではなく、いま自分がもらっている額と、目の前の求人の総額との差です。賞与実績・住宅手当・車の貸与まで含めて比べてください。
順位は集計方法しだいで簡単に変わります。しかも山梨のように県内格差が大きい県では、県平均そのものが誰の実感とも合いません。順位を追うより、通える範囲の求人を3つ並べて総額を書き出すほうが、はるかに確実です。
山梨で働くメリットと注意点
- 薬局数は人口あたり全国5位。通える範囲に職場が見つかりやすい
- 病院の偏在指標が0.72と低く、病院薬剤師を目指すなら需給の面で有利
- 病院・診療所とも人口あたりの施設数が全国平均を上回り、医療の受け皿が厚い
- 甲府市外や峡南は人材確保が難しく、条件を上乗せする求人が出やすい
- 首都圏より住居費を抑えやすく、同じ額面でも生活に余裕が出やすい
- 薬局の偏在指標は1.01で目標を超えており、「薬局は不足」という前提は成り立たない
- 2036年の推計では薬局が1.22まで上がる見通しで、将来は競争が強まる可能性がある
- 甲府市は全国の主要都市で最も密度が高く、市内の好条件求人には応募が集中しやすい
- 県内に薬学部がなく、企業・行政の職場も少ないため調剤以外の道は選びにくい
- 車移動が前提の地域が多く、峡南や北杜方面は冬の備えも必要
山梨で転職を成功させるポイント
① 「甲府市内か市外か」「病院か薬局か」を先に決める
県内で1.8倍の密度差があり、業態でも需給が逆転しています。この2つの軸を決めるだけで、探すべき求人がまったく変わります。薬局を希望して甲府市内で探すなら競争率は高め、病院を希望して市外で探すなら需給の面では追い風です。
② 額面ではなく総額と手元に残る額で比べる
比べるべきは月給ではなく、賞与実績・住宅手当・管理薬剤師手当・車の貸与まで含めた合計です。甲府市外の求人で住居補助が月2万円付けば、年間で24万円の差になります。求人票に書かれていない項目は、面接や条件確認の段階で必ず聞いておきましょう。
③ 残業と業務量は求人票を鵜呑みにしない
薬剤師が手薄な地域ほど高めの条件が出ますが、その裏に少人数体制が隠れていることがあります。処方箋枚数、在籍する薬剤師の人数、閉局後の作業量を具体的に確認すると、実際の働き方が見えてきます。
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薬剤師の残業が少ない職場の探し方④ 業態をまたいで検討する
薬局に絞りすぎると、将来の充足見通しを踏まえたときに選択肢が狭くなります。病院やドラッグストアの調剤併設店も候補に入れると、働き方や年収の考え方の幅が広がります。業態ごとの違いを整理してから探すと、比較の軸がぶれません。
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Uターンの場合、引っ越し費用や入職時期の調整が条件面に影響します。実家からの距離、車の有無、家族の予定といった前提を最初に共有しておくと、条件の合わない求人を紹介されずに済みます。
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薬剤師のUターン転職|地元に戻る強みと注意点・求人の探し方を現役が解説山梨は県全体の求人数が多いわけではないぶん、条件の細かい違いを見比べる作業が効いてきます。私が転職したときも、手当まで含めた総額を紙に並べて書き出したら、見た目の月給と順位が入れ替わりました。気になる求人が3つ以上になったら、ぜひやってみてください。
近隣県と比べて決める
山梨は長野・静岡・神奈川・東京・埼玉と接しています。とくに富士東部からは中央線で八王子方面、峡東からは長野方面が視野に入り、県境をまたいで探す人も少なくありません。隣県の事情を知っておくと、山梨の条件が相対的にどうなのかを判断しやすくなります。
▶ 近隣県の転職ガイド
静岡の薬剤師転職ガイド|年収の傾向とエリア別の選び方を現役が解説
東京の薬剤師転職ガイド|求人・年収の実態と23区内外の違いを解説
全国から住みたい地域を探したい場合は、都道府県別のまとめページが便利です。47都道府県の年収相場と求人事情を一覧にしています。
よくある質問
まとめ
山梨の薬剤師転職は、「県は不足ぎみ」という大づかみの説明を捨てるところから始まります。要点を整理します。
- 人口10万対薬剤師数は208.5で全国15位。平均をわずかに下回るだけで、不足県ではない
- 甲府市317.4は全国の政令指定都市・中核市で最も高く、市外175.5とは約1.8倍の差がある
- 偏在指標は薬局1.01で目標超え、病院0.72。足りないのは病院薬剤師
- 薬局数は人口10万対60.2で全国5位。ただし2036年推計では薬局の充足がさらに進む
- 年収の全国順位は年ごとに動くため、賞与・手当込みの総額で個別に比べるのが確実
甲府市内の選択肢の多さを取るか、市外の上乗せ条件を取るか、病院を選ぶか薬局を選ぶか。この組み合わせが決まれば、比べるべき求人はぐっと絞れます。他の地域とも見比べたい人は、薬剤師の都道府県別転職ガイド|地域ごとの年収相場まとめから気になる地域を確認してみてください。
参考にした一次情報
・厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(薬剤師数・人口10万対・都道府県別・指定都市および中核市再掲)
・厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対)
・厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2(都道府県別薬剤師偏在指標)
・厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(薬剤師の賃金)
・山梨県「山梨県地域保健医療計画」(二次医療圏の区分・医療資源の状況)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は公表時点のもので、その後の調査で変動します。甲府市以外の数値は公表値ではなく当サイトが県値と市の再掲値から算出したもので、従業地ベースであることによる誤差を含みます。薬剤師偏在指標は相対的な偏在を示す指標であり、絶対的な充足状況を示すものではありません。求人の条件は個別に異なるため、最新の情報は各求人・転職サービスでご確認ください。

