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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「長野県で薬剤師として転職したい」「年収や求人の事情はどうなんだろう」。全国有数の広さを持つ長野県は、エリアによって医療環境がまったく違います。そして最新の統計を見ると、多くの人が思っているのとは逆の事実が出てきます。長野県で薬剤師がいちばん多いのは、県庁所在地の長野市ではなく松本市です。
この記事では、厚生労働省の最新統計で見た長野の薬剤師事情、松本市と長野市の51ポイント差、国の偏在指標が示す病院の手薄さ、10の医療圏の傾向、年収データの読み方を、現役薬剤師の目線で整理します。数値はすべて公的資料にもとづき、出典に直接リンクしています。
- 長野県の人口10万対薬剤師数は203.7で全国17位。平均をやや下回るが、上位に位置する
- 松本市266.2に対し長野市215.2。県庁所在地より松本市のほうが51ポイント高い
- 国の偏在指標は病院0.73・薬局0.95。ボトルネックは病院薬剤師
- 県内に薬学部はなく、2市以外は190.1。地域差の大きさが長野の最大の特徴
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厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、長野県の届出薬剤師数は4,746人。そのうち薬局・医療施設で働いているのは4,048人です。人口10万人あたりでは、届出総数が238.9人、薬局・医療施設の従事者が203.7人となっています。
全国平均は届出総数265.8人、薬局・医療施設の従事者210.6人。数字だけ見れば平均を下回りますが、その差は7人ほどです。公表値を並べ替えると長野は全国17位で、47都道府県の真ん中の値(200.8)より上に位置します。全国平均は東京・大阪・兵庫といった一部の都府県に引き上げられているため、「平均以下だから不足県」とは言えません。
※薬剤師数は厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表9・10(従業地ベース)。薬局数は「令和6(2024)年度衛生行政報告例」(令和6年度末現在)。順位は公表値を当サイトが並べ替えて確認したものです。
薬局は1,027施設で人口10万対51.7。全国平均51.1とほぼ同じ水準です。県全体で見れば、長野は薬剤師も薬局もおおむね平均並みの県だといえます。県内に薬学部を置く大学がないにもかかわらずこの水準を保っているのは、県外で資格を取った人が一定数戻ってきているためと考えられます。
ただし、この平均値をそのまま受け取ると判断を誤ります。長野の本質は「県の平均」ではなく「県内の差」にあるからです。次の章でその中身を見ていきます。
「薬学部がないから不足している」という説明はよく見かけますが、長野は全国17位で中央値より上です。薬学部の有無だけで需給は決まりません。むしろ長野で効いてくるのは、県が広すぎて地域ごとに事情がまったく違うことのほうです。
県庁所在地より松本市のほうが多い
長野県には中核市が2つあります。長野市と松本市です。統計にはそれぞれの数値が再掲されているため、県全体から2市を引けば、それ以外の地域も計算できます。結果は、県庁所在地を中心に考える発想を裏切ります。
※2市以外の値は、県の数値から長野市・松本市の再掲値を差し引いて当サイトが算出したもので、公表値ではありません。人口は同統計の付表(県1,987千人・長野市363千人・松本市237千人)を使用しています。県の人口は総務省の人口推計、市の人口は市の推計値で出所が異なる点、また従業地ベースのため他市へ通勤する薬剤師は勤務地側に計上される点にご注意ください。
松本市266.2に対し長野市215.2。人口では長野市のほうが12万人以上多いのに、薬剤師の密度は松本市が51ポイント上回ります。全国平均210.6と比べると、松本市は大きく超え、長野市はぎりぎり上回る程度です。
理由は医療機関の分布にあります。松本市には信州大学医学部附属病院があり、県の資料でも同院は高度な医療を担う特定機能病院として、相澤病院などとともに松本医療圏に集まっていると整理されています。長野県の医療の中心は、行政の中心である長野市ではなく松本市だというのが実態です。
この差は企業や研究の職場にも表れます。届出総数と現場従事者の差にあたる企業・行政・大学などの薬剤師を人口10万対で見ると、松本市が68.4で全国平均55.2を上回るのに対し、長野市は38.8、2市以外は28.5。調剤以外の道を県内で考えるなら、事実上は松本市が中心になります。
一方で2市以外は190.1。松本市とは約1.4倍の差があります。長野県は8つの県と接する日本一多くの県境を持つ県で、県内の移動距離も長い。「長野県」でひとくくりに求人を探すと、この差はまったく見えません。
県庁所在地が医療の中心ではない県は全国でも珍しいです。専門性を高めたい人は松本、暮らしやすさと求人数のバランスなら長野市、条件の上乗せを狙うならそれ以外。この3択で考えると、長野は一気に整理しやすくなりますよ。
ボトルネックは病院|国の偏在指標
厚生労働省は、人口10万対の薬剤師数では拾いきれない医療需要や業態の違いを補正した薬剤師偏在指標を都道府県別に公表しています。1.0が目標水準で、下回るほど不足していることを示します。
※出典は厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2「都道府県別薬剤師偏在指標」(令和5年3月)。この指標は薬剤師の絶対的な充足状況ではなく、相対的な偏在の状況を示すものです。
病院が0.73。全国計0.80をさらに下回ります。薬局は0.95で目標の1.0にわずかに届かず、全国計1.08とは差があります。長野で本当に人が足りていないのは病院薬剤師だというのが、国の指標が示す答えです。
一方、2036年の推計では薬局が1.15、地域全体も1.03まで上がり、目標を超える見通しです。薬局側は将来もっと充足が進むと見込まれており、いまの条件が長く続くとは限りません。逆に病院の推計は0.80で、依然として目標に届きません。長期のキャリアを考えるなら、この差は押さえておく価値があります。
私は病院から薬局へ移った側なので実感がありますが、病院薬剤師は募集の数こそ少なくても、来てほしいと思われている度合いが違います。長野で病院を志望するなら、条件面で相談しやすい環境だと思いますよ。
10の医療圏で見る長野県
長野県は「信州保健医療総合計画」にもとづき、二次医療圏を10設定しています。県土が広く山で隔てられているためで、求人を市町村単位で追うよりこの区分で捉えると通勤範囲を考えやすくなります。県はさらに、この10圏域を東信・南信・中信・北信の4ブロックに束ねて運用しています。
※圏域の区分と4ブロックの構成は長野県「信州保健医療総合計画」による。松本・佐久・上小・上伊那・飯伊・大北の医療機関の状況は同計画別冊の地域医療構想の記述にもとづきます。市別の密度は前掲の令和6年統計。各圏域の傾向は一般的な見立てで、個別の求人条件を示すものではありません。
長野で注意したいのが移動距離です。飯田市から長野市までは高速道路でも2時間以上。「県内だから通える」という感覚は通用しません。通勤範囲は距離ではなく所要時間で線を引き、実際に一度走ってから決めることをおすすめします。
諏訪からは山梨、飯伊からは愛知や岐阜、佐久からは群馬が近い。長野は県境をまたいで探せるエリアが多いのが強みです。県内だけで探すのはもったいないので、通える範囲を県外まで広げて眺めてみてください。
年収データの正しい読み方
長野の年収を調べると「658.4万円で全国9位」「平均年齢47.5歳」「月間勤務時間が全国平均より約6時間長い」といった数字が出てきます。この手の県別の値を根拠に転職を決めるのはおすすめしません。理由は3つあります。
① 全国平均そのものが年ごとに大きく動く
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、薬剤師の毎月の給与が39万8,700円、年間賞与その他特別給与額が83万3,500円で、単純に合計すると年収は約566万8千円です。前年の調査では約599万3千円でしたので、1年で30万円以上下がっています。全国平均でこれだけ振れるのですから、標本数の限られる県別の値はさらに不安定になります。
② 「平均年齢47.5歳」が標本の偏りを物語っている
県別の平均年齢が全国より6歳以上高いという結果は、県別ランキングの根拠がいかに薄いかを示す好例です。医師・歯科医師・薬剤師統計で見た薬剤師全体の平均年齢は46.9歳。調査の対象範囲が違うため単純比較はできませんが、県別の値がここまで動くのは、その県の回答者がたまたま偏っていた可能性を疑うべきです。「勤務時間が約6時間長い」という数字も、同じ標本から出ている以上、同じ不確かさを抱えています。
③ 長野では「どの医療圏か」で考える
松本市266.2と2市以外190.1という差がある県で、県平均の年収を見ても実感とは合いません。見るべきは全国順位ではなく、いま自分がもらっている額と、目の前の求人の総額との差です。賞与実績・住宅手当・車の貸与やガソリン代、冬タイヤの扱いまで含めて比べてください。
「長野は年収9位だけど忙しい」という説明を見かけますが、その両方が同じ調査の同じ標本から出ています。片方だけ信じて片方を疑うのは筋が通りません。順位を追うより、通える範囲の求人を3つ並べて総額と処方箋枚数を書き出すほうが、はるかに確実です。
長野で働くメリットと注意点
- 薬剤師の密度は全国17位で、県全体としては極端に手薄ではない
- 病院の偏在指標が0.73と低く、病院薬剤師を目指すなら需給の面で有利
- 松本市には大学病院があり、専門性を高める道も企業の職場も探せる
- 8つの県と接し、県境をまたいで求人を比べられる圏域が多い
- 2市以外は190.1と手薄で、条件を上乗せする求人が出やすい
- 県内格差が大きく、「長野県の相場」という平均値が実態と合わない
- 2036年の推計では薬局が1.15まで上がり、将来は競争が強まる可能性がある
- 県土が広く山で隔てられ、圏域をまたぐ通勤は現実的でないことが多い
- 車移動が前提の地域が多く、冬タイヤや積雪への備えが必要
- 年収の都道府県ランキングは調査ごとに大きく振れ、判断材料になりにくい
長野で転職を成功させるポイント
① 「松本か、長野市か、それ以外か」を先に決める
松本市266.2、長野市215.2、2市以外190.1という3層構造が長野の姿です。専門性を高めたいなら松本、求人数と暮らしやすさのバランスなら長野市、条件の上乗せを狙うならそれ以外。先に軸を決めてから探すと、比較すべき求人が絞れて判断が速くなります。
② 通勤範囲は距離ではなく時間で決める
長野は山で隔てられているため、地図上の距離と所要時間が一致しません。冬季は所要時間がさらに伸びます。「片道◯分まで」と時間で線を引き、できれば冬の時間帯に一度走ってから決めると失敗が減ります。
③ 業務量は求人票を鵜呑みにしない
薬剤師が手薄な地域ほど高めの条件が出ますが、その裏に少人数体制が隠れていることがあります。処方箋枚数、在籍する薬剤師の人数、閉局後の作業量を具体的に確認すると、実際の働き方が見えてきます。県別の勤務時間データを見るより、この3点を聞くほうが確実です。
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病院の偏在指標が0.73と低く、薬局は将来の充足が見込まれる県です。薬局だけに絞らず病院も候補に入れると、中長期でも選択肢が残ります。ドラッグストアの調剤併設店も県内に展開があり、働き方や年収の考え方が薬局とは違います。
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Uターンや移住で長野に入る場合、引っ越し費用や入職時期の調整が条件面に影響します。実家からの距離、車の有無、家族の予定といった前提を最初に共有しておくと、条件の合わない求人を紹介されずに済みます。冬の暮らしが不安なら、住居付きの派遣で数か月試してから決める方法もあります。
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近隣県と比べて決める
長野は8つの県と接しており、これは全国で最も多い数です。諏訪からは山梨、飯伊からは愛知や岐阜、北信からは新潟が視野に入り、県境をまたいで探す人も少なくありません。隣県の事情を知っておくと、長野の条件が相対的にどうなのかを判断しやすくなります。
▶ 近隣県の転職ガイド
中部以外も含めて、住みたい地域から探したい場合は都道府県別のまとめページが便利です。全国47都道府県の年収相場と求人事情を一覧にしています。
よくある質問
まとめ
長野の薬剤師転職は、「県の平均」を捨てて「どの医療圏か」で考えるのが出発点です。要点を整理します。
- 人口10万対薬剤師数は203.7で全国17位。中央値より上で、不足県とは言い切れない
- 松本市266.2・長野市215.2・2市以外190.1の3層構造。医療の中心は松本市
- 偏在指標は病院0.73・薬局0.95。ボトルネックは病院薬剤師
- 2036年推計では薬局が1.15まで上がり、将来は競争が強まる可能性がある
- 10の医療圏が山で隔てられ、通勤範囲は距離ではなく所要時間で決めるべき
松本の専門性を取るか、長野市のバランスを取るか、それ以外の上乗せ条件を取るか。この3択が決まれば、比べるべき求人はぐっと絞れます。他の地域とも見比べたい人は、薬剤師の都道府県別転職ガイド|地域ごとの年収相場まとめから気になる地域を確認してみてください。
参考にした一次情報
・厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(薬剤師数・人口10万対・都道府県別・中核市再掲)
・厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対)
・厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2(都道府県別薬剤師偏在指標)
・厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(薬剤師の賃金)
・長野県「信州保健医療総合計画」(二次医療圏の区分・医療資源の状況)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は公表時点のもので、その後の調査で変動します。2市以外の数値は公表値ではなく当サイトが県値と市の再掲値から算出したもので、従業地ベースであることによる誤差を含みます。薬剤師偏在指標は相対的な偏在を示す指標であり、絶対的な充足状況を示すものではありません。求人の条件は個別に異なるため、最新の情報は各求人・転職サービスでご確認ください。

