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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「調剤薬局から製薬会社に転職したら年収は上がるのか」「そもそも仕事内容は全然違うのか」。薬剤師のキャリアを考えるとき、製薬会社と調剤薬局は代表的な選択肢です。どちらも薬に関わりますが、働き方も年収の伸び方も転職のしやすさも大きく異なります。
この記事では、両者を厚生労働省の公表データにもとづいて比較します。あわせて、よく見かける「調剤薬局の年収は◯◯万円」という相場表には公的な裏づけがないという点も、理由とともに説明します。数字を信じてよい範囲を見極めることが、後悔しない判断につながります。
先に結論だけ知りたい方へ
✅ この記事でわかること
- 製薬会社と調剤薬局の年収の違い(公的統計ベース・出典リンクつき)
- 調剤薬局の年収について、公的統計で言えることと言えないこと
- 仕事内容と働き方の具体的な違い
- 製薬会社の職種ごとの入りやすさ(公表データつき)
- どちらが自分に向いているかの判断ポイント
製薬会社と調剤薬局の違い(概要)
最大の違いは「患者と直接関わるかどうか」です。調剤薬局は患者と向き合い、調剤・服薬指導を行うのが中心。一方、製薬会社は患者対応ではなく、薬の研究開発から供給までを支える仕事です。年収は職種によっては製薬会社のほうが高くなりますが、その分、転職の難易度も上がります。
どちらが良い・悪いではなく、何を大切にしたいかで向き不向きが分かれます。以下で年収・仕事内容・働き方を順に見ていきましょう。
「調剤の仕事に手応えを感じるか」「薬を作る・広める側に回りたいか」。この軸で考えると、自分がどちら寄りかが見えてきます。年収の高さだけで決めると、入ってから働き方が合わずに後悔しやすいところです。
相場表よりも、目の前の求人1件の内訳を確認するほうが確実です。基本給・賞与実績・手当まで担当者に確認してもらいましょう。まずは相談先の特徴を比べてみてください。
年収を比較
まず基準となる数字を押さえる
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師全体の平均年収は566万7,900円(平均年齢40.1歳、平均勤続年数8.6年)です。前年の令和6年調査では599万3,200円(40.9歳、8.8年)でしたので、単年では下がっています。単年の数字だけで一喜一憂せず、複数年の推移で見る視点も持っておきたいところです。
※この年収は「きまって支給する現金給与額」の12か月分に「年間賞与その他特別給与額」を加えて算出した値です。残業代の扱いなど算出方法によって数字が変わるため、他サイトの数値と一致しないことがあります。出典:令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)
製薬会社の年収
製薬会社は職種によって幅が大きいのが特徴です。代表的な医薬情報担当者については、厚生労働省の職業情報提供サイトが令和7年賃金構造基本統計調査を加工して、年収660.7万円、平均年齢42.4歳、労働時間163時間という数値を公表しています。薬剤師全体の平均を約94万円上回る水準です。
※この統計は職業分類「医薬品営業員」等に対応するもので、同サイトも「必ずしもその職業のみの統計データを表しているものではありません」と注記しています。薬剤師免許を持たない担当者も含まれるため、薬剤師個人の年収とは分けて見てください。出典:医薬情報担当者|職業情報提供サイト(厚生労働省)
研究開発や薬事、メディカルサイエンスリエゾンといった専門職、あるいは管理職になると、これを上回るケースもあります。ただし職種別・企業別の公的統計はないため、具体的な金額は求人ごとの提示額で確認するしかありません。
なお、大手製薬企業の有価証券報告書では全社員の平均年間給与が1,000万円前後、企業によってはそれ以上に達する会社もあります。ただしこれは研究・開発・管理職を含む全社員の平均であり、そのまま自分の提示額の目安にはなりません。
調剤薬局の年収|公的統計で言えること・言えないこと
ここは正直にお伝えします。「調剤薬局勤務」という勤務先だけを取り出した公的な年収統計は存在しません。国の賃金統計は「薬剤師」という職種単位の集計で、調剤薬局・病院・企業といった勤務先別の内訳が公表されていないためです。
よく見かける「調剤薬局は500万円前後から550万円程度」といった相場表は、いずれも求人情報や民間調査をもとにしたもので、出典によって数字が変わります。当サイトでは、根拠を確認できない相場表は掲載していません。読んで安心はできても、応募の判断材料にはならないからです。
- 基本給と固定残業代の内訳(固定残業時間と、超過分を追加支給する旨の明示があるか)
- 賞与の直近数年の支給実績(「◯か月分」という規定ではなく実績)
- 管理薬剤師手当・在宅手当・資格手当の額と支給条件
- 昇給の仕組みと、直近の昇給実績
- 就業の場所の変更の範囲(2024年4月から労働条件の明示事項に追加)
2026年度改定による賃上げの後押し
薬局側には、制度上の追い風があります。2026年6月施行の令和8年度調剤報酬改定で調剤ベースアップ評価料(4点)が新設され、令和9年6月以降は所定点数の2倍で算定されることになりました。厚生労働省は、この措置により薬局の対象職員について令和8年度・令和9年度にそれぞれ3.2パーセント(事務職員等は5.7パーセント)のベースアップ実現を支援するとしています。
ただし、この評価料は薬局が施設基準を届け出て算定するもので、実際にいくら手取りが増えるかは職場ごとの配分次第です。対象職員の範囲も薬局の届出内容によるため、確実な上昇を約束するものではありません。面接では「調剤ベースアップ評価料を届け出ているか」「賃金改善にどう反映しているか」を聞いてみるとよいでしょう。
見落としやすい「年代による逆転」
平均額だけを見ると製薬会社が有利に見えますが、年代で動きが違います。若いうちは調剤薬局やドラッグストアのほうが高いことも珍しくありません。薬剤師は不足感から初任給が高く設定されやすいためです。
一方、医薬情報担当者の平均年齢は42.4歳で、薬剤師全体の40.1歳より高くなっています。つまり、若手が多い職種というより、経験を積んだ層が中心の職種だということです。差が開きやすいのは中堅以降になってから。今の額面だけでなく、10年後にどちらのカーブに乗っていたいかで考えると判断を誤りにくくなります。
製薬会社の高年収は魅力ですが、その分ノルマや競争、転勤がある職種もあります。額面だけでなく、働き方や転勤の有無とセットで比較するのが大切です。数字が高い理由の裏側まで見てから決めてください。
仕事内容・働き方を比較
製薬会社の仕事内容・働き方
製薬会社では、研究開発、品質管理、臨床開発、医薬品情報、薬事、医薬情報担当者、メディカルサイエンスリエゾンなど、多様な職種で薬剤師が活躍します。患者対応はなく、薬を生み出し届ける裏側を担う仕事です。一般企業のため、勤務は平日の日勤が基本で、長期休暇も取りやすい傾向があります。
ただし「土日祝は必ず休める」と単純化するのは正確ではありません。職業情報提供サイトは医薬情報担当者について、完全週休二日制をとっているところが多いものの、医師や薬剤師と面談の予約をとるために早朝や夜間の勤務が必要になることもあると記しています。また、一定の地域を担当し、車を利用した直行直帰スタイルが基本で、自分で活動計画を組む必要があるとされています。自律的に動ける人には合いますが、決まった時間に決まった場所で働きたい人には向きません。
調剤薬局の仕事内容・働き方
調剤薬局では、処方箋にもとづく調剤、服薬指導、在庫管理、医師や患者との連絡調整、健康相談などを行います。患者と直接関わり、地域医療を支えるのが特徴です。当直や夜勤は基本なく、生活リズムを保ちやすい一方、平日に加えて土曜も営業する薬局が多い点は押さえておきましょう。転勤は、大手チェーンでは異動があるものの、地域限定の働き方を選びやすいのも調剤薬局の特徴です。
「カレンダー通り休みたい」なら製薬会社、「患者さんと関わり続けたい」なら調剤薬局、と働き方の希望で選ぶのも一つの考え方です。ただ医薬情報担当者は先方の都合に合わせる仕事なので、休みの形は求人ごとに確認してください。手を動かす調剤の実感が失われる点も覚えておいてほしいところです。
製薬会社と調剤薬局の比較表
ここまでの内容を比較表にまとめました。
※年収の数値は厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(薬剤師全体)および同調査を加工した職業情報提供サイトの公表値(医薬情報担当者)にもとづく参考値で、企業・職種・地域により差があります。
製薬会社は「職種」で入りやすさが大きく違う
「製薬会社は狭き門」とひとくくりに語られがちですが、職種ごとに事情はかなり違います。ここを分けて考えないと、通る可能性のある入口まで自分で閉じてしまいます。
たとえば医薬情報担当者について、職業情報提供サイトは入職にあたって特に学歴や資格は必要とされないと記しています。実際に働いている人が必要と考える「入職前の実務経験」も、「特に必要ない」が50.9パーセントと半数を超えています。未経験可の募集が出るのは、この職種の性格によるものです。
ただし就業者の学歴は大卒が92.5パーセントを占め、入社後は業界共通のカリキュラムによる導入教育を受けたうえで、公益財団法人が実施する認定試験を受けることになります。同サイトは、この認定資格を持たない担当者はほとんどいないとしています。「資格不要だが、入ってから取る前提」と理解しておくとよいでしょう。
- 医薬情報担当者:未経験可の募集がある。薬剤師免許と対人スキルが評価されやすい
- 品質管理:製造所での試験検査。薬学の素養が直接効き、未経験可の求人も見つかる
- 薬事・医薬品情報:法規制の理解と情報整理の素養が問われる。調剤での添付文書運用の経験が生きる
- 研究開発:修士・博士が前提になりやすく、最も狭き門
なお、医薬情報担当者の有効求人倍率は1.07(令和6年度)です。応募すれば必ず入れるという数字ではありませんが、極端に門が閉じているわけでもありません。「製薬会社」ではなく「どの職種を狙うか」まで絞ると、道筋が具体的になります。
「製薬は無理」と最初から諦めてしまう人が多いのですが、職種を分けて見ると景色が変わります。逆に、研究開発だけを思い描いて動くと、要件の壁でつまずきます。まず入口を1つに決めてから情報を集めてください。
転職難易度とどちらが向いているか
製薬会社は求人数が調剤薬局に比べて少なく、多くの職種で専門性が求められるため、全体としては転職難易度は高めです。製薬未経験の場合は、アピールできる経験や専門性がないと厳しいのが現実です。まずは調剤薬局や病院で特定領域の専門性を磨き、市場価値を高めてから挑戦するのが王道ルートです。
一方、調剤薬局は求人が豊富で、未経験やブランクからでも入りやすいのが強みです。「専門性と企業キャリアを狙うなら製薬会社」「患者と関わりながら安定して働きたいなら調剤薬局」と、優先順位で選ぶのが分かりやすい整理です。
製薬会社と調剤薬局の二択にとどまらず、病院やドラッグストアなども含めて広く見比べたい場合は、上のあわせて読みたい記事で転職先ごとの特徴を整理しています。
製薬会社の求人は非公開のものが多く、選考対策も専門的です。応募を本格的に考える段階になったら、製薬・企業案件を扱う転職エージェントに情報を集めてもらうと、求人の中身まで把握しやすくなります。
よくある質問
まとめ
✅ この記事のポイント
- 薬剤師全体の平均年収は566万7,900円(令和7年賃金構造基本統計調査、前年は599万3,200円)
- 医薬情報担当者は660.7万円・平均年齢42.4歳(同調査を加工した職業情報提供サイトの公表値)。ただし薬剤師以外も含む統計である点に注意
- 調剤薬局という勤務先だけを取り出した公的な年収統計は存在しない。相場表ではなく求人ごとの年収総額で判断する
- 2026年6月施行の改定で調剤ベースアップ評価料が新設され、薬局の対象職員に年3.2パーセントのベースアップ支援がある
- 製薬会社は患者対応なし、調剤薬局は患者と直接関わる。医薬情報担当者は早朝・夜間の対応や直行直帰も
- 転職難易度は製薬会社が高いが、職種によって入口の広さは大きく違う
どちらにも魅力があり、正解は人それぞれです。年収の数字は年度によっても動きますし、公的に確かめられる範囲には限りがあります。信じてよい数字の範囲を見極めたうえで、自分が大切にしたい軸と5年後・10年後の働き方まで見据えて、後悔のない選択をしてください。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。年収は厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(薬剤師全体)および同調査を加工した職業情報提供サイトの公表値(医薬情報担当者)にもとづく参考値で、企業・職種・地域・年度により変動します。調剤報酬の内容は厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」にもとづきます。最新の水準は各社の募集要項や各出典元でご確認ください。

