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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「調剤薬局と病院、どっちが残業は少ないのか」。転職を考える薬剤師がまず気にするのが、働き方の中でも残業や当直の違いです。
先にお伝えしておくと、調剤薬局と病院を分けて比べられる残業時間の公的統計は、存在しません。ネット上でよく見かける「病院は月◯時間」といった数字は、出所を確かめると民間の調査や求人サイトの集計であることがほとんどです。
この記事では、公的に確認できることとできないことを切り分けたうえで、当直の法的な仕組み、年収の傾向、そして求人票のどこを見れば実態がつかめるのかを整理します。数字を鵜呑みにせず、自分で確かめられるようになることが目的です。
先に結論だけ知りたい方へ
✅ この記事でわかること
- 残業時間について、公的統計で言えることと言えないこと
- 当直・夜勤の実態と、宿日直許可という法律上の仕組み
- 年収の比較で気をつけたい点
- 残業だけで選ばないための職場選びのポイント
調剤薬局と病院、働き方の何が違うのか
残業時間の数字は後で扱うとして、まず構造的な違いを押さえておきましょう。当直・夜勤は病院にはあり、調剤薬局には基本ない。これが最大の違いです。
厚生労働省の職業情報提供サイトは、薬剤師の労働条件について、医療機関では入院患者への点滴等の対応など休日でも必要に迫られるため、病院によっては夜勤や休日出勤をすることもあると記しています。一方、調剤薬局については、近隣の医療機関の繁閑に応じて忙しさが変わり、通院者の多い午前中が忙しくなるケースが多いとしています。
同サイトの「仕事の性質」では、薬剤師という職業は「規則的(ルーチンやスケジュールが決まっている)」に当てはまり、「不規則」には当てはまらないと整理されています。職種全体としては、時間の読める仕事だということです。ただしこれは職種全体の評価であり、個々の職場の忙しさを保証するものではありません。
同じ「調剤薬局」でも、忙しい門前薬局と落ち着いた面応需の薬局では残業がまるで違います。職種のイメージだけでなく、個々の職場の実情を確認するのが大切です。
残業時間|公的統計で言えること・言えないこと
正直にお伝えします。「調剤薬局勤務」「病院勤務」に分けて残業時間を集計した公的統計は存在しません。国の賃金統計は「薬剤師」という職種単位の集計で、勤務先別の内訳が公表されていないためです。
よく見かける「病院薬剤師の平均残業は月◯時間」という数字は、多くが求人サイトや転職メディアによる利用者調査です。調査の方法や母数が示されていないものも珍しくありません。当サイトでは、こうした出所の確認できない数値は掲載しない方針をとっています。
公的データで確認できること
※出典:薬剤師|職業情報提供サイト(厚生労働省)。同サイトは、統計データが必ずしもその職業のみを表すものではない旨を注記しています。
ここで注目したいのが有効求人倍率3.12という数字です。求職者1人あたり3件を超える求人がある状態で、薬剤師が構造的な売り手市場にあることを示しています。裏を返せば、人が採れない職場では残業が発生しやすいということでもあります。残業の多寡は業態よりも、その職場が必要な人数を確保できているかで決まる部分が大きいのです。
残業が発生する場面の違い
残業が多めの職場では、固定残業代(みなし残業)が基本給に含まれていたり、超過分がサービス残業になっていたりすることがあります。見るべきは時間数だけではありません。求人票では「みなし残業◯時間込み」の有無と、それを超えた分が実際に支給されるかを確認してください。管理薬剤師など管理監督者にあたる立場では、残業代が支給されない代わりに手当がつく形になる点も押さえておきましょう。
病院の残業には「勉強会や研修など、スキルアップにつながる時間外」も含まれます。負担ではあるものの、成長の機会と捉える人もいるのがポイントです。ここを苦痛と感じるか投資と感じるかで、病院の向き不向きはかなり分かれます。
当直の正体|宿日直許可という仕組みを知る
病院の求人票にある「当直」は、中身が2種類に分かれます。ここを混同すると、想定外の負担につながります。
許可が下りる条件は、かなり厳しい
適用除外という言葉だけ見ると使用者に有利な制度に思えますが、許可の基準はしっかり決まっています。厚生労働省が示している一般的許可基準の要点は次のとおりです。
宿日直許可の一般的許可基準
- 勤務の態様|常態としてほとんど労働する必要のない勤務であること。原則として、通常の労働の継続は許されない
- 宿日直手当|1日または1回につき、宿日直勤務に就くことが予定されている同種の労働者に支払われている賃金の1人1日平均額の3分の1以上
- 回数|宿直は週1回、日直は月1回程度が限度
- 設備|宿直については、相当の睡眠設備を設置していること
さらに、医師や看護師等の宿直については取扱いの細目が示されています。通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること、従事する業務は定時巡回や異常事態の報告、少数の要注意患者の定時検脈・検温など軽度または短時間のものに限ること、夜間に十分な睡眠がとりうること、といった条件です。
重要なのはここです。救急患者の診療や入院、患者の死亡、出産等があり、昼間と同様の労働に従事することが常態であるようなものは、許可されません。そして許可を得た宿直中に稀にそうした労働が発生した場合は、その時間について時間外労働の手続を行い、割増賃金を支払う必要があるとされています。
※出典:厚生労働省労働基準局監督課「医師の宿日直勤務と労働基準法」、厚生労働省「医療機関の宿日直許可申請に関する相談窓口のご案内」
面接で確認したい3つのこと
- その当直は、交代制の通常勤務か、宿日直許可を受けた勤務か
- 宿日直許可を受けている場合、1回あたりの手当はいくらか。回数は月に何回か
- 夜間に呼び出しが発生する頻度はどのくらいか。発生した時間分の割増賃金は支払われるか
言いにくい質問に見えますが、いずれも制度上あって当然の確認です。答えに詰まったり、あいまいに流されたりする場合は、それ自体が判断材料になります。
「当直あり」の4文字だけで判断してはいけません。ほとんど眠れる当直と、朝まで走り回る当直では、同じ言葉でも中身が別物です。手当の額を聞くと、実はかなりの情報が得られます。極端に低いなら、宿日直許可を前提にした運用ということですから。
年収の違いをどう見るか
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師全体の平均年収は566万7,900円(平均年齢40.1歳)です。前年の令和6年調査では599万3,200円でしたので、単年では下がっています。
ただし、残業と同じく、勤務先別の平均年収を示した公的統計も存在しません。「調剤薬局は◯◯万円、病院は◯◯万円」という比較表は、いずれも求人情報や民間調査にもとづくもので、出典によって数字が変わります。当サイトではこうした相場表を掲載していません。
代わりに確認したいのが、求人ごとの年収総額です。とくに当直がある職場では、当直手当が年収にどれだけ乗っているかで、額面の意味が変わります。当直回数が減れば年収も下がるという構造になっている場合があるためです。
年収総額を読むときの確認項目
- 基本給と固定残業代の内訳。超過分を追加支給する旨の明示があるか
- 当直手当の1回あたりの額と、月あたりの想定回数
- 賞与の直近数年の支給実績
- 管理薬剤師手当・在宅手当・資格手当の額と支給条件
※出典:令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)。年収は「きまって支給する現金給与額」の12か月分に「年間賞与その他特別給与額」を加えて算出した値です。
当直手当込みの年収を提示されると、数字は立派に見えます。でもそれは「体力を差し出した対価」でもあります。当直を抜いた基本の年収がいくらなのかを、必ず分けて聞いてください。
調剤薬局と病院の働き方 比較表
ここまでの内容を整理しました。数値の裏づけがある項目とない項目を分けて示しています。
残業だけで選ばないための職場選びのポイント
残業の少なさは大事ですが、それだけで職場を決めると後悔することもあります。調剤薬局と病院の二択にとどまらず、ドラッグストアや企業なども含めて業態ごとの向き不向きを見比べておくと、判断の軸が定まります。そのうえで、次の視点もあわせて確認しましょう。
- 人員配置|有効求人倍率3.12という市場で、その職場が必要な人数を確保できているか。ここが残業を最も左右します
- 固定残業の設計|みなし残業の有無と時間数、超過分の支給ルール
- 当直の中身|交代制か宿日直許可か、手当の額、呼び出しの頻度
- 年間休日と有給の取得実績|制度としての日数ではなく、実際に取れているか
- やりたい仕事とキャリア|専門性を高めたいのか、生活を安定させたいのか
残業や人員配置などの内部事情は、求人票だけでは分かりにくいものです。応募を検討する段階になったら、薬剤師特化の転職エージェントに実際の残業実態を尋ねると、ミスマッチを防ぎやすくなります。
よくある質問
まとめ
✅ この記事のポイント
- 勤務先別の残業時間・年収を比べられる公的統計は存在しない。ネット上の相場の数字は出所を確かめる
- 当直・夜勤は病院にはあり、調剤薬局には基本なし。当直が交代制か、労働基準法第41条第3号の宿日直許可によるものかで扱いが変わる
- 宿日直手当は1人1日平均額の3分の1以上、宿直は週1回・日直は月1回程度が限度、相当の睡眠設備が必要。昼間と同様の労働が常態なら許可されない
- 薬剤師全体の平均年収は566万7,900円、労働時間157時間、有効求人倍率3.12(いずれも公的データ)
- 残業は業態より個々の職場の人員配置で決まる。固定残業の設計と当直の中身を求人票と面接で確認する
残業の少なさは大切な条件ですが、それだけで決めず、当直の中身・年収の内訳・積みたい経験まで含めて比較するのが後悔しない選び方です。相場の数字を探すより、目の前の1件を読み解くほうが確実です。
この記事で参照した主な公的情報
- 薬剤師|職業情報提供サイト(厚生労働省)(労働時間・賃金・有効求人倍率・労働条件の特徴)
- 令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)(薬剤師の平均年収)
- 厚生労働省労働基準局監督課「医師の宿日直勤務と労働基準法」(宿日直の一般的許可基準・手当の最低額・回数の限度)
- 厚生労働省「医療機関の宿日直許可申請に関する相談窓口のご案内」
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。年収・労働時間・有効求人倍率は公的統計にもとづく目安で、企業・職種・地域・年度により変動します。宿日直に関する記載は厚生労働省が示す許可基準にもとづくもので、個別の可否は所轄の労働基準監督署の判断によります。最新の水準や勤務体系は各職場の募集要項をご確認ください。

