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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
定年が近づくと、「このまま再雇用で続けるか」「外に出て働き方を変えるか」で迷う方が多くいます。判断に必要なのは気持ちの整理よりも、数字と制度です。
先に結論をお伝えします。60代の薬剤師には両方の道があります。厚生労働省の届出データでは、60歳から69歳の薬剤師が45,964人、70歳以上も19,986人います。診療所と介護保険施設では、60歳から69歳が最も多い年齢層です。年齢だけで働き口がなくなる職業ではありません。
そしてお金の前提が2つ変わりました。2026年4月から在職老齢年金の基準額が大幅に上がり、2025年4月からは高年齢雇用継続給付が縮小されています。「働くと年金が減る」という前提も、「給付でカバーできる」という前提も、どちらも古くなっています。この記事では届出データと制度の両面から、再雇用と転職の比べ方を整理します。
この記事でわかること
- 届出データで見る60代薬剤師の人数と、働いている職場
- 65歳まで・70歳までの雇用に関する制度の現在地
- 再雇用と転職の比べ方と、判断するための確認項目
- 2026年に変わった在職老齢年金と、縮小された給付
- 活躍しやすい職場と、70歳以降も働くための準備
60代薬剤師の現在地|データと制度
まず、どれくらいの人が実際に働いているかを確認します。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、届出薬剤師は329,045人で、そのうち60歳から69歳が45,964人、70歳以上が19,986人です。合わせて65,950人、全体の20.1パーセントが60歳以上ということになります。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(令和6年12月31日現在)
この表からわかるのは、職場によって年齢の構成がまったく違うということです。診療所や介護保険施設では60代が最も多い層で、同年代が周囲にいます。一方、薬局は30代が最多層で、60代は少数派になります。「60代を採ってくれるか」ではなく「60代が実際に多く働いている職場はどこか」から探すと、話が早く進みます。
制度の現在地|65歳までと70歳まで
高年齢者雇用安定法により、事業主には65歳までの雇用確保措置が義務づけられています。定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止のいずれかです。継続雇用の対象者を基準で限定できる経過措置は令和7年3月31日で終了し、令和7年度からは希望者全員が対象になりました。
出典:厚生労働省「令和7年高年齢者雇用状況等報告」集計結果(令和7年12月19日公表)
注目したいのは、70歳までの措置を実施している企業が34.8パーセントにとどまる点です。65歳までは制度で守られていますが、その先は会社ごとに差があります。65歳より先も働く前提なら、応募先の定年年齢と70歳までの制度の有無を必ず確認してください。
私の周りでも、60代後半までパートで現役を続けている薬剤師は何人もいます。フルタイムの正社員は年齢とともに選択肢が絞られますが、勤務日数を抑えた働き方まで含めれば、活躍の場はまだまだ広いと感じています。
再雇用と転職の比べ方
どちらが得かは人によって変わります。決め手になるのは、両方を同じ項目で並べられるかどうかです。
比べる前に、再雇用の条件を書面でもらう
相談で多いのが「再雇用のほうが安心なのでは」という迷いです。判断できない原因はたいてい、再雇用の条件が口頭でしか示されていないことにあります。次の4点を書面で出してもらってください。数字が出てはじめて、外の求人と比べられるようになります。
4つ目はとくに重要です。65歳までは制度で守られていますが、その先は会社の方針しだいです。65歳で終わる契約なのか、その後も更新の道があるのかで、いま転職すべきかどうかの答えが変わります。
再雇用の提示をそのまま受け入れる前に、一度だけでも外の求人を見ておいてください。比較対象があると、その条件が良いのか悪いのか冷静に判断できますし、交渉の材料にもなります。見るだけならリスクはありません。
2026年に変わったお金の前提
60代の働き方を考えるうえで、直近で2つの制度が動きました。どちらも手取りに直結します。
在職老齢年金の基準額が大きく上がった
老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金に加入して働くと、年金の月額(基本月額)と給与・賞与を月換算した額(総報酬月額相当額)の合計が一定の基準を超えたとき、超えた分の2分の1が支給停止されます。これが在職老齢年金です。
この基準額が、2026年4月から引き上げられました。法律上は62万円(2024年度価格)とされ、賃金の変動を反映した2026年度の実際の基準額は月65万円です。2026年3月分までは51万円(2025年度価格)でした。パートや嘱託で働く薬剤師の収入水準では、この基準に届かないことがほとんどです。
つまり「働きすぎると年金が減る」と考えて勤務日数を抑える理由は、以前より小さくなりました。なお調整の対象は老齢厚生年金の部分だけで、基礎年金は減りません。
高年齢雇用継続給付は縮小された
一方で、逆方向の変更もあります。60歳以降に賃金が下がった場合に雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付は、2025年4月1日以降に60歳に達する人から、給付率の上限が15パーセントから10パーセントに縮小されました。
再雇用で賃金が下がる前提の設計をしていた方は、想定より手取りが少なくなる可能性があります。制度が段階的に縮小される方向にあることも含め、再雇用の提示額を見るときは給付を当てにしすぎないほうが安全です。
2つを合わせると、「賃金を下げて給付で補う」設計から「働いた分だけ受け取る」設計へ、制度の向きが変わったと言えます。再雇用の提示額が定年前より大きく下がる場合、以前ほど給付でカバーされない点は押さえておいてください。
支給停止の判定や給付の額は、個人の加入歴や賃金によって変わります。具体的な見込みは年金事務所やハローワークでご確認ください。
「働きすぎると年金が減るから」と勤務を減らす方がいますが、パートや嘱託の収入水準では基準額に届かないことがほとんどです。不安で働き方を狭める前に、正確な数字を年金事務所で確認してみてください。
活躍しやすい職場と働き方
60代は、フルタイムの正社員にこだわらないほうが選択肢が広がります。届出データで60代が多い職場と、働き方の選べる職場を整理しました。
職場選びの順番としては、まず週に何日働きたいかを決めてください。そこが決まると候補が絞られます。そのうえで通勤時間を30分以内など具体的な上限で区切ると、続けられる求人だけが残ります。
60代は「週何日働きたいか」を先に決めると、職場選びがすっと進みます。フルタイムにこだわらず週3日や時短から入り、体力と相談しながら調整していく。長く現役を続けるうえでは、これがいちばん理にかなっています。
70歳以降も働くための準備
70歳以上の届出薬剤師は19,986人います。実際に続けている人がいる以上、準備しだいで道はあります。ただし65歳までのように制度が守ってくれるわけではないため、自分で設計する必要があります。
4つ目は見落とされがちです。電子処方箋も電子薬歴も、操作そのものは職場で教えてもらえます。ただ「使えません」と最初に言ってしまうと採用側が身構えます。面接では「新しい仕組みは覚える前提で臨みます」と言えるかどうかが、印象を分けます。
年齢を重ねた方の採用で職場が気にするのは、能力よりも「新しいやり方を受け入れてもらえるか」です。ここさえ伝われば、長年の経験は純粋な強みとして評価されます。
よくある質問
まとめ
60代の働き方を決めるための要点を整理します。
- 60歳以上の届出薬剤師は65,950人で全体の20.1パーセント。診療所と介護保険施設は60歳から69歳が最多層
- 65歳までの雇用確保は99.9パーセントの企業が実施済み。70歳までの措置は34.8パーセントにとどまる
- 在職老齢年金の基準額は2026年4月から月65万円に。一方で高年齢雇用継続給付は上限10パーセントに縮小された
- 再雇用は、勤務日数・月額・担当業務・契約期間の4点を書面でもらってから外と比べる
再雇用も転職も、どちらが正解ということはありません。大切なのは、条件を数字で並べたうえで納得して選ぶことです。まずは再雇用の提示を書面でもらうところから始めてみてください。それがそろえば、比べる作業はそれほど難しくありません。
この記事で参照した公的情報
- 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」(年齢階級別の薬剤師数・施設別の平均年齢)
- 政府広報オンライン「在職老齢年金制度の基準額が2026年4月から引上げに」
- 厚生労働省「令和7年高年齢者雇用状況等報告」集計結果(令和7年12月19日公表)
- 高年齢者雇用安定法、雇用保険法(高年齢雇用継続給付)、薬剤師法第9条
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。

