この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「結婚が決まったけど、転職は結婚前と結婚後、どっちがいいの?」。結婚と転職が近い時期に重なると、どちらを先に動かすべきか迷う方は少なくありません。姓の変更や引っ越し、社会保険の手続きなど、考慮すべき点が多いのも事実です。
結論から書きます。タイミングの正解は「転居があるかどうか」でほぼ決まります。転居を伴うなら新居が決まってから、伴わないなら他の事情で判断して構いません。
そのうえで、必ず押さえてほしい実務が2つあります。1つは、姓が変わったら薬剤師名簿の訂正を30日以内に申請しなければならないこと。これは法令上の義務です。もう1つは、「106万円の壁」がなくなる方向で法改正が決まっていること。扶養を前提に働き方を決めると、数年で前提が崩れる可能性があります。
📌 この記事でわかること
- 結婚前と結婚後、転職はどちらのタイミングがいいか
- 結婚前・結婚後それぞれのメリット・デメリット
- 転居を伴う場合のスケジュールの組み方
- 面接で結婚について聞かれたときの、法律上の整理と答え方
- 姓が変わったら30日以内に必要な手続きと、旧姓併記という選択肢
- 「106万円の壁」がなくなる法改正と、扶養の考え方
結婚前と結婚後、転職はどちらのタイミングがいいか
要点:判断の軸は「転居を伴うかどうか」の1点です。転居があるなら、新居が決まってから動くのが原則です。
結論から言うと、「絶対にこちらが正解」というタイミングはありません。転居の有無、働き方の希望、収入バランスなど、状況によって最適なタイミングは変わります。
ただし、判断の軸として押さえておきたいのは「転居を伴うかどうか」です。結婚に伴って引っ越しがある場合は、新居が決まってから転職活動を始めるほうが、勤務地の選定がしやすくなります。転居がない場合は、結婚前後どちらのタイミングでも大きな差はないため、他の要素(現職の状況、キャリアの節目など)で判断してよいでしょう。
「結婚前後どちらがいいか」で悩む人は多いですが、実際は「転居があるかどうか」で答えが決まることがほとんどです。まずはそこを整理すると、驚くほどシンプルに判断できますよ。
結婚前・結婚後それぞれのメリット・デメリット
要点:結婚前は書類がシンプルになる代わりに準備が重なります。結婚後は勤務地を落ち着いて選べる代わりに手続きが重なります。
結婚前に転職する場合
結婚後に転職する場合
転居を伴う結婚であれば、新居が決まってから動くほうが、通勤範囲などの条件を具体的に絞り込めます。焦って結婚前に転職先を決めてしまい、結局引っ越し先から通いにくくなる、という事態を避けられます。
意外な落とし穴が「入職直後に結婚式の休みを取りにくい」ことです。試用期間中にまとまった休暇を申し出るのは、気まずさを感じる方が多いようです。式の日程が先に決まっているなら、面接の段階でその日程を伝えておくと、後で悩まずに済みます。
転居を伴う場合のスケジュールの組み方
要点:新居の確定を起点に逆算します。応募開始は「住所が決まってから」が原則です。
転居を伴う場合、順番を間違えると取り返しがつきません。次の順序を目安にしてください。
転居を伴う場合の進め方
- 1 新居のエリアを確定する。物件が決まっていなくても、最寄り駅や区市町村まで固まれば十分です
- 2 通勤の上限時間を決める。ここが決まると、応募できる求人の母数が見えます
- 3 応募を開始する。まだ転居前でも問題ありません。「◯月に◯◯へ転居予定」と伝えれば選考は進みます
- 4 入職日を転居後に設定する。引っ越しと入職が同じ週に重ならないよう、最低でも1〜2週間は空けます
- 5 姓の変更手続きをまとめて行う。入籍と入職の順序を決めておくと、書類の姓が混乱しません
とくに4番目は軽視されがちですが、引っ越しの片付けが終わらないまま新しい職場が始まると、最初の1か月がかなり苦しくなります。入職日は交渉できる項目なので、遠慮せず相談してください。
転職活動そのものの進め方や期間の目安は、次の記事にまとめています。
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面接で結婚について聞かれたら
要点:答える範囲は自由です。ただし、勤務条件に直結する事情(転居予定など)は伝えたほうが、双方のためになります。
面接で結婚や結婚予定について質問されることがあります。まず法律上の整理を確認しておきましょう。
つまり、結婚の予定を理由に落とされることは、そもそも法律が想定していません。そのうえで、実務的にはこう対応するのが現実的です。
結婚に関する質問への向き合い方
- 聞かれた場合、答えたくない内容は無理に詳しく話す必要はない
- 「長く働きたいと考えています」など、就業継続の意思を伝えると安心材料になる
- 勤務条件に直結する事情(転居予定、式の日程など)は、正直に伝えたほうが後のミスマッチを防げる
- 質問の内容や態度に強い違和感がある場合、その職場の姿勢を測る材料と考えてよい
整理すると、「話す義務のないこと」と「話したほうが得なこと」は分けて考えるのがコツです。将来の妊娠の希望などは前者、来月転居することは後者にあたります。
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面接で結婚予定を伝えると不利になるのでは、と心配される方が多いのですが、薬局の側も「入ってすぐ辞められるほうが困る」と考えています。長く働きたいという意思とセットで伝えれば、むしろ前向きに受け止められることのほうが多い印象です。
姓が変わる場合の手続き|薬剤師名簿の訂正は30日以内
要点:薬剤師名簿の訂正申請は、変更が生じた日の翌日から30日以内という法定期限があります。「速やかに」ではなく、期限が決まっています。
結婚により姓が変わる場合、転職活動や入職手続きだけでなく、薬剤師としての登録にも手続きが発生します。ここは期限が明確に定められているので、必ず押さえてください。
根拠:薬剤師法施行令第5条第1項(名簿の訂正)、同令第8条第1項(免許証の書換交付)。手数料や必要書類の詳細は自治体により案内が異なるため、住所地の保健所にご確認ください。薬剤師名簿訂正申請書の様式(厚生労働省)
あわせて、転職活動と入職の実務では次の点を押さえておきましょう。
転職と姓の変更が重なるときの確認事項
- 応募書類は、応募時点の戸籍上の姓で記載するのが基本
- 入職手続きの途中で姓が変わる場合、その旨を採用担当者に事前に伝えておく
- 保険薬剤師の登録など、勤務に関わる各種登録も氏名変更の手続きが必要になる
- 免許証の書換交付には時間がかかるため、入職時に新しい免許証が間に合わない可能性を担当者に共有しておく
現場では、旧姓のまま働き続ける薬剤師も珍しくありません。患者さんに顔と名前で覚えられている場合はなおさらです。免許証に旧姓を併記できる仕組みがあるので、「職場では旧姓、書類は新姓」という運用も可能です。職場の方針を入職前に確認しておくと安心です。
「年収の壁」は変わる|扶養と社会保険の最新動向
要点:2025年に成立した年金制度改正法で、「106万円の壁」の撤廃と企業規模要件の段階的撤廃が決まりました。扶養を前提に働き方を決めると、数年で前提が変わります。
結婚を機に、働き方や収入を見直す方は多いと思います。ここで知っておいてほしいのが、その判断の土台になっている「年収の壁」が、法改正によって崩れていくことが決まっているという事実です。
106万円の壁は撤廃が決定している
現在、パートなどの短時間労働者が勤務先の社会保険に加入する要件は、①賃金が月額8万8,000円(年収106万円相当)以上 ②週の所定労働時間が20時間以上 ③学生でない ④従業員51人以上の企業という組み合わせです。
このうち①の賃金要件は、2025年6月20日に公布された年金制度改正法(令和7年法律第74号)で撤廃が決まりました。最低賃金が1,016円以上の地域では週20時間働けば年106万円相当に達するため、この要件が意味を失うという理由です。
出典:厚生労働省年金局「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要等」(第25回社会保障審議会年金部会・2025年6月30日資料)。資料を確認する(厚生労働省)
読み取れることは明確です。これからは「年収がいくらか」ではなく、「週20時間以上働くかどうか」が加入の分かれ目になります。賃金要件が撤廃されれば、年収を抑えても週20時間以上働けば社会保険に加入することになるからです。
薬剤師は「壁」に収めるのが難しい職種
薬剤師は時給水準が高い職種です。そのため、扶養の範囲に収めようとすると、勤務時間をかなり短く抑える必要が出てきます。週20時間という基準で見ると、時給が高いほど「短い時間で壁に届いてしまう」構造になります。
働き方を決める前に確認しておきたいこと
- 応募先の従業員数(企業規模要件に該当するか)と、週の所定労働時間
- 正社員として働き続ける場合、通常は勤務先の社会保険に加入する
- 社会保険に加入すると保険料負担は増えるが、将来の年金額が増え、傷病手当金や出産手当金の対象にもなる
- 扶養の範囲内で働くか、キャリアを優先するかは、世帯全体で話し合って決める
目先の手取りだけでなく、長期的なキャリア形成と将来の年金額まで含めて検討することをおすすめします。とくに「壁」の基準そのものが数年で動くことが決まっている以上、それに合わせて働き方を固定するのは得策とは言えません。
押さえておきたい点|施行日はまだ確定していません
賃金要件の撤廃について、法律は「公布から3年以内の政令で定める日」としており、具体的な施行日は政令で決まります。企業規模要件の撤廃スケジュールは法律上示されていますが、賃金要件の時期は今後の発表を確認してください。本記事の情報は2026年9月時点のものです。
相談を受けていて感じるのは、「扶養に入る」を目的にしてしまうと、選べる求人が一気に狭くなるということです。薬剤師の時給だと、週2日でも壁に近づきます。壁を守るために働き方を削るより、加入して働くほうが結果的に世帯の手取りも将来の年金も増える、というケースは珍しくありません。
よくある質問
まとめ
この記事のポイント
- 結婚前後どちらが正解ということはなく、転居の有無が判断の大きな軸になる
- 結婚前は書類がシンプルになる一方、準備と転職活動が重なりやすい
- 結婚後は勤務地を落ち着いて選べる一方、手続きが重なることがある
- 転居を伴うなら、新居のエリア確定→通勤時間の上限決定→応募→入職日設定の順で進める
- 募集・採用における性別を理由とする差別は男女雇用機会均等法で禁止。話す義務のないことと、話したほうが得なことを分けて考える
- 姓が変わったら、薬剤師名簿の訂正申請を30日以内に行う(法定期限)。免許証への旧姓併記も可能
- 「106万円の壁」は撤廃が決定。企業規模要件も2027年10月から段階的に撤廃され、判断軸は「週20時間」に移る
結婚と転職が重なる時期は、慌ただしくなりがちです。判断に迷ったら「転居の有無」を軸に考え、期限のある手続きだけは先にカレンダーに入れておくことで、落ち着いて新生活のスタートを切ることができます。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。薬剤師名簿の訂正・免許証の書換交付に関する記述は薬剤師法施行令第5条第1項・第8条第1項、社会保険の適用拡大に関する記述は厚生労働省年金局「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要等」(2025年6月30日・社会保障審議会年金部会資料)に基づいています。賃金要件撤廃の施行日は政令で定められるため、最新の内容は厚生労働省の公表資料をご確認ください。制度や手続きの詳細は個別の状況や自治体により異なるため、疑問点は住所地の保健所、年金事務所、勤務先などの各窓口にご確認ください。

