この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「薬剤師は売り手市場」と長く言われてきました。今もその状況は続いているのでしょうか。
この問いに答える記事は多いのですが、根拠となる数字が示されていないものが目立ちます。この記事では、厚生労働省が公表している統計の実数と、国が示した2045年までの需給推計をもとに、薬剤師の転職市場の現在地と行き先を整理します。
結論を先に言えば、市場は「売り手市場が続いている」でも「もう厳しい」でもありません。職域と地域によって、まったく逆方向に動いています。その中身を数字で見ていきます。
この記事でわかること
- 最新の統計が示す薬剤師数と、職域ごとの増減の実数
- 有効求人倍率をそのまま信じてはいけない理由
- 国が示した2045年までの需給推計と、そこから読める方向性
- 市場を動かしている5つの要因
- 地域による格差の実態と、確認する方法
- 転職のタイミングを景気で決めるべきかどうか
- これから選ばれ続けるために積むべき経験
結論|市場は「二極化」の段階に入っている
要点:薬剤師全体としては需要が保たれているが、職域では明確に伸びている分野と減っている分野に分かれ始めている。
薬剤師という資格の需要が急になくなることはありません。ただ、「薬剤師免許があればどこでも歓迎される」という状況は、すでに過去のものになりつつあります。
重要なのは、市場全体の平均ではなく自分が進みたい職域と地域がどちらに動いているかです。次の章で見るように、直近の統計では薬局に従事する薬剤師が増える一方、医薬品関係企業に従事する薬剤師は減っています。同じ「薬剤師の市場」という言葉で語られていても、中身は正反対の動きをしています。
「売り手市場かどうか」を気にする方は多いのですが、実務的にはあまり意味のある問いではありません。自分が行きたい職域と地域で求人が出ているかどうかが、すべてです。市場全体の話は、その判断の背景を知るために使う程度でちょうどよいと思います。
数字で見る現在地|職域ごとの増減
要点:薬剤師の総数は増え続けている。ただし薬局は増加、医薬品関係企業は減少と、職域ごとに方向が分かれている。
厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計(2025年12月公表)によると、2024年12月31日時点の届出薬剤師数は329,045人。前回の調査から5,355人、1.7%増えています。人口10万人あたりでは265.8人で、前回から6.7人の増加です。
注目すべきは、職域ごとの動きです。
出典:厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2025年12月23日公表)
この表が示していることは明確です。薬局と医療施設は人を増やし続けている一方、医薬品関係企業は3,000人近く減っています。「企業薬剤師に転職したい」という希望は以前から人気がありますが、統計上は椅子が減っている方向です。一方で調剤薬局は、人数の伸びが最も大きい職域です。
企業薬剤師の枠が減っているという数字は、正直あまり語られません。ただ、これは「企業を目指すなら早めに、準備を厚くして動く必要がある」という実務的な意味を持ちます。逆に言えば、薬局や病院を軸に考えている方にとっては、慌てる材料ではないということでもあります。
有効求人倍率の正しい読み方
要点:よく引用される薬剤師の求人倍率には、2つの大きな制約がある。数字だけを鵜呑みにすると判断を誤る。
薬剤師の市場を語るとき、必ず出てくるのが有効求人倍率です。求職者1人あたり何件の求人があるかを示す指標で、厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」で毎月公表されています。ただし、この数字を読むときには押さえておくべき制約が2つあります。
つまり、「薬剤師の有効求人倍率は◯倍だから売り手市場」という説明は、そのまま受け取れるものではありません。全職種平均を上回る水準で推移してきたことは事実ですが、それは医師を含んだ区分の話であり、しかもハローワークが受け付けた求人だけの話です。
数値は毎月更新されるため、最新の水準を知りたい場合は厚生労働省の公表資料を直接確認してください。ネット上の記事が引用している数字は、数年前のものが更新されないまま残っていることがよくあります。
「かつては7倍を超えていた」といった数字を見かけることがありますが、出典をたどれないものも少なくありません。当サイトでは、確認できない数値は載せない方針にしています。求人倍率よりも、前章の職域別の実数のほうが、判断の材料としてはずっと役に立ちます。
国が示した2045年までの需給推計
要点:厚生労働省の検討会は、2045年時点で薬剤師の供給が需要を上回ると推計している。その幅は2万4000人から12万6000人。
市場の行き先について、国は具体的な推計を出しています。厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が2021年4月に公表した薬剤師の需給推計です。2020年から2045年までの25年間について、需要と供給の両方を推計しています。
推計の内容
- 需要は、2020年の約32万人から、2045年には33万2000人。在宅業務や市販薬販売、健康相談といった業務の広がりを考慮した場合は40万8000人まで増えると試算されています
- 供給は、現在の増加ペースが続く場合と、人口減による薬学部入学者の減少を考慮する場合とで幅を持たせています
- いずれの組み合わせでも供給が需要を上回り、2045年時点で少なくとも2万4000人、最大で12万6000人が過剰になるという結果が示されました
出典:厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」(第8回・2021年4月26日)資料
この推計を受けて、同検討会は2021年6月のとりまとめで「将来的に薬剤師が過剰になると予想される状況下では、入学定員数の抑制も含め、適正な定員規模のあり方や仕組みなどを早急に検討し、対応策を実行すべき」としました。あわせて、偏在を解消するための方策の検討も重要だとしています。
⚠ 悲観する数字ではありません
押さえておきたいのは、需要そのものは減っていないということです。推計では需要は増える方向にあり、業務の広がり方によっては40万人を超えるとされています。問題は供給の伸びがそれを上回る点です。
もう一つ重要なのが、需要を押し上げる要因として在宅業務や市販薬販売、健康相談が挙げられていることです。つまり、対人業務の経験を積んでいる薬剤師は需要側にとどまり続けられる可能性が高い。この推計は「危ない」という警告であると同時に、どこに向かえばよいかの地図でもあります。
2045年は遠い先の話に思えますが、いま30代の方が定年を迎える前の話です。推計が示しているのは「薬剤師が要らなくなる」ではなく「どんな薬剤師が求められるかが変わる」ということ。在宅や健康相談が需要側に挙がっている以上、そこに関われる職場を選ぶことが、長い目で見た備えになります。
市場を動かしている5つの要因
求人が減る力と増える力が、同時に働いています。
単純な不足でも過剰でもなく、対物業務が縮み、対人業務が伸びるという入れ替わりが進んでいると捉えるのが実態に近いでしょう。
現場にいると、この入れ替わりは肌で感じます。分包や監査は機械の支援が当たり前になり、その分だけ在宅や服薬フォローに時間を割く流れです。減っている業務だけを担ってきた場合、市場での評価は上がりにくくなります。転職の際は、次の職場でどちらの業務に関われるかを確認しておいてください。
地域による格差と、その確認方法
要点:薬剤師の分布には地域差がある。国も偏在を課題として認識しており、対策の検討が進められている。
全国の人口10万人あたりの薬剤師数は265.8人ですが、これは平均値です。都道府県ごとの数値も同じ統計で公表されており、地域によって大きな開きがあります。
この偏在は国も課題として認識しており、需給推計を受けたとりまとめでも「薬剤師の確保を含め、偏在を解消するための方策を検討することが重要」とされ、地域の実情に応じた取組の検討が求められています。厚生労働省の検討会では、地域ごとの薬剤師の充足状況を示す指標についても議論が進められてきました。
自分の地域を確かめる方法:令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計には、都道府県別の人口10万対薬剤師数が掲載されています。全国平均の265.8人と自分の県の数値を見比べれば、薬剤師が多い地域か少ない地域かがすぐに分かります。多い地域なら競争を前提に、少ない地域なら条件交渉の余地を意識して動く。この判断だけでも、転職の進め方は変わってきます。
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都市部で転職が思うように進まないとき、実は通勤範囲を少し広げるだけで景色が変わることがあります。県境をまたいだ隣の市が、人口あたりの薬剤師数の少ない地域だったというのはよくある話です。エリアを固定したまま条件を下げる前に、範囲のほうを動かしてみてください。
転職のタイミングは景気で決めるべきか
「景気が良いときに動いたほうが有利では」と考える方は多いのですが、薬剤師の場合、景気動向だけを基準にする必要はありません。
- 薬剤師は資格職であり、景気の波に他業種ほど左右されにくい職種です
- 市場全体の動向より、自分の経験・専門性・希望条件のほうが結果を左右します
- 「今は時期が悪いから」と先延ばししても、状況が好転する保証はありません。むしろ需給推計が示すのは、供給が増え続ける方向です
- 結婚、出産、転居、親の介護といったライフイベントのタイミングを優先して構いません
むしろ意識したいのは、景気ではなく自分のキャリアの節目です。認定資格の取得見込みがある、在宅の経験が積み上がってきた、管理薬剤師の経験年数が区切りを迎える。こうしたタイミングで動くほうが、市場全体の景気を待つよりはるかに条件が変わります。
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市場全体の話を気にしすぎて動けなくなるのが、いちばんもったいないパターンです。市場動向は背景を知るために使うもので、判断そのものは自分の状況で下すものだと割り切ってください。情報収集だけなら、いつ始めても損はありません。
これから選ばれ続けるために積むべき経験
需給推計で需要を押し上げる要因として挙げられていたのは、在宅業務、市販薬販売、健康相談でした。国が示した「需要側」の中身が、そのまま積むべき経験の指針になります。
「誰でも歓迎」から「求められる人が選ばれる」へ。この移行が進むほど、日々の業務でどんな経験を積んでいるかが、そのまま次の選択肢の幅になります。転職先を選ぶときは、条件だけでなく「そこでどの経験を積めるか」も判断材料に入れてください。
私が管理薬剤師をしていたときに実感したのは、在宅の経験があるかどうかで、面談での話の広がり方がまったく違うということでした。件数が多くなくても構いません。「担当していた」と言えるだけで、任せられる範囲の見え方が変わります。いま在宅に関われる環境にいるなら、それは確実に資産になります。
よくある質問
まとめ
この記事のポイント
- 届出薬剤師数は329,045人(前回比1.7%増)。薬局は3.5%増、医療施設は1.3%増、一方で医薬品関係企業は7.8%の減少
- 有効求人倍率はそのまま読めない。医師などと同じ職業区分で集計され、ハローワーク経由の求人だけが対象
- 国の推計では2045年に2万4000人から12万6000人の供給過剰。ただし需要自体は増える方向で、在宅・市販薬販売・健康相談が増加要因に挙がっている
- 市場は対物業務が縮み、対人業務が伸びる入れ替わりの段階。単純な不足でも過剰でもない
- 地域差は統計で確認できる。全国平均は人口10万人あたり265.8人。自分の県と見比べて戦い方を決める
- タイミングは景気ではなくキャリアの節目で。積むべきは在宅・対人業務・マネジメント・認定・無菌調製の経験
市場全体の動向は、判断の背景を知るためのものです。実際に効いてくるのは、自分の職域と地域がどちらに動いているか、そして自分がどんな経験を積んでいるか。この2つを押さえておけば、市場がどう動いても慌てずに済みます。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。薬剤師数および職域別の人数は厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2025年12月23日公表)、需給推計は厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」(第8回・2021年4月26日)資料および同検討会とりまとめ(2021年6月30日)、有効求人倍率に関する記述は厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」に基づいています。統計値は調査ごとに更新されるため、最新の数値は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

