この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
薬剤師と看護師、両方の国家資格を持つ「ダブルライセンス」。医療従事者の中でも保有者はごくわずかで、希少性という意味では強い武器になります。ただ、実際の現場では「両方を同時にフル活用できる職場はほとんどない」という、あまり語られない事実があります。
意外に思われるかもしれませんが、両方の免許を持っていれば、法律上はどちらの業務も行えます。それでも両方を同時に担う働き方が存在しないのは、法律ではなく、雇用契約と病院の人員配置の仕組みが理由です。この構造を理解しているかどうかで、判断は大きく変わります。
この記事では、看護師資格が薬剤師のキャリアで本当に活きる場面はどこか、取得にどれだけの時間と費用がかかり、どんな支援制度が使えるのか、そして目指す前に考えておきたいことを、現役薬剤師の視点で正直に整理します。「2つ持てば有利」という単純な話ではないところまで踏み込みます。
この記事でわかること
- 両方の資格は同時に使えるのか、という根本的な疑問への答えと、その本当の理由
- 看護師資格でしかできないこと(訪問看護・保健師や助産師への道)
- 看護師資格が薬剤師の転職で活きる四つの場面
- 取得ルート三つの比較と、実際にかかる年数
- 学費の負担を軽くする専門実践教育訓練給付金の中身
- 資格を取らずに同じ経験を積む代替案と、目指す前の「目的の設計」
薬剤師と看護師のダブルライセンスとは
薬剤師と看護師は、どちらも独立した国家資格です。薬剤師は6年制の薬学部を卒業して国家試験に合格する必要があり、看護師は看護系の養成課程を修めたうえで国家試験に合格する必要があります。つまり両方を持つには、まったく別の教育課程を2つ通過しなければなりません。
※修業年限は最短の目安です。大学の看護学部は4年、准看護師から進む2年課程などルートによって異なります。
両方の資格をあわせ持つ人は医療従事者のなかでも非常に少数です。この希少性こそが、ダブルライセンスの最大の価値だと言えます。採用側から見れば「薬の専門家であり、かつ患者さんの療養やケアの視点も持つ人材」は、他職種との連携が重視される現代医療でひときわ目を引く存在です。
ただし、希少だからといって自動的に給与が跳ね上がるわけではありません。ここが最初の重要なポイントです。資格は「活かせる場所」があってはじめて価値になります。次の章では、その根本にある「両方を同時に使えるのか」という疑問から見ていきます。
資格を増やす前に、いまの選択肢を確かめたい方へ
数年かけて資格を取らなくても、職場や役割を変えるだけで理想に近づけることは少なくありません。まずは薬剤師資格だけでどこまで届くのかを確かめてみてください。
薬剤師転職エージェントの比較を見る両方の資格は同時に使えるのか
法律上は両方できる。壁は別のところにある
まず、よくある誤解を解いておきます。両方の免許を持っている人が、調剤も採血も行うことは、法律上は禁じられていません。薬剤師法が禁じているのは薬剤師でない者の調剤であり、保健師助産師看護師法が禁じているのは看護師でない者の療養上の世話や診療の補助です。どちらの免許も持っていれば、どちらの規定にも触れません。
では、なぜ同じ職場で両方をこなす働き方が現実にはほとんど存在しないのか。理由は三つあります。
① 雇用契約がどちらか一方で結ばれる。採用は「薬剤師として」か「看護師として」のどちらかで行われ、担う業務も指揮命令系統も、その職種の枠内で決まります。免許があることと、その業務を任されることは別問題です。
② 人員配置の仕組みが職種ごとに分かれている。医療法は病院が備えるべき人員の標準を職種ごとに定めています(医療法第21条、医療法施行規則第19条)。一般病床では薬剤師は入院患者70人に1人、看護師と准看護師は入院患者3人に1人といった具合です。ひとりを薬剤師としても看護師としても重ねて数えることはできないため、病院側にも兼務させる動機が生まれにくい構造になっています。
③ 責任の所在が曖昧になる。命に関わる現場で、ひとりが両方の役割を並行して担うと、事故が起きたときの検証も再発防止も難しくなります。医療安全の観点から、役割は分けるのが原則です。
この整理が大切なのは、「法律で禁じられているから無理」なのではなく「制度と契約の設計上そうなっている」だけだからです。つまり、両方の視点を求める職場や役割が設計されれば、そこには活きる余地があります。実際、そうした領域は限られた形で存在します。
「使わない側の資格」が活きるのは判断と連携の場面
両方の資格を持つ人は、実際には「どちらか一方の資格で採用され、その職務に就く」のが基本です。もう一方の資格は、業務そのものではなく、判断の質や視野の広さという形で間接的に活きてきます。
たとえば薬剤師として働く人が看護師資格も持っている場合、患者さんの状態観察や療養の実態を看護の視点で読み取れるため、服薬指導や処方提案の精度が上がります。逆に看護師として働く人が薬の知識を深く持っていれば、副作用や飲み合わせのリスクをより早く察知できます。両方の視点をひとりが備えていることが、そのまま強みになるのです。
この表を見てわかるのは、両者が同じ土俵で競うのではなく、互いの死角を埋め合う関係だということです。だからこそ、両方の視点が求められる在宅や治験といった領域で真価を発揮します。逆に言えば、そうした領域で働く意思がないなら、無理にダブルライセンスにこだわる必要はありません。
病院で働いていた頃、看護師さんから「この薬、点滴の何分前に入れればいいですか」と聞かれる場面が毎日ありました。あのとき、看護の段取りまで想像できていたら、もっと早く的確に答えられたと思います。両方の視点というのは、そういう日常の小さな精度の差として出てきます。
看護師資格が薬剤師の転職で活きる場面
① 在宅医療・訪問の領域
看護師資格がもっとも活きやすいのが在宅医療の分野です。在宅の現場では、薬剤師・看護師・ケアマネジャーなどが連携しながら患者さんを支えます。服薬状況の把握や生活環境の観察、他職種への的確な情報共有が求められる場面が多く、看護の視点をあわせ持つ薬剤師は、患者さんの体調変化やケアの実態を読み取ったうえで薬の評価ができます。地域包括ケアの流れが強まるなか、こうした複合的な視点を持つ人材の需要は高まる方向にあります。
加えて、この領域には看護師資格がなければ入れない扉があります。訪問看護ステーションで訪問看護に従事するには看護職の資格が必要で、薬剤師の免許では代わりになりません。「薬局から在宅に関わる」のと「訪問看護として在宅に関わる」のはまったく別の入り口です。在宅を軸にキャリアを組みたい人にとって、この選択肢が増えることの意味は小さくありません。在宅に関わる薬剤師の働き方や収入の傾向は、在宅医療に関わる薬剤師の年収を整理した記事もあわせてご覧ください。
② 治験コーディネーターの仕事
新薬の臨床試験を支える治験コーディネーターは、看護師や薬剤師などの医療資格を応募条件にしている求人が多く、両方の資格を持つ人にとって親和性の高い職種です。医療機関と製薬会社、被験者の橋渡し役を担い、被験者への説明補助やスケジュール管理、データの記録などを行います。日勤中心で夜勤がないため、働き方を整えたい人にも選ばれています。ただし医療資格を持っていても、この職務では採血や注射といった医療行為そのものは行わない点は押さえておきましょう。
③ 産業保健・企業・その他の道
企業の健康管理部門や製薬企業の一部職種など、医療の実務経験と幅広い知識を評価する場でも、ダブルライセンスは差別化材料になります。従業員の健康支援やヘルスケア関連の企画では、薬と体の両面を語れる人材が重宝されます。求人数そのものは限られますが、「両方わかる人」を探している職場に出会えれば、強力なアピールになります。
④ 保健師・助産師という次の扉
見落とされがちですが、看護師資格は、保健師と助産師という別の国家資格への入り口でもあります。いずれも看護師の資格または国家試験の受験資格を前提に、さらに養成課程を修めることで受験できます。行政や企業の保健分野に進みたい場合、この道が開けることの意味は大きいでしょう。薬剤師資格には、こうした上位の国家資格へつながる系列がありません。
ただし、ここまで進むにはさらに年数がかかります。「看護師まで取る」のか「保健師まで見据える」のかで、必要な投資はまったく変わります。この点は最初に決めておいてください。
四つに共通しているのは、どれも「薬と患者さんの両方に近い場所」だということです。門前調剤のように処方箋をさばく比重が高い職場では、看護師資格を活かす場面は正直あまり多くありません。活きる職場をあらかじめ見定めておくことが大切です。
取得の現実|ルート・年数・使える制度
看護師になるルートは三つ
薬剤師として働きながら看護師を目指す場合、現実的な選択肢は次のとおりです。
※2年課程(通信制)の入学要件は、保健師助産師看護師学校養成所指定規則の改正により、准看護師としての就業経験が7年以上から5年以上に短縮されました(令和7年2月25日公布、令和8年4月1日施行)。全日制・定時制の2年課程は、准看護師として3年以上の業務従事または高等学校等の卒業が要件です。
つまり、薬剤師から看護師を目指すなら、実質的には3年課程か大学の二択です。「通信で取れるらしい」という話を耳にすることがありますが、それは准看護師からのルートであり、薬剤師には当てはまりません。ここを勘違いしたまま計画を立てると、大きく狂います。
働きながら通えるのか
最大の壁は実習です。看護師の養成課程には臨地実習が組み込まれており、日中の決まった時間に医療機関へ通う期間が必ずあります。フルタイムの薬剤師業務と両立させるのは現実的ではなく、勤務時間を減らす、休職する、いったん退職して学業に専念するなど、働き方そのものを組み直す人が多いのが実情です。
また、2つの国家試験を同時に狙うのは共倒れのリスクが高く、現実的ではありません。目指すなら一方ずつ着実に取得していくのが定石です。まず薬剤師として臨床経験を積み、そのうえで必要性を感じたときに看護師を検討する、という順番が多くの人にとって無理のない道になります。
学費の負担を軽くする制度がある
経済的な負担は重いのですが、ここは知っているかどうかで差がつくところです。看護師の養成課程は、雇用保険の専門実践教育訓練給付金の対象になっています(指定を受けた講座に限る)。
※出典:厚生労働省「教育訓練給付制度」。2024年10月施行の雇用保険法改正により、給付率の上限が70パーセントから80パーセントへ引き上げられました。受給には雇用保険の被保険者期間などの要件があり、対象講座は厚生労働大臣の指定を受けたものに限られます。適用の可否は必ずハローワークでご確認ください。
加えて、離職して通学する場合には、生活費を補う教育訓練支援給付金の仕組みもあります(通信制・夜間制を除く)。この制度は延長が繰り返されてきた時限的なものなので、利用を考えるなら現時点の取り扱いを確認してください。
注意したいポイント
給付金で学費の一部は戻りますが、在学中に働けないことによる収入の減少は補われません。3年間フルタイムを離れると、薬剤師としての年収を基準に考えたとき、学費よりもこちらのほうが大きな負担になることがあります。「なんとなく強そうだから」という理由だけで踏み切ると、数年の時間と機会費用を投じたのに活かす場面がなく、割に合わないケースがあります。取得を決める前に、活かせる働き方が具体的に描けているかを確認しましょう。
私自身、周りで両方の資格を持つ人はごくわずかです。だからこそ希少価値は本物なのですが、その希少性は「取るのが大変だから少ない」ことの裏返しでもあります。労力に見合うリターンがあるかを冷静に見積もることが、後悔しない選択につながります。
資格を取らずに同じ経験を積む方法
看護師資格を取る目的が「患者さんのケアの実態を理解したい」「多職種のなかで対等に話せるようになりたい」であるなら、数年をかけずに近づく道があります。目的から逆算すると、資格が唯一の手段でないことは多いのです。
とくに三つ目は見落とされがちです。看護師資格を取る数年があれば、認定薬剤師の要件を満たすことは十分に可能です。目的が「専門性の証明」なら、こちらのほうが費用対効果は高くなります。制度の中身は、認定薬剤師について整理した記事で確認してください。
ダブルライセンスを目指す前に考えたいこと
看護師資格の取得を検討する前に、まず「どちらを主軸に働きたいのか」をはっきりさせておきましょう。薬剤師を主軸に置き、看護の視点を補強として使うのか。あるいは看護を主軸に、薬の知識を深めるのか。この方向性が決まっていないと、せっかく取った資格が宙に浮いてしまいます。
目指す前に、次の3点を自分に問いかけてみてください。
- 働きたい領域は決まっているか:在宅医療・訪問看護・治験など、具体的な行き先が思い浮かぶか
- 数年分の時間と、その間の収入減を引き受けられるか:学費だけでなく、働けない期間の生活設計まで描けているか
- 今の薬剤師資格だけで、その働き方に届かないか:ダブルライセンスでなければ実現できない理由があるか
職場のタイプそのものから選び直したい方は、まず全体像を並べて比べてみるのが早道です。
最後の問いがいちばん大事です。実は、資格を増やさなくても、働く職場や役割を変えるだけで理想に近づけることは少なくありません。ダブルライセンスは強力な選択肢のひとつですが、唯一の道ではないと知っておいてください。
よくある質問
まとめ
薬剤師と看護師のダブルライセンスは、希少性という点では確かに強力な武器です。ただし「2つの資格で2倍働ける」という発想ではなく、「1つの職務を2つの視点でこなせる」という理解のほうが実態に近いことを、最後にもう一度お伝えしておきます。
- 両方の免許があれば、法律上はどちらの業務も行える。同時に担えないのは、雇用契約と職種ごとの人員配置標準、そして医療安全の観点による
- 実務では一方の資格で採用され、もう一方は判断の質と連携の精度として間接的に活きる
- 活きる場面は在宅医療・治験・産業保健の三つに加え、訪問看護と、保健師や助産師への道という看護師資格でしか開かない扉がある
- 薬剤師からのルートは実質的に3年課程か大学の二択。通信制は准看護師向けの課程なので薬剤師は使えない
- 学費は専門実践教育訓練給付金で最大80パーセントが戻る可能性があるが、在学中の収入減は補われない
- 目的が「ケアの理解」や「専門性の証明」なら、在宅に強い薬局への移籍や認定薬剤師など、資格を取らない代替案のほうが早いことも多い
まずは今持っている薬剤師資格で、希望する働き方にどこまで届くのかを確かめてみてください。そのうえで足りない部分が見えたとき、看護師資格が本当に必要かどうかを判断すれば、遠回りのない選択ができるはずです。職場の選択肢を横並びで見たい方は、薬剤師の転職先一覧から確認してみてください。
本記事で参照した主な出典
- 薬剤師法、保健師助産師看護師法
- 医療法第21条および医療法施行規則第19条(病院の人員配置標準)
- 保健師助産師看護師学校養成所指定規則(令和7年2月25日公布の改正省令、令和8年4月1日施行)
- 厚生労働省「教育訓練給付制度」(専門実践教育訓練給付金、2024年10月施行の給付率引上げ後)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。資格制度・養成課程の要件・給付金の給付率や上限は変更される場合があります。給付金の支給要件は個々の被保険者期間や受講講座の指定状況によって異なるため、適用の可否は必ずハローワークにご確認ください。年収や求人の傾向は職場・地域・時期によって異なります。最新の情報は各養成機関や関係団体、厚生労働省の公式情報をご確認ください。

