この記事を書いた人
くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
育児をしながら転職を考えるママ薬剤師から、これまで数多くの相談を受けてきました。「本当に両立できるのか」「面接でどう話せばいいのか」「転職して何が変わったのか」。悩みの中身は人それぞれですが、そこにはいくつかの共通するパターンがあります。
この記事では、相談の中でよく見えてくる悩みの傾向から、転職活動で直面しやすい壁、面接での伝え方、職場選びで確認すべき項目までを整理します。あわせて、2025年に施行された育児・介護休業法の改正内容と、公表されている保育の状況も確認します。特定の個人の体験談ではなく、多くのママ薬剤師に共通する一般的な傾向として整理していますので、その前提でお読みください。
この記事でわかること
- ママ薬剤師の転職でよくある悩みと、その本当の原因
- 2025年の法改正で、職場に義務づけられた両立支援の内容
- 転職活動で直面しやすい4つの壁と乗り越え方
- 面接でよく聞かれる質問と、前向きな伝え方
- 職場選びで確認したい7項目と、収入面のトレードオフ
ママ薬剤師の転職、よくある悩みとその背景
育児をしながら転職を考えるとき、多くの人が同じような不安を抱えます。「時短勤務で採用してもらえるのか」「ブランクがあって大丈夫か」「子どもの体調不良で急に休むことになったら、迷惑をかけてしまうのでは」。こうした不安は決して珍しいものではなく、育児中の薬剤師の多くが一度は感じるものです。
背景には、薬剤師という仕事が「人手の代わりが利きにくい」職種であることも関係しています。薬剤師が2名から3名という小規模な店舗では、1人が抜けると業務が回らなくなります。資格職ゆえに業務の属人性が高いことが、育児との両立への不安につながりやすいのです。
ただし、薬剤師は女性が多数を占める職種でもあります。厚生労働省「令和6年(2024年)医師・歯科医師・薬剤師統計」(2025年12月23日公表)によると、届出薬剤師329,045人のうち女性は203,979人で、全体の62.0パーセント。両立を前提とした働き方の受け皿は、業界全体としては広がっている職種だと言えます。
不安の中身を分解すると、実は「両立できるかどうか」より「両立できる職場を見つけられるかどうか」の問題であることが多いです。職場選びのポイントさえ押さえれば、不安の多くは解消できます。
データで見る両立支援と保育の現在地
職場を比較するときは、「その会社が独自に用意している制度」と「法律で義務づけられている制度」を分けて考えると判断しやすくなります。法律で決まっている部分は、どの職場でも共通の最低ラインだからです。
2025年に育児・介護休業法が2段階で改正された
2025年は、育児中の働き方に直結する改正が2回ありました。転職先を比較するときの基準になります。
2025年10月に始まった「柔軟な働き方を実現するための措置」で、事業主が選ぶ5つの選択肢は次のとおりです。労働者は、そのなかから1つを選んで利用できます。
- 始業時刻の変更(フレックスタイム制または時差出勤)
- テレワーク等(1か月につき10日以上)
- 保育施設の設置運営等(保育費用の補助なども含まれる)
- 養育両立支援休暇の付与(1年につき10日以上)
- 短時間勤務制度
これに加えて、3歳未満の子を養育する労働者に対する短時間勤務制度(1日6時間とする措置)は、従来から事業主の義務です。応募先が5つのうちどれを選んでいるかは会社ごとに違うため、面談で確認しておくと復職後のイメージが具体的になります。
育児休業の取得率と、雇用形態による差
厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」(2025年7月30日公表)によると、女性の育児休業取得率は86.6パーセントで、前回調査の84.1パーセントから2.5ポイント上昇しました。ただし有期契約労働者の女性の取得率は73.2パーセントと、全体より低い水準です。パートや契約社員として働く場合は、自分が育児休業の対象になる条件を先に確認しておきましょう。
保育所の状況は「全国では改善、地域では差」
転職のタイミングを左右するのが保育所の確保です。こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」によると、全国の待機児童数は2,254人で前年から313人減少しました。ピーク時である平成29年の26,081人と比べると1割以下です。定員充足率は88.4パーセントで、全国的には受け皿に余裕が出ています。
一方で、待機児童がいる市区町村は211あります。つまり全国平均は改善していても、自分の住む自治体がどうかは別問題ということです。転職の時期を検討する際は、お住まいの自治体が公表している待機児童数と、認可申請のスケジュールを先に確認してください。
出典:厚生労働省「令和6年(2024年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」「令和6年度雇用均等基本調査」、こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」、厚生労働省「育児・介護休業法」関連の公表資料。制度の詳細や適用範囲は個別の事情により異なります。
転職を考え始めるきっかけになりやすいこと
ママ薬剤師が転職を考え始めるきっかけには、いくつかの傾向が見られます。
- 育休からの復帰時に、以前と同じ働き方が難しいと感じた
- 現職の時短勤務制度が、実際には使いにくい雰囲気だった
- 子どもの進学・入園などのタイミングで、勤務時間を見直したくなった
- 短時間勤務が使える年齢の上限に近づき、その先の働き方が見えなくなった
- 在宅や時差出勤など、新しい働き方に興味を持った
こうしたきっかけに共通するのは、「今の職場が悪いから辞めたい」というより、「ライフステージの変化に、今の働き方が合わなくなった」というケースが多い点です。転職理由を整理するときも、この視点で考えると、次の職場に求める条件がはっきりしてきます。
なかでも見落とされやすいのが、4つ目の「短時間勤務の上限」です。法律で義務づけられている短時間勤務は3歳未満が対象で、その先は職場ごとの制度によります。2025年10月の改正で3歳から小学校就学前の措置が義務化されましたが、5つのうちどれを選ぶかは会社次第です。子どもが2歳を過ぎたころに、その先の働き方を確認しておくと、慌てずに済みます。
転職活動で直面しやすい壁とその乗り越え方
育児中の転職活動では、いくつかの壁に直面しやすい傾向があります。それぞれの乗り越え方を整理しました。
とくに「時間の確保」は、育児中の転職活動における最大の壁になりやすいポイントです。一人で抱え込まず、担当者や家族に協力を仰ぐことで負担を大きく減らせます。
3つ目の「内部情報」については、聞き方にコツがあります。「時短制度はありますか」ではなく「今、時短で働いている方は何人いますか」と数で聞くことです。制度の有無は就業規則を見れば分かりますが、運用の実態は数字でしか見えません。
面接でよく聞かれること・伝え方のコツ
育児中の転職面接では、次のような質問がよく聞かれる傾向にあります。
共通して言えるのは、「できません」だけで終わらせず、「こういう体制なら対応できます」と前向きな形で伝えることです。制約を伝えることは悪いことではなく、むしろ入職後のミスマッチを防ぐために必要な情報共有です。
なお、結婚や出産の予定を採用の可否に用いることは、男女雇用機会均等法の趣旨に反します。面接でそうした質問を受けて答えにくい場合は、「長く働きたいと考えています」と意欲を伝える形で差し支えありません。気になる点があれば、担当者を通じて事実確認をしてもらいましょう。
職場選びで確認したい7項目
両立できる職場かどうかは、求人票の「時短勤務可」という表記だけでは判断できません。面談や職場見学で聞く項目のたたき台として、次の7つを使ってください。
なかでも見落とされやすいのが「異動の範囲」です。入職時の店舗が家から近くても、転居をともなう異動がある会社では、子育て期に通勤時間が延びることがあります。2024年4月から、就業場所と業務の「変更の範囲」を書面で明示することが義務づけられているので、労働条件通知書の該当欄は必ず目を通しておきましょう。
転職後によくある変化と収入のトレードオフ
両立しやすい職場に移った後、どのような変化が起きやすいのかも傾向として見えてきます。
- 勤務時間の融通が利くようになり、心身の余裕が生まれやすい
- 同じ立場のスタッフが在籍している職場では、相談しやすい雰囲気が生まれやすい
- 業務内容が絞られることで、専門性を深めやすくなるケースもある
- 急な休みを言い出しやすくなり、家庭内の負担配分が変わる
- 労働時間が減る分、収入は下がる
- 残業手当がなくなる影響も加わる
- 賞与の計算方法によっては、想定より下がり幅が大きくなることがある
- 担当できる業務の幅が狭まり、物足りなさを感じる時期がある
収入の変化は、数字で把握しておくと納得しやすくなります。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者にあたる薬剤師の平均年収は約566万8千円。一方、短時間労働者にあたる薬剤師の1時間当たりの所定内給与額は2,540円でした。労働時間が違うため単純比較はできませんが、時間を減らせばその分だけ収入が減るのは避けられません。下がることを前提に、家計の見通しを立ててから動くのが安全です。
育児と仕事の両立に「完璧な正解」はありません。今の自分にとって無理のない働き方を選ぶこと、そしてその選択を後ろめたく思わないことが、何より大切だと感じています。薬剤師は資格職で、時短やパートから正社員へ、あるいはその逆へと、状況に応じて働き方を柔軟に見直しやすい職業です。今の一歩が、この先ずっと固定されるわけではありません。
よくある質問
まとめ
- 悩みの本質は「両立できるか」より「両立できる職場を見つけられるか」
- 薬剤師は女性が62.0パーセントを占め、両立前提の受け皿は業界全体では広い
- 2025年4月に子の看護等休暇と残業免除の対象が拡大、10月から柔軟な働き方の措置が義務化
- 法律上の短時間勤務は3歳未満が対象。その先は会社ごとの選択によって変わる
- 有期契約労働者の育休取得率は73.2パーセントで、全体より低い
- 待機児童は全国では減少しているが、211市区町村では発生しており地域差が大きい
- 制度の有無ではなく「今、何人が使っているか」を数で聞く
- 時間を減らせば収入は下がる。前提として家計の見通しを立ててから動く
育児と仕事の両立に悩むのは、あなただけではありません。多くのママ薬剤師が同じ壁に直面し、それぞれの形で乗り越えています。焦らず、公表されている制度と数字を土台にしながら、自分に合った働き方を探していきましょう。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計は厚生労働省「令和6年(2024年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(2025年12月23日公表)、「令和6年度雇用均等基本調査」(2025年7月30日公表)、「令和7年賃金構造基本統計調査」、こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和7年4月1日)」にもとづきます。
※本記事は特定個人の体験談ではなく、育児中の薬剤師の転職に見られる一般的な傾向を整理したものです。
※制度・働き方・求人の状況は職場や時期によって異なります。個別の取り扱いは勤務先または管轄の労働局、保育所の申請はお住まいの自治体にご確認ください。

