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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
中部地方は、日本海側の新潟・富山・石川・福井から、内陸の長野・山梨・岐阜、太平洋側の静岡・愛知まで、非常に広いエリアを含みます。県によって薬剤師の需給や求人事情は大きく異なり、「同じ中部でもこんなに違うのか」と驚く人も少なくありません。
ただし、公的統計を並べると9県すべてで薬剤師が全国平均を下回るという共通点が見えてきます。この記事では、中部9県の需給を最新の公的統計で横並びに比較したうえで、年収ランキングの読み方、3つのブロックごとの性格、各県の詳細ガイドへの案内、転職を成功させる手順を整理します。まずは全体像をつかんでから、気になる県の詳細記事へ進んでください。
この記事でわかること
- 中部9県すべてが人口あたり薬剤師数で全国平均を下回るという事実(令和6年)
- 9県のうち7県は薬局が全国平均より多く、需給のギャップが生じている構造
- 県内に薬学部がないのは福井・山梨・長野の3県という供給側の違い
- 都道府県別の年収ランキングを鵜呑みにしてはいけない理由
- 各県の詳細ガイドと、中部で転職を成功させる4つの手順
中部地方の薬剤師需給を数字で比較する
厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」と「令和6年度衛生行政報告例」から、中部9県を横並びにしました。薬剤師数の全国平均は210.6人、薬局数の全国平均は51.1施設です。
※薬剤師数は人口10万人あたりの薬局・医療施設従事者数(厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計」)、薬局数は人口10万人あたりの施設数(同「令和6年度衛生行政報告例」)。順位は多い順に47都道府県を並べたもので、当サイトが公表値をもとに集計。
9県すべてが全国平均を下回っている
表を見て最初に気づくのは、中部9県のなかに全国平均210.6人を超える県がひとつもないことです。最も多い山梨県でも208.5人で全国15位。最も少ない福井県は170.4人で全国46位、これは沖縄県に次いで全国で2番目に少ない水準です。中部地方は、地域全体として薬剤師が薄いエリアだといえます。
意外に映るのが愛知県です。名古屋という大都市を抱え、県内に複数の薬学部があるにもかかわらず、人口10万人あたりでは186.3人で全国42位にとどまります。人口が多いぶん分母が大きくなること、製薬企業や卸に勤める薬剤師が一定数いることが影響していると考えられます。「都市部だから薬剤師が余っている」という思い込みは、少なくとも数字の上では成り立ちません。
薬局は多いのに薬剤師が少ないという構造
もうひとつの特徴が、薬局の多さです。9県のうち山梨・岐阜・新潟・静岡・富山・石川・長野の7県で、人口あたりの薬局数が全国平均51.1施設を上回っています。山梨県は60.2施設で全国5位、岐阜県は56.4施設で全国13位です。
薬剤師が全国平均以下なのに薬局は全国平均以上。この組み合わせは、1つの薬局あたりで確保できる薬剤師が少なくなることを意味します。採用に苦労する職場が多くなり、結果として条件を上げてでも人を採ろうとする動きにつながります。中部地方で「思ったより条件がよい求人がある」と感じるなら、その背景はここにあります。
逆に、この構造は業務量の重さと表裏一体でもあります。年収が高めの求人を見つけたときは、なぜその金額なのかを確認する習慣を持っておくと失敗しにくくなります。
薬学部がないのは福井・山梨・長野の3県
供給側にも県ごとの差があります。中部9県のうち、県内に薬学部を持つ大学がないのは福井県・山梨県・長野県の3県です。県内に薬学部があると卒業生の一定割合がその県に残るため、供給が安定しやすくなります。3県はそれをすべて県外に頼る構造で、若手の確保が慢性的な課題になっています。
一方、富山県は県内の国立大学薬学部に地域枠を設け、修学資金と組み合わせて県内定着を促す取り組みを進めています。新潟県にも薬学部を持つ私立大学があり、こちらは2027年4月に大学名の変更が予定されています。同じ「薬学部あり」でも、県内にどれだけ人を残せているかは県によって差があります。
「中部は年収が高い県が多い」とよく言われますが、その理由をたどると結局この需給に行き着きます。9県すべてが全国平均以下という状態は、転職する側にとっては交渉しやすい環境です。ただし、少ない人数で回している職場が多いということでもあるので、条件と業務量はセットで確認してください。
都道府県別の年収ランキングをどう読むか
中部地方の記事を探すと、「◯◯県は薬剤師年収が全国◯位」という情報を目にします。当サイトではこの種のランキングを比較の軸には使っていません。理由を説明します。
年収ランキングは1年で大きく入れ替わる
よく引用されるのが厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」です。ただしこれは薬剤師だけを対象にした調査ではなく、都道府県まで細かく分けると対象人数がかなり少なくなります。たまたま調査対象になった職場の顔ぶれで平均値が動くため、順位が年ごとに大きく入れ替わります。
実際、同じ調査から計算した薬剤師の全国平均年収は、令和6年調査で約599万円、令和7年調査で約567万円と、1年で30万円以上下がりました。都道府県別に至っては、上位に並ぶ県の顔ぶれそのものが年によって変わります。ある年の順位を「その県の実力」と受け取るのは危険だということです。
需給データのほうが判断材料として安定する
これに対して、人口あたりの薬剤師数や薬局数は全数に近い届出をもとにした統計で、年ごとの振れが小さく、順位もそう簡単には動きません。しかも「薬剤師が足りない地域ほど条件が上がる」という因果関係は、どの県でも共通して働きます。だからこの記事では、年収ランキングではなく需給データで9県を並べています。
実際に求人を比べるときは、額面ではなく実質で並べてください。年間休日数、薬剤師の在籍人数、1日の処方箋枚数、残業の実績時間、住宅手当、車の維持にかかる費用。中部地方は車での移動が前提の地域が多いため、最後の項目が手取りの実感を左右します。
年収ランキングを見かけたら、まず何年の調査かを確認してみてください。1年で全国平均が30万円動く数字なので、順位そのものにはあまり意味がありません。それより「自分が通える範囲に、薬剤師が足りていない職場があるか」を見たほうが、話が早いです。
3つのブロックで見る中部9県の性格
中部地方は広く、9県をひとまとめに語ると実態を見失います。地理と生活圏で3つに分けると、それぞれの性格がつかみやすくなります。
日本海側(新潟・富山・石川・福井)
4県のなかで需給の差が最も大きいブロックです。石川県は203.6人で全国18位と比較的多い一方、福井県は170.4人で全国46位。同じ北陸でも2割近い開きがあります。富山県は製薬産業の集積という独自の選択肢があり、調剤や病院以外のキャリアも視野に入れやすい県です。北陸新幹線の敦賀延伸によって首都圏との行き来がしやすくなり、移住をともなう転職のハードルも下がりました。冬の道路事情は、通勤時間を見積もるうえで必ず確認しておきたい点です。
内陸(長野・山梨・岐阜)
3県のうち長野と山梨には薬学部がなく、供給を県外に頼っています。数字の上では山梨208.5人・長野203.7人と中部では多いほうですが、いずれも全国平均には届きません。特徴的なのは薬局の多さで、山梨は人口あたり全国5位、岐阜は全国13位です。地域に根ざした薬局が広い範囲に点在しているため、通勤圏をどう設定するかで見える求人がまったく変わります。岐阜県の南部は名古屋圏との行き来が活発で、県境をまたいだ選択肢も現実的です。
太平洋側(静岡・愛知)
求人の絶対数が多いブロックです。愛知県は名古屋を中心に選択肢が幅広く、調剤薬局から病院、製薬企業、卸まで揃っています。それでいて人口あたりの薬剤師数は全国42位なので、需要は根強くあります。静岡県は東西に長く、静岡市と浜松市という2つの中心都市を持つのが特徴で、県内でも東部・中部・西部で生活圏が分かれます。どちらの県も、県単位ではなく都市単位で見ないと判断を誤ります。
なお三重県は、区分によっては中部や東海に含まれます。人口10万人あたりの薬剤師数は186.0人で全国44位と、中部9県と同じく全国平均を下回る水準です。名古屋圏への通勤も現実的なため、愛知や岐阜を検討している方は三重県もあわせて見ておくと選択肢が広がります。
中部で転職先を探すとき、県で区切って考える人が多いのですが、実際の通勤圏は県境をまたぎます。岐阜南部から名古屋、三重北部から名古屋、山梨から甲府盆地の外へ。地図を開いて「片道何分の円」を描いてみると、思っていたより候補が多いことに気づくはずです。
都道府県別の薬剤師転職ガイド
中部9県それぞれの詳しい事情は、以下の記事で解説しています。人口10万人あたりの薬剤師数が少ない順、つまり採用ニーズが強いと考えられる順に並べました。
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186.1人・全国43位。薬局は全国15位と多く、薬剤師との差が大きいエリアです。県土が広く、地域ごとの差も大きくなります。
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189.6人・全国35位。製薬産業の集積があり、調剤や病院以外のキャリアも視野に入ります。県内の薬学部に地域枠が設けられています。
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190.0人・全国34位。薬局は全国13位と多め。南部は名古屋圏との行き来が活発で、県境をまたいだ選択肢も現実的です。
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静岡の薬剤師転職ガイド|年収の傾向とエリア別の選び方を現役が解説
198.2人・全国28位。東西に長く、静岡市と浜松市という2つの中心都市を持ちます。県内でも東部・中部・西部で事情が分かれます。
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203.6人・全国18位。中部9県では多いほうで、金沢に医療機関と人材が集中する構造です。市外との差に注目したい県です。
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203.7人・全国17位。県内に薬学部がなく、供給を県外に頼っています。県土が広く、生活圏が複数に分かれるのが特徴です。
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208.5人・全国15位で中部では最多。ただし薬学部はなく、薬局は人口あたり全国5位と多い、独特のバランスを持つ県です。
住みたい県がもう決まっているなら、その県の記事から読んでください。まだ絞れていないなら、この並び順の上のほうから読むと「採用に困っている地域」の事情が先に見えます。条件交渉のしやすさを重視するなら、その順番が合理的です。
中部地方で転職を成功させる4つの手順
県ごとの事情が大きく異なるからこそ、進め方に順番をつけると迷いにくくなります。
① 県ではなく「通える範囲」で候補を切る
中部地方は県境をまたいだ通勤圏が多く、県単位で区切ると候補を取りこぼします。先に住む場所と片道の許容時間を決め、その範囲に入る市町を書き出してください。岐阜南部と名古屋、三重北部と名古屋、福井と滋賀北部のように、県をまたぐほうが自然な組み合わせもあります。
② 県内の都市部と周辺部の差を確認する
どの県でも、県庁所在地には薬剤師が集中し、周辺部は手薄になります。県全体の数字が平均的でも、都市部は充足していて周辺部は不足している、というのが実態です。条件を上げたいなら中心都市の外、生活の利便性を取るなら中心都市、という判断軸で考えると整理しやすくなります。各県の詳細記事では、この県内格差を数字で扱っています。
③ 移住をともなうなら支援制度を先に調べる
県外から移る場合、奨学金の返還支援や移住支援金を用意している自治体があります。福井県のように薬学部の6年制卒業者を優遇する制度もあり、金額は決して小さくありません。注意すべきは、多くの制度が「就業する前に申請して認定を受けること」を条件にしている点です。転職が決まってから調べたのでは間に合わないので、求人探しと同時に候補地の制度を確認してください。
④ 額面ではなく実質で3件並べる
候補が絞れたら、年間休日数、薬剤師の在籍人数、1日の処方箋枚数、残業の実績時間、住宅手当、車の維持費を横並びにします。3件そろえて表にすると、額面の差が実質ではひっくり返ることがよくあります。県をまたいで探す場合は、地域の事情に詳しい転職エージェントを複数使うと、公開されていない求人や職場の内情まで比べやすくなります。
よくある質問
まとめ
中部地方での転職を考えるうえでの要点を整理します。
- 中部9県はすべて人口あたりの薬剤師数が全国平均210.6人を下回る(令和6年)
- 最少は福井県170.4人・全国46位、最多でも山梨県208.5人・全国15位
- 9県のうち7県は薬局が全国平均より多く、採用競争が起きやすい構造
- 県内に薬学部がないのは福井・山梨・長野の3県
- 年収ランキングは調査年で大きく振れるため、需給データを判断軸にする
- 県ではなく通える範囲で候補を切り、移住をともなうなら支援制度を先に調べる
中部地方は県ごとの個性が強いエリアですが、「薬剤師が全国平均より薄い」という共通の追い風があります。まずは全体像をつかんだうえで、気になる県の詳細記事を読み進め、自分の希望に合った働き方を見つけていきましょう。
出典・参考資料
この記事で使用した数値の出典です。いずれも公的機関が公表している一次情報です。
- 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(人口10万対薬剤師数・都道府県別)
- 厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対薬局数・都道府県別)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(薬剤師の平均年収の年次変動)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は各調査の公表時点のものであり、都道府県順位は公表値をもとに当サイトが集計しています。薬学部の設置状況は変更される場合があります。支援制度の要件・募集時期は自治体や年度により異なるため、必ず各自治体の最新の案内をご確認ください。求人状況や年収は時期・調査により変動します。

