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くらげ|現役薬剤師。急性期病院・一般病院・調剤薬局で管理薬剤師を経験し、現在も調剤薬局に勤務しながら転職情報を発信しています。
「栃木で薬剤師として働きたい」「地元で年収アップを狙いたい」と考える人は少なくありません。栃木は薬剤師が手薄な県で、条件が動きやすいエリアです。ただ、よく言われる「地方部に行けば年収が上がる」という選び方は、栃木では意外なほど当てはまりません。県内の薬剤師密度の差が、わずか1.1倍しかないからです。
この記事では、厚生労働省の最新統計で見た栃木の薬剤師事情、宇都宮市と市外の差が小さい理由、国の偏在指標が示す病院の手薄さ、6つの医療圏の傾向、年収データの読み方を、現役薬剤師の目線で整理します。数値はすべて公的資料にもとづき、出典に直接リンクしています。
- 栃木県の人口10万対薬剤師数は191.4で全国33位。薬局数も50.8で全国33位と、どちらも平均以下
- 宇都宮市204.9・市外186.4で差は1.1倍。県庁所在地ですら全国平均を下回る
- 国の偏在指標は薬局1.04で目標超え、病院は0.69。足りないのは病院薬剤師
- 「地方部だから高年収」より「業態をどう選ぶか」で考えるほうが実態に合う
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厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、栃木県の届出薬剤師数は4,370人。そのうち薬局・医療施設で働いているのは3,608人です。人口10万人あたりでは、届出総数が231.8人、薬局・医療施設の従事者が191.4人となっています。
全国平均は届出総数265.8人、薬局・医療施設の従事者210.6人。栃木の191.4は全国33位で、平均を19人分ほど下回ります。薬局も957施設で人口10万対50.8、こちらも全国33位(鳥取県と同率)で平均51.1をわずかに下回ります。
※薬剤師数は厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計」統計表9・10(従業地ベース)。薬局数は「令和6(2024)年度衛生行政報告例」(令和6年度末現在)。順位は公表値を当サイトが並べ替えて確認したものです。
薬剤師も薬局も同じ33位。どちらか一方だけが少ないのではなく、どちらもそろって平均以下という県です。県内の薬学部は大田原市の国際医療福祉大学の1校で、新卒が毎年大量に供給される規模ではありません。
ここまでは「薬剤師不足の北関東」というイメージどおりです。ところが県内を分解すると、その先の説明が崩れます。
薬剤師と薬局が同じ順位というのは、実はあまり見ない組み合わせです。千葉のように薬局だけ極端に少ない県も、宮崎のように薬局だけ多い県もあります。栃木は全体が均等に薄い。この「均等さ」が、次の章の結論につながります。
県内格差は1.1倍|「地方部だから高年収」は成立しにくい
同じ統計には、中核市である宇都宮市の数値も再掲されています。県全体から引けば、宇都宮市以外の姿が計算できます。結果は、他県で当たり前に使われる「都市部と地方部」という対比が、栃木ではほとんど機能しないことを示しています。
※宇都宮市以外の値は、県の数値から宇都宮市の再掲値を差し引いて当サイトが算出したもので、公表値ではありません。人口は同統計の付表(県1,885千人・宇都宮市512千人)を使用しています。県の人口は総務省の人口推計、市の人口は市の推計値で出所が異なる点、また従業地ベースのため宇都宮市へ通勤する薬剤師は宇都宮市に計上される点にご注意ください。
宇都宮市204.9に対して市外186.4。差はわずか1.1倍です。人口シェアで見ても、宇都宮市が県人口の27.2%に対し薬剤師のシェアは29.1%。ほとんど人口どおりの分布で、集中はほぼ起きていません。
さらに重要なのは、宇都宮市の204.9ですら全国平均210.6を下回っていることです。県庁所在地に行っても薬剤師が余っているわけではありません。他県の記事でよく見る「都市部は応募が集まって不利、地方部は不足していて有利」という図式は、栃木にはほぼ当てはまらないのです。
これは実務上、大きな意味があります。年収を上げるために、住みにくい場所へ移る必要が薄いということだからです。宇都宮市内でも需給は締まっており、条件の相談余地があります。逆に、市外へ出たからといって劇的に条件が跳ね上がるとも限りません。栃木で差がつくのは地域ではなく、次章で見る業態のほうです。
「年収のために不便な場所へ」という我慢をしなくていいのは、栃木の地味だけれど大きな強みです。私が見てきた県のなかでも、ここまで県内が均等な県は珍しいです。住みたい場所を先に決めて、そこから求人を探しても損をしにくいですよ。
差がつくのは業態|国の偏在指標で見る
厚生労働省は、人口10万対の薬剤師数では拾いきれない医療需要や業態の違いを補正した薬剤師偏在指標を都道府県別に公表しています。1.0が目標水準です。栃木の数字は、地域ではなく業態で割れます。
※出典は厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2「都道府県別薬剤師偏在指標」(令和5年3月)。順位は公表値を当サイトが並べ替えて確認したもので、病院0.69は岐阜県・佐賀県と同率です。この指標は薬剤師の絶対的な充足状況ではなく、相対的な偏在の状況を示すものです。
薬局は1.04で目標の1.0を超えています。つまり栃木の薬局薬剤師は「足りていない」わけではありません。人口あたりの薬局数が全国33位なのに指標が1.0を超えるのは、施設が少ないぶん1軒あたりに薬剤師が確保されているためと読めます。
一方で病院は0.69。全国計0.80をさらに下回り、47都道府県のなかで下から11番目の水準です。栃木で本当に人が足りていないのは病院薬剤師だというのが、国の指標が示す答えです。
2036年の推計では薬局が1.19、地域全体も1.04まで上がる見通しです。薬局側は将来もっと充足が進むと見込まれています。病院の推計は0.72で、依然として目標に届きません。中長期のキャリアを考えるうえで、この差は無視できません。
栃木は「どこで働くか」より「何で働くか」で差がつく県です。私は病院から薬局へ移った側なので実感がありますが、病院薬剤師は募集の数こそ少なくても、来てほしいと思われている度合いが違います。栃木で病院を志望するなら、条件面で相談しやすい環境だと思いますよ。
6つの医療圏で見る栃木県
栃木県は「栃木県保健医療計画(8期計画)」(令和6年3月策定)にもとづき、二次保健医療圏を6つ設定しています。求人を市町村単位で追うより、この区分で捉えると通勤範囲を考えやすくなります。
※圏域の区分は栃木県「栃木県保健医療計画(8期計画)」による。宇都宮市の密度は前掲の令和6年統計。各圏域の傾向は統計と医療資源の状況から整理した一般的な見立てで、個別の求人条件を示すものではありません。
前章で見たとおり県内の密度差は小さいため、圏域選びは「条件」ではなく「暮らし」で決めるのが合理的です。宇都宮に住んで通うのか、両毛から群馬側も見るのか、県南から埼玉方面も含めるのか。生活の希望を先に固めてから求人を探しても、条件面で大きく損をしにくいのが栃木の特徴です。
両毛は群馬、県南は埼玉と茨城が近く、県境をまたぐと候補が一気に増えます。栃木県内だけで探すのはもったいないです。通える範囲を県外まで広げて眺めてみてください。
年収データの正しい読み方
栃木の年収を調べると「全国平均より高め」という説明が並びます。方向としては間違っていませんが、県別の数字を根拠に転職を決めるのはおすすめしません。理由は3つあります。
① 全国平均そのものが年ごとに大きく動く
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、薬剤師の毎月の給与が39万8,700円、年間賞与その他特別給与額が83万3,500円で、単純に合計すると年収は約566万8千円です。前年の調査では約599万3千円でしたので、1年で30万円以上下がっています。全国平均でこれだけ振れるのですから、標本数の限られる県別の値はさらに不安定になります。
② 順位は民間各社が独自に集計したもの
よく見かける都道府県ランキングは、公的機関が公表している順位ではありません。各社が同じ調査の元データを取り出して並べたものです。県ごとの回答数が限られるため順位は毎年入れ替わり、直近の集計でも1位と最下位で200万円以上の差が付くなど、実感と合わない結果になることがあります。「調査によって幅がある」のではなく、そもそも順位を語れる精度がないと考えたほうが実態に近いです。
③ 栃木では「地域」ではなく「業態と役職」で取りにいく
県内の密度差が1.1倍しかない栃木では、勤務地を変えることによる上乗せは限定的です。年収を上げたいなら、需給が締まっている病院を選ぶか、管理薬剤師などの役職で取りにいくほうが現実的です。見るべきは全国順位ではなく、いま自分がもらっている額と、目の前の求人の総額との差になります。
「地方部に行けば年収が上がる」は多くの県で成り立ちますが、栃木では効きが弱いです。そのぶん、役職や業態で上げる王道が生きてきます。順位を追うより、通える範囲の求人を3つ並べて総額を書き出すほうが、はるかに確実ですよ。
栃木で働くメリットと注意点
- 薬剤師も薬局も人口あたり全国33位で、県全体として需給が締まっている
- 県内格差が1.1倍と小さく、住みたい場所を優先しても条件で損をしにくい
- 病院の偏在指標が0.69と低く、病院薬剤師を目指すなら需給の面で有利
- 両毛は群馬、県南は埼玉・茨城と近く、県境をまたいで比べられる
- 首都圏より住居費を抑えやすく、同じ額面でも生活に余裕が出やすい
- 県内格差が小さいぶん、勤務地を変えることによる年収の上乗せは限定的
- 薬局の偏在指標は1.04で目標超え。「薬局が不足」という前提は成り立たない
- 2036年の推計では薬局が1.19まで上がり、将来は競争が強まる可能性がある
- 車移動が前提の地域が多く、県北や県西は面積も広い
- 年収の都道府県ランキングは調査ごとに大きく振れ、判断材料になりにくい
職場の選び方と年収アップのコツ
① 地域ではなく業態から決める
県内の密度差が1.1倍しかない栃木では、「どのエリアか」を最初の軸にしても差がつきません。薬局か病院か、あるいはドラッグストアの調剤併設店か。業態を先に決めてから、住みたい地域で探すという順序のほうが、栃木では効率的です。
② 病院を候補に入れて比べる
病院の偏在指標0.69は全国で下から11番目、2036年の推計でも0.72で目標に届きません。薬局は将来の充足が見込まれる一方、病院の不足は長引く見通しです。薬局だけに絞らず病院も並べて比べると、中長期でも選択肢が残ります。
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調剤薬局からドラッグストアへ転職すべき?年収・働き方の違いを現役薬剤師が解説③ 残業と人員体制は求人票を鵜呑みにしない
薬剤師が手薄な県では、1人あたりの負担が重い職場も出てきます。処方箋枚数、在籍する薬剤師の人数、閉局後の作業量を具体的に確認すると、実際の働き方が見えてきます。年収が高めでも残業が重ければ続きません。この3点は面接や条件確認の段階で必ず聞いておきましょう。
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薬剤師の残業が少ない職場の探し方④ 県境をまたいで比べる
両毛からは群馬、県南からは埼玉と茨城が通勤圏に入ります。県内の条件差が小さいぶん、県外まで広げたときの差のほうが大きくなることがあります。通勤時間と交通費の支給も含めて、隣県の求人と並べて比べてみてください。
⑤ 地元に戻るなら時期と条件を早めに伝える
Uターンの場合、引っ越し費用や入職時期の調整が条件面に影響します。実家からの距離、車の有無、家族の予定といった前提を最初に共有しておくと、条件の合わない求人を紹介されずに済みます。
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近隣県と比べて決める
栃木は福島・茨城・群馬・埼玉と接しています。両毛エリアからは群馬、県南からは埼玉や茨城が通勤圏に入り、県境をまたいで探す人も少なくありません。隣県の事情を知っておくと、栃木の条件が相対的にどうなのかを判断しやすくなります。
▶ 近隣県の転職ガイド
群馬の薬剤師転職ガイド|都市部でも高年収を狙える理由と選び方を解説
茨城の薬剤師転職ガイド|年収が高めとされる理由と選び方を解説
関東以外も含めて、住みたい地域から探したい場合は都道府県別のまとめページが便利です。全国47都道府県の年収相場と求人事情を一覧にしています。
よくある質問
まとめ
栃木の薬剤師転職は、「地方部に行けば年収が上がる」という定番の発想を外すところから始まります。要点を整理します。
- 人口10万対薬剤師数191.4・薬局数50.8で、どちらも全国33位。県全体が均等に薄い
- 宇都宮市204.9と市外186.4で差は1.1倍。県庁所在地ですら全国平均を下回る
- 偏在指標は薬局1.04で目標超え、病院0.69。差がつくのは地域ではなく業態
- 2036年推計では薬局が1.19まで上がり、病院は0.72で不足が長引く見通し
- 年収は勤務地ではなく、業態と役職、そして県境をまたぐ比較で取りにいく
住みたい場所を先に決めても条件で損をしにくい。これは他県にはなかなかない栃木の強みです。そのうえで業態と役職を選べば、納得のいく形に近づきます。他の地域とも見比べたい人は、薬剤師の都道府県別転職ガイド|地域ごとの年収相場まとめから気になる地域を確認してみてください。
参考にした一次情報
・厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(薬剤師数・人口10万対・都道府県別・中核市再掲)
・厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」(薬局数・人口10万対)
・厚生労働省「第13回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料1-1-2(都道府県別薬剤師偏在指標)
・厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(薬剤師の賃金)
・栃木県「栃木県保健医療計画(8期計画)」(二次保健医療圏の区分)
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。統計値は公表時点のもので、その後の調査で変動します。宇都宮市以外の数値は公表値ではなく当サイトが県値と市の再掲値から算出したもので、従業地ベースであることによる誤差を含みます。薬剤師偏在指標は相対的な偏在を示す指標であり、絶対的な充足状況を示すものではありません。求人の条件は個別に異なるため、最新の情報は各求人・転職サービスでご確認ください。

